地域の足をどう守る ・ JR北海道

      地域の生活の足をどう守る   ・ ・ ・
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            利用者減と並行道路の整備で廃止となったJR北海道地方交通線の深名線 1995平7.9.4
 鉄道は、道路に比べその維持には採算性が重要視される。鉄道の不採算路線存続には、費用を誰がどう負担するのか大きな課題だ。敢えて国や沿線自治体に負担を求めて鉄道を残すよりも、バスに転換した方が利便性の高まりを期待できる。結論を先送りにすれば、地域に合った持続可能な公共交通の新しい姿は描けない 

画像 、日本の中で地域の生活の足(移動手段)を守る上でさまざまな問題に直面しているのが、人口減少や過疎化が著しい北の大地・北海道である。その北海道の広大な地で鉄道を運営するJR北海道は、人口減少やクルマ利用への転移で利用者が減少し、維持費のかかる赤字や存廃の危機に瀕している生活の身近な足でもある鉄道網をどう支えていくのか。国(国土交通省)は、このほどJR北海道に対して2020年度までの向こう2年間に400億円超の新たな財政支援を表明した。これによりJR北海道は、鉄道網の維持に向けた施策をこの2年半(2020年度まで)の間で見極めなければならない。
画像 JR北海道は、人口減少で将来にわたり路線を維持していくことは至難であるとして2016(平28)年11月に、道内の全路線(14路線)の約半分に相当する1237.2㎞に及ぶ路線(10路線13区間)を“もはや自社単独では維持できない”と表明した上で、路線の廃止やバス転換等について沿線自治体と協議を進めながら2020年の春までに見直しの合意を目指すとした。これは、JR北海道として発足(1987(昭62)年)した頃に比べ、道内の高速道路網の整備が7倍近くも延び、急速な人口の減少も加わって鉄道利用者の減少で赤字化する路線が増大する といった環境の変化があり、路線維持の観点から赤字が著しい路線区の存廃やバス転換を沿線地域住民と共に考えて行きたいとのJR北海道による判断 からの“表明”であった。その時から1年9ヵ月余り、JR北海道は数多く抱える赤字ローカル線のうち5路線5区間の311.5㎞(全路線の1割強)を廃止にする方針を2018年7月22日に固め、沿線自治体の同意を得た上でバスに転換するとした。そして、表明した単独では維持できない路線区のうち、来年(2019)4月1日に路線の廃止が決まっているJR石勝線の夕張支線(新夕張~夕張間16.1㎞)を除いては、なお沿線自治体との間で存廃などの方向性の協議が続けられている。ちなみに、JR北海道が路線廃止方針を固めた対象5路線5区間(1列車当たり平均乗車人数10人前後)を挙げると、①留萌本線深川~留萌間50.1㎞の全線 ②石勝線夕張支線新夕張~夕張間16.1㎞ の全線 ③札沼線の北海道医療大学~新十津川間47.6㎞ ④根室本線の富良野~新得間81.7㎞ ⑤日高本線の鵡川~様似間116.0㎞ である。
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画像 JR北海道の苦境(経営難)の背景には、全国の地方共通の問題でもある人口の減少がある。また、2011(平23)年に発生した列車脱線火災事故(JR石勝線)や2014(平26)年に国から受けた「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」(列車火災等のトラブルやデータの改竄、社員の不祥事など事象の連続発生による)なども無関係ではないものの、経営の危機に至った最大の要因(直接の引き金)は市場の低金利化であった。
画像                     JR北海道本社北海道札幌市中央区) 〉
 国は、1987(昭62)年の国鉄改革(分割・民営化)に際し新発足させたJR会社7社のうち、赤字ローカル線を多く抱えるなど経営基盤の弱い地域を承継した4社(九州(2016年に上場を果たす)、四国、北海道のJR旅客会社と一つのJR貨物会社)に対して自助努力のみでは発足後の黒字経営が困難であるとの判断から、経営安定基金(鉄道事業の営業損失見込み額を基金の運用益によって埋め合わせる)を拠出する支援を行っている。しかしながら、1990年代半ばから続く市中金利の低金利を背景に、JR北海道(支援の経営安定基金6822億円)の2017年度安定基金の運用益は255億円と当初の半分程で、その半分に相当する差額(243億円)はJR北海道における当期純損失の2倍を超える。すなわち、年間およそ400億円を超える規模の赤字が埋められていないのである。折角の経営安定基金も、低金利で経営の安定化はに利さずにJR北海道は、経営の強化・安定化のために駅ビル事業やホテルなどの不動産事業に注力(軸足)を傾けた。その変遷の中で、安全・安定運行を旨とする鉄道事業本来の企業風土が疎か(安全への投資の鈍化)となった結果、事故発生の連鎖に及んで先の国による「事業の改善・監督命令」につながった。そうしたJR北海道が、経営の安定・合理化のために路線の廃止や見直しなどを地域住民に求めていることに対して、納得のいかない気持を持ち合わせている鉄道利用者は少なくないのではないだろうか。
