マイクロプラスチックの脅威 ・ 海洋汚染

           マイクロプラスチックの脅威海洋汚染 ・ ・ ・

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                   〈 !脅威マイクロプラスチックごみによる海洋汚染が止まらない… 〉

近年、プラスチックによる海洋汚染が世界的にクローズアップされており、“脱使い捨てプラスチック”が世界の潮流となっている。旅好きの日本人にとって定番の海外観光地であるインドネシア・バリ島は、周囲を青い海原に囲まれ長年にわたり世界の「地上の楽園」と呼ばれ、海外から大勢の人々が訪れる。ダイビングスポットの名所もあちこちに広がり、カラフルな熱帯魚の群れや美しいサンゴ礁が海中を彩る。しかしながら、その数百㍍先の沖合いの海面には大量のごみ(菓子袋や飲料カップ、ペットボトル、茶色に色褪せたレジ袋等々)が浮遊しており、そのほとんどがプラスチックごみである。
 今や、プラスチック無くしては私たちの日常生活は成り立たなくなっている。人工素材のプラスチックは、軽量・安価で加工が容易な上にしかも耐久性が高く、第2次世界大戦後に急速に世界へ普及した。ただ、自然界では半永久的に分解(消去)されることがないとされているプラスチック(分解には数十年~数百年も要する)は、“ゴミ”となって海へ流れ出すと太陽光などを浴びて劣化し、波浪などに揉まれて細かく砕かれマイクロプラスチック状(直径5㍉以下の粒)となり、一転して魚貝類を介した食物連鎖を通して人間を含む生き物など多くの生態系に悪影響を及ぼす存在になる。このプラスチックごみによる海洋汚染が今、世界の海に拡がり地球規模の脅威となっている。 


画像 2016年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)においては、世界では少なくとも年800万㌧に上るプラスチックが“ゴミ”となって海に流れ出しているという報告書が示され、今やプラスチックごみによる海洋汚染は世界の海に広がっているとした上で、2050年頃には海に流出したプラスチックごみの量が世界中の魚貝類の総重量を超えるとの警告を発している。また、2017年6月に開かれた「G7」(主要7カ国の環境相会合)では、プラスチックごみによる海洋汚染は地球規模の脅威であると訴えた。
画像 世界各国から海に流出したプラスチックごみは、海流に乗って特定の流域に集積するという。米国カリフォルニア州沖から同ハワイ州沖にかけての北太平洋の流域には、アジアや北アメリカ沿岸などの国々から流出したごみが集まる「太平洋ごみベルト」と言われている海域が広がる。オランダのNPO法人「オーシャン・クリーンアップ」などの調査によると、太平洋ごみベルトの面積は日本の4倍を凌駕する約160万平方㎞に及び、プラスチックごみの浮遊総重量はおよそ7万9千㌧と推計されている。米国のジョージア大などの推計によると、プラスチックごみを海洋に流出させている上位20ヵ国の中では、その半数以上がアジアの国々であるという。ちなみに、流出量の最も多いのがおよそ353万㌧(年間)の中国で、129万㌧のインドネシアがこれに続く。日本は5.7万㌧で、30番目である。
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                     高さ40㍍ほどになる無分別のごみの山インドムンバイ) 〉
 日本の約4倍の24万㌧のプラスチックごみを海に流出させていると見られるインド(流出量ランク上位20カ国中の中ほど)では、人口が2千万人を超えるニューデリーなどの過密都市部のごみ処理が追いつかずに、処理場にはポリ袋などのプラスチックを多量に含む無分別処分ごみが高さ40㍍程に積み上げられており、こうした“ゴミの山”がいくつもある。雨などの日には、ごみの山が崩れて付近の川に大量に流れ込み、海洋へと運ばれていく。そして、世界の各地から海に流出したプラスチックごみは海流に乗り、先に触れた特定の海域にベルト状になって集結するのてある。こうした海洋ごみ(海洋浮遊ごみ)が集まるルートの存在が指摘されている下で、太平洋はもとより北極や南極の海、世界で一番の深海とされているマリアナ海溝(水深1万㍍を超える北西太平洋・マリアナ諸島の東に位置)の海底からも プラスチックごみが見つかっている。

