JR4社目の完全民営化 ・ JR九州

J R 九 州(九州旅客鉄道株式会社) ~株式上場を達成しJRで4番目の完全民営化成る ・ ・ ・
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国鉄改革による分割・民営化(1987(昭和62).4)から30年を前にしてJR九州(九州旅客鉄道(株)、本社・福岡県福岡市博多区)は、2016(平成28)年10月25日に東京証券取引所第一部に株式を上場した。1株当たりの株価の初値は、売り出し価格の2600円を19%上回る3100円をつけ、終値では2990円をつけて売り出し価格を15%上回った。終値で計算する企業価値を示す時価総額は4784億円に及んで、規模では今年(2016)の国内新規上場の「ライン」(対話アプリLINE・9100億円)に次ぐものであった。このJR九州の上場は、国鉄改革による分割・民営化で誕生したJR7社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州、貨物)では4社目となり、厳しい経営環境下にあるJRの「3島会社」(北海道、九州、四国)としては初めてのケースである。この上場でJR九州は、1億6000万株(所有は国土交通省所管の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構))の全発行済み株式を売却し、新会社として発足から30年目にして「完全民営化」を達成している。
画像 しかしながら、国鉄改革で承継した九州地方の鉄路は赤字ローカル路線が多い故に当初から経営基盤が軟弱で、新会社として発足以降JR九州は一度も鉄道旅客運輸収入面で黒字を計上したことはなく、マンション販売や不動産賃貸収入などの関連収入で鉄道の収入不足を賄って鉄道の黒字化(単体)を保持している。同社の現在の事業運営は、事業収入の6割以上を占める不動産事業を主体とするグループ経営(多角経営)の非鉄道収入により賄い立っている。

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画像       JR九州本社が入る博多駅前ビジネスセンタービル 福岡県福岡市博多区
JR7社は、当然の如くに当初から株式の上場(完全民営化)が経営上の大きな目標であった。未だ上場を果たせていないJR会社は、北海道、四国、貨物の3社で、いずれも全株式は鉄道・運輸機構が所有する。これらの3社についても、出来る限りの早期完全民営化を行う方針であると述べて、上場を目指す国の姿勢は変えていないと記者会見で強調した石井啓一国土交通相であったが、その一方で実現への目処は立っていないことも否定しなかった。
 近年の日本の高齢化社会や人口減少が進んでいる下で、JR北海道やJR四国も沿線の過疎化や人口減少に直面しており、JR九州同様に事業の赤字を非鉄道事業で補填する事業形態に変わりはない。ただ、大きく異なるのは、非鉄道事業の稼ぐ力量の差(強弱)故に鉄道の損失(赤字)をカバーできる利益を上げられない点である。そのため、税的措置(減税など)や助成金といった国の支援が不可欠になっている現状がJR北海道やJR四国の完全民営化への途を遠ざけている。また、JR貨物も、黒字経営に至ってはいるものの、トラック輸送との厳しい競争下で鉄道輸送は赤字で関連事業や非鉄道事業の稼ぎが頼みといったところで、国からの助成や支援を必要としていることから完全民営化は見えていない。

