鉄道とホテルの事業相関

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                   名古屋のランドマークJRセントラルタワーズ」 ・ JR東海名古屋駅

鉄道系ホテル
 、日本は人口減少と超高齢化の時代を迎えている中で、サービス事業は極めて厳しい経営環境に巡り合わせている。そのような状況の下にあっては、如何に堅固な鉄道事業といえども経営基盤の一層の強化に向けては事業施策の展開を無視できず、当然に鉄道事業に併せ関連事業の開発・展開・強化にも広く視野を向けていかなければならない。
 その鉄道の関連事業に関しては、2020年開催の東京オリンピック・バラリンピックのビッグイベントに向けインバウンド(訪日外国人旅行者)4000万人の目標を掲げて国主導による観光立国に向けた施策を推し進める政府の後押しもあって、高揚するインバウンドブーム(2016年のインバウンドは過去最高の2403万人を記録)の下で鉄道系のホテル業界の動きも活性化を示しており、ホテル事業は鉄道の関連事業の中で今後も開発拡大が期待される数少ない事業分野であるとされている。ただ、ホテル事業自体は、鉄道事業同様に装置産業として必須な老朽化対策やサービスレベルの維持・向上といったハード・ソフトの両面においてそれぞれに難しい側面を持ち、楽観視の許されない課題と常に向き合っていかなければならない業種ではある。

鉄道系ホテル
 日本の鉄道系ホテル事業に長い歴史を持つ大手民鉄グループは、今では国内はもとより海外(ハワイや東南アジアなど)へもホテル進出を果たしており、近年のインバウンド需要拡大を背景に都市部や観光地で新規出店計画が増えている。その大手民鉄グループやJRグループの鉄道系ホテル業界も、今を遡る10年ほど前にはリーマンショックによる世界的不況(2008(平成20))や東日本大震災(2011(平成23))の影響で長期低迷の時に遭遇した経緯もあったが、東京オリンピック・バラリンピック誘致を契機とした政府の観光立国政策によりここ数年は過去に例を見ないインバウンドブームを背景に、先にも触れたように2016(平成28)年には訪日外国人旅行者数2400万人突破の恩恵を受けて宿泊市場全体が活況を見せている。鉄道系ホテルの事業経営は今、JRグループの今年(2017)オープンしたニューフェイス(ホテルメトロポリタンさいたま新都心(JR東日本)、名古屋JRゲートタワーホテル(JR東海)、ホテルヴィアイン梅田(JR西日本)、JR九州ホテルブラッサム那覇(JR九州))などに見るまでもなく全体的に上昇方向にある。
 鉄道の関連事業の一つであるホテル事業、いわゆる鉄道系ホテルにとって優位な点を求めるとすれば、あまねく駅に近い立地から新たなニーズに容易に応えられる可能性を秘めていることではないだろうか。その特徴として挙げるとすれば、概して立地が駅に近い(“駅近”)ため利便性に富んでいること、鉄道系というブランド力の活用で顧客に安心感を与えことができる、ネット環境やポイントカードなど全国共通のサービス提供で品質の底上げや顧客満足度の向上ができる、多様性に富む料金制度などがあると考えられる。すなわち、鉄道系ホテルが強味とするところは、主要駅に隣接しているケースが多いことから予約・宿泊やホテルを基点とした移動に鉄道を利用できる利便さがあり、快適に過ごすための要件が整っている環境が他より優れている点である。また、ブランド力においては鉄道系ホテルとして全国共通のサービス提供(ポイントカードやネット環境)による宿泊品質の底上げが可能であり、料金面についても一般にホテルは高額であると言う概念がある中で牽制も働くが、立地性が良いことからそれなりに高くもなり、一方で利便性に優れている点が多いことから敢えて安価にする必要もなく、予約の提供に容易に臨むことができる。勿論、利便性に加え、料金の塩梅を組み合わせればニーズはさらに高まる。何といっても、“駅近”という地の利は替え難く、ホテルとして“人が集まる”機能を自ずと保有している鉄道系ホテルの基盤は絶大と言えよう。

鉄道系ホテル
画像 JRグループに目を転じて見れば、すでに完全民営化を果たしているJR東海(2006(平成18).4)は、ホテル事業を鉄道事業との相互補完的役割を担う重要な事業の一つと捉え、東海道新幹線を中心とした主要駅や商業地、観光地でホテル事業の展開を図っている。現在では、6つのホテルチェーン(合計客室数2089室)の下で鉄道事業をはじめグループ会社との連携を高めた相乗効果により経営基盤の強化を創出している。2017(平成29)年4月には、名古屋駅直結の「JRセントラルタワーズ」(JR名古屋駅に併設して1999(平成11)年12月に開業したオフィス棟・ホテル棟の2棟からなる複合施設(駅ビル)で、JR東海の旗艦ホテルが入る名古屋のランドマーク)に隣接してオフィスや商業施設、レストラン街など多様な都市機能を備えた「JRゲートタワー」を開業し、その中に「名古屋JRゲートタワーホテル」(客室数350室の宿泊主体型)を開業させた。2000(平成17)年に「JRセントラルタワーズ」内に開業したJR東海の旗艦ホテルである「名古屋マリオネットアソシアホテル」(名古屋市内最大の774室から成る大規模シティ(都市型)ホテル)とはターゲットにおいて明確なすみ分けが図られており、開業以来両ホテルともに“駅近”の高環境から高い稼働率を挙げている。当然にその背景には、双方ともに継続的かつ積極的な顧客満足度確保への挑戦があり、長期的な競争力の維持・向上に向けた努力が重ねられている。
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                             〈 「JRイン札幌」 ・ 札幌駅
画像 その一方では、国鉄の分割・民営化から30年余り、新会社発足(1987)以来今も依然として赤字経営体質から抜け出せずに負の遺産を囲うJR北海道の鉄道事業は、道内全路線(14路線・2560km余)のうち約半分に近い1230km余の路線については同社単独では維持困難として“鉄路半減”を発表し、地域の公共交通の持続的維持に向け地域との協議が進められている最中にある。こうした経営状況にあるJR北海道にとっては、経営基盤の安定・強化を図るために関連事業成長への過程を無視することはできない。中でも、近年の訪日外国人旅行者の増加や国内旅行需要の回復などで活況を呈しつつある鉄道系ホテル事業は、今後の市場拡大が期待される数少ない関連事業分野である。
 JR北海道のホテル事業は、当初は都市型ホテルを中心とした4つのホテル体制(713室)により事業展開をシフトしてきたが、近年の全国的に進む婚礼や宴会などの集客規模矮小化(人口減少や高齢化)の影響から集客に苦慮している中で、2008年度以降からは宿泊に特化したホテル(宿泊特化型)に軸足を置いた事業展開に移行しており、ここ数年はインバウンドの急増を背景に宿泊に特化したホテル市場は全国的に好調を示している。こうした推移の中で、JR北海道の宿泊特化型ホテル(ホテルブランドは「JRイン」)は、同グループの今後のホテル事業開発に欠かせない中心業態として期待が持たれている。されど、JR北海道はホテル事業の開発に適した自社用地が大変に乏しく、これからのホテル事業の展開にはJR北海道以外の事業者(グループ外オーナー)への入居を中心に展開が図られていくものと見られている。
 また、2011(平成23)年を発端に列車火災事故や脱線事故、線路の検査データ改竄、社員の不祥事などが続いたJR北海道は2013(平成25)年に国から事業の改善命令・監督命令を受けて安全意識を欠いた企業風土に世間から厳しい目が向けられていた中で、安全意識の再構築・安全な企業風土の醸成に経営を集中させる必要から資金確保のため、2015(平成27)年に都市型ホテル2つを外部企業へ売却している。さらには、JR北海道の直営として展開してきた宿泊特化型ホテルも同様に、2015年に事業主体としてのJR北海道ホテルズ(株)へ経営を移管している。
画像 ちなみに、都市型ホテルとは宴会施設やレストラン、ラウンジ、バーなどを併設する規模の大きなホテルの呼称であり、宿泊特化型ホテルとはレストランなどの施設を持たずに自動チェックインシステムを採用するなどで、ビジネス客を主な顧客とする宿泊機能に特化したホテルである。

鉄道系ホテル
画像 鉄道系ホテル事業規模に関してJRグループ最大規模を誇るのは、45ホテル・6732室(2017(平成29).9時点)を展開するJR東日本(2002(平成14)、6完全民営化)である。今、東京五輪誘致(2020(平成32))を契機とする政府主導の観光立国政策が前例のないインバウンドブームを呼んで首都圏近郊のホテルは活況の最中にあり、JR東日本では2020年頃までに1万室を超える規模の成長戦略に挑もうとしている。
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                    〈 「ホテルメトロポリタン」(JR東日本の旗艦ホテル) ・ 東京都豊島区
 JR東日本のホテル事業は、都市型ホテル(メトロポリタンホテルズ・12ホテル3471室)と宿泊主体(特化)型ホテル(ホテルメッツ・23ホテル2687室)および地域連携を目指す小規模の長期滞在型(ファミリーオおよびフォルクローロ・8ホテル344室)ホテルにより展開されており、同グループのホテル事業経営は客室稼働率・客室単価ともに首都圏を中心に右肩上がりの高調を示している。
 同社ホテル事業の中核を成すメトロポリタンホテルズ(都市型ホテル)に触れて見ると、国鉄末期の1981(昭和56)~1986(昭和61)年にかけて鉄道管理局内の各地(盛岡、高崎、秋田)でターミナルホテルの名称でホテル開発が進んでいたが、国鉄改革(分割民営化)によるJR東日本発足の翌年(1988(昭和63))に仙台ターミナルホテルを開業した。それ以降のJR東日本のホテル事業展開は、ターミナルホテルの名称で展開されていた従前のホテル群を順次メトロポリタンに名称を変更し、“メトロポリタンホテルズ”のブランド名称で今日に至る。そのJR東日本の基幹ホテル群であるメトロポリタンホテルズ(12ホテル・主にJR東日本の新幹線ターミナル駅に隣設)を取り巻く現況はと言えば、昨今のインバウンドの増加に伴う首都圏を中心とした客室稼働率(客室単価を含む)の高揚といった追い風はあるものの、一方では人口減少や少子高齢化などの影響からいわゆる“なし婚”と称される層の増加で婚礼市場が年々縮小傾向にあり、都市型ホテルの主要ポストの一つである婚礼の事業が不振の逆風に直面しているため、JR東日本のホテル事業展開において2003(平成15)年以降開業のメトロポリタンブランドの4ホテルでは宴会場を持たない宿泊特化型を主流とした展開となっている。
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                       〈 「東京ステーションホテル」 ・ 東京駅丸の内駅舎内
 そのJR東日本グループホテル事業でシンボリック的存在として、“駅近”の究極とも言うべき唯一無二の存在として位置づけられているホテルがある。日本の中央駅・東京駅の丸の内駅舎内にある「東京ステーションホテル」(150室)である。1915(大正4)年に鉄道院(国鉄の前身)が開業したホテルで、都内では帝国ホテル(1887(明治20)年開業・東京都千代田区)に次ぐ歴史あるホテルである。関東大震災(1923(大正12)年)や東京大空襲(1945(昭和20).3)という2度の惨禍に遭遇しながらも、2012(平成24)年10月に東京駅復原事業によって創建当初に近い姿に忠実に復原・再現・リニューアルされている。これにより、東京ステーションホテルを含む東京駅は国の重要文化財に指定された。同ホテルはまた、アメリカの経済紙フォーブスが発行する世界的権威のフォーブストラベルガイドで“4つ星”を2年連続(2016(平成28)~17)で受賞しており、リニューアル以降も以前からの顧客に限らず海外からの顧客からも高い評価を得ている。東京ステーションホテルの存在は今後も、JR東日本の鉄道系ホテル事業にとって事業全体のブランド価値、ブランド力の向上に寄与していくものと期待が寄せられている。
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                         〈 「帝国ホテル東京新本館」 ・ 東京都千代田区
鉄道系ホテル
 現在、鉄道系ホテル事業が好業績に推移している要因となっているのは、国が主導・推進している観光立国政策の下で首都圏などで広く展開が図られているインバウンドマーケットに拠るところが大きいと言える。しかし一方で、東北・北海道方面のエリアにおけるインバウンドの状況は首都圏方面エリアとはその様相を大きく異にしており、東北や北海道方面を訪れる訪日外国人旅行者は日本全体の1%程度に過ぎない。広域な地の東北・北海道エリアは、人口密度が薄い中で都市部が相互に離れて立地も疎らな上に2次交通が脆弱で、受け入れのインフラ体制が他のインバウンド先進地域に比べ多くの課題を抱えている。東北・北海道エリアで鉄道系ホテルを展開している鉄道事業者にとっては、全国的に好調を示しているインバウンドを首都圏方面から同エリアへ誘導することは喫緊の重点課題となっている。現在は、香港や台湾などアジア方面で行政・観光事業者・地元企業などが一体となって日本の関連各県の知事や東北観光推進機構が共同して、東北・北海道エリアへのインバウンド誘導に関し官民連携でさまざまな取り組みが進められている。
 ずれにせよ、鉄道系ホテル事業は、鉄道事業の関連事業として同事業を補完してきた長い歴史と実績、ノウハウが積み重ねられて成長を果たしており、鉄道事業に比肩する存在であることに異論はない。勿論、社会的使命・責任の面でも大きく貢献していることは自明である。すなわち、生活サービス事業であるホテル事業自体は、労働集約型の産業であるために事業にあたり多くの雇用が発生するため、ホテル事業の展開は地域経済において一次産業の需要先としても大きな役割を担っている。ちなみに、ホテルメトロポリタン(JR東日本)級のホテル1館の展開だけで数百名の雇用が派生し、さらには多くの関連取引先の企業を支える機能をも有する。このような視点からも、鉄道系ホテル事業は地域経済に資する役割ばかりでなく、CSRの面においても大きな貢献を果たしていると言える。さらなる鉄道系ホテルの展開には、地域の成長にとっては欠かせない業態として多大な期待が込められている。 …「JRガゼット」を参照させていただいた… (終)

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