JR北海道2016年度事業計画に触れる

 JR北海道2016年度事業計画に触れる 
このほど、旅客・貨物の各JR会社における2016(平成28)年度事業計画の取り組みが示されたが、とりわけその中でも北海道初の新幹線(北海道新幹線新青森~新函館北斗間148.8km)を開業させ新局面を迎えたJR北海道の同計画について少しく触れて見る。
画像 JR北海道(本社・札幌市)は、2011(平成23)年5月27日に惹き起こしたJR石勝線の特急列車脱線・炎上事故(79人負傷)の反省に立ち安全性の向上に取り組んではきたものの、はからずも2013(平成25)年に入って連続して発生させた一連の事故・事象(車両出火、車両トラブル、線路保守停滞による貨物列車脱線、軌道保守・管理データ改竄、社員の不祥事等)に対し、2014(平成26)年1月24日に国土交通大臣から「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」(以下「事業改善命令および監督命令」)を受けた。それを踏まえJR北海道においては現在、「事業改善命令および監督命令による措置を講ずるための計画」(以下「措置を講ずるための計画」)及び「安全投資と修繕に関する5年間の計画」(以下「5年間の計画」)を策定し、その下で安全管理体制および安全基盤の再構築、コンプライアンス意識の高揚、企業の安全風土構築等に向け各種取り組みが推進されている。
画像
                     JR石勝線特急列車脱線炎上事故 JR北海道 2011.5.27
 日々の安全・安定輸送の確保に向けては、安全運行体制の充実・強化は勿論、輸送関連施設・設備等の安全性向上が欠かせない。その安全性向上施策として2016(平成28)年度事業計画では、「措置を講ずるための計画」に基づき安全確保への施策が進められている。その内の軌道部門においては、検査データに対する多重チェック(掌握適正化)の実施、新たな保線設備管理システムの構築、高速軌道検測車の老朽取替(13路線2400km余の軌道を年間10万kmにわたって検測するJR北海道で唯一の検測車)などによる検査・修繕の適正・向上化と併せ、脱線防止に向け軌道の通り狂いや平面狂いおよび曲線部スラック(拡度…曲線部を車輪が滑らかに通過するために軌間を拡げること)に対する適正管理およびPCマクラギ化、レール交換(シェーリング対策)、重軌条化、道床交換など軌道の安全性向上への取り組みが進められている。
画像 マヤ34形高速軌道検測車JR北海道
 車両故障対策においては、特急用気動車の重要機器類の取換・刷新とキハ261系気動車(新デザイン化)の新製投入を行う一方で、老朽化が進行する一般形気動車の取り替えに対する量産車の設計・製作が行われている。こうした2016(平成28)年度事業計画における諸取り組みを通しJR北海道は、「措置を講ずるための計画」および「5年間の計画」のさらなる推進に向け全社一丸となって失いかけた安全意識の再生・共有化に引き続き邁進していくとしている。勿論、それらの推進には巨額の費用(260億円)が必要とされているが、経営基盤が弱くその上に毎年の如く400億円を超える赤字状況にあるJR北海道の鉄道運営の下では、資金調達は容易ではない。そのためJR北海道では、鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)によるこれまでの支援措置(無利子貸付)に加え、2016(平成28)年度から追加的に実施される安全対策に対する同機構の支援を有効活用するとともに、自らの保有する資産等の売却による自助努力によって必要資金の確保を図り、「5年間の計画」を着実に進めることで2018(平成30)年度までに安全基盤の再構築を成し遂げたいとしている。そして、2020(平成32)年度の会社経営の自立に向け、札幌圏および大都市圏輸送への経営資源の重点投入、利用が少なく収支状況が厳しい線区や使用頻度の低い設備などに対する事業運営の効率化、老朽化が進む土木構造物の更新など大幅な事業範囲の見直しに取り組み、道内における持続可能な鉄道輸送体系実現を目指すとしている。
画像
             軌道保守管理の停滞で脱線した貨物列車JR貨物) ・ JR函館本線大沼駅構内 2013.9.19
