人口の減少化と交通サービスの充実


 少し先のことになるが、現在およそ1億2700万人を数える日本の総人口は35年後の2050年には1億人を割り込むまでに減少し、その規模は小さな地域(地方圏)ほど減少率が高く、人口が40年前(1975(昭和50))の半分以下になる地域が現在の居住地域の6割以上になるとの推計を、国立社会保障・人口問題研究所(厚生労働省の研究機関・東京都千代田区)が中位推計で示した。画像ただ、この推計はあくまでも交通サービスや生活サービスの水準等における社会の変動幅が現在から大きく変わらないことを前提としている。当然の如く現実に人口が減少していけば、商業や経営業およびサービス業の先細り、医療・福祉施設等の維持困難、公共交通の縮小・撤退等を招き、社会生活面で人々の生活水準の低下が余儀なくされていく。その結果、さらに地方圏の人口減少化が加速されるという悪循環に陥る懸念を拭い切れない。こうした地方圏の衰退は、地方自治体の機能を低下させかねず、ときには市町村の存続・存亡の如何にまで発展する危機的状況を孕む。それ故、地方圏における人口減少化を食い止めて今まで以上に活性化を図っていくために、綿密かつ大胆な施策を検討・展開して“地方再生”を実現させていく必要がある。


 2014年に国内で生まれた日本人の子どもの数は、前年より2万9000人少ない100万1000人と、過去最少になる見込み(厚生労働省が2015.1.31に公表した人口動態統計の年間推計)という。反面、死亡数は前年より1000人多い戦後最多の126万9000人と推計され、人口の自然減は26万8000人に達して過去最多となる見通しで、日本の人口減少化は2007(平成19)から8年連続で推移している。
画像 2013年の合計特殊出生率(その年の15~49歳の女性が産んだ子どもの数を基に算出する1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数で、2.07が人口維持の水準とされて将来の人口増減を見通す重要な指標)は1.43で、前年を0.02ポイント上回って2年連続の上昇を示した。この出生率は、1970年代前半(昭和45~49)の第2次ベビーブームまで2.0以上の水準を続けた後に減少傾向に転じ、2005(平成17)年には過去最低の1.26にまで減少したが、その後は微少ながら上昇傾向が続いている。ただ、人口を維持できる水準にはほど遠く、今後も人口減少に歯止めはかかりそうにない。
 ちなみに前出の国立社会保障・人口問題研究所が2012年に示した人口の将来推計では、合計特殊出生率が1.35前後で推移した場合に2060年の日本の人口は約8600万人に減るとしている。現在の安部政権は今、経済の活力を減退させ、社会保障制度の維持を難しくする人口減少を少しでも食い止めようと躍起の施策を進める。昨年(2014)には、保育所や小規模保育の定員を2017年度末までに40万人分程度増やす対策をまとめている。また、来年度(2016)から始められる「子ども・子育て支援新制度」においても、待機児童解消と保育の質の向上に力を入れて子育て支援への充実を進めていく方針という。


 国全体の人口減少が加速する中で国は、地方圏の衰退を阻止するためにこれまでの国土計画において一貫して大都市圏への人口集中の是正に力を注いできたが、依然として大都市圏への集中と地方圏の衰退は進む一方で今もその兆しは衰えず、東京・名古屋・関西の三大都市圏に占める人口の割合は国全体の約51%と過去最高を更新している。特に、東京圏(東京都・埼玉・千葉・神奈川の各県)の人口は、名古屋圏(愛知・三重・岐阜の各県)や関西圏(大阪府・京都府・兵庫・奈良の各県)で減少が続く中で初めて3500万人を超え、国の総人口が減少化へ転じている下で首都圏への一極集中が続いている現状を一層浮き彫りにさせている。このような大都市圏への人口集中の下で地方が生き残っていくためには、逆に大都市から地方に人が流入するような魅力的な地域づくりへの挑戦が地方には求められる。
 それには、居住環境の整備(雇用の場づくりや交通サービスの充実)が欠かせず、その整備の構築には各地域単独では限界もあることから近隣の地域同士の間でそれぞれに知見を出し合い分担し合う相互協調が必要だ。従来の日本においては、都市の構成人口がおよそ30万人以上でなければ減りこそすれ人口は増加して行かないという傾向が往々にあった。すなわち、人口定着化(特に若年層)のためには、雇用機会の確保や生活環境の整備に加え、30万人以上を対象としたマーケットの保有が確保されなければ成立しないような「高次都市機能」(旺盛な商業機能、先進医療や救命救急等の医療機能、大学や専門学校等の教育機能、充実した交通機能等の保有)としての存在が不可欠だったのである。
 しかしながら、今後進むであろうことが確実視されている人口減少の社会では、1つの都市だけで30万人の人口を維持していくのは難しくなることから、近隣の複数都市が連携することで30万人以上の都市を形成していくことが求められる。すなわち、「高次地方都市連合」の構築である。それには、高次地方都市連合の地域は1つの都市の如くにそれぞれの地域間の移動性向上が図られていなければならず、都市連合形成の各都市エリア内では移動の利便性を高めるために自転車や自動車、公共交通に対する環境の整備が不可避となる。特に、都市間を結ぶ公共交通機関には、きめ細かなネットワークの整備と速達・高頻度といった大都市圏並の交通サービスが望まれる。このような地方都市の形成が促進され、その盛り上がりを期することから国は2014年11月に地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律を施行し、市町村等による「地域公共交通網形成計画」の作成を定めた。

