鉄道構造物のメンテナンスに寄せる

         鉄道構造物のメンテナンスに寄せる
画像

 鉄道事業者には安全で安定した鉄道輸送を提供していくため、輸送を支える鉄道構造物のメンテナンスを適時適切にかつ的確に実施していくことが求められる。同時に、鉄道構造物に対しては老朽化の進行や自然災害の激甚化に対処した予防保全に基づくメンテナンスの重要性がますます高まりつつある 


画像 鉄道構造物(トンネル、橋梁、高架橋など)のメンテナンス(維持・管理)は、鉄道の安全・安定輸送を維持・遂行していく上で重要な業務の一つである。その構造物自体は、概して建設経過年数が長いこと、修復や取替(交換)には時間と費用を要することが主な特徴といえる。
 1964(昭39)年10月1日、世界初の高速鉄道として最高速度210km/hで営業運転を開始した東海道新幹線は、開業53年を経過した現在も鉄道構造物に対する入念な検査・補修・保全によりその健全性は充分に確保されてはいるものの、半世紀を経る老朽化の進行が課題とされ、構造物のメンテナンスの観点から将来のいずれかの時点で経年劣化による構造物の大幅な改修・更新が必要になることが認識されていた。
画像
                           富士川橋梁を渡る東海道新幹線  
 特に東海道新幹線は、全線にわたる建設工事が開業時に合わせて集中(同時進行)して行われたことから経年劣化も同期的に進行・発生する懸念が予想されていたため、将来の一連する大規模な改修工事に備える必要があった。その大規模改修工事が現在、工事期間10年の計画の下で2013(平25)年から東海道新幹線の全域で着手されており、今年で6年目を迎えている。
画像 スラブ鋼板補修工事東海道新幹線掛川付近
 JR東海では、2011(平23)年に発生した東日本大震災で鉄道が受けた構造物への影響の重要性を再認識する上に立って、いずれは訪れる東海道新幹線の大規模改修工事に向けた検討を早めることとして実施に移されたのが、当初計画(2018年着手)を5年前倒しして2013年に新工法を活用して始まった予防保全を観点に早期着手が決まった東海道新幹線大規模改修事(工事費用約1兆1000億円)である。基本的な工事の進行については、鋼構造物(総延長22.1㎞の鋼橋)、コンクリート構造物(総延長148.0㎞)、トンネル(総延長68.6㎞)の各種構造別に変状発生を抑止する対策(予防保全)を実施し、その後引き続き状態を観察の上で必要な箇所に交換・取替等の全般的な改修を実施していく方策が採られている。その工事過程の中で、東海道新幹線の大規模改修工事も6年目を迎えつつ、着実にその施工実績を挙げている。そうした中で東海道新幹線は、営業開始以降東京・名古屋・大阪の日本の三大都市圏を結ぶ大動脈として日本経済の成長を支え続けており、同新幹線(2016年度実績)は最高速度285km/hの高速により1日当たり約45万人、年間約1億6000万人の利用に供されている。

画像 鉄道の歴史が古く、老朽化が進行した鉄道構造物を多く抱えているJR北海道では、構造物のメンテナンスについて小規模な修繕や修復 では対応が追いつかな状況下にあり、延命や更新などを目的とした構造物の大規模改修が必要視されている。
 北海道の鉄道は、日本の鉄道創設(1872(明治5)年)から8年後の1880(明治13)年の手宮(小樽市)~札幌間の開業以来およそ140年近い歴史を持つ。その過程の中で、修繕・改修や適切な検査・保全工事の実施を経て鉄道構造物の安全を確保してはきたものの、如何せん老朽化は避け難く対処が喫緊の課題となっている。こうした状況に鑑みJR北海道では、老朽化により抜本的な対策が必要とされる構造物の調査を行った結果から、100年以上を経過している構造物において取替や更新などが早急に必要と認められたものは検出されておらず、適切な維持管理が実施されていることが確認されているという。
画像
                  使用開始から100年を経たJR夕張支線の稚南部トンネル JR北海道
 また、こうした適切なメンテナンスの実施により、構造物を常に良好な状態に保つことで当初に想定されていた耐用年数を大幅に超えて継続使用が可能であることも確認されている。ただ、定期的修繕が不十分のままに使用を続けたことで、更新せざるを得ない劣化状況に到っている構造物も見られている。ちなみに、JR北海道におけるトンネルと橋梁の使用経年の分布を示すと、100年を超えるトンネル14%・橋梁9%、80~100年のトンネル15%・橋梁24%、50~80年のトンネル29%・橋梁22%、50年未満のトンネル42%・橋梁45%である。すなわち、JR北海道の鉄道構造物のほぼ大部分が旧国鉄から承継されたもので、老朽化対策の対象構造物は今後も増え続けて行くことになる。
 こうした環境の中でJR北海道は現在、深刻な経営難(年間約400億円超の赤字)に陥って国の財政支援(国は新たに2018.7.28に400億円超の資金調達・投入を表明)を受けながら、経営再建を進めている最中だ。現在も、「安全投資と修繕に関する5年間の計画」(期間2014~18年度)を国の支援を活用して実施しており、安全性に低下を来している構造物の補修等の維持・管理を 行うとともに、先に公表(2016.11)した単独では維持が困難な路線区の持続可能な交通体系のあり方について も、沿線地域間との 協議が重ねられている。

