赤字鉄道路線の被災復旧に寄せる

       赤字鉄道路線の被災復旧に寄せる ― ― ―

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・・・ 自然災害大国の日本では、大災害のたびに鉄道の赤字ローカル線はいつも“存廃”の瀬戸際に立たされてきた。被災から10年近くを経るも、未だに復旧に至っていない路線もある。自然災害の中でも、代表格は地震や台風および集中豪雨であろう。それらが入れ替わるが如くに、日本列島をくまなく襲う。何時も何処かで災害被災が起きている… 日本の新しい現実である ・・・

画像 台風および梅雨前線の影響を受けて2018年6月28日~7月8日にかけて西日本の近畿地方を中心に、中部地方や北海道など広い範囲に及んで発生した通称・西日本豪雨(気象庁は2018.7.9に「平成30年7月豪雨」と命名)は河川の氾濫や浸水害、土砂災害では初めて死者数が200人超えた甚大な豪雨災害となった。平成に入ってからの豪雨災害としては、初めて死者数が100人を超えた災害として“平成最悪の水害”とまで報道された。鉄道の被害では、2018年7月7日時点で32事業者・115路線に及び、多数の被災路線(区間)が運転休止に追い込まれた。その15府県で計227人の犠牲を伴った西日本豪雨災害から2ヵ月、今も被災からの復旧に数ヶ月から1年以上はかかると見られているJRの路線・区間は幹線(山陽本線、呉線)を含め10の路線・区間に及んでおり、豪雨災害の威力を見せつけられた思いだ。
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                 〈 西日本豪雨で被災流出した鉄道橋梁 JR芸備線狩留家~白木山間 2018.9
 9月は昔から台風シーズンとも言われているが、暴風雨と高潮で大阪、滋賀、愛知、三重などの4府県にわたって甚大な被害をもたらし、25年ぶりの強さの台風(1993(平5)年の台風13号以来)として2018年9月4日に日本に上陸した台風21号は、北海道にも接近して28都道府県の広範にわたって被害を及ぼした。その台風21号に関連して、朝日新聞の「天声人語」欄に掲載(2018.9.6)された記事を次に示します。
 ・・・「石起こし」といえば、石を吹き飛ばすほどの強風だ。主に春の強い風を指すが、台風21号が巻き起こしたのは、「車起こし」とでも言いたくなる風だった。横転するばかりか飛ばされてしまった乗用車の映像に、身震いする▼小型車でも1㌧近くはあるはずの金属の塊が、強風にあらがえずにぶつかり合う。電柱がなぎ倒され、工事現場の足場が崩れ、ガラスが割れて落ちてくる。私たちの生活を支えるものを、風は一瞬にして凶器に変えてしまった▼関西空港の機能を破壊したのはタンカーだった。激突された連絡橋に亀裂が入り、利用客3千人超が孤立した。停電で明かりが乏しく冷房もない。そこで一夜を過ごした人たちの不安と疲労を想像する▼防災の力は前に進んでいると信じたい。勢力の強さや進路が近いとされる室戸台風(1934)は死者・行方不明者が3千人を超えた。第2室戸台風(1961)は202人だった。台風21号では10人を超える命が奪われた。ゼロに近づける努力が求められる▼台風にまつわる古い言葉に「二百十日」がある。立春から数えたその頃によく嵐になると言われた。予報技術に乏しい時代の智恵だろう。気象情報が進んだ今、備える時間はある。JR西日本などが早々と運休を決め予告した行動は今後の手本となりそうだ▼西日本豪雨のあとも、台風と猛暑が入れ替わるように列島を襲う。いつどこでも起こりうるというより、いつもどこかで被害が起きている。日本の新しい現実である。・・・
 この“天声人語”(朝日新聞朝刊)が届いた日の2018年9月6日午前3時8分頃、北海道の胆振地方中東部を震源とする地震が発生し、厚真町で最大震度7、むかわ町・安平町で震度6強を観測するなど道内の各地で強い揺れに襲われ、家屋の倒壊や大規模な土砂崩れ等で多くの死亡者、安否不明者、けが人が発生し、地震の影響で道内のほぼ全域(約285万戸)が一時停電するなど市民生活や経済活動に大きな影響を与えた。北海道で震度7を観測したのは初めて(国内6例目)であり、気象庁はこの地震を「平成30年北海道胆振東部地震」と名付けている。いつもどこかで災害が起きている…、その日本の新しい現実がそこにあった。

