廃線の危機を攻める~北海道夕張市に見る

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廃線の危機を攻める 北海道夕張市に見る ~


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2015年度決算(連結)で過去最悪の営業損失(352億円)を計上して赤字経営(鉄道単体でも同年度447億円の赤字で6期連続の悪化)が続くJR北海道は今、抜本的な収支改善を迫られている中で営業距離2568.7kmの道内全14路線(新幹線を含む全路線が赤字)の約半分に当たる10路線13区間の1237.2kmについて、最早自社単独の力では列車運行の維持が困難だとして路線廃止をはじめとする大幅な道内鉄道網見直しに向き合っている最中にある。
画像 その鉄道路線見直しにおいて、“座して待つのではなく、攻めの廃線”を提示した地方自治体がある。かつては石炭の町として栄え、炭鉱の閉山とともに衰退への途を辿って財政破綻に至り、全国で唯一の財政再生団体となった現在の北海道夕張市である。
 2016年7月にJR北海道が発表した“自社単独では維持が困難な路線(赤字線区)について同年秋に公表する”との報に接した夕張市の鈴木直道市長(35)は、利用者が1割以下に減って鉄道としての特性が喪失している市内を走る赤字路線のJR石勝線新夕張~夕張間(夕張支線16.1km・1日上下5列車・輸送密度約110人/km/日・赤字額年間約1億8000万円)がJR北海道が公表するとした同年秋の路線見直しの中に間違いなく含まれるとの判断の下で、夕張支線の“廃線”は確実と見て「攻めの廃線」(自らの廃線提案)に動いたのである。すなわち、少しでも早い段階で廃止へ手を挙げることで地元(代替え交通手段の導入等)に有利な条件を引き出したい思いから、2016年8月8日に札幌市のJR北海道本社に同社社長の島田修氏(58)を訪ねた鈴木夕張市長は、“相互に知恵を出し合い、地域公共交通のモデルを創出していきたい”と呼び掛け、同時に公共交通見直しへの協力、無償譲渡も含めたJR施設の有効活用、夕張市への人材派遣の三つを条件として求め、夕張支線の廃線をJRへ市自ら提案していたのだ。
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                                北海道夕張市
 その提案から9日後の2016年8月17日、夕張市を訪れたJR北海道の島田修社長は「廃線に向け最大限の協力を行っていきたい」と述べ、夕張支線廃線へ同意を示している。この前代未聞ともいえる、沿線自治体自らの鉄道路線廃線の提案に夕張市が踏み切った別の一面には、JR北海道が明らかにした路線廃止を含むバス転換や上下分離方式導入などによる路線見直しに向け沿線自治体等と協議していくという方針(2020年春までを目処)に同市は、時間的軋轢(まちの早期再生促進へ枷)を感じていたこともあったと思われる。

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画像前例を見ない夕張市の鉄道路線廃線への提案は、赤字路線を抱える他の沿線自治体にさまざまな反応をもたらしてもいた。“失うものが無いからこそできる”“その場の思い付きで動かないでほしい”…等々。されど、鈴木夕張市長はそれらを悉く否定した。鈴木市長には、市の再生に向けてはまちに活力をもたらす機動性に富んだ交通システム確保への方向性を“核”として持たなければならないという、市政への強い思いが働いていた。そのタイミング(市政へ反映のチャンス)を市長は、待っていたのである。
 北海道のほぼ中央部に位置し、面積約763平方㎞・総人口8852人(2016.9現)の夕張市は、先に触れた如くかつては炭鉱の町(石狩炭田の中心都市)として栄えた都市ではあったが、1900年代後期の国のエネルギー政策の転換(石炭から石油へ)から炭鉱の閉山が相次ぎ、1990年には夕張地方から炭鉱が消えていった。夕張市は、炭鉱産業の撤退とともに衰退した市勢を盛り返そうと観光産業への転換を図ったものの、観光やレクリエーション投資の放漫経営が重くのしかかって悉くが市政運営への圧迫に繋がった。そして、市の生き残りを賭して投資した観光産業に係わる借金が350億円超に膨らみ、2007年3月に夕張市は財政再建団体に遷されて事実上財政破綻した。2010年3年には財政再生団体に移行され、今の夕張市は市政が国の管理下に置かれている全国で唯一つの財政再生団体(著しい財政悪化で国の管理の下で再建に取り組む組織)である。現在は、市税収入年8億円の下で毎年26億円もの借金の返済に明け暮れる夕張市ではある。その赤字財政の夕張市政は、定められた財政再生計画に従って進められており、ほんの僅かな市政に関する計画変更にも国の承認が必要とされ、借金と制約に縛られながら同市は今年(2017)で財政破綻から10年を迎える。

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                              鈴木直道夕張市長
“借金に紛れた返済のまちに将来はない。何らかの反転攻勢が必要だ…”と、今後の市の有り様に向け強い決意を覗かせているのは、現夕張市長の鈴木直道氏だ。鈴木市長は、埼玉県三郷市の出身で、財政破綻に瀕して市の職員数が半減した夕張市の再生に、応援職員として東京都庁から2008年1月に要員派遣されてきた都職員である。2010年11月に東京都庁を退職して夕張市役所に入り、市職員としての働きや人柄が地元から見込まれ、市からも推されて2011年4月の統一地方選挙に無所属で夕張市長選に出馬し、30歳で夕張市長に初当選して2011年4月に市長に就任している。その後、2015年4月には夕張市長に再選され、第18代夕張市長として現在に至る。
画像                          夕張市役所北海道夕張市本町
 その鈴木市長が、市の再生に向け攻勢をかけた目玉が、「コンパクトシティ」の実現だった。散在する都市機能を集約し、効率的かつ機能性を重視した市の構築・再生に向け、住民のための機動性に富んだ公共交通機能確保の検討や諸策を進めてきた。すなわち、まちづくりにはその核となる暮らしの移動(広域活動)に係わり機能・機動性を備えた交通体系の整備が欠かせず、その方向性が定まらないと市の再生計画は進まないと考えていた。そこへ、廃止を含み維持困難な道内路線網の見直しを近々公表するとのJR北海道の発表に接して渡りに船とばかりに夕張市は、市の再生に必要な交通体系づくりに向けJRとの協力の下で少しでも有利な条件を引き出したい狙いから前述した如く早い段階で廃線提案に手を挙げ、同市はバス輸送を軸とした新しい交通体系づくりに踏み出したのである。

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自ら夕張支線の廃線提案に動いた鈴木市長は、先に触れたようにJR北海道に対し市の公共交通見直しへの協力や無償譲渡も含めたJR施設の有効活用の促進および市への必要な人材派遣を廃線提案に交えて盛り込んだ。
 昨年(2016)8月17日に夕張市を訪れた島田JR北海道社長は、同市の新交通体系づくりに最大限の努力をしたいと述べ、バス路線の整備などに支援を提供していくとして夕張支線の廃線に合意を見せている。なお、夕張支線の廃止時期についてJR北海道は、2年後の2019年3月の廃止見通しを示唆している。
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          夕張支線廃止同意で握手を交わす鈴木直道夕張市長と島田修JR北海道社長 夕張市役所 2016.8.17
画像 ちなみに夕張支線の開業は1892(明治25)年とその歴史は古く、線区には建設から100年近くを経過したトンネルや橋梁などの土木構造物が多く存在する。そのため、将来にわたって列車の運行を継続・維持・確保していくにはそれら施設や設備などの老朽更新等の抜本的対策が必要で、巨額の費用を要すると見られている。しかも、クルマ社会への転移や高校の閉校などで沿線を取り巻く環境の著しい変化が進み、同路線の利用者は減少の一途を示す中で地域の鉄道離れが進んでいる。
 まちづくりに新たな局面(公共交通体系の整備)を創出した鈴木直道夕張市長によれば、諸般(人口減少や超高齢化、クルマ社会等)に起因する鉄道の存廃問題に関しては概して関連者相互間の協議の行く末や自治体および鉄道会社の動きを見守り、国もそれを傍観するといった、とかく鉄道の存続に重きが置かれ勝ちな風潮があるという。しかしながら、鉄路の存廃にあたって一番に考えなければならないのは、市民の日常生活に欠かせない移動の手段(足)を如何に確保して守っていくかであり、鉄道での存続に執着のあまりに環境に則した日常生活に本来必要であるべき移動手段の選択方向が見失われてはいまいか、とも気遣う。生活に待ったがなく、足踏みしている時間もない中であっても、鉄道の存廃については誰しもが知恵を出し合い汗を絞り合って考えていかなければならない、と訴える。

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2016年11月18日、JR北海道は自社単独では維持できない路線として道内の全JR路線・2568.7kmの約半分に当たる10路線13区間・1237.2kmを発表し、路線や駅の廃止、上下分離方式による路線維持、バス輸送への転換などによる路線見直しについて沿線自治体と協議を進め、2020年春までに合意を目指すとしていることはすでに周知の如くである。その沿線自治体との見直し協議に関して、最も早い段階で地元との協議が持たれたのは、前述のように廃線の危機を先取りして“廃線提案”を以て臨んだ夕張市である。それと時をほぼ同じくして、JR日高本線(苫小牧~様似間146.5km)も見直しへの協議が持たれている。
画像 低気圧に伴う高波による土砂流出(厚賀~大狩部間)や台風被害などから太平洋沿岸部を走る日高本線は、2015年1月から鵡川~様似間(116.0km)で不通が続いている。同区間は、JR北海道が公表(2016.11)した自社単独では維持困難な線区(10路線13線区)に含まれながら廃止対象からは外れ、経費節減や運賃値上げ、利用促進策、上下分離方式転換などの見直しについて沿線自治体と協議予定だった。しかし同区間は、先の高波被害や2016年8月の台風被害なども重畳して災害復旧費用が86億円に上るほか、海岸線に沿う離岸堤の整備を加えると運行再開には100億円以上が必要とされ、さらにその後の路線や運行の維持には年間13億円を超える費用確保が必要とされていることからJR北海道では、これら費用を自社だけでは賄いきれないとして沿線自治体側に負担を求めていたが、拒否されてきた。
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                        豊郷~清畠間の台風被害JR日高本線 2015.9
 暮れも押し詰まった2016年12月21日、JR北海道の島田修社長は日高本線の沿線自治体(浦河町)を訪れ、鵡川~様似間の不通が2年間も続いていることから1日も早く現実的な解決策を策定する時期に来ていると強調した上で、鉄路での復旧を断念して同区間を廃止し、バス輸送へ転換する旨を提案した。ちなみに同区間の2014年度の輸送密度は会社発足当時(1987)の3分の1(186人/km/日)で、年間約11億円の赤字を計上している。また近い将来、沿線で高規格道路の延伸が予定されていることも、路線廃止提案への理由になったとされている。この鵡川~様似間の廃止に対しJR北海道は、列車運行本数を超えるバス運行数確保や沿線用地・施設の無償譲渡などを含め地域振興へ向け協力していく方針を示し、具体的な協議を早期に進めていきたい考えを示した。しかし、路線廃止に対する地元側(沿線8町)の反発は強く、廃止同意には難航が予想されていた。
 こうした状況にも鑑み、自ら地元路線(JR夕張支線)廃止への提案を行った北海道夕張市の鈴木直道市長は、鉄道の存廃問題に関する協議では“鉄路を守ることばかりが目的化し勝ちになっている”と、いみじくも言い当てる。存廃問題において、いの一番に考えを先行させなければならないのは、鉄道だけに頼って利用してきた市民の足を如何にして守るか…であると力説する。JR日高本線の現状(赤字路線の上、自然災害多発線区)と将来を見据えるとき、その地方の日常に欠かせない移動の足の確保に最も利する方途が見えてくる。
画像 閑散の地を走るJR夕張支線
 もともと鉄道沿線在住の人々の間には、レールが繋がっていて欲しいとする強い願望姿勢があることへの理解には、吝かではない。されど鉄道は、大量輸送という本来の特性が活かせてこそその機能が果たせるものであって、利用者が極端に少ないのなら鉄道に替わってバス輸送等の方がその利点を余すことなく生かすことが可能で、地域への貢献が失われることにはならない。バス輸送への転換は、何も地域を見捨てるという選択肢ではない。とりもなおさず、JRが潰れれば何も守れなくなる…と、鈴木直道夕張市長は言及する。
 ・・・ かつては石炭の採掘が主産業であった北海道夕張市だが、現在はメロン栽培を中心とした農業や食品加工業、精密機械などの産業で構築が図られている。しかしながら、昨今の人口減少や高齢化とも相まって企業進出も進まず、ままならない夕張市政の先行きにはこれからも大きな財政負担を抱えながらの極めて厳しい状況が待ち受ける。   (終)



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