並行在来線問題に見る

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                  北海道新幹線新青森~新函館北斗間開業新函館北斗駅 2016.3.26
 このほど2016年3月26日に、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づき1973(昭和48)年に定められた新幹線の路線整備計画から43年を経ること、ようやくにして北海道の地にも初の新幹線(JR北海道新幹線新青森~新函館北斗間148.8km)が開業した。これにより、JR会社発足後(1987(昭和62))に開業した新幹線(“整備新幹線”と呼称)は、整備計画路線として定められた5路線(後述)のうち4路線が全面あるいは部分開業したことになる。この北海道新幹線の開業と同時に、今までに開業した整備新幹線と同様に、並行するJR江差線(五稜郭~木古内間37.8km)がJR北海道から経営分離されて新生・第三セクター鉄道「道南いさりび鉄道株式会社」へ転換され、経営が引き継がれた。
画像 この北海道新幹線の開業に先立つ2015年3月14日には、JR北陸新幹線(長野~金沢間228.1km)がJR化後3番目の整備新幹線として開業した。これに伴い、並行する信越本線長野~直江津間と北陸本線金沢~直江津間の路線がJRから経営分離され、新たに誕生した3つの第三セクター鉄道会社(えちごトキめき鉄道・あいの風とやま鉄道・IRいしかわ鉄道)と既存の第三セクターしなの鉄道へ経営が移管されている。なお、並行する在来線の信越本線長野~妙高高原間(37.3km)については、前記のしなの鉄道が既存営業区間(“しなの鉄道線”・軽井沢~篠ノ井間65.1km)と併せて“北しなの線”として引き継いでいる。これまでに整備新幹線の開業に伴い、その並行在来線としてJRから経営分離されて新たに開業した第三セクター鉄道会社は、北陸新幹線の開業で1997(平成9)年10月に開業したしなの鉄道の軽井沢~篠ノ井間を皮切りに8社に及ぶ。
 参考までに第三センター8社を示すと、①しなの鉄道(長野県:しなの鉄道線軽井沢~篠ノ井間65.1kmと同北しなの線長野~妙高高原間37.3kmの計102.4km) ②IGRいわて銀河鉄道(岩手県:盛岡~目時間82.0km) ③青い森鉄道(青森県:目時~青森間121.9km) ④肥薩おれんじ鉄道(熊本・鹿児島両県:八代~川内間116.9km) ⑤えちごトキめき鉄道(新潟県:妙高はねうまライン妙高高原~直江津間37.7kmと日本海ひすいライン直江津~市振間59.3kmの計97.0km) ⑥あいの風とやま鉄道(富山県:市振~倶利伽羅間100.1km) ⑦IRいしかわ鉄道(石川県:倶利伽羅~金沢間17.8km) ⑧道南いさりび鉄道(北海道:五稜郭~木古内間37.8km)以上の8社である。

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 整備新幹線の開業と引き換えに、新幹線に並行して走るJRの在来路線がJRの経営から分離されて新会社として誕生してから今年(2016)の秋には19年になる。その会社の数も、この1年の間(2015.3~2016.3)に4社から8社へ一気に倍増した。ただ、それらの新会社は、転換前に運用されていた優等列車等の利用者のほとんどが開業した新幹線に転移するなどの状況から、それまでの幹線輸送としての立地や使命が薄れ、限られた地域間輸送を担う鉄道路線へとその変貌を余儀なくされている。そのため、新会社の経営実態が転換後に総体的に困難な状況に追いやられることも予想され、事業環境の悪化を招来しかねない。
画像 そこで、JRからの経営分離・移管に際しては、新会社に対しさまざまな支援策が講じられることになっている。国が行う施策としては、地域公共交通としての使命が損なわれることのないよう施設の譲渡に係わる登録免許税や不動産取得税の非課税化、固定資産税や都市計画税などの20年間半額据え置き等の措置が施される。また一方で、並行在来路線を経営から切り離すJRも、施設や車両の譲渡への配慮、管理職・駅務員・乗務員・検修員等の派遣(出向)や要員研修の引き受け、出向社員の賃金や施設改修費等のJR一部負担、観光キャンペーン展開等のバックアップによる営業支援等々さまざまな支援施策を講じている。
 つまり、新会社への鉄道資産の譲渡は実質的には無償の形に近く、公共輸送機関としての役割が容易に継続・発揮できるよう配慮がなされている。つい先頃開業したばかりのJR北海道新幹線に伴い、JR江差線を引き継いで2016年3月26日に発足した第三セクター「道南いさりび鉄道」(五稜郭~木古内間37.8km)の経営移管のケースを次に概見してみる。
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                 JRから経営移管され新しく開業した第三センター道南いさりび鉄道 2016.3.26
 JR江差線(五稜郭~木古内間)の路線を引き継いだ道南いさりび鉄道は、転換前と同様にJR北海道の函館(函館~五稜郭間3.4km)まで乗り入れて函館~木古内間を運行(気動車列車による普通列車)する。運行列車の本数は1日18.5往復、そのうち半分は函館~上磯間(12.2km)の区間運転で、新会社になっても運行体制に変わりはない。ただ、同ルートは本州と北海道を結ぶ唯一の物流動脈(地上)であることから、臨時を含め1日51本と旅客列車のおよそ1.4倍に相当する貨物列車(JR貨物)が運行されており、本州への農産物輸送で日本の食の一端を支えるという従前と変わらない路線の性格を併せ持つ。この道南いさりび鉄道の開業を前にしたJR北海道は、同鉄道が開業後も安全・安定的に事業の遂行ができるよう業務に精通した技術者を出向させるなどの人的支援や技術面での協力に努め、営業面においても可能な限りの協力を推し進めていきたいと、今後の意向を述べていた。この意向に沿いJR北海道は、今後10年間において道や沿線市町の負担が約23億円に及ぶと試算されていることから新会社の初期投資を極力圧縮するため、車両(キハ40形)9両の無償譲渡、五稜郭駅(JRへ業務委託)以外の無人化、自動券売機設置駅追加によるサービス維持、JRの運行指令所や車両基地の共同使用、保守用機器の無償譲渡や賃貸など、多方面にわたり支援を講じている。
 されど、JR北海道が江差線の経営移管に対し当初バス転換が効率的であると提案していたほどに、今後に予測される道南いさりび鉄道の輸送密度は760人と低い。道南いさりび鉄道もまた、他の並行在来線転換会社と同様に近年の人口減少化社会にあって沿線人口の推移とともに輸送量は今後も減少していくものと見られ、前途は多難といえよう。

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 一方で、並行在来線転換路線の第三セクター鉄道に対する支援策として、前記のほかに、転換路線に限定された「貨物調整金」という国による独自の支援制度が採られている。
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                       第三センターしなの鉄道を行く貨物列車JR貨物) 〉
 1987(昭和62)年4月1日を期して国鉄が分割・民営化されて新事業体(JR)へ移行し、新しく全国に6つの旅客鉄道会社と1つの全国1律の貨物鉄道会社が発足したが、その新事業者の中で自前の線路をほとんど持たずに事業運営する全国1社のJRの貨物会社である「JR貨物」(第二種鉄道事業者)は、貨物列車の運行に当たってはJR旅客会社に使用料を払って全国に張り巡らされた同会社の線路を借用して運営されている。そこに支払われる線路使用料として、JR貨物の負担を極力抑えるためにアボイダブルコストルールに拠って算出された額が、並行在来線転換会社の第一号となった第三セクターしなの鉄道(軽井沢~篠ノ井間65.1km)に支援策の一環として充当された。
 すなわち、貨物列車が旅客会社の線路を使用しなければ回避できる線路の維持費増加分を線路使用料として、JR貨物がJR旅客会社へ支払うルールである。しかしながら、その後に続く並行在来線転換路線にあっては、JR当時において貨物列車が高頻度で運行されてきた実態から重軌条化、変電所設備強化、駅の長い有効長確保等々の設備強化が図れてきたことから、アボイダブルコストルールに拠って算出される線路使用料ではそれら諸設備の保守・維持の上で不合理であるとの問題が噴出していた。さらには、気動車による運行形態を採りながら、貨物列車(JR貨物)のために電化設備を保持していかなければならないという、余分な設備を持ち合わせている転換会社もある。
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                     架線下を行く第三センター肥薩おれんじ鉄道の気動車列車
 そこで、2002(平成14)年度に制定されたのが、国の支援策としての貨物調整金である。すなわち、従前の使用料には含まれていなかった固定費(修繕や維持費等)や人件費を加えた額を線路使用料とするもので、アボイダブルコストとの間に発生する差額分は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が整備新幹線貸付料としてJR旅客会社から受けとる額から補足し、その補足分をJR貨物の線路使用料に上乗せして転換会社に支払われてきた。しかし、これも固定費部分の算定方法(列車キロ(走行キロ×本数)による)が軽量短小の2両編成電車列車と20両編成に及ぶ重厚長大の貨物列車とでは線路に与える負担にも大きな開きがあり、線路の維持・管理に要する負担分も大きく膨らんで経費が嵩むことで転換会社の経営をも圧迫しかねない要因になりかねず、実態にそぐわないとした指摘から改善へ強い要請が出されていた。これに対して2011(平成23)年度に、初期投資の負担分や固定資産税も新たに対象に含めた線路使用料が制定され、列車キロで算定されていた部分も車両キロ(列車キロ×編成両数)による算定方法に変更され、並行在来線転換会社の実勢に沿うかたちで運用され現在に至る。ただ、計画されている整備新幹線でまだ未開業の路線や区間があり、さらには新幹線建設の要望を抱える地方も多い中で、今後も並行在来線は増えていくことになる。こうしたJRから経営分離される並行在来線は、地域の旅客輸送を支えるとともに貨物列車(第二種鉄道事業者のJR貨物)の運行をも担っていかなければならないという側面も持っており、今後も整備新幹線網の拡充に連れ生まれる並行在来線転換会社に関する支援策は多様化を帯びてくるものと予想される。

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 表題に「並行在来線問題に見る」と掲げた“並行在来線”とは、そもそも明確な定義はなく法的な用語でもないことから、解釈や表現はケースバイケースである。国土交通省では、「整備新幹線区間を並行する形で運行するJR在来線鉄道」と称しており、平たく言えば建設される整備新幹線に並行する営業中のJRの在来線であると言えよう。
 その並行在来線という路線を生む要因ともなった“整備新幹線”とは、全国新幹線鉄道整備法(全幹法・1970(昭和45)年成立)に基づき建設が進められている新幹線のうち、1973(昭和48)年に国が整備計画路線として定めた次の新幹線を指す。東北新幹線(盛岡市~青森市間…開業済み)、北海道新幹線(青森市~札幌市間…新青森~新函館北斗間開業済み)、北陸新幹線(東京都~大阪市間…東京~金沢間開業済み)、九州新幹線(福岡市~鹿児島市間…開業済み)、九州新幹線長崎ルート(福岡市~長崎市間)の5路線で、これらを「整備新幹線」と呼称する。すなわち、全幹法成立以前において開業した東海道新幹線や既に建設工事中であった山陽・東北・上越の各新幹線とは別に、特定して呼ぶのが整備新幹線である。
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                    3番目の整備新幹線として開業した北陸新幹線長野~金沢間) 〉
 その整備新幹線開業の裏で並行在来線転換路線が生まれる背景には、新たに開業する新幹線が並行する在来線を擁することになってはJRの経営を圧迫(二重運営)しかねず、かつての巨額の債務(多数の赤字ローカル路線擁立)で経営破綻した旧国鉄の二の舞は避けなければならないとした、新幹線建設に当たっては並行する在来線を新幹線開業時にJRの経営から分離することを新幹線建設認可を前に確認するとした、1990(平成2)年12月の政府・与党間で行われた申し合わせがあったのである。さらには、1996(平成8)年12月の政府・与党合意で、新幹線建設工事の認可に当たっては並行する在来路線のJRからの経営分離に対する沿線や関連地方公共団体による同意を予め得なければならないとされた。すなわち、新幹線と並行する在来線の双方を抱えての運営ではJRの健全経営が損なわれる恐れが懸念されるためである。このため、新幹線を誘致する地方・地域においては、JRが経営的に事業運営が困難と判断した並行在来線は地元沿線の自治体等がその経営を引き受ける(経営移管を受ける)かたちとなり、その同意が得られない場合には原則的に整備新幹線の建設には進めない仕組みとなっているのである。
 いずれにしても、引き継いだ過大な設備とともに一転してJRの幹線輸送から第三セクター鉄道として地域輸送に変貌することになるJR並行在来線からの転換新会社は、これからも整備新幹線網の伸展とともに誕生し、降りかかる諸課題を乗り越え奮闘していくことであろう。 (終)

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