画像 プラスチックと言えば、日々の暮らしの中で一番身近にある代表選手はペットボトルであろう。原料にポリエチレンテレフタレート樹脂が使われており、略して「PET」と呼ばれる。まさに、ペットボトルとは、この“PET”から由来している。もともと、生活の中で溢れているプラスチック製品類の原料は石油である。ちなみにプラスチックは、「石油系」と「植物原料系」の2種類に分けられる。植物系プラスチックは、ポリ乳酸(トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビ、米などデンプン質の植物)やセルロース、ポリアミドなどを原料としており、焼却処分時に発生する二酸化炭素は植物が成育時に吸収する量とほぼ同等で、地球環境への負荷は少ない。石油を原料とするプラスチックは、軽量・安価で加工が容易な世界で最も普及した人工材料(素材)であり、世界で最初の商品化は1869年に米国で高価なビリヤードの象牙に代わり開発されたセルロイドによる製品である。ただ、加熱することで加工は万能ながら燃え易い特性のため、今日ではプラスチックにその座が譲られている。
 ちなみにプラスチックに関連しては、1855年にフランスの科学者による塩化ビニールとポリ塩化ビニールの粉末が発見されたのが最初と言われている。
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                      〈 貧困層が支えるプラスチックごみのリサイクルインド) 〉
画像                     インドのスラム街にあるプラスチックのリサイクル作業場
 世界で最も普及した人工材料のプラスチックは製品化(加工)への万能選手とも言われ、当然の如く製品化の種類も多種多様で捨てられてごみになる量も半端ではなく、捨てられたごみ袋の中にはお菓子の袋やストローなどのプラスチック製品が大量に混じっている。こうしたプラスチックごみの海への流出で海洋汚染が問題化しており、“脱使い捨てプラスチック”に向けた動きが世界の各国で見られている。その動きに先鋭的な目標を立てて臨むインド(過密な人口を抱え都市部でのごみ処理が停滞)では、2018年6月にモディ首相がレジ袋やフォーク、スプーンなどすべての使い捨てプラスチックを2022年までに廃止すると宣言 し、少なくとも19州(全29州中)で使い捨てプラスチックの使用規制が始まっている。“使い捨てプラスチック”の廃止に向け大胆な目標を掲げるインドだが、その裏でインド西海岸の商業都市ムンバイ(1200万人以上が暮らす)などでは日々排出される大量のごみ処理が追いつかずに、ごみの分別に至っては殆ど行われずに、最終的にごみはただ山積みにされているだけである。その実態(無分別処分)を少しでも緩和させるために働いているのが、山積みとなったごみ処分場から廃プラスチックを拾って回収・処理 ・リサイクル作業に当たって生計を立てている“ラグピッカー”と呼ばれる貧困層の人たちである。すなわち、世界の各国から発信されている使い捨てプラスチックの使用禁止の動きを先導しているのがインドで、そのプラスチックごみの回収形態はほとんどのケースが1日200ルピー(約300円)を稼いで暮らす貧困層の人たち頼みであり、こうした人たちによって廃プラスチックの回収・リサイクルを介して“脱使い捨てプラスチック”への目標達成が下支えされている。