 年間400億円前後の営業赤字を連続して計上しているJR北海道、経営をどう建て直すのか。JR北海道の島田 修社長は、開業3年目を迎えている北海道新幹線の2030年度の札幌延伸開業を見据え、「不退転の覚悟で取り組み、2031年度には何とかして経営自立を果たしたい」と意気込みを示す。ただ今後、 単独では維持できない路線の見直しについて地元との協議を進めて行くにしても、JR北海道は経営改善の計画やその要旨を分かり易い形で地域に開示していく必要がある。一方、沿線自治体や住民にしても、鉄道会社頼りに終始せずに自らの日常生活を守るためにも当事者意識を持って知恵を絞り、地域の足を守っていきたいものである。バス転換になったら、利便性はどう変わるのか。鉄道を続けていくのであれば、誰がどう費用を負担して維持・管理をしていくのか。対処と結論を先送りにして、 事態の静観に走れば自らの生活の足を失いかねない。もともとJR北海道は、会社発足時から赤字が見込まれ、前述した如く民営化の際に国が設けた経営安定基金の運用益で赤字を穴埋めする経営構造で出発している。
 ところが、その金利の低下で運用益の半減が続き、これまでに国から基金の積み増しや財政支援を受けるも、経営再建にはまだほど遠い状況にある。また、JR北海道に次ぐ苦境にあるJR四国の経営も、JR北海道と同様に経営安定基金を受けている境遇の赤字構造にあり、地域における路線網を如何に維持していくのかという課題に直面している。人口減少と相関し、地域の生活の足(移動手段)を守る仕組み(手立て)を根本から考え直す、そんな時期がすでに到来しているといえよう。
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画像 遍く金利の変動に対しては、“経営努力で対処するのが基本”であるとされている。しかし、経営の苦境にある現在のJR北海道においては、老朽化が進む橋梁やトンネルなどの構造物や施設を数多く抱えており、自前の努力だけでは手に負えないのが実情ではある。昨年(2017)2月に北海道庁で開かれた有識者会議では、国の抜本的な支援策無しではJR北海道の経営再生はできない、と指摘している。また、沿線の自治体に対しても、地域の鉄道の現実を直視して対応する必要があるとしている。そうした現状にある国鉄改革(分割・民営化)から30年余りのJR北海道ではあるが、6つの旅客会社で最も経営が厳しい状態が続き経営再建中のJR北海道に対して国(国土交通省)は、2020年度までの2年間に400億円超の財政支援を行うことを2018年7月28日に表明した。人口減少と過疎化が著しい北海道の地で、JR北海道は維持費の嵩む鉄道網をどう支えていくのか、手放しでは喜べない支援の下で2年半の間に解決の道を探らなければならない。しかも、この支援と同時に国の監督命令(JR北海道にとって2度目)も出され、経営再建への自助努力が監視されていく。
 人口減少が続いている北海道では、地域の自治体や住民がことのほか歓迎した道内高速道路網の整備ではあったが、鉄道離れが進んだ。沿線が最も望む生活の“足”は鉄道かそれとも…、今も進んでいる“鉄道離れ”のこの機会を沿線自治体は、理想とする公共交通とは何かを考える好機と捉えたい。道も、これまでの道内公共交通政策の失政を認識し、道全体の交通網再編への着手を進めるべきであろう。こうした地方・地域における鉄道離れへの現状は、クルマ社会の台頭とともに人口減少が進むどの地域にとっても他人ごとではなく、地元の交通(生活の足)を守って行くためにどのような手を打つべきか、地域全体で英知を傾けたい。

画像 人口減少の時代にあって経営難にあえぐJR北海道、路線見直しの下で存廃や維持経費の分担などを巡る沿線自治体との協議は、今以て全般的に進んではいない。国や地域に負担を求めて鉄道を残すより、バスに転換した方が利便性はより高まるとしているのは、JR北海道の島田 修社長である。
 本州や九州にも多い赤字ローカル線の存在、その在り方にもつながる議論だ。
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 JR北海道の路線見直しの中でいち早く廃止の方針が決まったのは、同方針決定直前までの1列車の乗客数が10人前後、一日5往復という赤字ローカル線のJR石勝線夕張支線(16.1㎞)である。鉄道を残す道は絶たれたものの、廃線の方針が決まった2018年3月以降はいつも閑散極まりない終着・夕張駅の週末が鉄道ファンなどで、束の間の賑わい(廃線間際の馴染みの路線風景)を見せている。かつては赤字路線の存続につなげようと、“乗って残そう”と各地で思案投げ首的な大味の常套手段が採られたものだが、昨今のように人口減少や過疎化の厳しい中にあってはそれも使えそうにない。夕張市は、JR北海道の“単独では維持困難な線区”の発表(2016.11.18)で赤字の夕張支線が廃止対象路線に含まれるのは必至と見た鈴木直道夕張市長は、その発表を待たずに2016年8月にJR北海道に対して夕張支線の条件付き廃止(鉄道に替わる公共交通等の導入・整備に必要な7億5千万円の拠出要請)を申し入れた。迫られる廃止を待つのではなく、先手を打つことで鉄道に替わる交通機関の導入交渉を有利に導き出したいという夕張市の判断からであった。
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                               鈴木直道夕張市長
 石炭産業の衰退(エネルギー転換)で、1960年代には約12万人を数えた夕張市の人口は現在約8200人と大幅に減少している。石炭から観光への転身によるリゾート開発の過剰投資などで、夕張市は10年余り前に市の財政破綻を来たし、今では日本で唯一の財政再生団体となっている。そのような中で、利用者が1割以下に減った夕張支線の廃止は確実と見られ、民間の商工業者だけでなく夕張市も廃止を前向きに捉えていた。廃止方針決定後の市民とのトークで鈴木直道夕張市長も、夕張支線の廃止は「攻めの廃線」であったと訴えた。夕張市役所の企画課も、市民の中には廃線反対の意見もあったが、同支線(1892(明25)年建設の北海道炭礦鉄道室蘭線の支線が母体)のインフラは老朽化が激しくこの先も利用者の増える見込みは無いことから、それらを踏まえた上に立っての 攻めの選択だったと話す。攻めの廃線(選択)に踏み切った鈴木直道夕張市長は、市民の足を守ることに対して、自治体はJRの動きを待ち、道庁もJRと自治体の協議を見守る、そして国はそれを傍観しているといったそれぞれの待ちの我慢比べではなく、関与する全ての者が知恵と汗を出しながら一緒になって考えなければならないと訴える。また、日本近代史に詳しい放送大学教授の原 武史氏は、次のように述べている。鉄道は道路に比べて採算性が重要視されるが、その結果(維持経費の負担増)が地方の鉄道の廃線を呼び込み、道路だけが残される。だが、少子超高齢化や人口減少化の今後の社会で自ら運転ができない高齢者が増えれば、地域社会が立ち行かなくなる。目先の危機感で鉄道を廃止に追いやり、一旦レールを剥がしてしまった路線の再建は困難(不能)である。日本も欧州のように、鉄道を必須の社会インフラとして再考する時期が来ているのでは…と。地域の人口が減っていく中で、その先は危ういとしながらも将来に鉄道を残していく道に思いを馳せる、原氏ではある。
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                             JR石勝線の夕張支線
画像 沿線の人口減少で今年(2018)3月、島根県の江津駅と広島県の三次駅間108.1㎞を結んでいたJR西日本の三江線(地方交通線)が廃線となって消えた。足下に及ぶ人口減少の地方で、鉄道路線廃止の流れが止まらない。深刻な経営難に陥っているJR北海道も、来年(2019)4月にはJR石勝線夕張支線の廃止をすでに決めており、2018年7月には赤字の5路線5区間(311.5㎞)を廃止にする方針も固めている。鉄道政策に詳しい竹内健蔵氏(東京女子大教授)によれば、国鉄の分割・民営化は誕生した鉄道会社に事業の経営努力を促しはしたが、地域別に6分割して新会社に承継させたことで人口減少等の社会環境や地域格差の影響が事業に及び易くなってしまったという。そうした多面的な影響を、最も多く受ける矢面に立たされてしまったJR北海道は今、経営難の苦境の最中に在る。ちなみにJR北海道の現有路線(2017.4現・総営業キロ2552.0㎞)は、新幹線1路線148.8㎞、幹線5路線1327.9㎞、地方交通線8路線1075.3㎞の14路線で、全路線が赤字である。
画像 JR北海道島田 修社長                 
 北海道の広大な地域の生活の足を守るためにまず必要なのが、JR北海道の経営基盤強化である。2018年度事業計画においてJR北海道は、新幹線収入の維持・拡大や札幌圏の輸送力増強による鉄道運輸収入の確保、鉄道事業と開発・関連事業の連携でグループ一体化となった収益の確保、北海道新幹線札幌開業を視野に周辺地域開発等への成長投資の検討 などを進め、併せて安全の確保を大前提に経営の安定に避けては通れない経費の節減について、グループ24社一体となって取り組むとしている。取り組むのは、各事業全般にわたる業務運営の効率化と経費の削減である。業務運営の効率化については、利用の少ない駅の見直し、使用頻度の低い設備(副本線や踏切道など)の使用停止、駅における輸送業務の見直し、夜間の線路保守間合確保による施設の修繕作業効率の向上などである。さらには、事業運営に必要な資材(車両部品、事務用品、施設、電気用品など)の調達に係わるコスト削減や事務用品のインターネット購入販路の拡大に加え、各職場での創意工夫による経費の削減化を推し進めるとしている。
 JR北海道経営難の本流は、道内人口減少の進捗や高速幹線道路網の延伸およびそれに伴い直面している鉄道利用者の大幅な減少にある。これらに対処し、JR北海道の今後の経営再建に向けては、地域の足を守る上で大きな課題でもある持続可能な交通体系の創出・構築に対する解決が図られてこそ、JR北海道の経営危機離脱へその先の道が見通せてくるのではないだろうか。 (終)

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