地域の公共交通をどう守る・・・

   地域の公共交通をどう守る
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                                             〈 JR日高線 〉
・・・ レールがつながっていて欲しい、そう願う鉄道沿線在住の人々の思いは理解に難くない。ただ、一定以上の利用者があってこそ、初めて鉄道としての本来の利点が生かせる。果たして、利用者が極端に少ないローカル鉄道の行方は…  ・・・

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赤字で存廃の危機にある地域の鉄道路線を救う方策として、線路や駅等の施設・設備を自治体が保有し、鉄道会社は列車の運行のみを行う「上下分離方式」が、路線維持の選択肢としてよく浮上する。これにより、鉄道会社の運営負担は軽減され経営の存続・維持につなげることができ、人口減少や高齢化が進む地域にとっては鉄路を維持していく上でも上下分離方式は選択肢の一つでもあろう。しかし、これも日本が人口減少の時代に入っている将来においては、鉄道会社が負担していく運行費のみならず、自治体が保有する車両や線路等の施設・設備にも維持費等の負担が年々増してくることを忘れてはなるまい。すなわち、現時点では鉄路の存廃云々を敢えて考える必要がなくても、将来さらに人口減少が進むことで地域の公共交通はどう維持されていくのか、またそれを維持・持続させていくためにはどのような手段が採られればいいのか。それには、地域の実情をはじめ将来の需要の変動など社会情勢の推移を含めた慎重な議論が欠かせないのは当然である。

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国鉄改革(1987)でJR会社が誕生して30年、旧国鉄から承継した路線はたとえ赤字ローカル線であろうと、その維持が責務であることに変わりはない。特に、人口減少や少子高齢化などJR会社発足時(1987)とは社会情勢が大きく変わってきた中で、地域の公共交通を維持していく上で支障を来せば地方はますます衰退への歩みを速めてしまう。どのような形で地方の公共交通を守るのか…人口減少・高齢化社会の中で今、国全体で考えていかなければならない時期を迎えているのは確かだ。
画像 今後、さらに進む人口減少・超高齢化社会の中で顕在化するさまざまな地域に係わる課題(人手不足による産業停滞、働く場の不足、経済や事業規模の縮小など)は、地域の公共交通の持続的な維持(存在)にとって制約を課することにもなりかねない大きな問題である。これらの地域に存在する諸課題が解決されないままでは、地域の公共交通の存続・維持に明日は見えてこない。国は、そうした地域課題解決へ向け2014年12月の閣議で、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を決定している。これは、人口減少と地域経済縮小の克服を基本に、東京一極集中の是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望実現、地域の特性に則した地域課題の解決等に向け、日本全体の活力を向上させることを目的とした一連の政策(第二次安倍政権)で、2015年度を初年度とした今後5ヵ年の政策目標や施策の基本的方向をまとめたものである。
 人口が減少に転じ、さらに進む高齢化社会の中で、増加する社会保障費で国は財政難でもある。そのような中でも、地方においては年々道路や空港の整備が進み、格安の高速バス会社や航空会社(LCC)が台頭している状況に鑑み、今後、鉄道存続の基盤でもある人口(利用者)の減少が進むと地域の鉄路はどうなるのであろうか…。

