岐路に揺れる北の鉄路

画像  岐路に揺れる北の鉄路 
画像2016年11月に発表(公表)された「自社単独では維持することが困難な線区」としたJR北海道の鉄道路線見直し(バス転換、駅の廃止、列車運行本数などの削減、第三セクター化等)を巡り、北海道議会(道議会)の地方路線問題調査特別委員会において2018年2月26 日に初めてとなるJR北海道の島田修社長をはじめとする経営幹部4人を参考人招致して集中審議が行われた。その集中審議の中で島田社長は、JR北海道の中長期経営計画となる将来ビジョンを2019年度の初めに策定・提示する考えを明らかにし、経営計画の提示は道民への責務であるとともに若い社員に夢を持ってもらうためにも重要と強調した上で、安全の再生を確実にするとともに維持困難な線区問題を決着させ経営基盤を強化させた上に立って北海道新幹線の札幌開業や新千歳空港アクセス強化などにより、北海道地域の成長戦略に貢献したいと述べた。その後も、経営悪化の要因や国への支援要請などを巡って同調査特別委員会での質疑は5時間にも及び、質疑後に同委員会は再度JR北海道の経営幹部を招致する考えを示唆した。
画像
              道議会の地方路線問題調査特別委員会で発言するJR北海道島田修社長 2018.2.26
 この招致に先立つ昨年(2017)12月6日、JR北海道再生推進会議(JR北海道の第三者委員会)が札幌市内で記者会見を開き、JR北海道の路線見直し問題に関し進展が見られない状況にあるとして声明を出した。この同再生推進会議は、JR北海道が2011年の石勝線列車脱線火災事故を始めとしてその後に続く列車脱線事故や線路データ改竄、社員の不祥事などの事象を発生させたことから2014年1 月に国(国土交通大臣)から事業改善命令・監督命令を受け、それに基づいて設置されたJR北海道の第三者委員会である。その同再生推進会議は、2015年にJR北海道再生のための提言書を発表して経営全体について聖域なき検討を行うことを同社に求めた。これを受けてJR北海道は、2016年11月に“当社単独では維持困難な線区(10路線13線区)”を公表してその線区に対する持続可能な交通体系の構築などについて、同社の経営状況や線区の実情を交えながら沿線地域との協議を重ねている。しかしながら、未だに協議が難航して見直しが進んでいない状況の線区が多い状況だ。
画像 この状況に鑑み同再生推進会議は、こうした状況で時間が浪費されることになればJR北海道の経営破綻に繋がりかねず、第二の“拓銀”(「北海道拓殖銀行」…札幌市に本店を置き北海道を地盤としていた都市銀行で、バブル景気に乗った不動産融資がバブルの崩壊で不良債権過多となり1997(平9)年11月に経営破綻した)を生み出しかねないとの強い危惧感を滲ませ、声明でJR北海道に徹底的な自助努力を求めたのであった。
 その中で声明は、JR北海道に対し鉄道事業の選択と集中のために情報開示を進めて道民の理解を得る努力が不足していることを指摘しており、行政に対してはJR北海道批判と路線廃止反対に終始して将来的な交通システムの構築に目が向けられておらず、道自体も交通網の整備にリーダーシップを発揮していないなどの指摘をしている。その上で、路線の見直しはただ単にJRだけの問題ではなく、持続可能な道民の“足”(移動)の問題として捉えられるべきもので、道が先陣に立って関係者間の総意を取りまとめ、1年以内に道全体の交通の有り様を明確な形で示すよう求めている。また、国に対しては、安易な路線の延命策は認められないものの、国家的視点から維持が不可欠な路線も例外的にはあるのではないかとして、見直しの区分けを明確に示すことを求めた。
 こうした情勢にあってJR北海道は、地域によっては路線見直しに前向きに協議の席に着いていただいている沿線自治体も出始めていることから、見直しへの取り組みは着実に前進しつつあるとの認識を示している。一方で、“取り組みのスピードが遅い”“情報の開示が足りない”などの指摘を受けてJR北海道は、問題の解決を先送りすることなくスピード感を持って不退転の決意で取り組んで行くことを明示した。

