整備新幹線近状慢歩

   整備新幹線近状慢歩 ・ ・ ・
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                〈 北陸(通称“長野”)新幹線開業出発式「あさま」上り一番列車 ・ 長野駅1997.10.1 〉
整備新幹線とは、「全国新幹線鉄道整備法」(1970年成立)に基づき1973年に整備計画が決定した北海道新幹線・青森市~札幌市間、東北新幹線・盛岡市~青森市間、北陸新幹線・東京都~大阪市間、九州新幹線・福岡市~鹿児島市間、九州新幹線・福岡市~長崎市間の5路線をいう。1997年10月、初の整備新幹線として北陸新幹線の高崎~長野間が開業して以降現在(2016.3)まで、整備新幹線の延長営業キロは約929kmに及ぶ

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整備新幹線の建設は、およそ47年前の1970年5月13日の第63回国会で成立した「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、1973年に国による新幹線(“整備新幹線”と呼称)の整備計画(前出の5路線)が定められた。ところが、当時の国鉄は財政再建計画の下で極度の財政の悪化に陥っていたことから、整備新幹線の建設着工を果たせないままに1982年に整備計画は凍結されてしまった。その後、凍結が解かれたのは国鉄の分割・民営化後の1989年になってからで、整備計画決定から16年の空白を費やしてようやく整備新幹線として初の北陸新幹線(東京~新大阪間約690km・2046年開業想定)の高崎~軽井沢間で工事が始まり、1997年10月に高崎~長野間(通称・長野新幹線)が先行開業している。その後、2015年3月に北陸新幹線は金沢まで延伸開業され、今は新大阪へ向け金沢~敦賀間(約114km)で延伸工事(2022年度末完成予定)の最中にある。そしてこのほど、敦賀から小浜市と京都を経由して新大阪までを結ぶ延伸ルートとして「小浜・京都ルート」を採用する方針が決定(2016.12)されたばかりだ。
画像 ただ、整備新幹線着工の5条件がまだ満たされていないことから、直ちに建設着工となるわけではない。なお、京都~新大阪間のルートについては、東海道新幹線の北周り・南周りのいずれかのルートが検討される。ちなみに整備新幹線着工の5条件とは、2009年12月24日開催の整備新幹線問題検討会議の場で示された着工に必要な基本的条件で、その概要は1.安定的な財源見通しの確保、2.収支採算性があること、3.投資効果があること、4.運行主体のJRの同意、5.並行在来線のJRからの経営分離に対する自治体の同意、の5条件である。
 整備新幹線として初の北陸新幹線建設着工以来20年近くを経た2016年3月現在、整備新幹線の営業延長は4路線約929kmに及んでいる。その中で、4番目に開業(部分開業)したのが1973年の整備計画決定から43年を経て初の北の大地・北海道の地に開業した北海道新幹線(新青森~新函館北斗間148.8km)である。
 これにより、既設新幹線(全国新幹線鉄道整備法成立以前に開業・工事中であった東海道・山陽・東北・上越の新幹線を含む日本の新幹線網の営業区間総延長は約2765kmに至っている。ちなみに、JR東日本の山形新幹線や秋田新幹線、JR東海が自費で建設中のリニア中央新幹線などは整備新幹線とは区別される。

