鉄道の観光振興に拾う

鉄道の観光振興に拾う
 単に“観光”と一言で言っても、宿泊旅行や飲食、地域事業、芸術、芸能、文学等の諸々に至るまで裾野の大変に広い産業であり、人的交流がもたらす効果は経済面は勿論、地方や地域の活性化に大きなインパクトをもたらす。
 また、前述の如く裾野の広い観光は、関連する対象物や人的要素が多岐にわたる産業であることから、観光の成長にはそれら相互間の連携が不可欠である。
 その観光において近年、訪日外国人旅行者の増加に連れ観光のニーズが多様化している中で、日本が有する豊富な観光素材を活かした地域の魅力づくりが国を挙げて進められ、新たな観光の発掘・創出に併せ受入体制の整備・強化が各地で進む。JRグループ各社をはじめ鉄道事業者においてもまた、全国に張り巡らされた路線網の強みを活かし、沿線地域の観光素材の掘り起こしや商品化を図って観光振興へ向け積極的な取り組みが行われている。勿論、それには行政や観光関連機関との連携・協調が必要なのは言をまたない。
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鉄道の観光振興に拾う
 旅を目的に行き先を選ぶとき、それが遠方であるほどに、複数のエリアを巡る計画を立てるのが一般的な旅の方向性であろう。このような旅行者の思惑に応えるべくJRグループ各社は、地方・地域の観光振興に資する上からも駅を拠点(発地)とする広域周遊ルートの整備・構築に取り組んでいる。点ではなく、線で結ばれる広域周遊ルートの創出は、全国に路線網を持つ鉄道だからこそ打ち出せる取り組みであり、各地域の活性化に寄与(資する)する施策としてJRグループ各社は特に力を入れている。同時に、観光庁が認定した広域周遊ルートについても、国と共同のプロモーションはもとより、商品化や受入体制など積極的な連携を通した観光振興(誘客)に取り組んでいる。
 一方で、観光への取り組みとして、従来から行われてきた鉄道会社や旅行会社が主体で旅行商品を創出する駅を拠点とする“発地”型の観光に替わり、観光客を受け入れる側の地域が主体となって旅行商品を創り上げ観光客を誘致する地域主導の“着地”型観光への取り組みが全国各地に広がりを見せている。こうした地域主導の地域ならではの魅力をアピールした旅行商品化の動きが全国各地で活発化しており、従来からの老舗観光地や有名観光資源に限らず、今まで観光とは疎遠(無縁)であった市町村地域が注目され、観光客をはじめ人の交流が活発化している。 
 その観光へ火付け役となっているのが、図らずも日本人よりもむしろ、SNSなどで世界へダイレクトに情報発信を行っている、近年増え続けている訪日外国人旅行者である。その2020年の訪日外国人旅行者数4000万人を目標に政府が掲げた数値は、注目され始めている着地型観光の今後の展開に向け明るい見通しを示唆している。すなわち、観光へ縁のないような日本のどこにでもありそうな山間を、自転車で回る「飛騨里山サイクリング(岐阜県)」やニホンザルが冬に温泉に入る「地獄谷野猿公苑(長野県)」、富士山と五重塔が融合して眺められる「新倉山浅間公園(山梨県)」など、普段日本人が何気なく見過ごしていた日本独自の風景が外国人観光客の目に留まって評価を受けており、着地型観光伸展への途は増加する訪日外国人旅行者とともにさらに拓かれるであろう。
画像増加傾向にある北海道のインバウンド
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 如何に鉄道網がリニア中央新幹線からローカル線に至るまでネットワーク化されたにしても、旅行が鉄道を以てして全てが完結する訳ではない。むしろ、航空や船舶、クルマ、さらにはサイクリングやウォーキングなどと旅程を組み合わせ複合させてこそ、旅に多彩さが加わって変化やメリハリを生み、バリエーションに富んだ趣のある旅の演出が可能になる。そうした移動のバリエーションの中で、これまで最も普及を見せているのは鉄道と二次交通を連携させた「レール&レンタカー」であろう。
