窮地に立つJR北海道に寄せて ・ ・ ・

  窮 地 に 立 つ J R 北 海 道
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                  全長259.4㎞のうち名寄~稚内間183.2㎞の区間が見直されるJR宗谷本線
                   
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2016(平成28)年のプロ野球は、北海道にフランチャイズを置く北海道日本ハムファイターズが10年ぶりに日本シリーズを制して終幕した。その興奮の熱気が余韻として残る2016年11月4日にJR北海道は、北海道札幌市の自治体に本拠地を据えている全国でも現存する硬式社会人野球の企業チームとしては最も古い歴史を持つ「JR北海道野球部」を今季(2016)を限りに休部することを発表した。
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                             〈 「JR北海道野球部」 〉
 2015(平成27)年度の経営成績(連結決算)で過去最悪の営業損失352億円を計上し、2016年度においても過去最大になるであろう440億円の経営赤字が見込まれている状況の中でJR北海道は、抜本的な収支改善を迫られている現行経営体制の下ではJR北海道野球部の維持や活動の継続ができる状況にはない(年間維持費4000万円)として休部することに至ったとする。ちなみにJR北海道野球部は、1909(明治42)年に「鉄道団チーム」として発足、都市対抗に13回出場して2007(平成19)には3位の成績を残している。また、少年野球教室などを通して北海道のスポーツ振興の活動に取り組んできた。今後は、現野球部の後援会が運営主体として引き継ぎ、クラブチームとして出場への機会を探るという。

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画像1世紀を超えて北海道の地で馴染み親しまれてきたJR北海道野球部の今季を限りの活動休止の発表には、JR北海道の現在の危機的な経営状況が垣間見えてくる。
 そのJR北海道は今、待望の北海道初の新幹線が開業(2016.3.26)を見たものの、「3島会社」と呼ばれる北海道、四国、九州のJR3社の中で初の株式上場(2016.10.25・東京証券取引所)を果たしたJR九州とは対照的に未だ危機的経営実態から抜け出せずに、赤字路線の廃止など大幅な鉄道網の見直し検討による抜本的な収支改善を迫られている。
 1987(昭和62)年4月の国鉄分割・民営化で北の大地・北海道の鉄道を国鉄から承継したJR北海道は、JR九州やJR四国とともに承継した地の経営基盤が脆弱なことから自力での鉄道の黒字経営は当初から不可能と分かっていたことから、民営化に際し国(鉄道・運輸機構)から経営安定基金の設立を受けその運用益で赤字を穴埋めするスキームが採られた。しかし、その後に続く低金利で運用益はピーク時の半分以下の状況(利回り1~2%)に至って、現在は赤字解消の域にない。
画像 北海道札幌市街
 2016年4月現在において、JR北海道が運営する全鉄道路線は新幹線の1路線を含む全14路線(新幹線1路線・148.8km、在来線の幹線5路線・1327.9km、地方交通線8路線・1092.0km計2568.7km)で、旧国鉄時代に路線廃止の目安とされた1日1km当たりの平均利用者数4000人未満の路線が全体の7割近く(1000km以上)を占めており、しかも所有する14路線の全てが赤字でる。承継した北海道の地は、人口の減少化が全国に比べ10年ほど先行しているといわれている中で人口交流においても札幌(人口194万人・人口密度1740人/㎢の道最大の都市を抱える都市圏人口約260万人(全国第5位)の圏域)への一極集中が進み、この30年で7倍近くも伸びた高速道路網などで民営化以降に利用者が3割以下に減った鉄道路線が4つもあり、鉄道の利用はますます隅に追いやられている。

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JR北海道は現在、2011(平成23)年5月の石勝線列車脱線火災事故を端緒に一連の事故・事象を連続して発生させことから、2014(平成26)年1月24日に国土交通大臣から事業改善・監督命令(「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」)を受けて策定した「事業改善・監督命令による措置を講ずるための計画」(以下「措置を講ずるための計画」)及び「安全投資と修繕に関する5年間の計画」(以下「5年間の計画」)に基づいて各種取り組みが2015(平成27)年度の事業計画から推進されている。この措置を講ずるための計画および5年間の計画(2015~2019年)には2600億円に及ぶ資金が投入され、安全施設・設備の更新や車両の新製・更新、企業安全風土構築・再生および将来の持続可能な経営体質実現に向けた取り組みが推進されている。
画像                                          島田修JR北海道社長
 2016年度の事業計画においてJR北海道は、措置を講ずるための計画および5年間の計画が完了する2020(平成32)年度の経営自立に向けて、道内で最も大量の輸送需要が見込め増収が図れる札幌圏域および都市間輸送に経営資源を重点的に投入するとともに、使用頻度の低い施設・設備の使用停止や廃止による事業運営の効率化に取り組んでいる。さらには、大量輸送という鉄道特性の発揮に適わない利用者や利用頻度の少ない閑散線区については、当然に収支状況が厳しいことに加え進む土木構造物等の老朽化に対し今後大規模な更新工事が必要となるなどJR北海道単独では将来にわたり鉄道を維持していくのは困難であるとして同社は、地域交通の確保を前提に沿線地域の理解と協力の下で持続可能な交通体系の実現に向け事業範囲の見直しに取り組むことを発表した。
 こうした抜本的な収支改善を迫られているJR北海道の島田修社長は、直面している経営危機の問題を先送りすればいずれは資金調達や破綻は避けられないとして不退転の構えでこの危機に臨むとしており、赤字路線の廃止などを含め“選択と集中”へ経営の舵を切って大幅な鉄道路線網の見直しに踏み切る決意を固めた。そして、今秋(2016)までにJR北海道だけでは維持が困難な路線を公表した上で、路線の廃止やバス転換、運行本数削減、運賃値上げ、上下分離による線路維持などを含め沿線自治体と協議していく方針を示した。

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画像JR北海道島田修社長が過日、不退転の決意で臨むとした赤字路線廃止など大幅な鉄道網の見直しについて2016年11月18日にJR北海道は、自社単独では最早維持困難であるとして全14路線2568.7kmの約半分に相当する10路線13区間・1237.2kmにおける路線網見直しを正式に発表した。
 その見直しを行う10路線13区間の選定は、2015年度の1日1km当たり平均乗客数が2000人未満の区間を対象としたもので、次の如くである。①札沼線・北海道医療大学~新十津川間47.6km、②根室本線・富良野~新得間81.7km、③留萌本線・深川~留萌間50.1km、以上は1列車平均乗客数が10人と極度に少ないためバスへの転換が協議される。④宗谷本線・名寄~稚内間183.2km、⑤根室本線・釧路~根室間135.4km、⑥根室本線・滝川~富良野間54.6km、⑦室蘭本線・沼ノ端~岩見沢間67.0km、⑧釧網本線・東釧路~網走間166.2km、⑨日高本線・苫小牧~鵡川間30.5km、⑩石北本線・新旭川~網走間234.0km、⑪富良野線・富良野~旭川間54.8km、⑫日高本線・鵡川~様似間116.0km、⑬石勝線・新夕張~夕張間16.1km(同区間は廃止で夕張市と合意済み)の10区間は、路線や駅の廃止、上下分離による路線維持などの見直しが図られる。これら10路線13区間は、道内の約3割に当たる56市町村の沿線自治体との協議に委ねられ、2020年春までの沿線合意を目指すという。利用者ありきの鉄道経営にあって、将来にわたり維持が困難なこれら見直し路線は民間企業の事業者が担えるレベルを超えている、とJR北海道島田修社長は言葉を次ぐ。
 
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2期連続(2014~15年度)して過去最悪の営業赤字(連結・352億円)を計上したJR北海道の根底には、新幹線を含む全14路線の赤字運営をはじめ、嵩む青函トンネルの維持費や災害復旧費用、「5年間の計画」に基づく安全基盤強化に向けた修繕費や減価償却費の増加などがある。ちなみに鉄道事業の単体決算(2015年度)でも、「5年間の計画」に基づく安全基盤の強化に向けた修繕の継続実施や車両の更新などによる減価償却費の増加、新幹線の開業準備費用などで447億円の損失を計上して、6期連続の悪化(赤字)となっている。さらに前にも触れた如く、今年度(2016)も過去最大となるであろう440億円の営業赤字が見込まれている。
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               JR北海道台風被害室蘭本線十勝清水~羽帯間の流失した清水川橋梁 2016.8.31
 そうした経緯の中、北海道地方を今年(2016)8月下旬に1週間に3度も台風が襲い、JR北海道は会社発足以来最大の自然災害に見舞われた。同社は甚大な被害を被り、その復旧費用は40億円を超えると見られ、列車運休に伴う減収分と合わせると被害総額は100億円近くに及ぶとされる。この事象は、経営が逼迫度を増している今のJR北海道に追い撃ちをかける大きな痛手となり、まさに青天の霹靂であったに違いない。
 この台風被害を受け運転見合せとなっている道内鉄道路線(10月時点)は、河川増水による路盤や橋梁の流失で石勝線・トマム~根室本線・芽室間の64.0km、根室本線・富良野~新得間の81.7km(以上は2016年内復旧の目処にある)、根室本線・東鹿越~新得間の41.5km(被害甚大で復旧工事着手は来春以降)である。この他に函館本線や石北本線でも、路盤・道床の流出や線路の冠水、倒木、電気通信設備ケーブルの断線などで運転見合せに至ったが、これらは比較的早期に復旧に至っている。
画像 また、2015(平成27)年1月に発生した厚賀~大狩部間(5.5km)の高波による線路被害や今夏の台風被害で鵡川~様似間(116.0km)で現在も列車の運休(バス代行)が続いている日高本線(苫小牧~様似間146.5km)についてJR北海道は、復旧費用が86億円(高波被害38億円、台風被害48億円)に上るとして自社単独での復旧は無理であるとして国や道の支援、公的支援を求めている。さらに同社は、鵡川~様似間に対しては前記復旧費用の他に、今後の10年間に土木建築物の老朽化対策などに53億円の費用がかかるとして日高門別~様似間(95.2km)廃止の考えを示しており、すでにJRと地元沿線自治体相互の協議も始まり、同区間沿線7町の町長もバス転換を前提にその廃止を容認しているという。とはいえ、これまで触れてきた路線見直しについて、路線維持等に沿線から相応の負担を求めるとしているJR北海道の方向に対し、昨今の財政難に喘ぐ自治体等から不満の声が広がりを見せてもいる。

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画像                                JR九州上場完全民営化
その最中の2016(平成28)年10月25日に、列島最南端のJR九州が東京の証券取引所に三島会社(北海道、四国、九州のJR各社)としては初の株式上場を果たして完全民営化(JRグループ4社目)を成し遂げた。そのJR九州が株式上場への足掛かりとしたのが、駅ビルや商業施設、不動産事業などの多角経営化だった。一方、列島最北の地に在るJR北海道は、大都市が少なく人口密度も低い輸送基盤が脆弱な北海道の地を承継したことで運輸収入の低迷傾向が続き、新会社発足以来一度も鉄道事業で営業黒字を計上していない。そうした状況の下で、2003年頃から収支改善に向けJR北海道が力を入れて展開を推進したのが、鉄道事業との連携強化を目指したJR九州などと同様に百貨店、ホテル、オフィスビル事業など経営多角化の強化であった。ただ、あまりにも収支改善に力を注ぐ余りに鉄道事業者として本来傾注すべき安全輸送への取り組みに隙を生じさせ、安全の企業風土の低下から前にも触れた如く国から事業改善・監督命令を受ける羽目に陥り、全JR会社がゴールと目指す株式上場・完全民営化をJR北海道はさらに遠退ける格好となった。
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 同程度の多角経営(鉄道事業収入割合・JR北海道40.0%、JR九州39.7%)を推進する両者間(JR九州・JR北海道)において、その得失に差異が生じてしまったのは双方の経営体力に依るところが大きかったといえるのではないか。すなわち、両者とも鉄道事業収益に対し非鉄道事業収益の比重が大きい経営構造は同じだが、JR九州は鉄道事業の赤字が少なく非鉄道事業の黒字が大きいため鉄道事業の赤字をカバーできているが、一方のJR北海道は非鉄道事業の黒字が少なく鉄道事業の赤字を補填(穴埋め)する余裕(経営体力)に欠けていたということである。
 ちなみにJR各社の経営体力として、総営業収入に対する鉄道事業収入の割合(2015年度)を示せば、本島会社のJR東日本・63.0%、JR東海・74.5%、JR西日本・58.6%、三島会社のJR九州・39.7%、JR北海道・40.0%、JR四国・46.8%という割合である。これに照らせば、三島会社の経営は非鉄道事業の展開で成り立っているといえ、今のJR北海道が直面している経営の窮状は同社だけに関わる問題ではない。 (終)

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