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整備新幹線は、国と沿線自治体からの税金やJRから支払われる線路・施設使用料、借入金など巨額な建設費を投入してつくられる、政府主導の公共事業である。もともと整備計画以前の既設新幹線は、大都市間を結ぶのが目的だった。それに対し整備新幹線は、大都市と地方都市を結ぶのを主眼に置いていることから建設の巨額投資に見合う経済効果への期待や疑問が交錯し、公共事業への納税者である国民の厳しい目や地方議員の思惑などもあって、建設着工はゆっくりと進む経緯で終始してきた。
 ところが近年、その動向が変わりつつある。2016年1月の施政方針演説で安倍晋三首相は、経済対策で地方創生を挙げ、地方・地域活性化策として全国を一つの経済圏に統合する“地方創生回廊”の早期創出を掲げ、その切り札として整備新幹線の建設加速(開業前倒しやルート選定など)を進めるとしている。そうした中で、与党の間にも、“地方創生”を旗印にまだ新幹線がない山陰や四国へも建設延伸を求める声まで聞こえている。さらには、北陸新幹線2046年度新大阪延伸開業の想定についても、早期の新大阪開業見込みへ向け敦賀以遠の建設着工の前倒しが模索されている。画像
 これまで整備新幹線の着工が遅々として進まない障壁となってきた要因には、巨額の建設費用があった。最近、その建設に向けスピードが加わってきたのは、政府が経済対策の中で長期・固定・低利の建設借入金を用立てる財政投融資(財投)の活用を盛り込んだからである。この財投活用による融資は、国が租税負担に拠らずに財投債(国債)発行などで調達した資金を財源とした融資で、運用は国および地方公共団体、政府関係機関等に限定されている。そのため、民営企業のJRに対しては運用外であることから、日本の鉄道整備政策の実施機関(ルート選定、建設計画、資金調達、設計・施工)である国土交通省外郭団体の鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に一旦貸し付けをするスキーム(鉄道・運輸機構がJR会社に貸し付ける)が採られている。
 政府はこの財投を、先ず総額3兆3000億円の現在延伸建設工事中の北海道新幹線・新函館北斗~札幌間、北陸新幹線・金沢~敦賀間、九州新幹線・武雄温泉~長崎間に投じる考えを示す。これらの路線において想定される約8000億円の借り入れに投入され、民間からの借り入れより金利負担が最大で3000億円ほど軽減されるという。
 ただ、これが直ちに建設のスピードアップ(工期短縮等)につながるかは、建設工事の物理的条件(工事難度等)からいって不透明である。

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                       リニア中央新幹線L0系車両 山梨リニア実験線
総事業費9兆円余り(自己資金)を投入してリニア中央新幹線(東京・品川~新大阪間)の建設を進めている営業主体のJR東海は、当初の計画では第一段階として品川~名古屋間を2027年に開業し、第二段階の新大阪延伸開業は2045年としていた。過日の安倍首相によるリニア中央新幹線新大阪延伸開業前倒し支援の明言を踏まえ、鉄道・運輸機構はリニア中央新幹線の新大阪延伸開業を最大で8年前倒しする支援として、同社への財投融資を始めると2016年11月29日に発表した。これは、鉄道・運輸機構にとっては初の融資事業だが、これを受けJR東海は新大阪延伸開業を前倒しする方針を正式に表明した。
 すなわち、名古屋までの開業で巨額の建設資金を注ぎ込んだJR東海の財政に悪影響が及ぶことのないよう、同社の体力回復期間として新大阪への延伸着工が8年間控えらることになっていたのだ。この8年の間合いを解消して、早期の全線開業を目指そうとした財投融資であった。これにより、名古屋開業後の新大阪延伸着工までの8年間のインターバルが縮められ、最も早い場合の新大阪延伸開業が最大で8年前倒しされて2037年となる。
画像 ちなみにJR東海に投入される財投は、2055年までの長期・0.6%固定金利で複数回に分け、総額3兆円の融資が予定されている。
 国土交通省は、民間融資より低利であるため、JR東海の負担は5000億円ほど減額になると想定している。ただ、現状は好業績を示すJR東海にあっても、屋台骨の東海道新幹線が開業から半世紀近くを過ぎて経年劣化や大規模災害に対する備えおよび東京~大阪間の1日当たり人口移動の約85%の輸送を担っている同新幹線の輸送能力が限界に近づきつつあることからその代替えとして建設が進められているリニア中央新幹線だが、開業後の運行の高コスト化や高齢化社会・人口減少の時代を迎えている下で財投融資に対する償還の確実性が懸念されてもいる。財投が返済されなかったケースは過去にはなかった(財務省理財局)としながらも鉄道・運輸機構では、初の融資事業であることから融資に関するノウハウを得るため日本政策投資銀行から出向者2人を迎い入れている。

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整備新幹線の取扱いで、建設着工については基本的な“着工5条件”(前述)が明示されており、着工に当たってはすべてを満たす必要がある。その条件の一つに、「整備後の新幹線と並行在来線をともに経営することは、営業主体であるJRにとって過重な負担となる場合がある。この場合には、並行在来線をJRの経営から分離せざるを得ないが、その経営分離について沿線自治体の同意を得るものとする」(2009.12)とあり、この並行在来線経営分離に対する沿線自治体の同意を得なければ着工できない。
 概してJRは、整備新幹線が開業すると新幹線へ利用者が移行し、並行する在来線の利用者減から運営・維持が重荷になるため並行する在来線を経営から手放すケース(経営分離)がほとんどだ。JRの前身・国鉄は、1960年代に経営を圧迫するローカル線(地方交通線)を多く抱えていたことから経営体制が危機に追い込まれた経緯があり、JRとしてはその轍を踏みたくない思いは強いと推測される。そうした内情もあって国土交通省は、並行在来線経営分離に対する沿線自治体の“同意”を整備新幹線着工条件の一つに挙げている。