 現在、旅の形が団体旅行から個人的な旅行にシフトしている中で移動のバリエーションは、旅の自由度を広げ旅程をサポートしてくれる、求める旅の環境づくりに資する要素ではないだろうか。殊に、広大な面積を持ち、多くの観光地が点在する北海道においては、旅の移動をサポートする上で二次交通網の整備は必須である。この二次交通網の整備等に対する取り組み(移動の円滑・利便化)については、道内の鉄路による交通網を担うJR北海道や広域移動に関する課題を抱える北海道にとって、その解決は観光振興に不可欠であると捉えられている。
 そのJR北海道では、観光地への二次交通として同社のJR利用者専用バスの運行体制を敷いており、また同運行の維持に向け地域のバス会社や観光協会に運行主体を移管する取り組みも行っている。さらには、レンタカーの利用が困難となる冬期に備え、JR利用者専用バスを地域で運行するバス会社に運行移管し、予約や問い合わせ等に対する利便への体制を整えている。
 ちなみに北海道観光の概況に触れると、道の観光入り込み客数は2014(平成26)年度に5377万人(前年比1.3%増)と過去最高を更新し、外国人観光客数も154万人(前年比33.7%増)と過去最高を更新して日本全体の約1割を占めた。ただ、一般的に道内観光は費用が高くつくと見られている中で、道外からの観光入り込み客数が最高値を示した1999(平成11)年度の615万人から2014(平成26)年度には569万人に減少しており、今もこの伸び悩み傾向は続いているようだ。すなわち、道の人口減少が全国に比べ10年ほど先行している北海道の現状を考えるとき、道内の観光を支えているのは観光客全体の9割弱を占める道内観光客であるという状況の打破(道外観光客入込への取組)は、道にとって観光振興に向け決して見過ごせない大きな課題である。この課題に対し果たして、今春開業(2016.3.26)した道内初の北海道新幹線はどのような働きを見せるのだろうか。北海道新幹線が開業を見たことで、首都圏をはじめ東北地方からJR北海道の観光エリアへの関心が高まりを見せており、この機会を最大限に活かして道外へも開業効果を波及させ、道内交流人口の拡大につなげる取り組みが大切であろう。
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             本州から青函トンネルを抜け北海道に姿を現した北海道新幹線下り1番列車 知内町 2016.3.26
 一方、北海道の訪日外国人旅行者数が2014年度の時点で154万人と日本全体の約1割を占めるほどに大きく伸びを示している中で、豊かな自然や温泉など観光素材が数多く存在する北海道の魅力を海外に向け発信していく上でも、多くの外国人旅行者が訪れる北海道(日本全体の約1割)が新幹線でつながったことで、今後の道の観光振興にとって新幹線は極めて重要な要素となった。

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 近年、国の成長戦略の柱として掲げられているのが、「地方創生」である。その裾野を構築する上で、地方・地域の活性化が欠かせず、そのためには「観光立国」への実現が待たれる。 今、日本の観光振興において特に注目されているインバウンドへの取り組みは、国が取り組んでいる地方創生にとって欠かせない大きな「観光の力」となっている。世界的にも国際間の観光交流への期待感が膨らんでいる中で、各国ともにインバウンドの誘致を観光産業の重要な課題として捉えており、日本も今後目指すべき観光に対する新たな方向性として2016(平成28)年3月に政府は、観光は真に日本の成長戦略と地方創生の大きな柱であるとの認識の下で、明日の日本を支える観光ビジョンとしてインバウンド新時代に向けた積極的な取り組みを示している。ちなみに2015(平成27)年の訪日外国人旅行者数は1974万人(前年比47.1%増)と、統計採取(1964(昭和39)年)以降で最大の伸び率を記録している。
 東日本大震災から5年という節目の記者会見(2016.3)で安倍首相は、2016年を東北観光復興元年と位置付けて大々的に東北プロモーションを行うと表明し、東北6県の外国人宿泊者を2020年150万人泊という目標(現在の3倍)を掲げた。これに併せ、観光による東北復興の予算として約50億円が計上され、観光庁をはじめとする各関連機関において東北観光復興推進へ向け各種事業が策定されている。その東北エリアでは、地方観光を支えていく上で欠かせないインバウンドの需要が、震災やその風評被害も影響して地域別外国人宿泊シェアでわずかに1%と他エリアに大きく遅れを取っていたが、震災復興途上ながら5年近くを経てようやく震災前の水準(約50万人・地域別シェア約4%)に戻っている。震災復興途上で苦戦が続く東北の観光、特にインバウンドの需要を伸ばしていくためにJR東日本は、東北復興予算(約50億円)で策定されている国や自治体の事業に同社グループを挙げて参画・協力するとともに、鉄道ネットワークを活用したインバウンド向けの東北周遊旅行の創出・販売促進に取り組んでいる。