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地方の公共交通をどう守るか…、鉄道が地域を支える公共交通の最後の手段であるのか否かは地域の経済動向や需要などさまざまな状況の変革を踏まえた上で、拙速に走らず議論に臨むべきであろう。
 日本は地震多発国であり、災害も多い。震災に限らず、災害からの復旧に際しておしなべて繰り返されるのが、鉄道によるのかそれともバス輸送への転換か、はたまた廃止かの議論の展開である。鉄道に馴染んできた沿線住民にとっては、レールが繋がっていて欲しいとの思いがあるのは自然の成り行きで、理解にやぶさかではない。ただ、鉄道は一定量以上の利用者があってこそ初めて本来の特性(大量輸送の利点)が生かされるのであり、従って利用者が極端に少ない地域沿線であればバス輸送の方が復旧へのメリット(赤字解消)が大きいといえる。
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                            大船渡線BRT 盛駅 2016.10
 鉄道路線のバスへの転換方針に、沿線自治体や住民の間に一様に戸惑いが走るのは概して既成のことではある。しかし、地域の公共交通としてバス輸送への転換は、決して地方・地域を見捨てるということにはならない。2011年3月の東日本大震災の津波被害では、東北圏を走るJR東日本の鉄道の多くが線路や橋梁の流失など甚大な被害を被り、運転休止に追い込まれたことはまだ記憶に鮮明だ。その中で、被災区間の鉄路による復旧に替えBRT(バス高速輸送システム)を導入した路線があるのは周知の如くである。JR東日本は、津波の被災で運行不能に陥った地方交通線の気仙沼線(前谷地~気仙沼間72.8km)と大船渡線(気仙沼~盛間43.7km)に対して、沿線住民の日常生活に欠かせない移動の“足”を早急に確保するために仮復旧として流失した線路跡を利用したバス輸送(BRT)による運行を開始したのだ。ただ、あまりにも被災規模が大きく、鉄道の復旧には長期間と多額の復旧費用を要することからJR東日本は、鉄路での復旧を強く求める沿線自治体に対しBRTへの転換・復旧を提案していた。
 その後、仮復旧でありながらBRTの輸送運行ルートを病院などの公共施設や学校にまで延ばして利用のフリクェンシー性(利便性)を高めた結果、BRTに対する高い評価が地元住民側からもたらされた。その結果、鉄道に替えてバス転換へ沿線の同意が成って両路線は復旧(気仙沼線2015.6.27~・大船渡線同12.25~)を果たし、現在に至る。まさに、災害復旧に際し地域の現状や需要などさまざまな状況の把握を経て選択された鉄道からバス輸送への転換は、地域を見捨てることにあらず、まちの復旧・再生につながることを気仙沼・大船渡両線のBRT導入による被災復旧がいみじくも証している。

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画像分割民営化(1987)で、北海道の広大な寒冷地と多くのローカル路線を承継したJR北海道は、会社発足から30年の間に沿線の人口減少(全国より10年先を行く)や車利用への転移(この30年で道内高速道路は6.5倍)で鉄道利用者の減少に歯止めがかからず、赤字経営の下で2014年度に308億円、2015年度には352億円と2期連続して過去最悪の赤字を計上し、2016年度も営業赤字が過去最悪の440億円になると予想されている中で旧国鉄から引き継いだローカル路線(赤字)の維持・持続に責務を全うすべく奮闘の最中にある。そのJR北海道は、線区によっては1列車の平均利用者が10人前後と極めて少なく鉄道としての特性が喪失している区間もあることから、もはや自社単独ては維持できない路線を2016年11月18日に発表し、沿線自治体との協議実施を公表した。
 その中でJR北海道は、全営業14路線2568.7km(全路線赤字)の約半分に当たる10路線13区間1237.2kmについて見直し(バス転換、駅の廃止、列車運行の削減、上下分離方式導入など)を行い、沿線自治体(56市町村)との協議を実施していく(2020年春までに合意)とした。
 この発表を受け、前代未聞ともいえる鉄道路線の“廃線提案”をJR北海道に呼びかけた自治体がある。かつては炭鉱のまちとしてつとに知られたが、国のエネルギー転換(石油へ)で炭鉱の閉山とともに衰退し、新たに観光に投資した借金の膨らみで2007年3月に財政破綻して全国で唯一の財政再生団体となった北海道夕張市(鈴木直道市長)である。財政破綻から10年が過ぎ、なお借金返済に終始していては市の将来が見通せないとして鈴木市長は反転攻勢への必要性を強く感じ、単独で維持困難な路線見直しのJR北海道の発表には間違いなく市内を走る赤字ローカル線の夕張支線(JR石勝線新夕張~夕張間16.1kmの支線)が含まれるとの判断の下で、座して待つのではなく攻めの“廃線提案”へ動いたのである。すなわち、市の財政再建へ向け夕張市が目玉としたのが、「コンパクトシティ」の実現であった。そのためには、点在する都市機能の集中化を図る機動的・効率的施策とともに、市の活性化対策を必要とした。その“核”として採った施策が、利用者が極端に少なくしかも利用離れが進む鉄道(夕張支線)に替えバス輸送を軸とした市の新しい交通体系づくり(夕張支線には並行し路線バスが運行されている)であった。同市がJR北海道に対し先手を打った夕張支線の“廃線提案”(攻めの廃線)は、早い段階で手を挙げることでJRからバス転換に対し少しでも有利な条件(最大限の協力、JR施設の有効活用、市への人材派遣など)を引き出したいとした、財政再生団体としての狙いがあった、とも聞く。
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                               北海道夕張市
 ちなみに夕張支線の現状(2016)を示すと、列車(普通のみ)の運行数は1日上下各5本、輸送密度は会社発足以降10分の1に減少して118人/km/日、収支状況は年間約1億8000万円の赤字を計上している。さらには、線路や施設に100年近くも経過年数の進んだ土木構造物(トンネルや橋梁等)が存在し、安全運転への老朽化対策に巨額の費用負担がのしかかっている。 JR北海道の島田修社長は、2016年8月17日に夕張市を訪れて夕張支線の廃止決定を伝え、2019年3月の廃線を明らかにした。市の再生に力を注ぐ鈴木市長は、概して鉄道の存廃問題ではとかく鉄道を守ることばかりが目的化しがちであるが、一番に考えなければならないのは市民の足を如何に守るかであると、路線廃止に触れて恰も言及する。