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                               北海道新幹線
2015年3月14日に北陸新幹線は、長野~金沢間(228.1km)の延伸開業で東京~北陸の間を高速路線で直結させたが、同時に252.2km・4県(長野、新潟、富山、石川の各県)に跨がるJR並行在来線の経営分離が自治体同意の下で実施され、三セク化された。すなわち、しなの鉄道・北しなの線(長野県)の長野~妙高高原間37.3km、えちごトキめき鉄道・妙高はねうまライン(新潟県)の妙高高原~直江津間37.7km、同・日本海ひすいライン(同)の直江津~市振間59.3km、あいの風とやま鉄道(富山県)の市振~倶利伽羅間100.1km、IRいしかわ鉄道(石川県)の倶利伽羅~金沢間17.8kmが第三セクター化され、JRから経営分離された。
画像 新しいところでは、昨年(2016)4月26日に北海道初の北海道新幹線(新青森~新函館北斗間148.8km)の開業とともに並行して走るJR江差線(木古内~五稜郭間37.8km)がJR北海道から経営分離され、第三セクターの経営に移管されて「道南いさりび鉄道」として発足した。バス転換も議論されたほどのローカル線で、沿線は人口の減少化で過疎化が進んで絞りに絞った運営の淵で、さまざまに趣向を凝らした列車を走らせるなど“利用者を増やすことを考えないと明日はない”とする同社社長の言が並行在来線問題を象徴する。しかも、JRから経営分離される並行在来線の大部分の路線は、旅客輸送に限らず、一元的に日本の貨物輸送を担っているJR貨物会社の貨物列車も走らせなければならず、そのための施設や設備を保持・管理する必要があり、引き継ぐ並行在来線は一筋縄にはいかない問題をも秘める。

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かくして整備新幹線の建設着工に関し沿線では、常日頃から“生活の足”として利用しているJRから経営分離される路線を失う事態は避けたいため、沿線自治体としても路線の継続を引き受けざるを得ない面がある。このように三セク化して引き継いだ並行在来線は、JR当時に比べ経営体力が弱く収入増を図らないと経営が立ち行かなくなるため、利用者にとっては足かせともなる運賃値上げ(平均約1.3倍前後)が常態となっている。
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                                JR湖西線
 北陸新幹線の新大阪延伸について、現在工事中の金沢~敦賀から先のルートとして小浜市を経由して京都に向かうルートが昨年末(2016)に決まったが、このルートにおいても琵琶湖の西側を走る経営分離の可能性を秘めた並行在来線・JR湖西線の行方が課題として残されている。関西経済圏屈指の京都や大阪、神戸エリアの主要駅に停まる快速列車が走る湖西線は、利用者が頗る多く高い収益が見込める路線だ。JR西日本は、経営分離は自治体との協議に委ねるとするが、地元・滋賀県は延伸ルートが県内を通らないのに、経営分離は負への部分を押し付けられかねないとして容認できないとする。ただ、滋賀県側に不利に働くとは限らない期待も残る。2004(平成16)年3月に新八代~鹿児島中央間を部分開業させた九州新幹線のケースでは、並行在来線(鹿児島本線)の八代~川内間を経営分離して第三セクター肥薩おれんじ鉄道へ移管をさせたが、その先の収益が見込める川内~鹿児島間(49.3km)は経営分離をせずにJRの経営(博多~八代間も同様)に据え置いている。
 
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                           第三セクター肥薩おれんじ鉄道
 
地方・地域の活性化に向け地方創生を目指す国は、整備新幹線早期整備を以て地方創生回廊をつくり上げる構想を示しており、山陰や四国にも新幹線をとの地方自治体の要望も活発化して、誘致熱は高まりを見せている。ただ、派生する並行在来線のJRからの経営分離は新たな問題や課題を提起していくことであろう。 (終)

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