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                          栃木県宇都宮市のLRT導入イメージ図

 交通サービスを充実・維持させていくためには、一定量の需要が確保できる安定した輸送体制の構築を必要とする。将来に向け人口の減少は不可避であることから、都市間や地域間における相互連携強化による交通サービスの充実実現への様相がますます高まる。近年、地域交通サービスの要としてLRT(ライトレールトランジット)やBRT(バス高速輸送システム)の導入が検討されている地域も多いが、ただ輸送機能や定時性および新設コスト(鉄道の約10分の1)などの点から地域活性化策の主体になると注目されてきたLRTでありながら、昨今の地方行政における財政難の折からその導入の進展は遅々としており、近頃では新展開を見ていない。
画像           宇都宮市で開かれた「関東EST創発セミナー」 2014.11.14
 そのような現況の中にあってこのほど、全国に28ある人口50万人以上の都市の中で“住み良い町”の1位に輝いた実績を持つ栃木県宇都宮市では、まちづくりの指針として「ネットワーク型コンパクトシティ」を掲げて県内の行政機関や商業諸施設などを円滑につなぐ基幹交通として、輸送力や定時性に優れたLRTの導入計画を公表した。2014年11月に宇都宮市内で開かれた、環境に優しい公共交通のこれからを考える「関東EST(環境的に持続可能な交通)創発セミナー」(宇都宮市・国交省関東運輸局・EST普及推進委員会等の主催)で宇都宮市が公表したLRT導入の具体的な計画によれば、列車全長40㍍級・最高速度40km/h級のLRTによりJR宇都宮駅と同市の東部に位置する工業団地(内陸型工業団地では国内最大規模(総面積約387㌶)の清原工業団地)間約12kmを結ぶというものである。LRT導入にあたり実施した利用動向アンケートでは、“快速運転が行われれば利用する”とした速達性重視の回答が1割以上もあったことを受けた同市は、40㍍・40km/h規模のLRT導入を理由の一つに挙げる。ただ、現行の軌道法では列車長は最大30㍍で速度は最高30km/hと規定されており、導入の実現には規制緩和等の課題を抱える。
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 2050年には日本の総人口が1億人を割り込むであろうとされているとき、地方圏の人口も大幅に減少するであろう中で地方が生き残っていくためには、地方に人が流入してくるような環境や地域づくりを今後は行っていかなければならない。そのためには、日常生活に欠かせない移動手段である交通サービスの充実は必須用件で、人口50万人を超える大都市でありながら人口減少化が進む将来を見据えて今から生き残っていくためのまちづくりを支える、交通ネットワークの整備(市街のバスネットワーク再編にも取り組む)を標榜する宇都宮市の姿勢に拍手を送りたい。
 日本の人口が1億人を割り込むとされる2050年までには、おそらく新たな技術開発やアイデア創出が行われてさまざまな交通システムが生まれ、新たな運転形態や交通サービスの整備が出現してくるのではないだろうか。しかしながら、人口の減少を考えればこうした将来への楽観視は禁物で、持続可能なまちづくりには今からが正念場といえよう。


 まもなく北陸新幹線の延伸開業(2015.3.14・長野~金沢間228.1km)が迫るが、日本の国土を縦横に貫き輸送の骨格を成す新幹線ネットワークの整備が展開されてはいるものの、その反面で新幹線に並行するJR在来線の運営移管(第三セクター化)やバス路線の縮小で沿線都市間の利便性はむしろ低下を囲う形になりかねず、沿線人口(地方人口)の縮む(流出)傾向が高くなる。果たして今後、新幹線網の伸展が沿線(地方)都市人口の趨勢にどのような影響をもたらすであろうか…。

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                         2015年3月14日に延伸開業する北陸新幹線
 都市計画やコミュニティデザインを研究するある大学教授は、地方圏における交通サービスの充実に関して“新幹線ネットワークの構築は東京からの移動スピードを短縮するだけで、ローカル交通とのネットワークの構築が後回しになっている”と指摘する。まもなく発生から4年になる東日本大震災の後でも、被災で不通となった新幹線(東北新幹線)はいち早く復旧(49日後)を果たしたが、地域のローカル線に至っては未だに再開にこぎ着けない路線も複数あり、今も被災地では大震災前から人口の減少が続いている。いずれにせよ、交通サービスの充実に対してはすべてといっても過言でないほどに“東京目線”がその中枢に置かれており、地方置き去りの様相が窺い見える。
 今後、人口減少が避けられない状況の社会の中で地方が生き残っていくためには、人口の大都市圏集中による地方圏衰退の危機的状況からの脱出が鍵となる。そのためには、先に述べた如くまちづくりに欠かせない人と物の交流活性化を促す交通サービスの整備・充実が最も必要とされ、国をはじめ地方圏の努力が地方創生に向け強く希求される。 (終)

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