企業風土一新へ~ JR北海道

☆☆ JR函館本線の大沼駅構内で起きた貨物列車脱線事故(2013.9.19・北海道七飯町)をきっかけに露見をした、その要因ともなったレール幅検査データ(数値)の改竄や線路の杜撰な点検整備および異常放置の問題に関連し、国土交通省から虚偽報告並びに検査妨害の疑いによる鉄道事業法違反および運輸安全委員会から虚偽報告の疑いによる同委員会設置法違反で刑事告発(2014.2.10)を受けたJR北海道に対し、同社の安全管理体制の確立と安全軽視の企業風土を一新すべく実質株主(国土交通省所管の鉄道・運輸機構が100%保有)の国は、経営陣の刷新(2014年4月1日付トップ人事)を主導したことを2014年3月7日に明らかにした。すなわち、一連の諸事象への対処能力を欠いているとして、現行の野島誠社長と小池明夫会長のトップ2人を引責辞任を以て退任させ、新トップとして社長に島田修氏(JR北海道ホテルズ社長(56))を、会長に須田征男氏(日本鉄道施設協会会長(70))を就任させることとしたのである。
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                      JR函館本線大沼駅構内貨物列車脱線事故 2013.9.19
 1987(昭和62)年4月の国鉄改革により分割・民営化されて新しく誕生した7つの株式会社(JR会社)発足以降において、国がJR会社を刑事告発したのはJR北海道が初のケースであるが、同社はこのところわずか3年間でトップ(会長、社長)の交代が今回の人事で3度目という異例の事態を示している。また国(政府)の主導によるトップ人事もこれまた異例のことで、まさに今のJR北海道は異例ずくめの渦中にある。そうした状況を踏まえた上でJR北海道は今後、新しいトップを中心に数年前から相次ぐ一連の列車の脱線・火災・発煙事故や社員の不祥事などといった深刻なトラブルで失墜した公共交通機関としての安全と信頼を取り戻すためにも、経営の改革・刷新を新しいトップを中心に新経営陣挙げて断行して行かなければならない。

☆☆ 今のJR北海道が、世間一般では信じ難いほどの異常事態(安全軽視)を招いてしまった要因には、先天的な弱い経営基盤や労組間の対立、歪な社員の年齢構成などといった会社を取り巻く環境が浮上していた。とかくトラブルが続くとされる事業者には、経営構造や労務環境に問題を抱えているところが多いと一般に言われているが、今のJR北海道もまたそれに違わない環境の下にあるようだ。
画像 もともとJR北海道は、1987年の分割・民営化に際して札幌や函館以外にこれといった大都市がなく、しかも日本列島最北の北海道の広大な大地に展開する路線(現在14路線・2499.8km)を継承したことから、JR四国やJR九州とともに多くの不採算路線を抱えてのスタートだった。その際に国は、3社(3島会社)それぞれに自己の経営努力だけでは黒字化は困難という判断から、3島会社に対し経営安定基金の制度(鉄道事業の営業損失見込み額を基金の運用益によって賄う方法…JR北海道・6822億円、JR四国・2082億円、JR九州・3877億円)を設け、その運用益で黒字化を図る方式を採った。しかし、その運用金利も、JR化後の1990(平成2)年頃から始まったバブル崩壊による不況を境に低下する一方で、運用益は採用時想定を大幅に下回って激減を続け、人口密度の低い広大な地の路線では鉄道収入も伸び悩む下で採算もままならず、JR北海道の鉄道経営の赤字体質(年間250~300億円)は今も続く。
 こうした赤字体質を少しでも改善すべくJR北海道は、人員の削減化、安全投資や諸経費の抑制・削減、施設・設備の省力化、新入社員の採用控え等々により経営の効率化を急ぐあまりに、行き過ぎた合理化へひた走ってしまった。その結果が、40代の中堅社員層が8%台という社員構成の歪化(技術力・経験者不足)や本社・現場間の意志疎通、労組間の激しい対立を生み、一連のトラブルや不祥事発生への温床ともなっていった。そうした状態からの脱却や経営基盤の弱さを補完すべく歴代の経営トップは、一途に鉄道以外の商業ビルやホテルなどの不動産事業・サービス事業の展開により収益の生み出しを図ってきた。その努力もあって、それら鉄道以外の事業は10年連続(~2013.3期)で営業黒字を示すなど、それなりの成果を挙げてきた。しかし、この鉄道以外から収益を得ようと傾注してきた経営の方途が、鉄道現場との狭間で意識(赤字と安全)の乖離を生むことにつながり、一連のトラブル発生への一つの背景になっていたことは否めない。その点でも、赤字体質の足を引っ張る鉄道事業と、利益を稼ぎ出す鉄道以外の事業とを経営手法の上で両立を図るのは、新経営陣の今後の大きな課題(経営主体は鉄道事業)ともなりそうだ。
画像                          JR北海道本社 札幌市中央区 
 その一方で、労組間の対立も、JR北海道の安全管理体制に少なからず影響を与えてきたのも事実である。現在、JR北海道には四つの労働組合があるが、国鉄が分割民営化されたこと等への賛否などを巡って、新会社設立以降から労組間で激しく対立してきた。そうした過程の下で、ほぼ9割の社員が所属する「JR北海道労組」は、早期から分割民営化に賛成の立場を取る労使協調路線を推進してきた。これに対し、他の労組からは“人事面などで優遇されている”などといった最大労組に対する批判が燻り続け、職場内には不協和音の空気が漲っているともいわれ、社内における本社と現場間に風通しの悪さを生んできたとされる。その長い間にわたって燻り続ける労組間の対立が、JR北海道の一連の問題発生においてその底流に在るのは否定できない。国がこの度、元労務担当で労組への厳しい姿勢で知られる島田修氏を新社長に迎えたのも宜なるかなといえようか。いずれにせよ、JR北海道の安全体制の確立と信頼回復の課題は、労使双方にとって共通の問題でもあろうし、願いでもあろう。その解決に、労使相互間で協調を図り、同じ土俵の上に立った建設的な議論の交換を望みたいものである。

☆☆ 検査データ改竄問題の発端となった、函館本線貨物列車脱線事故の直後に検査データの改竄を行ったJR北海道の悪質性を重く見た国土交通省は、行政処分(監督命令・事業改善命令)に加え刑事責任を問う必要があると判断し、2014年2月10日に鉄道事業法違反(虚偽報告、検査妨害(社員の虚偽記載行動))の疑いで当時の同社社員と同社を北海道警に刑事告発している。同時に、前記貨物列車脱線事故の原因を今も調査中の運輸安全委員会もまた、同10日に同委員会設置法違反(虚偽報告)の疑いでJR北海道を北海道警に刑事告発した。
 その運輸安全委員会は、2013年9月19日にJR函館本線大沼駅構内で起きた貨物列車脱線事故(コンテナ貨車18両編成のうち4両が分岐器付近の曲線箇所で脱線)の原因調査に関し2014年2月28日に公表した中間報告書の中で、レール異常の整備を放置したJR北海道の杜撰な整備が原因であることを明らかにした。ちなみに運輸安全委員会が事故調査に関する中間報告書を公表するのは、通常のケースでは事故発生から1年を超える場合が常態であるといわれている。しかし、今回のような事故の発生から半年という短期間での公表は異例であるという。
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             貨物列車の脱線事故現場を調査する運輸安全委員会の調査官JR函館本線大沼駅構内 2013.9.20
 JR北海道の社内規定によれば、検査の際にレール間の幅(軌間=ゲージ)が整備基準値(19㍉)に達していた場合には15日以内に補修しなければならないと定めている。しかし、当該脱線事故現場については、同脱線事故前の過去3年間に補修が行われた記録は担当の大沼保線管理室の整備記録にはなく、当該脱線事故が起きる以前の2013年6月に行われた検査の時点では、恐らくすでにレール幅の拡がりは整備基準値の2倍を超えていた可能性が高かったと見られている。公表された中間報告書の概要を示せば、事故発生前の2013年6月の検査時点ですでに当該脱線箇所のおよそ前後20㍍にわたって左右のレールがマクラギごと既設線路の位置から最大70㍉カーブの外側へ膨らんでいた(軌きょう部分(レール、マクラギ、締結装置)を支えている道床からずれる)ことから、カーブ部分が局所的にきつい状態(曲線半径が小さくなる)になっていた。そのような状況にあったにも関わらず、補修などの整備がなされずに放置の状態にあったことから、当該箇所を列車が通過するたびにカーブの外側レールには列車の重量と速度に比例した横方向の力(遠心力)がことのほか強く働いていたために当該箇所のレール幅は最大で40㍉(整備基準値19㍉)にも拡がってしまっていた。その上、強い横方向の力が懸かるカーブ外側レールをマクラギに固定している内側の犬釘がその圧力によって弛んで浮き上がり、外側レールが不安定な固定状態にあった。そうした長期にわたって整備放置されていた線路状態が、貨物列車を脱線せしめた見られている。中間報告書では、「脱線事故の発生には、整備基準値を大幅に超過していながら整備が行われなかったことが大きく関係した」とJR北海道の責任を強く指摘している。その上で、検査データの正確な記録・管理と確実な整備を求めている。
 他方、前記のJR貨物の貨物列車脱線事故に関し同社の田村修二社長は、JR北海道の社員によるレール幅の検査・補修の整備放置などが同事故の原因と認定された場合には、運輸安全委員会が事故原因についてまとめる事故報告書の結果を踏まえた上でJR北海道に対し損害賠償(脱線したコンテナ貨車4両の廃車や輸送障害などの被害)を請求する方針を明らかにしている。
画像 JR北海道会長に就く須田征男氏
☆☆ JR北海道が相次ぐ事故や不祥事に見舞われた原因の根底には、株主である国がその責任を果たさなかったことにあるとの見方が一方にはある。国鉄の分割・民営化で株式会社になったJR各社だが、上場を果たしている本州3社(東日本、東海、西日本)に対し3島会社(北海道、四国、九州)は、国が株式の100%を実質保有する事実上の国有企業でもある。前述の如くJR北海道では、数年ほど前から列車の脱線・発煙・火災や社員の不祥事などのトラブルが発生しているが、企業統治の観点から見れば国は実質的な株主としてJR北海道に“安全最優先”の経営方針を示した上で、経営陣に対し必要な提案(経営陣の解任や人事刷新など)を行いながら株主・経営者相互間に緊張関係を構築しておくべきだったのではないだろうか。トラブル塗れの今の経営現状を考えると、国の株主としての経営監視の弱さが見えてくるという。実質上の国有企業ともいえる、JR北海道の事業計画や役員選任などの人事面などに対して国が認可している以上、事故等のトラブルが起きれば当然に国もその責任が問われよう。
画像                                          JR北海道社長に就く島田修氏
 今般のようにトラブル続きのJR北海道に対しては、監督する立場にある国土交通省にもその対応が十分であったとは言い難い面があった。同省が毎年実施している定期検査では、270ヵ所にも及んだ道内のレールの異常放置に気付かなかったり、安全管理体制の確認や経営陣の安全知識調査にあたっても今回の刑事告発の因をなした“改竄”を見抜けずに見過ごす結果を招いていたりしていた。また、2013年9月に実施した函館保線管理室の特別保安監査では、その前日に社員らが行った検査データ記録の改竄に監査に当たった同省幹部が気付かなかったなどといった、不備な面があった。この国土交通省の十分だったとは言えない対応に関して、太田昭宏国土交通相は「当然我々にも責任(監督責任)がある」と認めている。国土交通省のある幹部は“国民の信頼を取り戻すにはここで深く反省し、出直さなければ…”とした上で、今後に向け実効性のある監査や指導の態勢を早急に整えていく必要があるとして、国土交通省は今後の5年間にわたってJR北海道に対して50人規模から成る監査を続けるとともに、年4回程度の立ち入り検査を行うとしている。
画像          JR石勝線特急列車脱線火災事故 2011.5.27
☆☆ JR北海道は、2001(平成13)年以降10年余りの間に国土交通省と運輸安全委員会から約50件に及ぶ業務上の改善指示や勧告などを受けてきた。そして、2011(平成23)年6月18日には、同年5月27日に起きたその後のJR北海道におけるトラブル連鎖の始まりともいえるJR石勝線の特急列車脱線・火災事故(北海道占冠村のニニウトンネル内で特急〈スーパーおおぞら14号〉(6両編成)が焼失、79人負傷)で国から同社初の事業改善命令を受け、“お客様の安全を最優先とする企業に生まれ変わります”と当時の同社社長中島尚俊氏(同事故後、お客様の安全を最優先にすることを常に考える社員になってくださいなどとする遺書を残し自殺している)は堅く誓っていた。しかし、その後に続く一連のトラブルが連鎖する中で、2013年9月19日に起きたJR函館本線大沼駅構内貨物列車脱線事故によって明るみに出た脱線現場のレール異常放置や道内270ヵ所に及ぶレールの異常を整備せず放置していた問題などによって、国土交通省からわずか1カ月の間に2度もの業務改善指示(2013.10.4、25)を受けてしまった。野島社長は当時、“鋭意再生に取り組む”と力強く語ったものの、その決意も空しく1ヵ月余り後にはレール幅の検査データ改竄問題が発生して3度目の業務改善指示(2013.11.29)を受ける羽目となった。まさにJR北海道はその時、深い泥沼にはまり込んだような事態に陥っていたのである。そうしたトラブルに塗れながらも、“今度こそは…”と繰り返されてきた誓いや願いでもあったが、JR北海道をしてついに叶えられないままに、今に至っている。そして、新年度(平成26年度)からJR北海道の経営トップ2人(会長、社長)が交代する人事刷新が、株主である国によって主導されるという結果が待っていたのである。
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                辞任を前に最後の記者会見に臨むJR北海道野島誠社長 JR北海道本社 2014.3.7
 JR北海道の社長就任(2013.6)から9ヵ月の現・野島誠社長は、国が同社の次期トップに充てる人事(新社長に島田修氏、同会長に須田征男氏)を主導した日に行われた辞任を前にしての記者会見(2014.3.7・JR北海道本社)で、「やれることはやってきたが、次々に起きる事象への対処に追われて安全を確立できなかった」と淡々とした口調で振り返った。

☆☆ 2年後の2016年に北海道初の新幹線開業(北海道新幹線)を控えるJR北海道では、もともと経営基盤の弱い同社とあって、活性化へ向けた起爆剤としての期待が膨らんでいる。しかしながら、その新幹線の開業もJR北海道にとっては、当面の開業区間が函館止まりのため、道内唯一の大都市である札幌への2035年度開業までは大幅な利用者増は望めそうにない状況にある。
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                〈 記者会見に臨んだ須田征男氏と島田修氏) ・ JR北海道本社 2014.3.13
 少子高齢化とともに人口減少化の時代を迎えている昨今、鉄道事業の経営環境が厳しい状況にあるのは何処も同様である。そんな最中で、経営基盤の弱さ故もあって経営上の効率化や合理化を急速に進めてきた一方で、運営主体の輸送に対する安全性を大きく損ねてきたJR北海道は、毎日35万人を超える人々が使う道民の足でもある公共交通機関として、二度と同じ轍を踏んではなるまい。これまでは、経営上の合理化が主眼に置かれ、安全軽視の企業風土が放置されてきたJR北海道にとっては、安全最優先の企業風土への刷新が今後の至上命題でもあろう。2014年3月13日にJR北海道本社(札幌市中央区)で行われた記者会見に、新年度(2014.4.1~)から就任する同社の新経営陣トップの2人(新会長の須田征男氏と新社長の島田修氏)が臨んだ。その席上で、両者はいずれも、最大の課題としてトラブルや不祥事が相次いだ安全軽視の企業風土の改革を挙げ、安全を最優先させる企業組織に再生させたいと抱負を述べている。
 いずれにせよ、今のJR北海道が直面している不安定な経営状態や安全軽視に塗れた輸送業務等に係わる企業体質の改革は急を要する。これまでに、公共交通の輸送事業者としてJR北海道が自ら失墜させてきた利用者に対する安全と信頼を取り戻すためには、来年度から新しく同社の経営トップに就く2人の全力を挙げた旧来からの企業風土の一新と経営刷新へ向けた取り組みが待たれるところである。 (終) …新聞記事等を参照させていただいた.

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