画像 災害で被災して運転休止に追い込まれた鉄路の復旧には、長い時間と重い費用負担が必要とされ、ときには路線存廃の瀬戸際に立たされる。とかく、長期に及ぶとされる災害罹災からの復旧では、往々にして路線存廃の狭間に追い込まれる程の長期間に至ることもあり、被災沿線地域の生活や経済活動に及ぼす影響は計り知れない。勿論、災害からの早期復旧は強く望まれるところだが、従来から国は「鉄道軌道整備法」(災害被災した鉄道・軌道に対する特別な助成措置を講じて鉄道の整備を図ることを目的とした法律)により被災した路線の復旧助成対象を赤字経営の鉄道事業者に限ってきた。すなわち、国民生活に著しい障害を及ぼす恐れがある大規模災害を受けた鉄道事業者の運輸事業を速やかに確保するための助成は、新幹線や主要幹線鉄道、都市鉄道を対象外としてきた。黒字経営の東日本、東海、西日本、九州の各JR事業者は助成の対象外に置かれてきたことで、それらJRの赤字路線においては被災の早期復旧への足かせや路線廃止への緒ともなってきた。そのために近年、従来の「鉄道軌道整備法(最終改正2005(平17).7.26)」の一部を改正する方向が問われてきた。
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                     2011年の新潟福島豪雨水害で被災したJR只見線の橋梁
 今般の西日本豪雨災害においても、復旧に数ヶ月から1年以上を要するとされる赤字路線が複数に上った。ここに参考として、復旧に長期を要した過去の被災事例をいくつか示すと…台風18号(2009(平21).10.8)で被災したJR名松線(三重県JR東海・松阪~伊勢奥津間43.5㎞の全線非電化地方交通線)は甚大な被害を受け 一部区間(家城~伊勢奥津間17.7㎞)が不通となったが、復旧したにしても今後もより大きな自然災害発生の恐れがあるとしてJR東海は全線にわたる廃止方針を固めた。対して三重県はJR東海に不通区間復旧への条件提示(復旧費用4.6億円負担)を行い、これを受けたJR東海により2016年3月26日に実に6年ぶりの全線復旧となった。
 …JR岩泉線(岩手県JR東日本・茂市~岩泉間38.4㎞非電化単線の地方交通線)は、2010(平22)年7月31日に発生した土砂崩れによる列車脱線事故のため全線不通となり、極度の赤字ローカル線(終末期の輸送密度20人未満)で路線復旧の目処が立たずに2012(平24)年3月30日に鉄道による復旧が断念(2014(平26)年4月1日廃止)され、路線バス輸送(東日本交通・旧来から並行道路整備)に切り換えられた。
画像 …東日本大震災(2011(平23).3.11)で甚大な被害を被った岩手県内の内陸・沿岸部を走るJR山田線(JR東日本・盛岡~釜石間157.5㎞全線単線非電化の地方交通線)の宮古~釜石間(沿岸部)55.4㎞は、JR東日本が復旧させた上で三陸鉄道への無償譲渡(2019.3)に向け運転休止中(復旧工事中)である。2014(平26)年1月にJR東日本は、JR山田線の災害復旧費用を210億円と試算しており、このうち線路・設備などの原状回復に140億円を自社(JR東日本)が負担、残り70億円は公的資金を活用(自治体等の拠出)して被災区間(宮古~釜石間)の復旧を図るとした。これによりJR東日本は、宮古~釜石間の運行事業を三陸鉄道へ無償譲渡するとともに、事業運営を移管させる。そして、三陸鉄道は移管される宮古~釜石間について、2019年3月23日に運行開始の方針を固めている。
 …集中豪雨の被災から7年余りを経ても、未だ一部区間が不通のまま復旧から取り残されている鉄道路線がある。JR東日本の只見線 (会津若松(福島県)~小出(新潟県)間135.2㎞全線非電化単線の地方交通線)である。
 画像2011(平23)年7月の「新潟・福島豪雨」でJR只見線は、複数の橋梁流出等の甚大な水害被災で会津坂下~小出間113.6㎞が不通となり、2017年の時点でも会津川口(福島県金山町)~只見(只見町)間(27.6㎞)が不通(代行バス運行)のままである。同不通区間の復旧に対しJR東日本は、赤字ローカル線である只見線に対しては同社が黒字鉄道事業者であることから災害復旧助成(鉄道軌道整備法)が適用されないこともあって、被害が甚大だった会津川口~只見間の復旧には膨大な費用を要するとされることから同区間の鉄路の廃止(路線分離)を求めていた。これに対して沿線自治体や住民は、バス輸送転換への方策も示されはしたが、あくまでも路線の分離を避ける鉄道による復旧を頑なに求め続けた。その後、沿線自治体・住民・JR東日本・新潟と福島両県による協議が長期にわたり繰り返された結果、紆余曲折を経ながらも会津川口~只見間については福島県と沿線地域の市町が路線の施設と土地を保有し、JR東日本が車両を運行するという「上下分離方式」が採用(JR会社にとって初のケース)されて2016(平28)年12月に鉄路での復旧方針(年間費用負担・JR東日本7100万円、県と沿線自治体21億1000万円)が決まり、鉄道による路線の存続・維持が図られることとなった。ちなみに不通が続く会津川口~只見間の復旧(工期約3年)費用は、国が81億円を、県と会津地域17市町村およびJR東日本が3分の1ずつを負担する計100億円余りである。これにより、2018年8月スタート予測の鉄道軌道整備法の一部改正の下に不通区間(会津川口~只見)の復旧工事が2018年6月頃から着手されており、豪雨災害による路線の長期不通から11年を経てようやく2021年度にJR只見線の全線開通が見えてきた。

