並行在来線 ・ 夜話

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 並行在来線の経営分離(移管)に寄せて… 並行在来線とは、整備新幹線の開業に伴ってJRから経営分離される路線のことで、沿線地方公共団体とJRの合意を得て分離が確定される。その基準について明確性や正式な見解のない中で国土交通省では、“整備新幹線の開業により旅客輸送量が著しく低下することが見込まれる路線”“物理的に区間・経由地を同じくする路線”などとした見解を示していたが、現在では「整備新幹線区間に並行する形で運行する在来線鉄道」という簡明な表現に変えている。
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 2015年3月の北陸新幹線金沢延伸開業時には、並行している在来線(JR西日本北陸本線)は4つの第三セクター会社に分割され、JRから経営分離(移管)された。その北陸新幹線が持つ意義には本来の他に、東海道新幹線が地震などの災害で運行不能に陥ったときの“二重系”(輸送補完)の役割を果たすことにもある。大規模災害時などにおいては、最も必要とされるのが被災地へのライフライン物資の広域・大量輸送に資する鉄道貨物輸送であることは、東日本大震災(2011.3)の教訓に待つまでもない。すなわち、旅客しか運べない北陸新幹線ではなく、貨物列車の運行に供することの可能な並行する在来線こそがまさに“二重系”としての役割を担い果たし得る路線なのである。一応現状においては、全国を一元的に運行している貨物列車(JR貨物)は線路使用料を払って並行在来線区間を運行できるシステムが確保・維持されてはいる。ただ、災害等の非常時に際して貨物列車の輸送に必要とされる対応体制(要員確保や設備等の維持)などの確保については、厳しい経営状況にある並行在来線会社の下においては不透明(自治体出資で引き継がれる並行在来線会社はJRに比べ経営体力が弱い)であり、貨物列車の将来の運行継続・維持に先は見えていない。この観点で見れば、金沢延伸開業でJRから経営移管された第三セクター4社(「しなの鉄道」(長野県)・軽井沢~篠ノ井間65.1kmと北しなの線長野~妙高高原間37.3km、「えちごトキめき鉄道」(新潟県)・妙高はねうまライン妙高高原~直江津間37.7km及び日本海ひすいライン直江津~市振間59.3km、「あいの風とやま鉄道」(富山県)・市振~倶利伽羅間100.1km、「IRいしかわ鉄道」(石川県)・倶利伽羅~金沢間17.8km)はすでに大きな問題(貨物列車運行対応策)を抱えて開業を迎えていることは否めない。
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                                北陸新幹線
 さらには今後、北陸新幹線の新大阪延伸ルート決定に関わり発生するであろうJR北陸本線の敦賀~米原間やJR湖西線(山科~近江塩津間)の並行在来線問題(未解決)においても、貨物列車運行対応策への必要性が盛り込まれることになろう。

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 整備新幹線の開業とともにJRは、並行する在来線を手放す(経営分離)ケースがほとんどであることを東北や九州、北陸、北海道の各新幹線開業で見てきた。開業した新幹線に利用者が移行することで、新幹線に並行する在来線を共に経営することはJRにとって重荷(過重負担で経営圧迫)になるからだ。前身の国鉄当時には、路線拡充の下で増えた赤字ローカル線を数多く抱えていた国鉄は、経営の行き詰まりから破綻状態に追い込まれた苦い経緯を持つ。その二の舞を避けたい思いは、国鉄改革(分割・民営化)で鉄道の再生を目指したJR各社をはじめ国にしても殊の外強く、新幹線の開業で二重経営となる一方の並行在来線をJRの経営から分離せざるを得ない状況にある。そうしたJRの経営上の意を汲んだ形で国(国土交通省)も、整備新幹線建設着工の条件の一つに並行在来線のJRからの経営分離を挙げており、その経営分離について対JRは勿論のこと沿線の事情にも考慮して片手落ち(一方的)にならないよう沿線自治体の“同意”を得るものとしている。この沿線自治体の“同意”は、整備新幹線を着工するに当たっての基本的5条件(①安定的な財源見通しの確保 ②収支採算性の確保 ③投資効果が得られること ④営業主体としてのJRの同意 ⑤並行在来線経営分離についての沿線自治体の同意)の一つとして、2009年12月24日開催の整備新幹線問題検討会議(国土交通省)の場で示されたものである。現在、2012年6月29日に工事実施計画の認可を受けて工事に着手している北海道新幹線・新函館北斗~札幌間、北陸新幹線・金沢~敦賀間、九州新幹線・武雄温泉~長崎間の3区間についても、着工に当たっては先の5条件を踏まえ基本的条件が確実に満たされていることが確認された上での工事進行となっている。

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 JRから経営分離される並行在来線は、そのほとんどのケースが県や自治体の出資により第三セクター化されて鉄道事業者に移管・引き継がれるのが常態となっている。沿線自治体としても、日常生活に欠かせない“足”である鉄道の廃線はなるべく避けたいことから、第三セクター化してまでも沿線住民の生活を守るために引き受けざるを得ない面がある。昨年(2016)12月20日に「小浜・京都ルート」に決まった敦賀以西への北陸新幹線の新大阪延伸ルートにおいても、当然のことながら並行在来線の行方(経営分離の可否)が課題として残されている。その敦賀以西の延伸ルートが決まったことで、JRから経営分離される可能性があるとして注目されている並行在来線は琵琶湖の西側を走るJR湖西線(山科駅(京都府京都市)~近江塩津駅(滋賀県長浜市)間74.1km)である。
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                         JR湖西線を行く貨物列車 大津京~山科間
 北陸新幹線の事業主体であるJR西日本の来島達夫社長は、JR湖西線の経営分離については沿線自治体との協議を経て決めるとしているが、新幹線が通らない地元の滋賀県(三日月大造知事)としては並行在来線としての存在は薄いとの立場からJR湖西線の経営分離は容認(同意)できないとして拒む姿勢を貫く構えを崩していない。
画像 すなわち、JR湖西線は延伸の小浜・京都ルートからはかけ離れており、しかも延伸ルートは滋賀県内を通らないのに経営分離により新幹線への利用者の移行や優等列車の廃止など負の見通しが高い路線を引き受けることにもなりかねない滋賀県としては、JR西日本がJR湖西線の経営分離については“白紙”としている中でその成り行き如何が気になるところである。ただ、新幹線と並行(九州新幹線鹿児島ルート)する路線であってもJR鹿児島本線の川内~鹿児島中央間(46.1km)のように収益が見込める区間では経営分離をせずにJR線(在来線)として残り、本来の経営が継続されているJR九州のケースもある。
 このケースと同様に十分な収支の見込めるJR湖西線は、全ての列車が京都駅まで直通し、利用者も多く、関西エリアの主要駅に停まる新快速が頻繁に往き来し、しかもほとんどの区間がトンネルや高架線で構成(踏切道は皆無)され最高速度130km/hで運転されている在来線としては高規格(最高速度160km/hに対応)の幹線路線であることから、JR西日本が北陸新幹線の開業とJR湖西線との経営相関をどのような判断の下で捉えるのか、今後の経営分離の如何(可否)が左右されそうだ。同時に、経営移管(分離)には沿線自治体(滋賀県)の同意が必要(法律に基づく措置ではなく政府・与党の申し合わせ(1990年)による制度)とされている中で、JR湖西線の経営分離を頑なに拒んでいる地元滋賀県の今後の姿勢も注目の的になりそうだ。

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 全国新幹線鉄道整備法(1970年施行)に基づき1973年に整備計画が決定された新幹線(“整備新幹線”と呼称)の5路線(東北新幹線・盛岡市~青森市、北海道新幹線・青森市~札幌市間、北陸新幹線・東京都~大阪市間、九州新幹線・福岡市~鹿児島市間、同・福岡市~長崎市間)のうちで、旧国鉄の厳しい財政状況で1982年に同計画が凍結(閣議決定)される経緯(1987年解除)を経て、最初に着工し営業開業したのは1997年10月の北陸新幹線高崎~長野間(通称“長野新幹線”)であった。これにより、JRから経営分離された並行する在来線は信越本線の軽井沢~篠ノ井間(65.1km)で、新幹線開業と同時に第三セクター化され営業を開業した「しなの鉄道」(しなの鉄道線軽井沢~篠ノ井間65.1km)が最初の並行在来線会社となった。ちなみに最も新しい並行在来線会社は、道内初の新幹線として2016年3月に開業した北海道新幹線(新青森~新函館北斗間148.8km)に並行して津軽海峡沿いを走る、2016年3月26日に開業した元JR江差線(五稜郭~木古内間37.8km)の第三セクター鉄道「道南いさりび鉄道」である。これは、地方交通線の並行在来線が第三セクター鉄道に転換された初のケースとなった。
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                            信越国境を行くしなの鉄道」 〉
 1973年の整備新幹線整備計画以来、これまでに建設・開業した整備新幹線は4路線7区間(北陸新幹線・高崎~長野間(1997.10)、東北新幹線・盛岡~八戸間(2002.12)、九州新幹線・新八代~鹿児島中央間(2004.3)、東北新幹線・八戸~新青森間(2010.12)、九州新幹線・博多~新八代間(2011.3)、北陸新幹線・長野~金沢間(2015.3)、北海道新幹線・新青森~新函館北斗間(2016.3))である。また、並行在来線会社も8社10区間・総延長675.9km(「しなの鉄道」(長野県)、「IGRいわて銀河鉄道」(岩手県)、「青い森鉄道」(青森県)、「肥薩オレンジ鉄道」(熊本県・鹿児島県)、「えちごトキめき鉄道」(新潟県)、「あいの風とやま鉄道」(富山県)、「IRいしかわ鉄道」(石川県)、「道南いさりび鉄道」(北海道))に及ぶ。
 2015年3月の北陸新幹線開業以降でも、5つの並行在来線会社(290.0km)が生まれている。
画像 新幹線の建設で並行在来線とされ、JRから経営を分離された路線(JRに残る区間は並行在来線に含まれない)は、これまでにほとんどが第三セクターの鉄道事業者に経営移管されてきた。しかしながら、経営移管されたとはいえ遍く事業者の経営は沿線人口の減少やクルマ社会などの煽りを受けながら何処も厳しく、沿線自治体も自身の財政難の下で大きな路線負担に悩む。先に触れた開業後間もない「道南いさりび鉄道」にしても、運賃を平均約1.3倍に上げたものの、沿線の人口減少でこの先の10年間でおよそ23億円の赤字計上が推測される。ちなみに並行在来線会社の事業経営に触れてみると、開業時に約103億円を無利子貸付投資した県(長野県)が債権放棄を申し出た例(しなの鉄道)や、開業時(2004.3)には日本最長の第三セクター鉄道路線(116.9km)であった肥薩おれんじ鉄道(八代~川内間)に対しては県(熊本・鹿児島両県)や沿線自治体が約33億円の運営資金を新たに投入したり、第三セクター鉄道としては初の“上下分離方式”の採用となった青い森鉄道(第二種鉄道事業者・日本最長(目時~青森間121.9km)の第三セクター鉄道)に対しては県が線路使用料の数億円を毎年度減免するなど、経営の厳しい事業者への支援が行われている。
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                             青い森鉄道目時 
 また、IRいわて銀河鉄道(盛岡~目時間82.0km)や青い森鉄道が開業した2002年12月以降に国も、JR各社への整備新幹線貸付料の中から捻出した資金をJR貨物が並行在来線会社に支払う線路使用料(アボイダブルコスとルール)に上乗せする形で並行在来線会社へ支援を行っている。しかしながら、人口の減少化で沿線利用者の減少もあって並行在来線会社各社の収支は赤字線上にあり、前述のような支援を得ながらわずかながらの黒字計上に止まって命脈をつないでいる現状にある。

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 経営分離されて誕生した並行在来線会社は、新幹線開業の陰でJR当時に比べ経営体力の弱まりの中で収入を増やさないと経営が立ち行かなくなることから、運賃値上げは避けられないケースとなっている。その上にこの運賃値上げは、優等列車や運行便数の削減とともに、沿線住民にとっては日常の生活に欠かせない交通(移動)手段でもある鉄道に対する信頼性(優位性や利便性)を失墜させ、鉄道離れに繋がりかねない要因ともなっている。
 先般、北陸新幹線の新大阪延伸ルートの決定を見たが、当然に延伸ルートに対しては並行在来線の問題が付随し、JR湖西線やJR北陸本線敦賀~米原間などは位置的関連から見て新幹線とは離れており、果たして並行在来線に該当するのか注目を集めている。こういったケースは、今後も整備新幹線の整備に伴い必然的に発生する問題でもあり、経営分離如何に関して熟慮を要する課題ともなる。

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 約2兆1千億円を注ぎ込む北陸新幹線の敦賀~新大阪間の延伸ルートは、今のところ並行在来線問題(JR湖西線)を残している中で2031年度に着工し、2046年度の開業が想定されている。こうした現状の中で、全国新幹線鉄道整備法に基づいて決定(1973)された新幹線(“整備新幹線”と呼称)整備計画により優先するとされて建設が進められてきた整備新幹線5路線(前述)は、順次開業区間を延ばしながら現在も北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線(長崎ルート)において建設工事(3線3区間約393km)が続けられている。この整備新幹線5路線の全ルートが決定したことは先にも触れたが、優先するとされ建設が進められた5路線に次ぐ整備新幹線として1973年11月の運輸省(当時)告示第466号により11の路線が整備新幹線基本計画として追加された。全国に11路線(現在は計画凍結中)あるこれらの扱いが北陸新幹線の整備完了後の整備課題として注目されており、早くも導入・整備へ向け沿線自治体の動き(陳情など)が活発化を見せている(国土交通省)という。この課題には国会議員も敏感な反応を示しており、昨年(2016)暮れに出された北陸新幹線に関する与党の検討委員会においても、基本計画路線の整備計画化(現在凍結中)の実現に向けて検討に着手することが必要との意見も顕在化している。ただ、全国に跨がるこれら11の基本計画路線の総延長は約3000kmに及ぶが、これまでの整備新幹線に比べ北海道や四国、山陰、九州といった利用者の取り込みが見込みにくい地域沿線が大半である。参考までに、11の基本計画路線を以下に示します。
 ①北海道南回り新幹線(北海道長万部町~同札幌市) ②羽越新幹線(富山県富山市~青森県青森市) ③奥羽新幹線(福島県福島市~秋田県秋田市) ④北陸・中京新幹線(福井県敦賀市~愛知県名古屋市) ⑤山陰新幹線(大阪府大阪市~山口県下関市) ⑥中国横断新幹線(岡山県岡山市~島根県松江市) ⑦四国新幹線(大阪府大阪市~大分県大分市) ⑧四国横断新幹線(岡山県岡山市~高知県高知市) ⑨東九州新幹線(福岡県福岡市~鹿児島県鹿児島市) ⑩九州横断新幹線(大分県大分市~熊本県熊本市) ⑪中央新幹線(東京都~大阪府大阪市)…以上の11路線は現在、2011年に整備計画が決定した中央新幹線(リニア)を除き計画は凍結されたままにある。

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 2015年には、超高齢化の加速とともに、日本が本格的な人口減少時代に入ったことが鮮明となった。50年後の2065年には、日本の人口は今より3割減の8808万人(2015年現・1億2709万人)になるとした人口推計も公表されている。このような社会環境の趨勢の中で、今後も基本計画路線の整備計画が推進されるとなれば、新幹線整備の傍らで並行する在来線は利用者の新幹線への移行などから経営上不安定な立場に立たされかねず、JRにとって重荷になる並行在来線は手放さざるを得なくなる。これが並行する在来線の宿命とはいえ、新幹線が走るところには厳しい経営を背負わされる並行在来線会社が誕生する必然性があり、整備新幹線基本計画の展開次第で新幹線網が広がりを見せれば並行在来線はますます増え、その苦しい経営維持は国による支援を圧迫し、“第二の国鉄”を再来させかねない。
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                         津軽海峡沿いを走る道南いさりび鉄道」 〉
 …夕日に映える津軽海峡沿いを誕生浅い道南いさりび鉄道の観光列車が、厳しい経営を背負いながら今日も明日に向け走り続ける… 同社の小上一郎社長は、「利用者を増やすことを真剣に考えなければ鉄路に明日はない」といみじくも語り、並行在来線会社の今を慮る。 (終)

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