画像 鉄道構造物のメンテナンスに関して、JR鉄道会社の中で特異な環境にあるのがJR貨物会社である。JRグループ(7社)の中で唯一の貨物鉄道事業者であるJR貨物では、第一種鉄道事業区間38㎞(JR貨物所有)と第二種鉄道事業区間の7924㎞(JR旅客会社所有)で鉄道貨物輸送事業を展開しており、また旅客会社所有の本線上にある全国に点在する貨物駅の構内線路と設備(軌道延長1296㎞)およびJR貨物所有の土木構造物を維持・管理している。このうち、貨物駅構内線路の設備のメンテナンスにおいては、貨物駅の特性(着発線、荷役線、留置線の存在が主である)から軌道延長に比べ分岐器の設置数が5800基余りと非常に多く、使用実態に即した効率的検査・保守が実施されている。
画像              国道をまたぐ多々良架道橋」 ・ JR貨物
 一方で、ほとんどの貨物駅が地平にあるため大規模な構造物は存在しないが、JR貨物は第一種鉄道事業区間において高架橋や橋梁を所有している。橋梁では、高架構造の吹田貨物ターミナル~大阪貨物ターミナル間が高架橋となっており、貨物駅構内の橋梁は水路や道路 を跨ぐものが 大半である。その維持・管理に当たっては、コンクリートの剥離や部材の落下で公衆・公道に影響を及ぼす恐れがないよう 万全の点検・保守が求められている。また、震度6強以上が想定されている南海トラフ地震帯に位置する構造物等に対しても、緊急輸送道路や生活道路等と交叉する橋梁などの耐震補強を 進めている。
画像
                         〈 「末広可動橋を行くJR貨物
 そのJR貨物には、鉄道構造物のメンテナンスにおいて他に例を見ない方策に従った修繕・保守を行っている橋梁がある。三重県四日市市の四日市駅と千歳埋立地を結ぶ貨物側線の千歳運河に架かる、現在もセメント輸送の入換運転に使用されている「末広可動橋」(1931(昭6)年竣工の跳開式の鉄道橋で、現在日本で唯一の鉄道可動橋)である。1998(平10)年に国の重要文化財に、2009(平21)年には近代化産業遺産に指定された「末広可動橋」は橋梁技術史上貴重な存在で、そのメンテナンスの実施においては一定の決まり(制約)が課せられてJR貨物にとっては苦労するところ(保守・修繕に当たっては運河を航行する船会社、港湾管理組合、海上保安庁等との調整を得ることが必要)の業務の一つではある。しかし、地域に愛されている大切な鉄道施設である「末広可動橋」の維持・保全に向けては、安全な貨物輸送を確保しつつ定められたメンテナンスが行われている。

 画像 災害大国の日本では、大災害のたびに鉄道の赤字ローカル線は“存廃”の瀬戸際に立たされてきた。2011年の東日本大震災や昨年(2017)の九州北部豪雨災害などで未だに復旧していない路線もあり、今年(2018)の西日本豪雨災害でも東海、西日本、四国、九州のJR4社の計14路線(山陽本線の一部区間も含む)が運転休止に追い込まれ、今も一部の路線では復旧が見通せていない。幹線については年内(2018)の復旧を目指すとされているが、災害多発エリアの中国山地を走るJRの芸備線、木次線、福塩線では全線の復旧が1年以上も先になるだろうと見られている。
画像
                 洪水で流出したJR久大本線の花見川橋梁 2017年九州北部豪雨災害 〉 
 こうした、長期の運転休止を伴う大規模災害(自然災害)に対処し、再度の同種災害による運転休止を招くことがないよう各鉄道会社においては鉄道構造物の被災に対する大規模改修の工事 が行われている。これら構造物の大規模改修工事には多額の資金を必要とし、しかも鉄道事業者が自己責任において完遂させなければならない。
 そこには当然に、改修工事等を円滑に進めることができるよう、国などの財政支援の措置が必要とされる。しかしながら、建設から長期間経過した構造物が増加している現状や予防保全に基づくメンテナンスの重要性が高まりを見せていることから推して、実効性のある計画的な大規模改修の実施が求められている。ただ、現実には、資金調達の面もあって予防保全の観点からの計画的な大規模改修の実施に到っていない構造物の多いのが現状ではある。こうした状況を踏まえ、鉄道構造物に対する将来の維持・管理を如何に進めていくのかが今後の大きな課題となっている。
 そして、近年の鉄道会社を取り巻く変化する社会環境(少子化、高齢化)の中で、鉄道構造物のメンテナンスに従事する社員の若年化(ベテラン社員の大量退職)が進んで構造物の維持・管理技術の継承に困難を来しており、しかも進む少子高齢化社会に伴う将来の労働力不足に備え、限られる人員(少人数)で多くの鉄道構造物をメンテナンス可能とする業務体制(効率化)の 強化・構築が今まで以上に必要不可欠であるとされている。そのような中でさらには、今後も増え続ける耐用年数を超過した鉄道構造物の改修・保持・延命とともに、今後の鉄道ネットワークを堅持していく上で将来発生する構造物の変状(機能低下)を想定した計画的・戦略的対処に基づくメンテナンスの確立が必要とされよう。 (終)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック