リニア中央新幹線の今に見る

─ リニア中央新幹線の今に見る  ─
 世界高速鉄道の嚆矢ともなった東海道新幹線の開業を2年後に控えた1962(昭和37)年に、早くも新幹線に次ぐ鉄道の高速化を見据えた次世代高速鉄道(超電導磁気浮上方式鉄道)への研究開発が当時国鉄の鉄道技術研究所(東京の現・鉄道総研=公益財団法人鉄道総合技術研究所)で始められた。その後、半世紀余りにわたる研究開発の時を経て、東京(品川)~大阪(新大阪)間を高速度で結ぶ鉄道として超電導リニア方式が適当であるとしてJR東海によりリニア中央新幹線(JR東海は「中央新幹線」と呼称、最高速度505km/h)が建設されることになり、品川~新大阪間438kmの整備計画が2011(平成23)年5月に決定された。
画像 この決定に伴い同年、国土交通大臣によりリニア中央新幹線について、JR東海が全額自費(およそ9兆円)で建設する同新幹線は“整備新幹線”に相当はしないとしなからも、全国新幹線鉄道整備法(1970(昭和45)年成立・策定)に基づいて同新幹線の建設に対する営業主体及び建設主体としてJR東海が指名され、JR東海に対する建設の指示が行われたのである。これにより研究開発から約半世紀を経て新幹線に次ぐ次世代高速鉄道と謳われてきた超電導リニア浮上方式鉄道が具現化へ向けそのベールをぬぎ、品川~名古屋間286kmの2027年先行開業に向け建設工事が2016(平成28)年から始められた。
 そのリニア中央新幹線に関して、2017(平成29)年2月に開催された国土交通省による「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」(技術評価委員会・超電導リニアの実用化に向けた総合的な技術評価を行う)において、超電導リニア鉄道の技術開発についてはすでに営業線として必要な技術開発は完了し、今後はより一層の保守の効率化や快適性の追及・向上等を目指した技術開発を推進すべきとの評価が成された。これを受け国土交通省では、1990(平成2)年の運輸省(当時)通達に基づきJR東海および鉄道総研が共同で計画策定した超電導磁気浮上方式鉄道技術開発基本計画(技術開発基本計画)により推進されてきた現行の技術開発基本計画における開発期間が2016年度を以て終了するため、今後の技術開発の方向性について先の技術開発委員会の評価を踏まえた同評価委員会からの技術開発基本計画の変更申請を受け、2017年度~2022年度までの同基本計画に対する改訂(変更)作業が国土交通大臣の承認の下で現在進められており、さらにより一層の低コストかつ効率的な保守体系や快適性の追及・向上等の技術開発が推進されていくことで超電導リニア鉄道に対する一層のブラッシュアップが図られていくこととなった。これで、超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会は新たな局面を迎え、2027年の先行開業区間である品川~名古屋間営業運行開始へ向けた準備が整えられていくこととなる。
画像
                     山梨リニア実験線を疾走する営業線仕様のL0系車両
─ リニア中央新幹線の今に見る  ─
  リニア中央新幹線(品川~新大阪間約438km)の総事業費9兆円を全額自費で建設するJR東海は、先行開業区間の品川~名古屋間の建設工事に“財政投融資”の活用を示し、新大阪までの2045年全線開業の時期を最大8年間前倒しする工事計画をこのほど決定した。
 当初、リニア中央新幹線の開業時期についてJR東海では、2027年に品川~名古屋間を先行開業した後に新大阪開業を2045年とする計画を表明していた。これに対して関西方面の政財界や企業等からは、2045年の新大阪開業では先行開業する品川~名古屋間の首都圏方面の開業から18年もの時間的後退を招き、その間に関西圏方面における経済活動が停滞を余儀なくされかねないなどとする声や、新大阪まで一気に作ってしまった方がより高い経済効果がもたらされるのではないかなどとする声の高まりとともに、新大阪開業時期の前倒しを強く求める声も大きくなっていた。
 こうした状勢の中でJR東海は当初、2027年の品川~名古屋間先行開業の後に名古屋~新大阪間の延伸工事を行い、中央新幹線全路線開業を行う整備計画を示していた。しかし、先行開業を目指す品川~名古屋間の工事と名古屋~新大阪間の建設工事を連続して進めるには、品川~名古屋間の工事に係わる長期債務を減らして経営体力の回復を待った後でなければ連続して工事に取り組むことは難しいとした上で、新大阪延伸工事着手には品川~名古屋間の先行開業後に約8年の体力回復期間を設けなければならないとして、新大阪開業を2045年としていた。このリニア中央新幹線の整備促進打開(新大阪前倒し開業)に向け国土交通省は、リニア建設事業(リニア計画の前倒し)としては初となる財政投融資の要求(投入)を財務省に申請するとともに、2016年の臨時国会において鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)のJR東海に対する建設資金貸付を可能とするために、同機構法の一部法改正の成立を諮った。その結果、同機構が財政投融資からの長期・固定・低利の資金を借り受けてJR東海(同社は3兆円借入を申請)へ貸し付ける施策が採られることになって品川~名古屋間の建設工事に財政投融資の活用が決まり、2045年新大阪開業とされていた時期が最大8年間前倒しされる途が拓け、最速2037年の新大阪延伸開業が具現化した。そして、その財政投融資の貸付が、建設主体であるJR東海に対して2016年11月から始められている。
画像

 ちなみに財政投融資とは、税負担によらずに国債の一種である財投債の発行などにより調達した資金を財源として、国が地方公共団体や政府関係機関、独立行政法人・特殊法人等の財投機関に対し有償で資金を供給する融資活動である。今回のJR東海に対する財政投融資の活用については、国土交通省の外郭団体である鉄道・運輸機構は財投機関(財政投融資を活用している機関)ではあるものの、鉄道事業者への資金の貸付はできないとされていた。そのため、国土交通省は同機構の改正を諮り、機構の業務に建設主体であるJR東海に対し建設に要する費用に充てる資金の一部貸付業務が当分の間行えるように追加することとしたのである。この財政投融資の借入によりJR東海は、低金利(1.0%(一般銀行金利3.0%))に加え元本の支払(返還期間10年)を30年(通例5年)据え置けることなどで建設負担額(自費)を5000億円ほど軽減できるという。さらに、膨大な建設費負担による経営体力消耗の回復に充てる期間の短縮により新大阪開業の最大8年間前倒しが容易となり、新局面への転換を可能にしている。

─ リニア中央新幹線の今に見る  ─
  中央新幹線建設主体のJR東海は、品川~名古屋間を先行開業区間として2027年の開業予定に向け建設工事を進捗させているが、現在は同新幹線の先行開業時期に関わりそのルート上(品川~名古屋間)で難工事が予想されている三大難所と目されている品川駅(東京都・2016.1着工地下駅)や名古屋駅(愛知県・2016.12着工地下駅)およびルート上随一の難所とされる南アルプストンネル(山梨県早川町~長野県大鹿村間全長25.19km)において建設工事等を進めているところである。また、長野や山梨、岐阜等の各県域も含め工期を要するトンネルの掘削工事が進められている。
画像 ところがである…、その最中に降って湧いてでもしたかのように突飛に、総事業費9兆円を投入してJR東海が建設を進めているリニア中央新幹線の巨大プロジェクトの建設を巡り、不正入札の疑惑が2017年12月8日夜に発覚した。JR東海が発注した名古屋市の非常口新設工事の入札において、不正受注(受注調整の疑い)があったとして偽計業務妨害の疑いで東京地検特捜部によりゼネコン大手の大林組(本社東京)などが家宅捜索を受けた。
 とかく巨大プロジェクトに関連しては、申し合わせでもするかのように不正受注や談合などが時折頭をもたげて噴出すが、関係者間には大きな動揺や影響が広がる。今回の入札で不正があったとされる問題の建設工事は、2016年4月に大林組と戸田建設(本社東京)、ジェイアール東海建設(本社名古屋市)で構成する共同事業体(JV)がJR東海から受注した、名古屋城南側官庁街にあった公園敷地を掘削して非常の際に地上に避難するための階段通路(深さ90㍍・直径40㍍・工期2019.9)を建設する「名城非常口新設工事」である。JR東海は、リニア中央新幹線の品川~名古屋間を2027年に、名古屋~新大阪間を最速2037年に開業させる計画であるが、もともと余裕のない厳しい工程の下で工事が進捗されており、不正入札の捜査が今後の建設スケジュールにどれ程の影響を与えることになるのか同社の柘植康英社長は注目の姿勢を崩さない。
画像 JR東海柘植康英社長 
 この“問題”以外にも、すでに建設工事が始まっている品川~名古屋間286kmのうち9割近くがトンネルで、しかも最大の難工事が予想されている南アルプスを貫くトンネル工事で排出される残土量は東京ドームの約45杯分にもなり、その処理が大きな課題ともなっている。さらに、建設工事が与える自然環境への影響を巡っても静岡県との対立問題やルート沿線の約5000人に上る地権者との交渉問題など、開業時期を制約しかねない問題は山積みである。
 JR東海によれば、リニア中央新幹線の建設を巡ってはすでに22件の工事契約が結ばれており、そのうち大林組・戸田建設・ジェイアール東海建設の共同事業体は名城非常口新設工事のほかに15件の工事(品川駅や名古屋駅など)を受注しており、この不正受注のリニア疑惑は日本を代表するスーパーゼネコンが関わった談合事件に発展する様相が深くなっている状況にある。総事業費9兆円とされる巨大プロジェクトのリニア中央新幹線の入札でどのような形の不正が行われているのか、今後の特捜部による全容解明が待たれるところではある。
画像
                       上海トランスビッド 竜陽路~浦東国際空港間
─ リニア中央新幹線の今に見る  ─
 今現在、すでに実用化路線として世界で営業稼働している磁気浮上式リニア鉄道路線としては、2002年12月に中国の上海で開業した「上海トランスピッド」(竜陽路~浦東国際空港間30.5km・最高速度431km/h)と2005年の愛知万博に合わせて開業した「リニモ」(愛知高速交通東部丘陵線・藤が丘~八草間8.9km)の2路線が走る。いずれも、中央新幹線のような“超電導”式ではなく、常電導式磁石による浮上方式が採用されている。この常電導浮上式の場合は、コイルに大きな電気抵抗が発生して流せる電流に限界があることから強い磁力を作れないために、最高速度は450km/h、車体浮上も地上10㎜程度が限界とされている。そこでJR東海は、旧国鉄当時から地震大国でもある日本には常電導高速鉄道は不向きとの見解の下で、研究開発の段階から超電導高速鉄道(100㎜以上の浮上が可能)に拘ってきたのである。その結果、山梨リニア実験線(山梨県笛吹市~上野原市間42.8km・本線の一部に編入)において、2015年に有人走行として603.0km/hの世界最高速度を記録している。
 ちなみに超電導リニアによる記録し得る最高速度は、現時点でも音速(1225km/h)近い1000km/hまでの加速は技術的にも可能視(品川~新大阪間をわずか20分ほどで駆け抜ける計算)されてはいるが、乗車時の人体が耐えうる急停車時の重力(G)の問題(空気抵抗と電力消費の増大も絡む)が係わることから500km/h近辺が実用化の高速度域とされている。また、超高速走行体験の場として、山梨リニア実験線において一般者に向けた試乗会が1998年から始められており、2007年に至って一旦終了はしたが、2014年から超電導リニア体験乗車と銘打って再開されている。現在は、年3回実施されており、体験試乗の申込みも高倍率ですこぶる人気は高く、2015年には営業線仕様の“L0系”車両が導入されている。古い言い回しになるが、今、山梨リニア実験線は“夢の超特急”のうつつの舞台でもある。

─ リニア中央新幹線の今に見る  ─
 日本の技術の粋を結集し、滞ることなく新技術が注ぎ込まれていく世界初の超電導リニア浮上式鉄道の中央新幹線は、10年後の2027年の営業開始に向け勢い建設の途上にあるものの、その工事受注に関わり青天の霹靂とさえいえる談合事件が発覚した今、建設工事が進められている品川~名古屋間の路線(先行開業区間)はその9割が地下やトンネルが連続する区間で、都市部の地下40㍍という深部に駅(大深度地下方式)を造り、全長25kmにも及ぶ長大トンネルをくり貫く難工事などが待ち構えており、それらの難工事を請け負える技術力を持つのは大手のゼネコンに限られるとされている。そうした建設工事事情の下で、JR東海が手掛けるような巨大プロジェクトの工事発注に対しては、大手ゼネコンへの発注以外には選択の余地がない建設環境が形づくられてきた。そうした環境が背後にあり、受注者相互間に不正誘発の温床が育まれ、談合という驕りの体制が敷かれてしまっていたのではないだろうか。とにかく、正当であるべき受注競争の不正から建設費の高騰を招けば、その“ツケ”は最終的には運賃を通じて利用者にはね返ってくることになる。
画像

 いずれにせよ、JR東海が自費で建設するリニア中央新幹線は、単なる民間事業ではなく、整備新幹線と同等に全国新幹線鉄道整備法(1970(昭和45)年成立)に基づいて建設されている、国が深く係わる国家的プロジェクトの公共事業である。それ故に、プロジェクトへの工事入札(受注)には当然のごとく公共事業並の透明性が強く求められる。今回のリニア中央新幹線の疑惑については、今後の捜査当局の全容解明への尽力を待つとして、切に切に超電導リニア中央新幹線の円滑な営業運転の開始を待ち望むばかりである。   (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック