“終わりのない挑戦” ・ 鉄道と自然災害

鉄道と自然災害 ~
 このところのテレビや新聞などで、“過去に前例のない豪雨”とか“数十年に一度の猛烈な豪雨”といった異常気象による自然災害の報道が顕著になっている。日本の国土は、弧状に南北に長く伸びた形であることから地域別の気候変動が著しく、最近は局所的に降る短時間集中豪雨(ゲリラ豪雨)や竜巻、地震などによる自然災害が各地で発生するなど過酷な気象状況を呈している。こうした自然災害の発生は、安全で安定した輸送を支えていく上で鉄道事業者にとっては先を見越せない大きな不安要因となっている。
画像 近年は、日本全国で自然災害が多発傾向にあり、しかも局地・局所化、激甚化する傾向にある。近いところでは、昨年(2016)4月の九州熊本地震の発生に次ぎ、九州においては今年(2017)も7月5日~6日にかけて福岡県と大分県を中心に集中豪雨災害(“九州北部豪雨”・1時間最多雨量129.5㎜)に見舞われ、37人の人命が奪われる(現在4人が行方不明)など九州北部地域に甚大な被害をもたらしている。鉄道においても、JR久大本線(久留米~大分間141.5km)で橋梁の流出(大分県日田市の花見川橋梁、復旧は2018年夏頃)をはじめ冠水・土砂流入・道床流出などにより、日田彦山線、豊肥本線、長崎本線、佐世保線などのJR線で運転見合わせなどによるの輸送障害が続出した。まさに、自然の力の威力を見せつけられた豪雨災害だった。
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                九州北部豪雨で流出したJR久大本線の花見川橋梁 大分県日田市 2017.7.5
 とかく、自然災害の発生により鉄道が不通を余儀なくされるケースは例年の如くに起きており、先にも触れたように普段は降雨も少なく台風の影響もほとんどないといわれる地方・地域で近年、温暖化等の地球環境が取り沙汰されている中でゲリラ豪雨と呼ばれるような集中豪雨が全国各地で観測されており、昨今の大雨による自然災害の発生が局地・局所化かつ激甚化する傾向が高く、日常生活への影響のリスクが高まりを見せている。そうした最近の頻発する集中豪雨災害を予見するが如くに、6年前の2011(平成23)年7月27~30日にかけて発生した新潟・福島両県域の集中豪雨(“新潟・福島豪雨”(4日間降雨量711.5㎜))では、JR只見線(会津若松~小出間135.2km)で3つの橋梁が流されるなど沿線地域に甚大な被害を与えた災害は、未だ記憶に新しいところではある。当該災害から6年を経る現在も、被害が甚大で復旧のメドさえ立てられなかった会津川口~只見間27.6kmの鉄路は未だ復旧(バス代行中、2020(平成32)年頃復旧予定)には至っていない。 ─ 関連参照ブログ『豪雨災害復旧への布石』2017.8.12 ─
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               新潟・福島豪雨で流出した被災直後の第5只見川橋梁の惨状JR只見線 2011.8
鉄道と自然災害 ~
 局地的集中豪雨の災害をJR北海道に見てみると、2013(平成25)年8月17日に函館本線山越~八雲間(北海道八雲町)にある小河川の熱田川が局地的集中豪雨で増水・氾濫し、溢れた濁流で線路の道床・路盤が流出する災害が発生し、貨物列車が被災箇所で脱線する事故が起きた。この災害では、河川が氾濫するほどの降雨(10分間13㎜・降雨強度78㎜/h)が沿線で降ったにもかかわらず、脱線事故が起きた最寄りの雨量計では運転規制(徐行や速度制限、運転中止)の基準に達する降雨量は観測されておらず、局地的集中豪雨への対応の課題が浮き彫りになった。2016年7月31日には石北本線(新旭川~網走間234.0km)中愛別~愛山間4.0km(北海道愛別町)においても、沿線を流れる小河川の上流部で局地的集中豪雨(推定降雨量80㎜/h)が降って複数箇所の斜面が崩壊して土石流が発生し、橋梁の流水路を塞いだことから線路上に土砂や流木が流入して回送列車が衝撃している。このケースも前項(山越~八雲間)同様、当該区間関連の雨量計は9㎜/hの降雨観測に止まっており、運転規制に該当する降雨量には至っていなかった。
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             熱田川の氾濫で道床が流失して脱線した貨物列車 JR函館本線山越~八雲間 2013.8.17 〉 
 勿論、JR北海道は降雨による災害を過去に何度も経験してきており、その大半は運転規制の発令や警戒巡視の強化で事故を未然に防いできた。しかしながら、先に示したケースのように局地的集中豪雨に伴う災害では、災害発生現場に列車が進入してしまった事象も起きている現状は否めない。これは、ある箇所では災害が発生するリスクが高い気象状況にあるにもかかわらず、雨量計の設置箇所では運転規制に該当する降雨量が観測されなかったことに起因している。
画像                                           鉄道雨量計
 この降雨量による運転規制は、従来から“鉄道雨量計”の観測に拠ってきた。しかし、地球温暖化などによる近年の異常気象に起因して増加しつつある局地的・短時間で急激に降る“集中豪雨”に鑑み、現状の鉄道雨量計(基本的設置間隔20kmによる“点観測”)に頼る観測網だけでは局地的集中豪雨を全て捕捉する状況にないのが実態である。このためJR北海道においては、2014(平成26)年度から局地的集中豪雨に対する降雨観測の対応・充実を図るために鉄道雨量計の増設(雨量計設置間隔を10~15kmへ縮小化)を計画的に進めている一方で、局地的集中豪雨を捕捉するために多数の雨量計を追加設置することは様々な面から現実的ではないとして、鉄道雨量計での観測網を補完する手段として気象庁などの気象レーダー(面観測)や雨量計による観測値を組み合わせ、雨量計のない箇所での降雨量が推測可能な“解析雨量”を運転規制に導入する検討が進められ、昨年(2016)度から試行ながら現業の場で解析雨量の実践表示により運転規制や警備に活用されている。
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                                解析雨量の仕組み
鉄道と自然災害 ~
 地震、台風、大雨、強風などは、鉄道にとっても重大災害発生への危機を孕んでおり、しかももたらされるその影響(被害)が大きいのは言を待つまでもない。ひとたび自然災害の発生で鉄路が寸断さ輸送障害が起きれば、長距離大量輸送を基軸に唯一全国規模で日本の鉄道貨物輸送を担うJR貨物にとってはまさに天下の一大事で、物流・物資の長期滞りの波及は国民生活に直接多大な影響を及ぼすことになる。こうした重要な輸送業務を背負うJR貨物にとっても、自然災害による輸送障害は避けては通れず、その影響を最小限に食い止めるべく対策・検討がことのほか強く求められることになる。
 自然災害などにより輸送障害が発生した場合には、災害情報の収集に基づく障害の規模を適宜・的確に判断して対応することが重要となる。数時間程度の輸送障害(一次被害)で済むのか、それとも長時間にわたる輸送障害(二次被害)になるのかの判断が、災害発生時の輸送手段確保へ向けその手立て(対応)の規模を分けることになる。
 二次被害(土砂流入、橋梁流出など線路設備等に影響が出た場合)により長期の運転見合わせ等の輸送障害が発生した場合にJR貨物は、幹線輸送力等の確保に向けあらゆる手段を講じなければならないため、主に次の3つのパターンを組み合わせて輸送障害に対処するとしている。①不通区間におけるトラック代行輸送および運転可能区間での列車の折り返し運転 ②輸送可能ルートを迂回する臨時列車の運転 ③船舶等を利用した代行輸送などである。
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                 台風10号の豪雨で流出した下新得川橋梁JR根室本線新得駅構内 2016.8
 JR貨物に関する最近の大規模な自然災害のケース(不通期間1カ月以上)を挙げれば、昨年(2016)連続して北海道を襲った台風の中でも最も強烈だった同年8月30~31日にかけて来襲した台風10号は、十勝地方を中心に記録的な大雨をもたらして各地域に甚大な豪雨被害をもたらした。とりわけ、十勝地方を走るJR根室本線(滝川~根室間443.1km)における被害は甚大で、流出橋梁3カ所、路盤流出、土砂流入、倒木、護岸壁倒壊などの多くの被害(JR北海道発足以来最大級の被災規模)が発生した。この台風10号による強風や大雨(一次被害))に対しては運転見合わせなどが実施されたが、橋梁流出や路盤流出、土砂流入などの二次被害により根室本線の新得~芽室間30.2kmが114日間にわたり不通となり、復旧・運転再開までに約4カ月近くを要した。この状況に直面したJR貨物では、同不通区間の迂回輸送を行うにあたり該当輸送経路がないために貨物列車の運転が困難であることから、運転再開までには長期間を要することが判明した段階でトラックによる代行輸送(応援可能トラックの全国要請など)を主軸に船舶(釧路港~八戸港間(毎日チャーター船2隻)および釧路港~東京港間(週2日定期フェリー))をも活用した代行輸送力の確保に努めた。ちなみにこれらの代行輸送により、トラックでは150~220個/日(12フィートコンテナ換算)、船舶では最大314個/日(同)の輸送が行われ、通常輸送力の約56%に相当する輸送が確保された。
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                迂回輸送で東日本大震災の被災地へ燃料輸送を行うJR貨物 磐越西線 2011
 2011年3月の東日本大震災のときにも、鉄道や道路の輸送網の断絶から被災地で深刻化するガソリンや灯油などの不足に対処するためにJR貨物は、被災地への緊急輸送のため臨時貨物列車の運転による大規模な迂回輸送を展開し、被災地の窮地打開に貢献した。ただ、迂回臨時列車等の運転(設定)に関しては、各路線を走行可能な機関車の車種が異なることから迂回路線走行可能な機関車の手配が必要となる。しかし、自然災害などの発生で早急な迂回輸送が必要となる場合に備え、迂回臨時列車運転を前提に広範区域を運転可能な予備機関車を保有(冗長性確保)しておくことは経営上からも得策ではなく、比較的広範囲な乗り入れ可能機関車を中心に乗り入れ路線の範疇を予めシミュレーションしておくことが必要であろう。今後も想定される不測の事態(集中豪雨災害や地震災害等)に際しては、即応できる代替・代行輸送や列車の折り返し輸送などによる体制を日頃から計画しておくことが肝要となる。すなわち、唯一全国規模で鉄道貨物輸送を担っているJR貨物においては、予測困難な自然災害による不測の事態を確実に受け止め対処していく迅速な対応力が求められているのだ。

鉄道と自然災害 ~
 最近の自然災害は、激甚化の傾向が高くなっているとさえいわれる。その背景には、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震(日本の観測史上最大のマグニチュード9)が防災・減災対策が耐えうる外力を遥かに上回り甚大な被害を発生させた、いわゆる“想定外”の被害をもたらした事象(東日本大震災)が昨今の災害激甚化への観念を強く認識づけていることがある。また近年は、先にも触れたようにゲリラ豪雨と呼ばれる急激に降る集中豪雨で土砂災害などの発生が大規模化しており、昨年(2016)の夏には台風が比較的少ないとされる北日本(北海道)にも相次いで上陸して各地に甚大な被害をもたらしている。こうした過去に例のない気候変動は、従来から推察されている如くに地球の環境(気候)変動に伴う温暖化が少なからず影響を及ぼしているものと見られている。今後も、多大なリスクを伴うであろう自然災害の発生が危惧されており、鉄道の防災・減災計画の構築に際しては“想定外”の影響をも織り込んだ施策づくりが必須だ。
画像 この温暖化に関しては、国連関連機関のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2014(平成26)年に発表した報告書でも客観的気象観測データから温暖化が進んでいくのは疑う余地がないと言及しており、温暖化の傾向が日本においても続いていくことは明確であり、気候変動(温暖化)がもたらすと予測されている自然災害の激甚化に対するさらなる防災・減災への研究・開発が待たれる。そうした中で鉄道総研(公益財団法人鉄道総合技術研究所・東京都国分寺市)においては、気候変動を背景にもたらされると予想される自然災害の被災形態(豪雨、融雪、突風など)に対する防災技術の研究・開発に力が注がれている。いずれにしても、近年の気候変動がもたらしているとも言われている急激に激しく降り出すゲリラ豪雨などによる自然災害禍から鉄道を守っていくには、“観測値”を主体とする現行の検知機能(技術)では急激に変化する気象現象をリアルタイムで捉えることには限界があるとされている。そこで、先の鉄道総研においては今、急激に変化する気象現象について共同研究機関である防災科学技術研究所(文部科学省所管国立研究開発法人・茨城県つくば市)が配信する気象予測情報を用いたハザード評価をリアルタイムで利用できるシステムの技術開発(線路冠水範囲及び浸水深度を解析して列車待避可能箇所(安全地帯)をリードタイム確保の上で地理情報システム(GIS)上に表示する技術)への取り組みが進められている。また、レーダー情報の活用で突風発生位置を検出し、その方向を予測して線路(沿線)への影響を評価するシステムの開発にも取り組んでいる。こうした近年の目まぐるしく変動する気象現象に対応し、昨今の技術進歩が著しい気象予測機能を駆使して時々刻々と変わる気象の変化を捉え、自然災害のハザード変化を予測することで鉄道路線等へ与える影響を評価し、鉄道の防災・減災へ向けた取り組みが強化されようとしている。
 これまでも、暴風、豪雪、豪雨、地震、津波、噴火などあらゆる自然災害が発生し、数知れない人的・経済的被害を被ってきた。そうした被害を頻繁に受けてきた災害大国日本においても、鉄道には安全かつ安定した輸送の提供が求められたため自然災害には真正面から向き合ってきた。普段、私たちが何気なく利用している鉄道は、社会生活に欠かせない経済活動の基盤であり、鉄道の安全・安定輸送を堅持(確保)していく上で目には見えない不安要因である自然災害の発生に対峙する防災・減災に向けた備えは、輸送業務に携わる者にとっては永劫の終わりなき挑戦(取組)と言えよう。 (終)

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