陽炎 ・ あの日のプラットホーム

          陽 炎  ・  あの日のプラットホーム ・ ・ ・
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画像 真夏の白い陽炎が貨物列車を宙に揺らしながら、暑い線路の向こうへ去って行った彼方を不思議な思いでしばらく見つめていた、学校帰りの無人の踏切道。田舎の小学生であったあの日あの頃を、ビールをあおりながら扇風機に吹かれて、ふと思い出した。
 どこに行っても冷房に囲まれる近年、敢えてトンと陽炎に目を向けたことがない。いや、お目にかかれない。確かに、開発による住宅等の密集化で陽炎が立ち上るような周りの環境も、少なくなっているように思える。
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画像 以前には、駅のプラットホームには一つや二つの丹精込められた駅自製の花壇が造られていて、季節の草花が行き交う人々の心を旅情を和ませてもいた。ただ、今では、よほどの地方へ出かけないとこんな情景には出会えまい。現在では、何処へ行ってもプラットホームは舗装化されて土壌むき出しのケースを見掛ける機会は、地方にあっても希といえよう。
画像 暑い午後の日差しを受けて揺らぐ陽炎に剥ぎ取られでもしたように、土で固められた前方に延びるプラットホームの揺らぐ先端を花壇に咲く真っ赤な葉鶏頭の群れ越しにぼんやりと眺めていた、学校帰りのあの暑い夏の昼下がりを夏が巡り来るたびに今も想い起こす。
 鉄路に陽炎の立つ風景は、今ではどこもかしこも冷房完備の世界で暑さからの逃避の感覚が醸成されて遠ざけられ、鉄路から陽炎の立つ情景は顧みられなくもなっている。

画像 早々に、今夏(2018)の猛暑予想が告げられる下で、今から20年も昔の酷暑が続いたある日の学校帰りを待つ駅舎の佇まいが脳裏を過ぎる。
 夕暮れの迫る中、長いプラットホームや待合室、改札口には一服の涼を誘うかのように濃淡を描いて打ち水がされていた。そのつかの間を縫って、側らを午後の太陽に灼かれた空気とともに熱気を纏わり付けて、長く延びた一連の貨車がその黒い影をプラットホームに落とし、貨物列車が熱風を送り込んで通過していった。
 そのときの、灼と涼の妙な体感が一瞬真夏の居ずまいを浮き上がらせた。
 夏の鉄路に立ち上る白熱の陽炎を求めて、輪郭を宙に揺らして線路の彼方へ去って行く列車をもう一度見つめてみたい・・・。 (終)

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