“北の鉄路”の危機 ・ JR北海道

   北の鉄路の危機 ・ ・ ・
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                                〈 北辺の鉄路 ・ JR北海道宗谷本線稚内駅 〉

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画像 国鉄改革(分割民営化)から30年、未だ抜け出せない赤字体質という負の遺産を背負い続けるJR北海道が2016年11月18日、道内全14路線の営業距離(2568.7km…北海道新幹線148.8km・5幹線1327.9km・8地方交通線1092.0km)のおよそ半分に当たる1237.2km(10路線13区間)について、“もはや自社単独では維持していくのが困難”であるとして路線の見直しを表明(公表)してから1年が経った。その対象路線は、日本国土の2割を占める広い北海道内の全域に広がっており、中には道の主産物である農産品や乳製品を日本全国へ運ぶ役割を担っている路線もある。
 そもそも、この“鉄路半減”ともいわれる路線の見直しは、進む人口減少や過疎化、自動車依存の生活環境に起因する利用者の減少とともに、鉄道としての特性(大量輸送)を活かし得ないことに因るところが大きいとも言われる。そうした中で、JR北海道においても、赤字路線の存廃や路線維持経費の分担、交通体系の見直し(バス転換など)などに関して沿線地域や自治体等との協議を鋭意進めてはいるものの、その協議相手となる沿線自治体は道内の約3割にも相当する56市町村に及んでおり、しかもその大半が深刻な財政難を抱えている中で全般的に協議は進んでいないのが現状である。こうした赤字路線の廃止などを含めた大幅な道内鉄道路線網の見直しに踏み切ったJR北海道は、2014年1月24日に列車事故(火災・脱線)や線路検査データの改竄、社員の不祥事等により国(国土交通大臣)から「輸送の安全に関する事業改善命令および事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」(事業の改善・監督命令)を受けるに至っており、そうした状況にある中で道内鉄道路線網の大幅見直しに踏み切るなど、信頼されて然るべき鉄道が沿線地域に不信感を植え付けるような状況に至ってしまったことは残念でもある。
 こうした事態の早期好転に向けJR北海道は、今こそ国とともに解決への方途を主導して、沿線自治体等に対して前向きの協議を加速させていくべき時機にあると言えまいか。
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 JR北海道は、2016年度も総額500億円を超える赤字を出しており、例年の如く全14路線が赤字である中で抜本的な収支改善を迫られている最中にある。“単独では維持できない”と表明したほどに、JR北海道が何故に半数に近いほどの多くの路線見直しの敢行を余儀なくされるに至ったのかその背景には、経営改善に向け何もしなければ国からの支援(事業の改善・監督命令に基づいてJR北海道が策定した“安全投資と修繕に関する5年間の計画”に対する2016~2018年を支援期間とする総額1200億円の支援)がなくなる2018年度以降には運営の資金繰りが行き詰まって列車の運行にも支障を招きかねないほどに、その3年という短期の中で経営破綻回避に向けた経営維持のために何らかの手立てをしなければならない必要があったとされる。JR北海道としても当然に、公共の輸送を預かる身としても路線をできるだけ維持し、出来るなら可能な限り延ばしたい気持ちは言わずもがな強く持っています…、と吐露するのはJR北海道の島田 修社長である。
 しかしながら現実には、旧国鉄時代の路線廃止の目安となった“1日1km当たりの平均乗客数が4000人未満”という路線がJR北海道には現在、札沼線(札幌~十津川間78.1km)をはじめ最北の地に至る宗谷本線(旭川~稚内間259.4km)など全路線の約7割(約1800km)にも及んでいる。その内、およそ1200kmの路線について民間事業として担え得るレベルを超えているとして見直す協議を沿線地域と行うとしたJR北海道の表明(10路線13区間の見直し)は、あながち全てを廃止対象として位置付けるものではなく、2016年度の1日1km当たりの平均乗客数が2000人未満の区間においては1列車当たりの平均乗客数が10人と特に少ない区間ではバスへの転換を協議するとともに、その他の区間に対しては列車運行の見直しや駅の廃止(2017.3のダイヤ改正で10カ所の無人駅を廃止)、上下分離方式の採用(自治体へ路線維持依託)を協議するなど、国の支援がなくなる後の2020年春までに沿線合意を目指すとしたものである。
画像JR北海道本社札幌市中央区) 〉
 新会社発足時(1987年の国鉄改革)に旧国鉄から引き継いだ北海道の地にあっては、全国を上回る人口減少の進展や札幌への一極集中が進み、高速道路網が7倍近くも拡充された中でライバルの私鉄はないものの、大幅に利用者数を減らした鉄道路線が多数に上る。そうした状況下で、北辺の地ゆえの除雪など安全対策費用も膨らみ、鉄道の安全投資への不備が一連の事故や不祥事の連鎖につながった。2017年8月には、JR北海道発足以来最大の自然災害(台風)で幹線路線が寸断され、運休による減収と復旧費により総額100億円に上る被害を被った。島田 修社長は、こうした現状の下で起こる問題を先送りすれば資金繰りが窮する中で輸送の停滞を招きかねないとして、不退転の決意で収支改善に臨むとして心境を新たにしている。
 ちなみに、JR北海道が単独では維持が困難であると表明した路線・区間の概要(10路線13区間)を、参考までに示します。①札沼線・北海道医療大学~新十津川間47.6km ②根室本線・富良野~新得間81.7km ③留萌本線・深川~留萌間50.1km ④宗谷本線・名寄~稚内間183.2km ⑤根室本線・釧路~根室間135.4km ⑥根室本線・滝川~富良野間54.6km ⑦室蘭本線・沼ノ端~岩見沢間67.0km ⑧釧網本線・東釧路~網走間166.2km ⑨日高本線・苫小牧~鵡川間30.5km ⑩石北本線・新旭川~網走間234.0km ⑪富良野線・富良野~旭川間54.8km ⑫日高本線・鵡川~様似間116.0km ⑬石勝線・新夕張~夕張間16.1kmの10路線13区間1237.2kmである。なお、この公表以前において新夕張~夕張間(JR石勝線夕張支線)は廃止に向け夕張市とJR北海道との間で合意に達していた。

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 先にも触れたように、JR北海道は2013年に発生させた一連の事故や事象に対して国土交通大臣から2014年1月に事業の改善・監督命令を受け、これらの改善・監督命令を踏まえて策定した措置を講ずるための計画に基づき安全性の向上と安全基盤の再構築および企業安全風土の構築に向けさまざまな取り組みを着実に推進している最中にある。その一方で、安全・安定的な鉄道輸送サービスの提供には安全基準を維持することが欠かせず、そのために必要な設備投資や施設の修繕費を確保しなければならない。しかしながら、現状(全14路線が赤字)から推してすべからく全14路線を維持する前提でこれらの必要費用を恒常的に確保していくことは困難であるとの認識の下で、JR北海道は2016年7月に“持続可能な交通体系のあり方”を、また同年11月には“自社単独では維持することが困難な線区”について発表し、路線廃止やバス路線への転換等を含めた大幅な鉄道路線網の見直しについて沿線地域との間で協議が開始されているのは前述の如くであり、それぞれの地域特性に応じた持続可能な交通体系の構築に2020年を目途として取り組んでいる現況にある。
 しかし、遅速気味の取り組み現状から見て、JR北海道の経営努力に関して自助努力が足りないという批判や人件費の削減を進めるべきだなどとの指摘が示されてきた。されど、北海道は、人口減少が足早に進んでおり、高速道路網の整備もこの30年間で7倍近くにも延び、しかも九州の2倍の面積でありながら人口は半分、生活に係わる除雪費などは年約50億円を要する。その上鉄道は、国や自治体が建設して保守まで担う道路とは基本的に構造・機構が異なり、運営全体を自ら賄わなければならない。また、JR北海道の給与水準は道内の自治体と比べてもかなり低い状況にあり、入社10~15年で退職する社員は年に100人を超えている。そして、年に280人ほどの新規採用も予定人数に及ばず、人繰りに対して憂慮すべき問題を抱えている。すなわち、大幅な路線見直しにより経営の再建を図るに当たり、資金繰り以前に人繰りがつかずに運行そのものが行き詰まり、鉄道自体が止まるという問題に突き当たりかねない火種も抱えていることを否定はできないと言われている。

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 国鉄改革で新会社として発足以来30年を経過するもなお十分とは言えないJR北海道の経営改善(経営の安定化)については、同改革が目指した鉄道の自主自立や地域密着の経営自体において部分的に課題が残されてはいるものの、総体的に同改革の目標は達成されていると同社は見る。ただ、一方で民営化によって鉄道サービスの信頼性や快適性を格段に向上させ、経営面において2006年までに完全民営化を果たしたJR東日本やJR西日本およびJR東海の本州3社や、三島会社と呼ばれたJR九州までもが2016年10月に株式上場を果たすなど、国鉄改革の所期の目的を果たしている。対して、JR北海道とJR四国およびJR貨物(JRグループ唯一の貨物会社)については未だ上場の目途が立っておらず、設備投資に対する貸付(無利子)や助成など各社に対して経営自立に向けたさまざまな支援が国から施されている現状にある。この内、JR北海道については、先述のように人口減少や車社会への転移により路線によっては輸送量が大幅に減少しており、鉄道の特性が発揮されない路線の増加で厳しい輸送状況に置かれている。こうしたJR北海道の窮状打開に向け国としても、北海道庁と連携を取りながら地域交通の在り方について関係者間の協議に参画し、持続可能な地域交通体系の構築に向けた対応を検討・推進していくとしている。
 もともとJR北海道は、先にも触れたように民営化時に国から経営基盤の弱い北海道の鉄道を引き継ぎ、JR四国やJR九州(2016.10株式上場)と同様に“JR三島会社”と呼ばれて民営化時に自助努力のみでは黒字経営の維持は困難との判断から、経営の安定化に向け国からの資金調達(経営安定基金)を受けてその運用益で鉄道の赤字を埋めるという支援を会社発足時から受けてきた。しかし、バブル景気の只中にあった新会社発足当時に比べ民営化時に国から渡された経営安定基金の6822億円は、その後の1990年代半ばから続いた市中金利の大幅な下落(1987.3の5.2%~2013.4の1.2%)でこのおよそ25年間でその運用益を半減させて年間500億円前後とされる規模の赤字の埋め合わせが成り立たなくなり、同社経営危機の最大の要因(利子の減少による経営難はJR四国も同様)ともなっている。
画像                                        〈 北海道議会
 そうした現状の中で、“金利の変動は想定内のことであって、経営努力で対処するのが基本”と述べるのは石井啓一国土交通大臣。されど、歴史の古いJR北海道の鉄道はトンネルや橋梁など施設の老朽化が進み、同社単独では手に負える状況にないのが現実という。JR北海道は2017年2月8日、今後20年間における自社単独では維持困難な線区のうち廃止対象路線を除く7路線8区間の大規模修繕と車両の更新について必要経費の概算を発表した。その中で、トンネルや橋梁などの老朽化が進んだ土木構造物に対する今後の大規模修繕や更新などに要する費用は167億円、車両更新費用には268億円、合わせて435億円が必要と弾いている。また、北海道庁(議会)の2017年2月の有識者会議においても、国の抜本的支援なしにはJR北海道の経営再生はできないと指摘されており、経営安定基金運用利子の減少による経営難はJR北海道に限らずJR四国も同様だ。このJR北海道やJR四国の経営再生はJR発足から30年の大きな課題として捉えることが必要であり、国は今こそ支援のあり方を抜本的に見直すべき時機にあり、沿線や自治体もまた地域生活の移動手段としての鉄道の現実を直視する努力を惜しんではなるまい。