画像 世界各国・各地から海洋に流れ出たプラスチックごみは海流に乗り、先述した「太平洋ごみベルト」と呼ばれる海域(日本の4倍超の面積)が広がる北太平洋にアジアなどの国々から集まるプラスチックごみが7万9千㌧も浮遊しているといわれる。海岸に漂着したクジラの死体の胃袋からは、ポリ袋やペットボトルなど大量のプラスチックごみが見つかった例も報告されている。また、プラスチックごみの接触によるサンゴ礁の壊死などにつながる感染症のリスクが20倍以上に高まる研究もある。その海洋に浮遊するプラスチックごみに対しては、生態系への影響に関わる問題の提起が強まっている。海洋浮遊しているプラスチックごみが紫外線などの影響で劣化して細かく砕け、主に5㍉以下の粒状の「マイクロプラスチック」に変貌することだ。すなわち、マイクロプラスチックは有害化学物質(人や生態系に対して有害な物質)を吸着し易く、魚貝類に取り込まれて食物連鎖を通して人間を含む多くの生き物に悪影響を及ぼす恐れが大きく、生き物の体内に吸収されたときの影響が憂慮されている。
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                            マイクロプラスチックごみ
 人間の食する海産物の貝やイワシなどからマイクロプラスチックが検出されており、海洋汚染が進む下でマイクロプラスチックはすでに人体内にも取り込まれていることが、オーストリアの研究チームによる調査(日本、英国、イタリア、オランダ、オーストリア、ポーランド、フィンランド、ロシアの計8人の大便調査)で分かっている。さらに、米国や英国、キューバ、インドなど14ヵ国159ヵ所の水道水の調査(米国・ミネソタ大学による)でも、イタリア以外の13ヵ国の水道水からマイクロプラスチックが検出されており、 プラスチックごみによる環境汚染は消えない脅威(プラスチックの分解には数十年~数百年を要する)として海洋のみならず人間生活の周囲にまで及びつつある。
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                           海のゴミが環境中に残り続ける期間
画像 プラスチックによる海洋汚染が世界の海に拡がりを見せている下で、その拡がりの範囲のほどが詳らかになってはいないものの、米国の南カリフォルニア大学などによるシミュレーションによれば太平洋ごみベルト海域や日本近海などを含め広い範囲に蓄積された汚染海域が存在している状況が判明してきたとしている。現在、プラスチックによる海洋汚染が一段とクローズアップされている状況の中で、世界では“脱使い捨てプラスチック”への動きが潮流となって加速されており、近年では世界でも有数な企業が使い捨てプラスチック(プラ製のストローなど)の廃止を言明するなど、国レベルでも使い捨てプラスチック製品規制(製造禁止)への動きがすでに始まっている。
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                          ハワイの海岸を漂うプラスチックごみ
 先に触れたマイクロプラスチックによる人体への影響が心配されるところだが、欧州食品安全機関(EFSA)では人体内におけるマイクロプラスチックの動静やもたらされる毒性などについてデータのノウハウが十分ではないため、人体に有害か否かを明示するのは今は時期尚早との見解を公にしている。ただ一方で、魚を餌にしている海鳥の体内にはマイクロプラスチックが原因と見られる有害物質が蓄積されている事実も解っている。マイクロプラスチックについては、ドイツの研究チームが海氷から海水1㍑当たり最大1万2000個のマイクロプラスチックを検出している。
 さらには、マイクロプラスチックより一段と小さい粒子の「ナノプラスチック」(ナノ単位:10億分の1㍍)による生き物の体内への影響が思慮されている。しかし、極小な粒子のため今までのところその研究は進んでおらず、調査自体が容易ではないことから人体に及ぼす影響は不明である。
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                             使い捨てプラスチックの山
 海流に乗り、魚貝類を介して人間や生き物の体内に取り込まれた場合のマイクロプラスチックの影響が心配されるところだが、 プラスチックの海洋への流出を少しでも減らす(抑制)ための一番の近道は日常生活で使うプラスチック類を減らすしかなく、地球温暖化対策の温室効果ガス削減に向けた「脱炭素社会」の構築と同様に 、海洋汚染による地球環境の保全対策として私たちの生活で使うプラスチックの総量を減らす「脱使い捨てプラスチック」への道筋を真摯に踏みしめていくことが肝要であろう。 (終)

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