 JR北海道2016年度事業計画に触れる 
 JR北海道はまた、2015(平成27)年6月に「JR北海道再生推進会議」(第三者委員会)が同社の真の再生を図るために取りまとめた「JR北海道再生のための提言書」(以下「提言書」…安全を最優先とする経営幹部の意識改革、安全に対する意識・対策、持続的経営への改革等を内容とする)を受領して安全意識の浸透や持続可能な経営に向けた取り組みを開始しており、2016(平成28)年度はその「提言書」を踏まえ将来に向け持続可能な経営体質の構築へ向けさらなる努力を傾注していかなければならない大切な年度と位置付けている。
 鉄道事業者にとって至上命題である輸送の安全確保に欠かせない鉄道施設等の安全性向上に向けてJR北海道は、前述の如く安全投資と修繕に関する「5年間の計画」に基づき実施している軌道強化や車両の新製など安全基盤の強化に係わる設備投資を着実に進めている。一方で、新たに加わった“新幹線鉄道”という輸送事業においては、在来線(貨物列車(JR貨物))との共用走行や海底トンネル(青函トンネル)の走行など他の既設整備新幹線にはない特質を有する北海道新幹線には高度な技術レベルの保持と万全な安全運行の確保が求められることから、社員の知識・技能の保有・向上に積極的に取り組んでいくとしている。
画像
 
 また、新幹線が在来線と共用走行使用することになった長大海底トンネルの青函トンネル(総延長53.85km)についてもJR北海道は、列車の安全運行確保のために設置されている防災設備(列車火災検知装置、避難誘導設備、定点設備)を新幹線の高速走行に対応させるため従前に増して線路近傍設置の機器類や防災設備等の固定強化・補強等の見直しや整備に万全を図っている。こうした安全基盤の強化に係わる整備については、鉄道・運輸機構の支援措置などを積極的に仰いで有効活用することで可能な限り早期の安全性向上を図り、安全・安定輸送体制の確立につなげて行きたいとしている。

 JR北海道2016年度事業計画に触れる 
 安全意識の欠如から一連の事故・事象を招いたJR北海道は、国土交通大臣から「事業改善命令および監督命令」を受け現在会社再生に向け諸施策展開の途上にあるが、同社の安全企業風土の構築にはまだまだ時間が必要のようである。
 “安全はお金では買えない”、とはよく言われる世間一般の共通する認識でもあるが、一度失った“安全”に対し社会の信頼を取り戻すには膨大なお金と時間を要することも、過去の諸事例に見るまでもない。今、JR北海道が、自らの一連の事故や事象に対し国による「事業改善命令および監督命令」の下で取り組む安全基盤および安全企業風土の再構築に向けて実施している施策(「措置を講ずるための計画」および「5年間の計画」)の推進には、およそ260億円に及ぶ巨費が必要とされている。経営基盤の安定に乏しいJR北海道にとっては、この高額な経費の拠出は重荷であるばかりでなく、高くつく安全への投資となっており、目指す2018(平成30)年度の安全基盤再構築達成までにはまだ相当の時間が必要とされる。ちなみに2005(平成17)年4月25日にJR宝塚線(福知山線)列車脱線事故(107人死亡・562人負傷)を起こしたJR西日本は、事故から10年以上を経た現在も安全・安心・信頼される鉄道を築き上げるために全力で安全基盤の再構築に挑み、鉄道再生へ間断ない努力を積み重ねている。
 失った安全輸送への信頼の回復途上にあるJR北海道は、安全企業風土の構築に向け具体的な取り組みとして役員および社員の一人ひとりが取るべき行動指針「私たちの誓い」を定め、安全の再生に向け基本方針として制定した「JR北海道 安全の再生」の全社員への浸透を図っている。また、一連の事故・事象の背後には、本社と現場(社員)間に相互の意志疎通の隔絶・欠如があったともされている。すなわち、本社~現場間の風通しの滞りが壁となって安全に対する意識の希薄化が全社的に増幅されていた背景があったとされる。こうした背景の是正に向けJR北海道では、経営幹部(本社)と現場社員との直接対話の場作り、いわゆる“膝詰め対話”が今も継続して進められており、安全に対する意識の共有化および緊密な意思の疎通が図られている。それには人材の育成が欠かせず、鉄道人としての誇りと仕事に対する安全意識の醸成・向上と、安全を前提に考えて自主行動できる社員の育成を目的とした教育等に多大な力が注がれている。