画像 近年の世界的な気候変動がもたらす異常気象、その下で発生する自然災害の規模が甚大化する傾向にある。新潟・福島豪雨(2011.7)や九州北部豪雨(2017.7)、今年(2018)7月の西日本豪雨など然りである。こうした大災害が起きるたびに、JRの赤字ローカル線は存廃の瀬戸際に立ってきた。ひとたび災害で罹災すると、赤字の地方交通線には復旧の重い費用負担がのしかかる。
 2018(平30)年7月の西日本豪雨災害では、近年激甚化する災害が多発しているエリアの中国山地を走るJR芸備線(備中神代~三次間90.3㎞)、JR木次線(宍道~備後落合間81.9㎞)、JR福塩線(福山~塩町間78.0㎞)がそれぞれ罹災し、JR西日本は全線の復旧は1年以上先と見ている。いずれの路線も、輸送密度(1日1キロ当たりの平均利用者数2000人以上が採算可否の目安)が300人にも満たない地方交通線の赤字ローカル線である。当然の如く、ひとたび大災害に遭えば長期の路線不通は避けては通れず、復旧への重い費用負担が降りかかる。こうしたケースは災害被災のたびに発生し、赤字ローカル線の早期復旧や路線存続の足かせになってきた。

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 国(国土交通省)はこの程、災害被災で長引く復旧に要する日時や費用に対処するため、被災した鉄道の復旧に要する費用の一部を国が助成する新たな制度を従来の鉄道軌道整備法の一部を改正して適用し、2018(平30)年8月1日からスタートさせている。これまでの鉄道軌道整備法では、黒字鉄道事業者の赤字路線が被災した場合においても復旧助成は適用されず、早期復旧に関して困難なデメリットがあった。一部改正の鉄道軌道整備法においては、黒字鉄道事業者が復旧助成(災害復旧事業の施行)を受ける際に必要とする次の4つの要件が示されている。1、復旧に要する費用が対象路線の年間収入以上であること。2、対象路線が過去3年間赤字であること。3、原因となった災害が激甚災害か、これに準ずる特に大規模の災害であること。4、長期的な運行の確保に関する計画を策定すること… などである。なお、復旧助成による支援は黒字鉄道事業者の被災した赤字路線に対しても適用され、国と自治体が4分の1ずつ、鉄道事業者が2分の1を負担する中で助成される。そして、国土交通大臣が特に認めた場合には3分の1以内の助成の引き上げを可能としている。また同助成は、今後の被災路線に対してだけでなく、2016(平28)年4月1日以降に施行した過去の災害復旧事業(支援)に対しても遡って適用される。先にも触れた、新潟・福島豪雨災害の被災で会津川口~只見間が不通となっているJR只見線も鉄道軌道整備法の一部改正で助成措置が執られる こととなり、復旧に向け国の支援が見込まれる。

画像 多発傾向にある近年の自然災害は、毎回の如く鉄道に甚大な被害を与えて赤字ローカル路線の存廃に大きな影響をもたらしている。その下で、この程スタート(2018.8.1)した鉄道軌道整備法の一部改正は鉄道事業者 にとって朗報であり、過去に災害被害を被った路線(2016(平28).4.1以降に災害復旧事業施行)にも助成の手が差し伸べられる。すなわち、過去に災害被災した路線で鉄道軌道整備法(一部改正)の適用が今後に期待される路線は、JR只見線(JR東日本)の会津川口~只見間27.6㎞(2011(平23)年の新潟・福島豪雨で被災し不通、2018.6復旧工事着手)、JR日田彦山線(JR九州)の添田~夜明間29.2㎞(2017年の九州北部豪雨で被災し不通)、JR豊肥本線(JR九州)の肥後大津~立野間9.7㎞(2016.4の熊本地震で被災し復旧工事中)の各路線で、遡る形で鉄道軌道整備法の一部改正による 助成 が図られることになる。
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                          〈 地域の貴重な足地方公共交通
 とはいえ、自然災害の猛威を前にして防災は、ときに不可抗力の域を超える。近年の気候変動で多発する災害による被災のスケールは拡大化しており、被災からの復旧に長期間を要する鉄道の事例は珍しくない。人口の減少を迎え地方の公共交通をどう維持するのか、そうした課題が集積するの中で西日本豪雨のような大きな災害に翻弄される鉄道の赤字路線の復旧に鉄道軌道整備法による助成支援は必須だ。赤字でも、交通弱者の学生や高齢者に欠かせない公共交通(地域の足)もある。その赤字を、少しでも抑えて地域の足を維持する工夫が欠かせないのと同様に、赤字の被災路線早期復旧にも助成支援は求められて欠かせない。今回の鉄道軌道整備法における一部改正は、被災赤字鉄道路線の早期復旧に資する助成制度としてその効果に大きな期待が寄せられている。 (終)

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