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2016年暮れの12月21日、JR北海道(島田修社長)は高波被害で2015年1月以来不通が続いているJR日高本線鵡川~様似間(116.0km)について鉄路による復旧を断念して廃止し、バス転換する旨を沿線自治体に提案して協議を申し入れた。
画像 日高地方の海岸線と牧草地帯を走り、四季を通じて変化に富んだ車窓が楽しめる観光ルートとしての一面をも見せる地方交通線のJR日高本線(苫小牧~様似間146.5km)は、JR北海道の単独では維持困難な線区に挙げられながら廃止対象から外されてはいるものの、高波や台風被害で2年以上も不通が続く鵡川~様似間においてはJR北海道の試算で2016年8月の台風被害も重なって復旧費用は86億円に上るほか、海岸の侵食対策(離岸堤の整備)を含めると総額100億円の復旧費が必要とされ、さらにたとえ運転再開に漕ぎ着けたにしても路線維持に年間16億4000万円の費用が必要となる。同社は、単独では負担できないとして16億4000万円のうち同社負担分3億円の残り13億4000万円を沿線自治体に対し負担の提案を求めるものの、受け入れ困難として拒否されていた。
 鉄路を廃止してバス転換が協議されている鵡川~様似間は、会社発足(1987)当時より輸送密度が186人/km/日(2014年度)と約3分の1に落ち込んでおり、1列車平均の利用者数も13人、年間約11億円の赤字を計上していたのが実態だ。路線の不通が2年余りも続き、1日も早く解決策を示す時期に来ていると強調するJR北海道は、鉄路廃止に伴うバス運行便数は列車本数以上を確保、用地・施設の無償譲渡、地域振興への協力など、協議を進める上での具体的なバス転換方針を示した。しかし、JRのバス転換に対する沿線自治体の反発は強く、同意には難航が予想されている。なお、沿線に高規格道路の延伸が予定されていることも、鵡川~様似間廃止への理由とされている。とりもなおさず、JR北海道が提案する鵡川~様似間のバス輸送への転換は、同社の台所事情(赤字経営)からして避けられる状況にはなく、地元の鉄道への執着心は理解に難くはないものの、もしJRが潰れればその足(バス輸送)さえ守れなくなる。

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JR北海道の見直し対象10路線13区間の中に、1列車の平均利用者が10人前後と特に少なく、沿線自治体に対しことのほか強くバス輸送転換への検討が求められている3区間がある。札沼線の北海道医療大学~新十津川間(47.6km)と根室本線の富良野~新得間(81.7km)および留萌本線の深川~留萌間(50.1km)の3区間 で、鉄道としての特性を喪失しているこれらの区間はバス輸送への転換が叶わなければ廃止への方途もなきにしもあらず、沿線住民の足も奪われかねない。
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                      JR根室本線山部駅無人) ・ 北海道富良野市 2016.7 〉 
 深川~留萌間(50.1km)がバス転換の対象とされている留萌本線(地方交通線)においては、1世紀近くにもわたって日本海沿いを走り続けてきた末端区間の留萌~増毛間(16.7km)が、代替え交通機関の整備が行われないままに昨年(2016)12月5日に廃止された。同区間が廃止前提とされたのは、輸送密度(2014年度)が39人/km/日と道内で最も少ない区間であり、営業係数も4554と極端に高く、しかも年間約1億6000万円の赤字計上という、運営が常態化していたためだ。すなわち、走らせれば走らせるほどに経費の嵩む超ローカル線で、その上に積雪寒冷地を走るため災害多発を抱える区間でもあった。この廃止はJR北海道としては、旧江差線(五稜郭~江差間79.9km・五稜郭~木古内間(37.8km)は北海道新幹線開業に伴い2016.3.26に三セク「道南いさりび鉄道」へ経営移管)の木古内~江差間(42.1km)が利用者の激減(輸送密度41人/km/日)から沿線3町の同意の下で路線バス(函館バス(株)江差~木古内線)へ代替えされて、2014年5月12日に廃止されて以来のことであった。
画像 この先も、JR石勝線新夕張~夕張間(夕張支線)の廃止が2019年3月に想定されているが、もう一つ、同路線の廃止より一足先に2018年3月末日を以て廃止される地方路線がある。JR西日本の江津(島根県江津市)~三次(広島県三次市)間(108.1km)を結ぶ地方交通線の「三江線」である。
 もともと三江線は、中国地方最大の江の川に沿って山間部を走る陰陽連絡路線として開業(1934)したことから当初から利用状況は芳しくなく、現在の利用も専ら通学や地域住民の移動に終始しており、輸送密度も50人/km/日と低い。もっとも、山間を縫う建設であったことから長期間を要し、全通(1975)したときにはすでにモータリゼーションの途上で沿線の地域間移動はクルマに移行していた。こうした状況の中で三江線は、超閑散路線であったがためにたびたび廃止への話題が俎上されてはいたが、その都度代替道路が未整備のこともあって廃止対象からは外されていた。いずれにせよ、三江線廃止への理由は、遍く鉄道の存在基盤が沿線人口の如何に拠ることは自明で、過去の大方の廃止ローカル線同様に沿線人口の減少、車への転移、少子高齢化などによる大幅な利用者減に帰する。
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                               〈 JR三江線鹿賀駅 
 三江線は、直線距離にすれば江津~三次間は60km足らずの区間だが、江の川に沿い曲折を繰り返して建設された線形から路線長は108.1kmに及び、この営業距離100kmを超える三江線の廃止は、JR発足後では初めてのケースとなる。

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国土交通省によれば、2000年度以降に廃止された路線は全国で39路線・771.1kmに及ぶ。鉄道運営の基盤は安定した輸送需要の確保の上に築かれてはいるが、人口減少化とともに超高齢化社会に突入している現在、地域の公共交通の維持・持続に沿線自治体は岐路に立たされているといえよう。遍く地域の自治体は、人口の減少とともに高齢化に伴う社会保障費などの高騰で財政難を囲っており、自治体に対して鉄道の維持に相応の負担を求めるJR北海道のケースに見るまでもなく、財政難に喘ぐ自治体からは地域の公共交通への援助に不満も湧出するほどに、守るべきものが守れないジレンマを自治体は抱えている。
画像                                          JR東日本会長清野 智氏
 どうすれば地域の公共交通を守れるのか…。鉄道事業者が直面する沿線の人口減少・超高齢化への対応として国土交通省は、“官民一体の鉄道沿線まちづくり”の考えを示す。すなわち、鉄道事業者と地方公共団体との連携を通して、沿線の地域金融機関やベンチャー企業、NPO等を含めたさまざまな主体が一体となって地域の課題解決へ向け取り組むことで、地域沿線のさらなる活性化につなげる方策である。当然に、今後さらに進む人口減少・超高齢化などに起因するさまざまな地域の課題は、鉄道事業者のみならず、沿線住民や企業等にとっても大きな問題である。地域の公共交通は通学や高齢者の大切な“足”だからと、路線の維持に名産のぬれ煎餅を販売して赤字を補う工夫と努力を重ねるローカル路線(千葉県・銚子電鉄)もある。
 人口減少・超高齢化の下で地域の“足”(公共交通)を維持・確保していくためには資金等も含めどう支え合っていくべきか…、会社任せにせず地元や国も知恵を出して考えていく必要があるとする東日本大震災の被災経験を持つJR東日本の清野智会長は、人口減への危機感から地域の公共交通をどう守っていくべきかについて、企業等だけでなく国全体で議論していく必要性を訴える。 (終)

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