画像
                   2016年度事業計画で新製・増備投入されるキハ261系1000番台気動車
 JR北海道2016年度事業計画に触れる 
 JR北海道が今、連続して発生させた事故や不祥事で失墜させた鉄道輸送に対する安全と信頼を取り戻すべく安全基盤の再構築に取り組み、会社再生に臨んでいることは前に述べた。そのJR北海道の今の経営状態に触れてみると、昨年度(2015(平成27))の事業における連結決算(全29社)による営業収益は、鉄道の運輸収入や不動産賃貸収入が増加したものの、北海道新幹線工事関連で電気工事などの売り上げ減少で前年度比28億円減少の1713億円であった。一方、鉄道事業における営業費用は、事業改善命令(2014.1)による措置として策定した「5年間の計画」に基づいた安全基盤の強化で修繕費や減価償却費が増加し、また北海道新幹線に対する開業準備費用の計上などを含め前年度比15億円の増加で2066億円となり、その結果営業損失352億円を計上して2期連続の過去最悪の状態を示すこととなった。また、鉄道事業の単体決算では、営業収益は前年度比に対し増加を示したが、営業費用が安全基盤の強化に向けた施設等の修繕を年次継続して実施したことや車両の更新に伴う減価償却費の増加に加え、新幹線の開業準備費用などにより前年度比69億円増の1285億円となり、営業収益を大幅に上回る約480億円以上の損失を示して6期連続の悪化となった。
 こうした経営状況の下で2016年度の事業計画を進めているJR北海道にとっては、経営上において前年度同様に大変厳しい状況にあることには変わりない。その中にあって、国から受けた「事業改善命令および監督命令」により輸送の安全性向上、安全基盤の再構築、安全風土の構築に向けて推進している「措置を講ずるための計画」および「5年間の計画」に260億円もの巨費を投ずるJR北海道は、その捻出に当たっては限りある経営資源を最大限に有効活用して自助努力を傾けるとしており、その上で調達の手立てとしては安全の確保を大前提に各事業全般にわたり効率化(使用頻度の低い設備(副本線、踏切)の使用停止、施設の修繕強化や保守作業効率の向上、利用の少ない駅の見直し)や経費節減(車両・施設・電気用品等資材調達コストの削減)に取り組むこととし、さらには事業現場における創意工夫の発揚にも力を注ぎ、持てる経営資源の有効活用に努めていく方向性を示している。
画像
                   共用走行区間三線軌条式を行く北海道新幹線と在来線の貨物列車
 JR北海道2016年度事業計画に触れる 
 社是に、『 私たちは 安全に徹します お客様を大切にします 知恵と活力を結集します 』と掲げるJR北海道では、連続した一連の事故・事象で失った輸送業務に対するお客様への安全と信頼を取り戻すべく、安全基盤の再構築と安全風土の構築に向け日々努力が重ねられている。その安全再生への端緒ともなった、2011(平成23)年のJR石勝線特急列車脱線・炎上事故から本年(2016)の5月27日で丸5年を迎えたことからJR北海道では、鉄道会社として最優先に対処しなければならない一番大切で重要な「安全」が問われて会社が危機的状況に至った事象を忘失(風化)させないために、今年(2016)の5月18日に“5月27日”を『安全再生の日』に制定している。
 JR北海道が現在擁している全14路線計2568.7km(新幹線1路線148.8km・在来幹線5路線1327.9km・地方交通線8路線1092.0km)に及ぶ営業線における輸送の安全を守り支えていくのは、とりもなおさず同社が定める「私たちの誓い」にも謳われている如く“JR北海道社員として自覚を持って行動します”とした社員一人ひとりの安全に真摯に向き合う姿勢と行動であり、「事業改善命令および監督命令」を踏まえ策定された「措置を講ずるための計画」および「5年間の計画」に基づいた2016(平成28)年度事業計画の淀みない推進にあるのではないだろうか。 (終)…JRガゼットを参照させていただいた.

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック