整備新幹線の建設加速に触れる

   整備新幹線の建設加速に触れる
画像
2016(平成28)年6月、政府の経済対策で地域活性化の切り札として整備新幹線の建設加速による開業前倒しが打ち出され、現在建設中の北海道新幹線・新函館北斗~札幌間、北陸新幹線・金沢~敦賀間、九州新幹線・武雄温泉~長崎間において国の財政投融資(財投)を活用することが盛り込まれた。

                               ~ ☆ ☆ ☆ 

新幹線のネットワークは、日本における高速輸送体系の基幹的輸送網であり、地域間移動時間の大幅な短縮で列島に大きな経済活性化をもたらす要の存在にある。しかも、移動輸送機関として、この上なく安全でかつ環境にも優しい優れた特性(新幹線の開業(1964年)以来乗客の死亡事故ゼロ、CO2排出量は航空機の5分の1・自家用車の8分の1)を備えている。その新幹線の整備状況は2016(平成28)年4月現在、既設新幹線(東海道・山陽・東北(東京~盛岡間)・上越の各新幹線)と整備新幹線とを合わせた営業ネットワークの総延長は約2765kmに及ぶ。
 ちなみに整備新幹線とは、1970(昭和45)年に成立した「全国新幹線鉄道整備法」の施行以前に開業した東海道新幹線をはじめ既に建設途上にあった山陽・東北・上越の各新幹線に続く新幹線路線として、同整備法に基づき1973(昭和48)年に建設計画が定められた北海道新幹線・青森市~札幌市間、東北新幹線・盛岡市~青森市間、北陸新幹線・東京都~大阪市間、九州新幹線・福岡市~鹿児島市間および福岡市~長崎市間の5路線をいう。
 これらの整備新幹線においては、1997(平成9)年10月に北陸新幹線(通称長野新幹線)の高崎~長野間が、2002(平成14)年12月に東北新幹線の盛岡~八戸間が、2004(平成16)年3月に九州新幹線の新八代~鹿児島中央間が、2010(平成22)年12月に東北新幹線の八戸~新青森間が、2011(平成23)年3月に九州新幹線の博多~新八代間が、2015(平成27)年3月に北陸新幹線の長野~金沢間が、2016(平成28)年3月には北海道新幹線の新青森~新函館北斗間でそれぞれ開業を見ている。そして現在、工事実施計画の認可の下で北海道新幹線・新函館北斗~札幌間約212km、北陸新幹線・金沢~敦賀間約114km、九州新幹線(長崎ルート)・武雄温泉~長崎間約67kmの3路線3区間約393kmが建設工事の最中にある。

                               ~ ☆ ☆ ☆ 

画像政府の経済対策で、地域の活性化を推し進めるため整備新幹線の建設加速が打ち出され、新幹線網による地方創生回廊をできるだけ早くつくり上げるため新幹線の早期開業に拍車がかかる。そのような中で、延伸工事が進められている整備新幹線3路線の開業時期の前倒し(北海道新幹線・新函館北斗~札幌間5年前倒し2030年開業、北陸新幹線・金沢~敦賀間3年前倒し2022年開業、九州新幹線・武雄温泉~長崎間は可能な限り前倒し)が、2015(平成27)年1月14日に正式決定された。この政府が経済対策として打ち出している整備新幹線の建設加速(早期開業)は、地方・地域の活性化へ向けた“地方創生”の切り札としている整備新幹線網を出来るだけ早くつくり上げるという政府の方策でもある。
 政府主導の公共事業である整備新幹線の建設は、国と地元自治体からの税金、JRから開業後に得る線路使用料や施設の貸付料収入、国からの補助金、民間からの借入金などの財源を使って国土交通省の外郭団体である鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)によって行われる。経済対策としてこの整備新幹線の早期開業に向け政府は、建設費を援助する形で低金利で貸し付ける財政投融資(財投)の活用を盛り込んでいる。ただ、もともと財投は長期かつ低金利(固定)での資金調達を実現し、国や地方公共団体および政府関係機関などを対象に限定して運用されるもので、民間企業であるJRへの財投投入には特別な法的手法が必要となる。
画像
                  札幌延伸に向け掘削工事が続く昆布トンネル10410㍍) ・ 北海道ニセコ町
 先ず経済対策に照らし政府は、現在建設中の整備新幹線(北海道新幹線・新函館北斗~札幌間、北陸新幹線・金沢~敦賀間、九州新幹線・武雄温泉~長崎間)の開業前倒しに財投を融資する考えを示している。建設中の3路線3区間における事業費は計3兆3000億円と試算されており、その建設借入金は約8000億円に達すると想定されている。この借り入れを財投に拠れば、民間からの借り入れより金利負担が最大3000億円ほど軽減できるとされている。とはいえ、ルート建設工事には難工事等の物理的要因が幾重にも係わり、直ちに財投融資が早期開業に結び付くとは限らず不透明といえ、現実的には工期の短縮(早期開業)はままならない厳しい側面が多いとする国土交通省鉄道課の言ではある。
画像
         佐賀県嬉野市~長崎県東彼杵郡を結ぶ俵坂トンネル5705㍍貫通式九州新幹線西九州ルート 2015.8.6

                              ~ ☆ ☆ ☆ 

2016年8月2日、安倍首相は閣議決定した経済対策において財投を鉄道インフラに充てることを宣言した。その下で鉄道・運輸機構は2016(平成28)年11月24日、東海道新幹線の代替え路線とも目されてJR東海(営業・建設主体)が自己負担で建設を開始しているリニア中央新幹線(東京(品川)~新大阪間438km・所要最短67分・総事業費9兆円超)の全線開業前倒しに向けJR東海へ財投融資を同年11月29日に始めると発表した。整備新幹線など日本の鉄道整備政策の実施機関である鉄道・運輸機構にとっては、この融資事業は初めて手掛ける業務である。すなわち、財投の運用は国・地方公共団体・政府関係機関などに限定されているために国が直接民間のJR東海に貸し付けることは出来ないため、一旦鉄道・運輸機構へ貸し付けて同機構がJR東海へ貸し付ける方策が採られたのである。
画像
                       リニア中央新幹線L0系車両 山梨リニア実験線
 2045年のリニア中央新幹線全線開業の前倒しが示された背景は、次のようである。建設の第一段階である品川~名古屋間(約286km)の2027(平成39)年開業(予定)後の8年間は、巨額の建設費(自費)投入を必要とするJR東海の財務状況悪化への影響を避ける意図から、第二段階の新大阪までの建設工事には着手しないことになっていた。ここに財投融資を投入して8年間の間合いを解消し、名古屋開業後速やかに新大阪延伸工事着手を可能にすることで、2045年リニア中央新幹線全線開業を最大8年前倒しする方向が目指されたのである。
 このリニア中央新幹線に対する財投融資の内容は、固定金利0.6%で今年度(2016)は11月と来年(2017)1月、3月に5000億円ずつ計1兆5000億円を、2017(平成29)年度も複数回に分割して計1兆5000億円を融資する方針としており、融資総額は3兆円(見込み返済期限2055年)が予定されている。これにより国土交通省では、民間からの融資より低利になることから、JR東海の建設費負担は5000億円程度軽減される効果を想定している。これによりJR東海は、リニア中央新幹線全線開業を2045年から最大8年前倒しを可能とする素地が得られたかたちとなった。ただ、総務省が2016(平成28)年10月26日に発表した2015年国勢調査確定結果の中で、前回(2010(平成22)年)の調査から人口が96万2607人減って日本は本格的に人口減少時代に入ったことを公表したが、今は事業が好成績のJR東海も高齢化が進み人口が減少していく将来に業績の下降も否定できず、さらにはリニア新幹線の運行にも高コストが懸念され、リニア中央新幹線の開業後にも厳しさは募りそうだ。また、そうした思惑の下でJR東海に対する財投に関連しても、国会の中からは“財投融資償還の確実性を精査できる審査機能はあるのか…”“公的資金による特定企業への優遇だ…”などの批判も聞こえている。そこで、初の融資事業に関わることになった鉄道・運輸機構は、融資に関するノウハウを得るため日本政策投資銀行から2人の専門職員の出向を仰いでいる。石井啓一国土交通相は、“焦げ付くような事態は想定していない”としており、財務省理財局では融資先が税金などで経営の支援を受けたケースはあるとしながらも、財投が返済されなかった例は過去にはないとする。
 いずれにせよ、政府の大型経済対策推進の目玉でもある財投による鉄道への長期・低利の建設資金調達は、国が進める地域の活性化に向けた切り札としての整備新幹線やリニア中央新幹線の建設加速に弾みをもたらすであろう。

                              ~ ☆ ☆ ☆ 

画像現在、2022(平成34)年度敦賀開業に向け金沢から延伸工事(金沢~敦賀間125.1km)が進められている北陸新幹線(東京~新大阪間約700km・2046年開業予想)の敦賀から先の延伸ルートを巡っては、2016(平成28)年4月に新大阪へのルートの中で敦賀~京都間の延伸ルートとして「米原ルート」「小浜・京都ルート」「舞鶴ルート」の3案が米原、小浜・京都、舞鶴、小浜、湖西の5つのルートから絞り込まれて検討対象とされ、与党の検討委員会(与党整備新幹線建設推進プロジェクトで富山・石川・福井・滋賀・京都・大阪の6府県選出の国会議員10名で構成)で審議・検討が重ねられてきた。ちなみに国土交通省が先の京都への延伸ルート3案について示した建設費の試算では、米原ルートが約5900億円(工期10年)、小浜・京都ルートが約2兆700億円(同15)、舞鶴ルートが約2兆5000億円(同15)で、また、費用対効果指数は米原が2.2、小浜・京都が1.1、舞鶴が0.7(投資に見合わない)であった。
 この北陸新幹線の敦賀~京都間の延伸ルートについて2016年12月7日、与党の検討委員会は検討中の先の3案のうち福井県小浜市から京都に向かう「小浜・京都ルート」を選定する方向で検討方針を定め、同ルートの採用が決定的となった。これを受け政府・与党も、「小浜・京都ルート」を採用する方針を固め、これにより同ルートは2016年12月20日開催の与党の検討委員会で最終的に正式決定される見通しとなった。この「小浜・京都ルート」は、営業主体であるJR西日本のほか、沿線3県(石川、富山、福井)も支持をしており、“常識的なところに落ち着いた”とは検討委員会与党幹部の言だ。なお、京都~新大阪のルートについては、東海道新幹線の北周りと南回りの2案が検討されるという。
 もっとも、決まるであろう「小浜・京都ルート」の建設着工には営業主体のJRの同意が必要条件とされており、当初から同ルートを推していた営業主体のJR西日本にとってはまさに宜なるかなである。すなわち、整備新幹線の着工にあたっての基本的条件として、2009(平成21)年12月24日開催の整備新幹線問題検討会議の場で5条件が示されており、その4番目の「営業主体としてのJRの同意」の項で“整備後の新幹線を経営するか否かは、営業主体の経営判断によるものであることから、予め営業主体としてのJRの同意を得るものとする”と示され、着工にあたっての基本的な条件(5条件)が確実に満たされていることが確認された上で、着工するものとされている。ちなみに北陸新幹線の営業主体は、東京~上越妙高間はJR東日本、上越妙高~新大阪間はJR西日本である。

                              ~ ☆ ☆ ☆ 

画像
                            開業1年を迎えた北陸新幹線
整備新幹線は、国や地方自治体からの税金などが投じられて建設される公共事業である。政府は、経済対策の一環として地域の活性化に向け“地方創生”を掲げ、その要に整備新幹線の建設加速を挙げる。前述の延伸ルート検討委員会で「舞鶴ルート」を推していた議員らは、舞鶴が起点の山陰新幹線が実現すればその経済効果は大きいと、舞鶴で北陸新幹線と山陰新幹線が接続する遠大な思惑を抱く。新幹線がまだないのは山陰と四国のみで、地方への公平性の視点(新幹線の整備)が必要だ、と語るのは「山陰新幹線を実現する国会議員の会」会長・前地方創生相の石破茂氏だ。
 全国新幹線鉄道整備法に基づき国が全国に新幹線鉄道網を張り巡らす建設計画を進めたのは、今から40年以上も前の1970年代だ。現在、新幹線の営業区間は延べ約2760kmを超える。しかし、当時と異なり、今は総務省が日本は本格的な人口減少時代に入ったことを示す如く人口減少が進み、高齢化社会の中で社会保障費の膨らみが国や地方の財政難を深刻化させている。しかも、道路網や空港の整備が進み、格安高速バスや格安航空会社など他輸送機関の台頭する下で、国や沿線自治体からの税金をも使って整備を急ぐ整備新幹線への風当たりも強い。
 政府は、経済対策で整備新幹線の建設加速を打ち出すが、人口減少・少子高齢化の中で巨額の投資に見合う経済効果を得るのはそう簡単ではない。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック