インドの地を行く日本の新幹線

画像インド の現モディ政権が進めている同国初の高速鉄道プロジェクト計画において、日本の安倍政権が成長戦略の要と位置付けている日本のインフラ輸出案件の目玉の一つである日本の新幹線システム海外輸出に関し、2015年12月12日にインドのニューデリーで行われた日本・インド両国政府の首脳会談(安倍首相とモディ首相)においてインドへの新幹線システム導入の合意について最終確認が行われた。ここに至った経緯において日印両政府は、新幹線システム導入に関する事業コストや安全性などを交えた共同調査を2013年から進めてきた中で、2015年7月にインド初の高速鉄道計画に日本の新幹線システム導入を推すという調査結果がまとめられていたのだ。これを受け日本政府は、インド政府に対し同国への新幹線システム導入を図るべく本格的に交渉姿勢を高めていった。その一面には、今年(2015)の9月にインドネシアの高速鉄道計画への導入を巡り日本が中国の高速鉄道に競り負けるという負い目が働いていたのである。もし、今回のこの合意を通して本格的にインドへの導入が決まれば、2007年1月5日に開業した台湾の高速鉄道(台湾高鐵)以来2例目の新幹線システム海外進出となる。
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                       印首脳会談安倍首相とモディ首相2015.12.12  
 およそ12億1000万人(2011)の人口を擁するインドで高速鉄道計画に新幹線システムの導入が取り沙汰されている地域は、世界でも有数の大都市であるインド西部の西海岸に面するインド最大の都市ムンバイ市(人口1248万人(2011現)の国内随一の商業中心都市)とインド西部の主要工業都市アーメダバード市(人口635万人(2011現))の間を結ぶ沿線に人口100万人を超える規模の巨大都市が連なる505.8kmの区間で、世界でも数少ない好条件が備わったドル箱路線としての様相を持っている地域である。ただ、新幹線システム導入後におけるインド側には、初の高速鉄道の運営となるが故の見通せていない採算性に対する課題が待ち受けている。
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総事業費 が約9800億㍓(約1兆8000億円)と見積もられ、日本の新幹線システムが導入されると見られているインド初の高速鉄道ではあるが、未開拓のケースであるだけに採算性が不透明であることは否めず、今後の大きな課題である。ただ、この採算性に関して日印共同による事業調査によれば、ムンバイ~アーメダバード間の高速運賃を2300㍓(約4200円)と想定すれば採算性は得られるとしている。
 とにかくインドでは、国内移動に関して航空運賃は高く、道路の整備も大幅に遅れているために、年間に70億人もの人々が利用する鉄道(在来線)は現在も頗る重要な移動手段となっており、インドにおいて鉄道は普遍的な“安い庶民の足”としてのイメージが強く定着しているという。高速鉄道が計画されているムンバイ~アーメダバード間の鉄道による移動で、現在は最も安くて200㍓(約360円)ほどで乗車・移動できる。また、高いといわれている航空便でも、ビジネス層が利用するのはLCC(格安航空会社)が中心であるために激しい価格競争が行われており、先に示した新幹線システム導入予定の区間における想定運賃を下回る便もあるという。こうした鉄道等の利用状況が勘案される中で、果たして新幹線システム導入予定の高速・高額の区間(ムンバイ~アーメダバード間)で思惑通りの乗客数確保に結びつけることができるのかは不明であるという。
 また、総額約9800億㍓とも見積もられる新幹線システムの導入が図られようとしているインドのモディ政権が進めるムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道計画だが、日印の外交筋によればインド国内では“高速鉄道は無駄”とする風潮もあるという。すなわち、インド国内では誰しもが高速鉄道の建設を歓迎しているわけではないという。インド政府内においてさえも、現行7時間の移動時間を2~3時間に短縮するためだけに高額なコストを費やす必要があるのか、その費用を以てすれば他に行う必要が沢山あるのではないかといったほかに、高速化に巨額の資金を注ぎ込むよりも先ずは事故が連綿と続いている既存(在来)鉄道(毎年300件・4000人を超える死亡事故が起きている統計もある)の改善・改良を優先させ安全性の向上を図るべきではないかといった意見も聞かれるほどに、政府内には高速鉄道不要論の兆しが見え隠れしているともいわれている。
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                             インドムンバイ市街
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                            インドアーメダバード市街
日本の新幹線 システムが2度目の海外への進出を果たそうとしているインドの高速鉄道計画(ムンバイ~アーメダバード間)において日本政府は、その総事業コストとして見積もられている約9800億㍓(約1兆8000億円)については日印両国間実務者レベルの交渉を通じて日本側がインド側に1兆円を超える円借款を供与することとなり、利率についてもインド側の要求・主張を可能な限り汲むべく提案(利率年0.5%、償還期間50年の長期低金利貸付の融資)を行うなど、新幹線システムのインドへの輸出獲得に向けた交渉姿勢を講じてきた。このインド初の高速鉄道プロジェクトにおいて、日本政府が総事業費の最大81%を円借款供与する等の過去に例を見ない好条件を提示してまで今回の新幹線システム導入合意を取り付けた背景には、日本政府が事前調査などを通じて協力してきたインドネシアの高速鉄道計画において、最終的には中国政府に受注決定を許して“逆転負け”を喫した苦い経験(2015.9)があったのである。この中国(中国高速鉄道)との間で展開された激しい輸出競争で競り負けた結果が、インド高速鉄道プロジェクト事業コストに対する日本側の格別な融資条件引き出しの呼び水ともなっていたといえよう。すなわち日本政府としては、インドへの新幹線システムの導入は“何としてでも獲りたい”案件(インフラ輸出)だったのである。ともあれ、インドへの新幹線システム導入合意に対しては、政府主導でことが運ばれた経緯の影響が最も大きく働いていたといえる。勿論、インドにおける新幹線システム採用の可否は、今後の日本が米国やマレーシアなど世界の高速鉄道市場において進める新幹線システム導入の如何を左右しかねない要件となっている。

日本 が“世界一”と誇る高速鉄道システム・新幹線の海外展開においては、新幹線開業以来40年もの間未開拓のままに経緯(今風に言うところの“ガラパゴス的”存在)してきた。その新幹線システムが初の海外への輸出の場となった、2007年1月5日に開業した台湾初の高速鉄道・台湾高鐵(運営・台湾高速鐵路公司)について参考ながら以下に少しく触れて見る。
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                        台湾高速鉄路を行く台湾高鐵700T形高速列車
… 台湾高鐵は、東海道・山陽新幹線の700系車両をベースとした700T形車両が最高速度300km/hで台北~左営(高雄)間345kmを最短1時間半で結ぶ高速鉄道で、車両のほか信号システムや軌道工事などを川崎重工業をはじめとする日本企業7社が連合して受注・納入した日本の高速鉄道海外進出の初のケースであった。しかしながら、海外における事業展開の体制構築には未経験なるが故の不備も重なって、台湾高鐵との間には新幹線の導入を巡りその過程に縺れがあったとされている。もともと台湾高鐵の建設は、欧州企業連合(フランス・ドイツ)の受注がほぼ決定した状況にあった。
画像 ドイツ国鉄ICE脱線転覆事故 1998.6.3
 ところが、1998年に起きたドイツ高速鉄道(ICE)の脱線事故(1998.6.3にドイツ国鉄の高速列車ICE(前後に動力車連結の14両編成を)が時速200㌔で走行中にドイツ北部のエシェデ付近で脱線転覆し、死者101人・負傷者200人を出した事故。原因は金属疲労による車輪のタイヤ破損)や翌年に発生した台湾大地震(1999.9.21に台湾中部の南投県集集鎮付近を震源に発生したマグニチュード7.6の地震、死者2415人・行方不明29人・負傷11305人)により一転して高い安全・安定性とともに地震にも強い日本の新幹線採用という方向に傾き、日本が逆転受注する形となった。しかしこの時点で、すでにフランスやドイツの技術者らは台湾高鐵の主要ポストに在って、欧州システムの採り入れを強く求めていた。それら技術者らの意向を受けた台湾高鐵においては、日本の新幹線システムへの全面依存を避ける方針(分岐器はドイツ仕様、無線通信設備はフランス仕様など)が立てられ、台湾高鐵の建設は「日欧混合」という体制で進められることとなった。このため、台湾高鐵を挟んで日欧間に技術面で意見の対立や作業関連の調整に手間取るなどして建設工事に遅れが生じ、開業予定が2005年秋から1年2カ月も遅れることとなった。しかも日本側は、逆転受注するも新幹線システムを欧州仕様と擦り合わせなければならない日欧混合という、すっきりしない状況に追いやられる中で台湾高鐵の開業を迎えている。こうした日本の高速鉄道技術初の海外進出ではあったが、同時に海外展開における難しさや苦い経験を味わいもした。
 されど日欧混合ながら、日本の新幹線が海外初輸出となった台湾高鐵の高速鉄道は、開業から8年余りを経て日本が請け負った車両や信号などの基幹システムは今も順調な働きを示して信託に応えており、海を越えた異郷の地で安全に疾走を続けている日本の新幹線システムの姿は頼もしい。
画像                           インド鉄道在来線) 〉
インド政府 の鉄道省の監督下にあるインドの鉄道(国有)は、路線総延長およそ6万3000km以上(世界第5位)を保有し、1日約1800万人もの人々が利用する。そのインドで、高速鉄道導入への提案が国へなされたのは、1981年にフランス国鉄が日本の新幹線(1964)に次ぎ世界で2番目の高速鉄道路線(LGV)を開業させてから間もなくの1987年のことであった。しかしながら、建設費が膨大である上に運賃が高額になることなどから、当時のインド国内事情にそぐわないことから現実的ではないとされて、沙汰止みとなっていた。その後、2000年代に入った2009年12月に、商業・観光・巡礼などの中心都市間を250~350km/hで結ぶ高速鉄道建設を盛り込んだインド鉄道省による白書(「ビジョン2020」)がインド議会に提出された。これによりインド鉄道省とインド鉄道は、4大都市を結ぶ総延長1万kmに及ぶ「ダイヤモンド四角形」と称される高速鉄道網(デリー~ムンバイ~チェンナイ~コルカタ~デリー・予算承認済み)の建設を推し進める方針を打ち出した。2013年10月にインド鉄道はインド高速鉄道会社を設立し、高速鉄道は全て官民連携による「BOT方式」(Build Operate Transfer…プラント建設を投資企業(民間資金等)が請け負い、その間の収益で投下資本を回収し、その後に相手に引き渡す)により建設されるという。
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                            インド鉄道在来線) 〉
 日本(安倍政権)が成長戦略案件の主力として位置付けているインフラ輸出、その案件の一つでもある日本の新幹線システムの海外輸出は1件当たりの受注規模(外貨獲得額)が大きく、国が力を注ぐインフラ輸出の目玉でもあることは先に述べた。今回のインドへの新幹線システム導入に対する日印間の交渉に当たっては、前回のインドネシア高速鉄道計画で日本案が中国案に敗北を帰した結果から、今回は何としても獲得したい案件(インド高速鉄道計画への新幹線システム導入)として雪辱を期す覚悟で日本政府は臨んでいたのであった。インドでは、今回のムンバイ~アーメダバード間の路線を含め7路線の高速鉄道の建設計画が立てられている。これに鑑み、国の成長戦略として日本政府(安倍政権)が強く打ち出しているインフラ輸出案件に関して安倍首相は、2015年12月12日に開かれた共同記者会見の席で「新幹線システムがインドの他の高速鉄道路線にも導入されていくことを強く期待する」と強調し、インドの地で日本の新幹線システムがさらに活躍していくであろう姿にエールを送り、期待を寄せる。
 インドにおける最初の鉄道の誕生(ボンベイ~ターネー間約40km)は1853年と、日本(1872)より20年近くも早く、そうした長い歴史をくぐり抜けて間もなくインドの地を初の高速列車が走り出そうとしている。 (終)

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