駅の時計

       時 計  ・ ・ ・
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・・・ 今でも、故郷への変わらぬ郷愁をとどめてやまない首都圏の北の玄関口・JR上野駅。かつて、遠く生まれ故郷を集団就職列車で離れた若人らが、希望を胸に抱いて降り立った上野駅のホームで見上げたであろう駅の大きな丸い時計。都会暮らしにも馴染み生まれ故郷を忍んで訪れた上野駅、見つめた先のホームの大きな丸い時計は母の笑顔と重なったことだろう  ・・・

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6月10日は今年も、例年の如くに淡々と過ぎて行くことであろう。勿論、この日は「時の記念日」であるが、記念日としてはあまりにも振り向かれることもなく過ぎて行くのが昨今ではある。祝日でもなく、記念日に合わせてこれといった目立った催事などがあるでもない中では、当然のように世間からは疎んじられてしまったようではある。されど、時間への観念がなくては、人の生活は成り立っていかない。ここで、巡り来る「時の記念日」に向けせめても少しく、馴染みの駅の時計について触れてみる。
画像 そもそも、6月10日が「時の記念日」として制定されるに至ったのは、1920(大正9)年に当時の「生活改善同盟会」(文部省の外郭団体)が日常の生活を合理的なものにしようとの提唱を行い、“時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう”と日本国民に呼び掛け、時間の大切さを尊重する意識を広めて社会生活の近代化推進を図るための目標とすることにあった。ちなみに“6月10日”の由来は、天智天皇(在位668~672)が日本で初めて設置した水時計(容器に流入または流出する水面の高さの変化で時を計る)が時を刻み鐘を打ち鳴らした日が旧暦の4月25日であったことから、その日に因み太陽暦の6月10日が“時の記念日”として制定されたのである。
 時計に求められるのは、言わずもがなその正確さであることに言を俟たない。世界の標準時の大元になる「協定世界時」は、各国の計量機関にある約200台の原子時計の平均値から採られている。ただ、その進みの正確さも監視する必要があり、より高精度の原子時計を以て比べられる。今は 、より優れた高精度の原子時計(基準時計…監視の役目)の開発により協定世界時の正確さが保証されている。
 とはいえ、日常生活の中で一般に人が求める時間(時計)の正確さにおいては、年間1秒の誤差を以てすればそれこそ正確無比といえ、万事に困ることには至らないであろう。その1秒の誤差さえ凌駕する、“10万年に±1秒”という超高精度を保つ腕時計(電波時計)が当たり前のように日常の正確な時を刻んでいる。ここまでくると、正確な時間を知るためと言うよりはむしろ、正確無比の時計を所持していることへの自己満足感や優越感などが先行しそうな雰囲気が漂う、“時” に対する現代感覚と言えなくもない。
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                   都市圏の駅では見かける機会も少なくなった駅の丸形構内時計
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そのような時間への正確さにおいて、今もつとに世界的に広く知られているのが、原子時計や電波時計などといった次元の異なる話ではではなく、日本の鉄道の時間(列車運行)に対する“正確さ” である。
 伝統ともなっているその名声は、今以て変わっていない。
 駅の普段の情景としては、何気なく目に入るものの一つに、ホームの時計(正式には構内時計)がある。ダイヤに沿って走る列車運転の時刻(約束)を表示する時刻表とともに、無くてはならない存在である。ただ、誰もが時計を所持している現代社会だけに、駅の時計は昔ほどに重用されているとは言い難いが、それでも駅を利用する乗客の視線に時を刻んで応えている。1950年代中頃から1975年頃にかけ“金の卵”といわれて、遠い故郷の地から都会を目指して集団就職列車で運ばれた少年少女たちが降り立った初めての大都会の上野駅、そのホームで見上げたであろう大きな駅の時計もおそらく当時の国鉄駅の定番であった白い文字盤の素朴な丸い形の時計であったろう。その当時の国鉄のホームなどで馴染みとなっていた丸型の駅の時計は、白色の文字盤に黒針というシンプルなデザインで、長針が1分刻みにカチッとほのかな音を立てて時を刻んでいく 類いのもので、今となっては懐かしささえ覚える駅の時計ではある。と言うのも、その1分刻みに進む長針(時刻)に合わせて自らの腕時計を正確に調整するのには、一種のカンとワザが必要であったことを思い出すからである。
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                        駅の旧形角型構内時計JR高崎線北鴻巣駅
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画像  ファッション型の構内時計JR京葉線舞浜駅  
明治の時代から日本の鉄道(国鉄)で綿々と使われてきた、白い文字盤に黒針の丸型の駅の時計はその後に私鉄へも波及して行き、鉄道駅の時計は長い間にわたって丸型に統一されてきた。しかし、1970年代中頃から丸型に替わって角型の時計が登場し、駅構内に斬新さを吹き込んだ。また、時刻の表示も文字盤や文字がシンプルかつカラフルになるなど派手さも加わり、同時に蛍光式や集光式など機能の多様化も進んだ。街でも、デザインをはじめ構造・機能・用途などアナログ式・デジタル式を問わず百花繚乱の趣を見せており、街歩きの目を楽しませてくれている。

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街の一般の時計同様に、鉄道駅の時計もまた駅それぞれに独自性を見せている。ただ、公共交通機関である鉄道駅の時計には正確な時刻情報(表示)が必要とされることから、現在ではGPS衛星電波や標準電波を用いたネットワーク時刻表示(親時計から子時計に時刻情報を伝送して全ての子時計を一括制御(一元管理)する)が行われており、親時計はNTTやNHKの時報と連動して正確無比の時刻を休むことなく提供している。
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               〈 列車の発車表示とアナログ・デジタル時刻表示を一体化した駅案内標 JR新大阪
 ところで、アナログ表示が主体を占める鉄道駅の時計だが、今ではデジタル表示の時計も駅の随所で用いられている。が、駅のホームでは今もアナログ表示の時計が主役の座を占めている。その理由はと問われるとすれば、鉄道駅の時計はただ単に現時刻を知ることに止まらず、列車の発着や待ち合わせ時間などに関わり殊更に時刻を確認しなくとも一瞥するだけで視覚的にその時間間合い(状況)を即座に見て取ることが可能であり、前後の予測時間(間合い)を胸の内で計算をする必要もなく容易に目算できることにある。すなわち、アナログ式表示の鉄道の時計は、視覚性や機能性を持ち合わせていることで知りたい状況(時間間合い)が一目で分かるためデジタル時計より便利なのである。こうした環境の下で、駅ホームのアナログ式時計はその本分を遺憾なく発揮している一方で、“今”を明示するデジタル時計はみどりの窓口や列車内などでの設置ケースが多く見られるものの、“近代”を象徴するデジタル時計といえども鉄道の表舞台においては矢張りアナログ時計に席を譲り脇役に甘んじてはいる。
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                         駅構内時計の大勢を占めている角型時計
 1日を通じて人の目に最も多く接している駅のアイテムと言えば、頻繁に列車が発着する大都市圏駅を除けば、駅の時計ではないだろうか。列車を待つときや、駅で人と待ち合わせるときなどに、自分の時計を見るよりも駅の時計を眺めることの方に安堵を感じているのではないだろうか。しかし、その目的さえ叶えられてしまえば、もう振り向いてはもらえない無情さに耐えるのも駅の時計の性と言えまいか。しかし、駅の時計ほど、数多の人々に何の変哲もなく利用され、何気なく人々に時の移ろいを告げているものはないのでは…と巡り来る時の記念日を前に改めて思うのである。   (終)

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