画像  岐路に揺れる北の鉄路 
北海道は、全国を上回るスピードで人口の減少が進んでおり、その人口減少や高規格道路網の進展に伴い地方部において特に鉄道の利用が大幅に減少しており、JR北海道グループを取り巻く経営環境は一段とその厳しさが増している。鉄道において現在、輸送密度が2000人未満の線区が全営業14路線中6割を占める状況にあり、そうした状況に準拠して前述の自社単独では維持することが困難な線区の発表(公表)へと繋がったのである。この全路線営業距離のほぼ半分に当たる10路線13 線区・1237.2㎞の見直しをJR北海道が表明してから1年半を経ようとしているが、路線の存廃やバス転換などを巡る沿線自治体等との協議は先に触れた如く全般的に進んでいないのが実情である。
画像 参考までに、JR北海道が単独では維持困難とする区間を次に示します。 ①札沼線北海道医療大学~新十津川間47.6㎞ ②根室線富良野~新得間81.7㎞ ③留萌線深川~留萌間50.1㎞ ④宗谷線名寄~稚内間183.2㎞ ⑤根室線釧路~根室間135.4㎞ ⑥根室線滝川~富良野間54.6㎞ ⑦室蘭線沼ノ端~岩見沢間67.0㎞ ⑧釧網線東釧路~網走間166.2㎞ ⑨日高線苫小牧~鵡川間30.5㎞ ⑩石北線新旭川~網走間234.0㎞ ⑪富良野線富良野~旭川間54.8㎞ ⑫日高線鵡川~様似間116.0㎞ ⑬石勝線新夕張~夕張間16.1㎞(ただし、新夕張~夕張間は2019年4月1日の廃止が決定している)の10路線13区間(1237.2㎞)である。
 これらの見直し路線・線区は、国土の2割を占める広大な北海道(約83,424平方キロメートル)の全域にわたる広がりを見せているが、もともとJR北海道は1987(昭62)年の新会社発足時(国鉄改革)に広大な地・北海道の鉄路を引き継いでおり、その際に国はJR北海道に対し自助努力だけでは今後の安定した黒字経営は望めないとして支援金(経営安定基金…事業の営業損失見込額を基金の運用益によって埋め合わせる)を拠出してその基金の運用利子で鉄道の赤字を埋めるという支援(JR四国に対しても同様)を行っている。しかしながら、1990年代半ばから続く国の低金利政策(ピーク時の半分以下)で支援が成り立たなくなリ、現在のJR北海道は全路線(新幹線を含む14路線)が年間500億円を超える赤字を出してそれを埋められなくなっており、経営危機の最大の要因ともなっている。この金利の変動は当然に想定されたことで、経営努力での対処が基本と言われもしたが、されど広大な地ゆえに鉄路を守る施設や設備は甚大で、橋梁やトンネルといった土木構造物の老朽化が進んでいるJR北海道にとって単独では手に負えないのが現実なのである。

画像  岐路に揺れる北の鉄路 
昨年(2017)の北海道庁有識者会議は、国の抜本的な支援策無しではJR北海道の経営再生は出来ないと指摘しており、JRグループ発足から30年を経る大きな課題の一つとして国は支援のあり方について抜本的に見直すべき時期にあるとしている。見直し線区沿線の自治体は、近年の飛躍的に拡充が図られた道内道路交通網の整備を歓待もしたが、その下で鉄道離れが進んだ沿線地域の現実もまた直視する必要を忘れてはなるまい。同時に、鉄道の存続を訴え希求するだけでなく、JR北海道のこの路線見直しを好機と捉え地域住民にとって最も望みたい生活に必要な持続可能な“足”(移動手段)とは何なのか、前向きに考える機会としたい。地元の交通を守って行くことは、路線の見直しに直面している“北の鉄路”(JR北海道)の危機の如くに、人口減少の時代を迎えた日本のどの地方にとっても他人ごとではいられない生活に直結することがらである。今こそ北海道は、道全体の交通網再編に向け率先して交通政策を進めるべきである。

画像  岐路に揺れる北の鉄路 
JR北海道は昨年(2017)の暮れ近く、2016(平28)年度の各線区別の収支状況を発表した。その中で同社は、北海道新幹線を含めた全ての線区(14路線)において営業損益は赤字で、営業係数(管理費を含む)はJR北海道全体で166であったとしている。特に輸送密度が最も低かったのは、見直しでバス転換が検討されている札沼線の北海道医療大学~新十津川間(47.6㎞)の66人/㎞/日で、同区間の営業係数は2609であった。
 なお、今年(2018)開業3年目に入った北海道新幹線の2016年度営業損失は54億円で、営業係数は146という成績であった。
画像 2018年を迎えたJR北海道は現在、先にも触れたよう2014年に国から受けた事業の改善命令・監督命令を踏まえて策定した同命令による「措置を講ずるための計画」「安全投資と修繕に関する5年間の計画」に基づき、安全の再生と信頼の回復に全社を挙げて取り組んでいる最中にある。この程、国立社会保障・人口問題研究所が2065年の日本の総人口は8808万人(2015年…1億2709万人)になるとした50年後までの日本の将来推計人口を公表したが、その総人口が1億人を切る時期は前回の推計(2015)より5年遅い2053年になると見込まれてはいるものの 、今後もますます利用者が減少していく地域の公共交通をどのように持続可能な交通体系として構築していくのか、沿線地域との協議を進めていく上で大きな課題でもある。その見直し協議の途上にあるJR北海道の島田修社長は、2018年3月23日に先に夕張市との間で合意していた石勝線夕張支線(新夕張~夕張間16.1㎞)の廃止に関する覚書を同市の鈴木直道市長との間で締結し、これにより2019年4月1に同支線の営業廃止(廃線)が決定した。かねてより夕張市(基幹石炭産業の衰退から人口の希薄化が募り、再生をかけた投資が焦げ付いて膨大な負債(353億円)を抱えて2006年6月に財政破綻した。現在、国内唯一の財政再生団体である)は、JR北海道が経営難に喘ぐ中で利用者が1割以下に減少している路線(夕張支線)を廃止するのは確実と見ていた夕張市は、鉄道に替えてバス路線への転換を予定していた中で市の交通網整備に対しJR北海道から優位な支援を仰ぐために、JR北海道の2016年11月の路線見直し前の同年8 月に同社に対し夕張支線の廃止を“逆提案”していたのである。その後、夕張市はバス路線の整備に向けJR北海道の支援享受(7億5000万円)に合意を受けている。JR北海道が取り組んでいる路線見直し(10路線13線区)で、この夕張支線の廃止決定は逆提案ではあったにせよ路線見直し決着の初めてのケースとなったのである。
画像
     JR石勝線夕張支線廃止決定の覚え書きを交わす鈴木直道夕張市長と島田修JR北海道社長 夕張市役所 2018.3.23
 また、1列車の平均利用者数が10人前後と特に少なくバスへの転換が協議されている札沼線・根室線・留萌線のうち札沼線についてJR北海道は、2018年3月5日の記者会見で札沼線沿線4町(月形町、十津川町、浦臼町、当別町)と個別に協議を始める方針を明らかにした。この路線見直しに向け協議相手となる自治体は、道内の約3割に当たる56市町村に及び、しかもその大半が厳しい財政難に直面していることを承知の上でJR北海道も、安全投資等に国から1800億円(年)の支援を受けるも“バケツに穴の開いた状態”(島田修社長)にあるとして路線見直し関して自治体等に応分の負担を求めている。道も、JR北海道は徹底したコスト削減など最大限の自助努力を進め、決して拙速な対応(路線見直し)をしないよう強く求めるとして釘を刺している。

画像  岐路に揺れる北の鉄路 
国鉄改革による分割・民営化から30年、今以て赤字体質の経営から抜け出せない「負の遺産」を背負い続けるJR北海道が今、世間からの反発を承知で地域の生活の“足”を見直す「鉄路半減」を進めているは先刻承知の上だが、地元沿線との歩み寄りの糸口はまだトンネルの中と言えよう。この路線見直しは、JR発足後では最大の規模であるが、人口減少が進む時代にあって地域が必要とする公共交通の具体的姿はまだ描き切れてはいない。
 先にも触れたが、JR北海道の路線見直し方針が表明(2016.11)される前の2016年8月に夕張市が同社に求めた“攻めの廃線”とも言われた夕張支線の廃止(2019.4.1に決定)は路線見直しに置ける初の解決を見たケースとなったが、JR北海道にとってこの路線廃止の“逆提案”は驚きのことであった。この申し出に対する話し合いの中で当の島田修JR北海道社長は、デマンド交通など新しい形の町を自ら創り出そうという夕張市の当事者意識を強く感じたという。破綻から再生へ、その先の自立へと向かう流れの途上にある今の夕張市。立場や事情の違いこそあれ、夕張市の後を今のJR北海道が追いかけているのかも知れない・・・と島田修社長は述懐する。
画像
                             終焉間近のJR夕張支線
 今、民間企業の事業として担えるレベルを超えている赤字路線の維持に対しその路線見直しへの岐路(廃止やバス転換など)に揺れているJR北海道ではあるが、路線を大幅に減らす決断に葛藤がなかったわけではなく、当然に鉄道マンとしては鉄路をできるだけ維持・継続し、出来るのであればもっと延ばしたい意欲は殊のほか強く持っていると言えるのではないだろうか。地域交通の確保に関しては、人口減少が進む“北の鉄路”の危機は今に始まったことではないが、路線の見直し・維持は一方通行で解決できる性格の問題でもない。大切なのは、路線を鉄道会社任せの依存に放置せず、地域の公共交通を守って行くためにはどのような手立て(策)を打つべきなのか。手遅れに帰する前に、地域全体の問題として知恵を絞る努力を惜しんではならないだろう。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 4

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック