模索するインバウンドに思う ・ ・ ・

模索するインバウンドに思う ・ ・ ・
画像 日本政府は、予てより目指している観光立国への構築を踏まえて2016年春に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」において、2014年に2000万人の大台に迫った訪日外国人観光客(インバウンド)を2020年までの今後4年間で4000万人到達という高大な目標を掲げ、観光立国への道筋をつけた。昨年(2017)、日本を訪れた外国人観光客は前年から2割近くも増えて、2800万人を超えた。こうした海外からの多くの人たちに日本の生活・文化に触れてもらうことは、相互理解を深める契機となるばかりでなく、国内の経済効果をも高める上から歓迎すべきことであるとして、政府はインバウンドのさらなる取り込みに工夫を凝らす。ただ、こうした歓迎すべき中にありながらも、一部の人気観光地などでは受け入れ体勢が整えられていないところや受け入れ能力が乏しい地域では、交通機関における混雑や利便性の悪さが地元への苦情となって湧出し、その深刻の度が増すことで“観光公害”という言葉さえ日本(外国の一部観光地でも生じている)でも耳にするようになった。
画像 東京の一般社団法人日本旅行業協会(JATA・旅行代理店の業界団体)が集積したインバウンド動向に対する最近のデータによれば、2016年の年計訪日外国人観光客は2404万人・対前年度比21.8%増し、昨年の2017年には同2869万人・同19.3%増し(2018.1の国土交通省速報値)と、日本政府観光局(JNTO)が統計を取り始めた1964年以降で最多となった。そして、同観光客の6割以上(66.9%)がリピーター(2回目18%、3回目10%、4~9回目22.9%、10回目以上が16%)であるという。また、約4人に1人(除く団体旅行の多い中国)が個人手配(個人旅行)により訪れているという。こうしたデータからも近年、駅や電車内で外国人観光客をよく見掛ける理由が納得できようというものだ。すなわち、自ら訪れてみたい場所を自分で選択して目的を持って行動(旅行)する人たちが年々、リピーターとして増えているのだという。

模索するインバウンドに思う ・ ・ ・
 日本を訪れる外国人観光客の動向が年々上向き調子に推移をしている中で、地域の伝統文化や自然の魅力をPRしてインバウンドのさらなる活性化を呼び込もうと複数の自治体が相互に手を組んでその誘致を図っていこうという動きが広がりを見せている。旅行業界などでも、JRなどの鉄道会社やバス会社に新たな商品開発への協力を求め、外国人観光客の誘致をさらに促進させようとの意気込みが見られている。一方で、従来からインバウンドの大勢を占めてきた“東京~大阪”といったゴールデンルートに象徴されるお定まりの「団体旅行」に替えて、最近はSNSなどのサイトを頼りに訪れたい目的地を絞って少人数で気ままに行動する外国人観光客が増えており、個人的な旅行が目立ってきている。
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                        温泉に入る野生の日本猿長野県山ノ内町
 そうした中にあって、外国人観光客の取り込みを成功させ、苦境から息を吹き返した温泉地もある。スキー人気の低迷から周辺スキー場の閉鎖が続き、10年ほど前から温泉利用客の激減により危機感を囲っていた約20軒ほどの旅館が建ち並ぶ、長野県山ノ内町の湯田中温泉である。厳冬期になると、界隈の山々から野生の日本猿の群れが“暖”を求め大挙して町の温泉(猿専用の露天風呂)に浸かりに出て来る、世界でも唯一の珍しい光景が旅行者の口伝てにより海外で評判となってここ数年来少人数グループによる外国人観光客の姿が増え続けている。すなわち、温泉に入りに来る世界的にも唯一の珍しい猿の光景を観光の名物(目玉)に仕立て、温泉街全体が挙って海外の予約サイトへの登録を行って外国人観光客の取り込みを増やしているのである。
画像 政府は、2020年のインバウンド目標4000万人を掲げているが、それには国民の理解と協力がなければ達成がおぼつかないことは言を俟たない。
 その受け皿として欠かせないのが宿泊施設の存在ではあるが、都市部のホテルにおいては年々増え続けるインバウンドに対してはある程度充足できるとされているが、問題は苦境が続いている地域周辺観光地の宿泊環境(主に旅館)である。和風建築に畳の部屋、和装の従業員などとくれば、訪日外国人観光客にとっては日本文化の受け入れにそぐう観光素材が揃っていると見られている旅館だが、現実にはその稼働率は40%未満とホテルの半分以下に止まって取り残されている。廃業も少なくなく、観光庁によれば2016年度に全国のホテルは2014年度より222軒増えているが、旅館は逆に2014年度より2410軒も数を大幅に減らしている。さらに、外国人観光客が急速に増え始めた2014年以降から主なホテルの客室稼働率は70%台以上を保っているが、旅館は30%台後半と人気がない。
画像 日本旅館に宿泊する外国人観光客
 “昔より大分寂しくなってしまった”と観光旅館関係者が嘆くある温泉街の老舗旅館では、平日は宿泊者が入らずに営業できない日も多いという。バブル崩壊後の団体旅行客の激減が今も尾を引いており、日本人旅行者相手にリビーターを増やす努力で何とか今まで営業を続けてはいるが、すでに周囲からは櫛の歯が欠けるが如くに廃業が相次いでいるという状況下で現状の苦境(経営)を仄めかす。宿泊者のほとんどは日本人と前置きしながら支配人の男性は、昨今のインバウンドの隆盛を承知しながらも、訪日外国人の積極的受け入れ対しては言葉の問題に不安材料があるし、その上に対応投資も難しいとして、受け入れたくとも躊躇してしまうと話す。一方で、先に触れた湯田中温泉のある旅館では、大きな投資はせず、案内は片言の英語と身ぶり手ぶりで対応し、それでも予約で満杯になることも多く、その7割以上は訪日外国人であるという。悲喜こもごもの日本旅館の今日この頃ではある・・・。
 日本政策投資銀行(DBJ・財務省所管の特殊会社で日本の政策金融機関)などが訪日外国人観光客に対して2016年に行った調査では、泊まりたい宿泊先として“日本旅館”を7割を超える人が挙げた。観光で来日したある外国人大学生は、“旅館は素敵だと思うが、情報が少なく、決めきれない”と漏らす。宿泊業に詳しい専門家は、宿泊が減少を辿っている旅館は今まで情報発信や昔ながらの経営を変革(世情に沿う)する努力が足りず、折角のインバウンド需要を取り逃がす状況を招いており、誠にもったいない状況にあるという。ある観光経営学者の言葉を借用すれば、旅館は一つの日本文化で、存在する大浴場や浴衣でさえも日本旅館以外にはない強みであり、それぞれに旅館が個性を出してそれなり(等身大)の情報を発信することが大事であるという。すなわち、素材そのままの姿を提供することで、外国人に“体験”と捉えて楽しんでもらう場としての創出が必要だという。
画像                            浴衣姿で散策する外国人観光客 
 観光庁は、日本旅館が低稼働率(40%未満)に喘ぐ原因の一つに“食事”の提供形態があると考えており、訪日外国人観光客を増やすために旅行業界に対し食事料金と部屋料金とを別仕立てとして宿泊施設を提供する、いわゆる「泊食分離」の促進が重要だとして実証実験の計画を進めるとしている。“1泊2食付き”が基準となっている日本旅館の宿泊料金ではあるが、外国人観光客の中には長期滞在をする人も多く、同じような食事が続く日本の旅館はとかく敬遠され勝ちになっているという。海外の予約サイトに登録し、夕食の有無を選べ、ホームページで地元飲食店の約20店を4カ国で紹介している熊本県阿蘇市のある旅館は、5年前に200人前後だった訪日外国人宿泊客が昨年(2017)は約2500人と大幅な急増を示した。
 また、宿泊客の9割が外国人という東京の澤の屋旅館(全12室)でも、夕食の提供を止めて宿泊客に旅館近隣の飲食店マップを配布して泊食分離の促進に力を入れている。こうした新しい動きも顕在化している日本旅館の昨今だが、年々増え続けているインバウンドの宿泊環境の中にあって日本文化を代表する一つである日本旅館に対して、これから何が求められ、どのような変革がもたらされていくのだろうか、訪日外国人観光客が増加する下での模索が続く…。
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模索するインバウンドに思う ・ ・ ・
 政府が“2020年に4000万人”の訪日外国人観光客を目標に掲げる中で、2017年に日本を訪れた外国人観光客は前年から2割近くも増えて2800万人を超えた。こうした中で、インバウンドの輸送需要も加わった東西に長く延びる日本列島のどの鉄道路線に乗っても、外国人旅行者の姿をよく見掛ける機会が増している。そんな環境にもある都心の鉄道の駅では、インバウンドの急増で国際化の様相も垣間見え、人々の喧騒に交えて周りからはさまざまな外国の言葉が耳を過る。そんな駅頭に立つ、長期滞在を続けている訪日外国人旅行者にあっては、誰しもが持ち合わせているであろう“ホームシック”への心根がおそらく郷愁となって呼び覚まされていることであろう。
 そのような訪日外国人旅行者の心情に触れるが如くに、朝日新聞のコラム欄“天声人語”に掲載された記事を引用して、次に示します。
画像… 『「事故防止のため階段や通路は右側を歩いて下さい」。東京のJR新大久保駅では構内放送を20以上の言語で流す。駅の案内に使う外国語の数では世界でも指折りの多さだろう▲発案者は前駅長の阿部久志さん(59)。きっかけは「外国人客が右往左往する。人の流れを円滑に」と商店街などから求められたこと。改札や切符売り場でのやり取りを通じ、日本語のおぼつかない留学生の多さはかねて実感していた▲韓流ブームで名をはせた新大久保だが、近年は多国籍化が著しい。韓国語、中国語、英語だけでは用をなさない。むしろ、ベトナムやタイなどアシア諸国の言葉が不可欠だと考えた▲駅に近い日本語学校に協力を頼み、在校生に母語で放送文を読み上げてもらった。3年前、構内で放送を始めると、共感する声がネットで世界に広まった▲「ホームシックは万国共通です。親元を離れて日本へ来て、懐かしい言葉を聞けばどれだけ励まされるか」。そう語る阿部さん自身、青森県の竜飛岬に近い今別町の出身。高校を卒業して上京し、故郷恋しさのあまり、青森の言葉を拾いに上野駅をひとり歩いたこともあるそうだ▲<ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく >石川啄木。筆者が訪ねた日は駅舎改築中で多言語放送は中断していたが、改札やホームで耳に飛び込む外国語の多さに驚く。どこかの少数言語か、まったく耳慣れない言葉もあった。駅の人ごみの中に、そを聴く若者が幾人もいる気がした。(2018.1.31)』 … (終)

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