 参考までに、先に触れた維持困難な7路線8区間を次に示します。①宗谷本線・名寄~稚内間183.2km ②根室本線・釧路~根室間135.4kmおよび同滝川~富良野間54.6km ③室蘭本線・沼ノ端~岩見沢間67.0km ④釧網本線・東釧路~網走間166.2km ⑤日高本線苫小牧~鵡川間30.5km ⑥石北本線新旭川~網走間234.0km ⑦富良野線・富良野~旭川間54.8kmの計925.7kmの線区である。
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画像 JR北海道島田 修社長
 JR北海道が2016年11月、全路線の半分が自社単独では維持できない危機にあるとして路線の見直し方針を表明したが、その前の同年8月にJR北海道に対し北海道夕張市(鈴木直道市長)が同市内を走るJR石勝線夕張支線(新夕張~夕張間16.1km)の路線廃止を提案した。経営難にあえぐJR北海道にとって、この夕張市の路線廃止を鉄道会社に提案した出来事はまさに通常ではあり得ない逆提案ということであり、この“攻めの廃線”とも言える夕張市の行動には驚きを隠し得なかった…と述懐するのは島田 修JR北海道社長だ。2017年3月現在の夕張市の人口は8600人余り、利用者が1割以下に減ったJR夕張支線は路線存廃を見直すとするJR北海道の意向の中で廃止は確実と見た夕張市が、鉄道に替えてバス路線などの市内交通整備にJR北海道の支援を有利に仰ぐ方策として“攻めの廃線”提案(廃止および支援に双方で合意)に踏み切っていたのである。これを受けた島田 修社長は、同提案に対し新しい形を自ら創り出そうという夕張市の当事者意識を強く感じたという。
 立場や事情にこそ違いがあれ、破綻から再生へ、その先の自立への流れに向かう夕張市(かつて炭鉱の街として栄え、約12万人が暮らした夕張市は、炭鉱の閉山で雇用の受け皿が減少して人口流出が加速し、軸足を移した観光レクリエーション産業が市政を圧迫して深刻な財政難に陥り、2006年に355億円の巨額な赤字を抱えて財政破綻した。現在は、唯一の財政再生団体の立場にある)の現在の姿は、あたかもJR北海道が経営の改善に立ち向かっている今の姿と重なるのではないだろうか。ともあれ、鉄道の存続を泣訴するだけに留めるのではなく、必要とする公共交通について沿線住民が最も望む地域の“足”は何か、今回のJR北海道における路線見直しを沿線住民を交えて考える好機と捉えたい。
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                     老朽化が激しい土木構造物JR夕張支線稚南部トンネル) 〉
 JR北海道はもとより、明治~昭和初頭にかけて大半が整備された重要な公共インフラである鉄道で今、施設や設備の老朽化が進んでいるという。国土交通省によれば、全国の鉄道では現在、1920(大正9)年以前に造られた橋梁(およそ1万4000カ所)やトンネル(同600カ所)などの土木構造物が現役として鉄路を支えているとされている。鉄道事業者には早めの手立てが必要であると同時に、国による支援も欠かせない。国は、補強・補修を進めて延命化を促してはいるが、人口減少の時代にあって鉄道の経営環境は厳しく、JR北海道の如く沿線の過疎化が進む地域は殊のほか深刻だ。老朽化した橋梁やトンネルが長期にわたって使えなくなれば、地方のローカル線ほど路線の存廃や事業経営の問題にまでも直結してしまう。厳しい経営環境の中で、鉄道事業者には路線の維持・確保に向け長期的計画と着実な対策を進めていく方途が求めれている。
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 いずれにせよ、国鉄改革(分割・民営化)が目指した自主自立・地域密着経営から30年。経営に歪みが目立つ現在のJR北海道、維持できない路線を大幅に見直すとしている中で、鉄路の維持に相応の負担を沿線地域に求める同社の方針に財政難を囲う自治体などからの不満の声が広がりがを見せている。こうした北辺の“北の鉄路の危機”は、人口の減少などが進むどの地方・地域にとっても他人事ではいられない問題と言えよう。 (終)

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