 今年(2016)3月の北海道新幹線開業についてはすでに触れたが、これにより新幹線ネットワークは首都圏~東北~北海道が高速でつながることになり、また同7月には仙台空港が民営化されて航空路線網も拡充が期待されることから、鉄道と空路を組み合わせた立体観光の創出・推進により東北エリアの観光流動がさらに増進されるのではないだろうか。
画像                      TRAIN SUITE 四季島JR東日本
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 今後30年もすれば、東京~大阪間を1時間前後で移動できる“時間距離”の時代がやって来る。リニア中央新幹線の超高速移動がもたらすであろう、新たな観光の時代だ。その時、旅行(観光)はどう変わるのだろうか…。
 これまで鉄道は、移動において単に高速・効率化の提供を役割として発展してきたともいえる。旅(観光旅行)に関しても、列車で目的地へ行くのがこれまでのセオリーであった。ところが近年、本来は観光地へ運んでもらう移動の手段として使われる列車だが、その列車に乗ること自体を旅行の目的として快適な移動時間・空間の提供を受けて観光旅行をする、いわゆる陸を“クルージング”するという趣を異にした旅の時代が始まっている。
画像 TWILIGHT EXPRESS 瑞風JR西日本
 JR九州では2013(平成25)年に全国に先駆け、従来の寝台特急の概念を全く打ち破った“クルーズトレイン”というコンセブトの下で、列車ならではの徹底した車内意匠への拘りや贅を尽くした上質の旅空間を体験できるクルーズトレイン「ななつ星 in 九州 」(ディーゼル機関車+客車7両編成の観光列車)の運行を開始ししている。これまでにない高額な利用料金で、数日間を列車とともに宿泊・飲食・観光を楽しみながら鉄路の沿線をクルージングする旅で、地域や沿線の活性化にもつなげている。さらに近々、徹底的に快適性を追求した列車による移動時間を提供するクルーズトレインの第二弾として“時間と空間の移り変わりを楽しむ列車”をコンセブトにJR東日本がクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」(電車タイプ10両編成)を、また第三弾目にはJR西日本がホテルのような上質さと心休まる懐かしさを感じる列車として、新たな寝台列車のクルーズトレイン「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(ハイブリッド電動駆動式10両編成)をそれぞれJR九州に続くクルーズトレインとして、2017(平成29)年春頃の営業運転開始を予定している。これらは、近年の鉄道(列車)が単に旅への手段ではなく、旅の目的や憧れとなっている証左でもあろう。
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                            ななつ星 in 九州 JR九州
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 観光素材の限りなく埋もれる鉄道沿線は、日本人は勿論、訪日外国人観光客ににとっても魅力的な観光資源表出の宝庫であり、その掘り起こしへの取り組みが地方・地域の振興にもつながる。観光産業を革新し、国際競争力を高め、観光を明日の日本を支える基幹産業に据えるため国が取り組む観光ビジョン(観光立国)構築へ向けた指標の先には、世界全体のGDPの9.8%(約7.2兆ドル)を占める世界の観光事業に関わる経済波及効果の大きさがある。 (終)

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