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国鉄改革(1987.4)で旧国鉄から赤字ローカル路線を数多く承継した北海道・四国・九州のいわゆる“JR3島会社”の中で、このほど(2016.10.25)初の株式上場を成し遂げたJR九州。そのJR九州においても当然に、目標として掲げてきた株式上場(完全民営化)の実現に向けさまざまな施策が展開・推進されてきた。その中でも上場に向け勢いをアピールしていたのは、全国的にも注目を浴びてJR九州の鉄道の存在を際立たせていた日本初のクルーズトレインと銘打って登場した豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」をはじめとするD&S列車(デザイン&ストーリー)と称する車両に独特な意匠を凝らした10指に及ぶ観光列車などの運行であったろう。
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                            〈 「ななつ星 in 九州」 ・ JR九州
 されど、事業経営の本質から見ると、株式を上場に導いた真の原動力は経営形態の多角化にあった。JR九州では、新会社として発足した時に約8割を占めていた鉄道関連収入が現在では4割弱に低下しており、本州の東日本や東海、西日本のJR会社が6~7割を占めているのとは対照的な隔たりを示している。2016(平成28)年3月期(平成27年度)のJR九州の連結決算では208億円の営業利益を示したが、不動産等の非鉄道事業がその内の204億円(非鉄道収入)を稼ぎ出していた。遍くJR各社は、商業施設の運営やオフィスビル、マンション、ホテルなどの事業といった鉄道以外の事業も多数手掛けており、中でもとりわけJR九州は他のJR各社より前向きに鉄道以外の事業展開に取り組んでその規模も大きく、駅構内だけでなく市中や市外、海外にまで多角経営の手を拡げている。
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                        JR九州JRJP博多ビル 福岡県福岡市博多区
 2016年春には博多駅東側に「JRJP博多ビル」(地上12階・地下3階の九州最大級オフィスビル)を開業し、博多駅地区の賑わい創出・環境整備等による地域への主体的参画を通し、まちづくりへ向け鉄道と周辺地域との相乗効果の最大化に取り組んでいる。2017(平成29)年には沖縄(那覇)にホテルを開業するほか、東京・新橋に建設される27階建てビルでも、2019(平成31)年にホテルの開業を予定している。また、JR九州は2016年8月、帝人(株)大阪本社ビル(大阪市中央区)の土地と建物(敷地面積約3070㎡)の購入を発表した。計画では、マンションを中心とした跡地の再開発が検討されている。このように、多角経営のスピードを緩めずに推し進めているJR九州は現在、非鉄道収入が鉄道やその関連収入をはるかに凌いで6割を占めている中で青柳俊彦同社社長は、首都圏や近畿圏、東南アジアも含め利益を生み出せる物件であれば沿線外であっても積極的に投資したいと語っており、その意欲の下で同社長は今後の非鉄道収入を7割にまで増やすことを目指すとしている。

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国鉄の分割・民営化から30年目の今年、JR九州がJR4番目の完全民営化(東京証券取引所株式上場)を果たしたことは、同社の並外れた多角経営への努力の成果であったことは先に述べた。しかし一方で、上場への側面には先に触れたデザインを重視した列車運行を手掛けた経営体制に拠るところも大きかったと言えまいか。
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                              JR九州かもめ885系
 JR九州では、ユニークなデザインや鮮やかな色調・意匠を施した列車が数多く運行されているが、何故に奇抜なデザイン等にこだわるのか青柳社長は、“まず乗ってもらうことが大事だから…”と言う。東日本や東海、西日本の本州のJRに比べ、JR九州はローカル線を多く抱え、市場規模も小さく、その上に幹線の優等列車は高速道路網の整備でバスとの競合が激しい。従来と同じことを、他と同じことを延々と行っていては将来はないとも言う。JR九州の顧問に就いていた工業デザイナーの水戸岡鋭治さんは、同社の歴代社長たちから“今まで見たこともないものを考えてほしい。失うものはないので思い切ってやってほしい”と言われたという。
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                           D &S列車或る列車」 ・ JR九州
 水戸岡さんのデザインの下で、1989(平成1)年にJR九州初の観光列車「ゆふいんの森」の運行が開始されたのを皮切りに、列車の色彩や形の構成および地域の素材を活用して挑んだ現役稼働中の既存車両を使用したD&S列車(デザイン&ストーリー)と称する観光に特化した列車が多数運行されている。そして、地元の素材や伝統工芸を使うなど思い切った挑戦から生まれた「ななつ星 in 九州」に代表される前述のさまざまなユニークな列車が走れば地域や沿線の鉄道への関心も高まりを見せ、さらにはこうした独特の列車運行がJR九州への注目を全国的に高めることにつながって、株式上場への舞台づくりに一役買っていたのではないだろうか。いずれにせよ、経営安定基金の取り崩しによる新幹線貸付料の一括支払いや債務返済などの身辺整理に努力を傾けるなど、そこには株式上場に向けJR九州が行ってきた経営改革があった。

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画像 JR九州青柳俊彦社長
今年(2016)、経営の多角化を原動力として株式の上場を達成して完全民営化を果たしたJR九州は、今後さらに非鉄道収入を7割に増やす経営体制を進めるとしている。そうしたさらなる多角経営を行うとするJR九州であっても、鉄道事業者である以上はあくまで主体とする輸送業務に軸足を置いた経営を貫いていかなければならない。この今のJR九州の経営姿勢(体制)に思いを寄せるとき、JR九州と同じ3島会社であるJR北海道のケースが思いを巡る。
 JR北海道は現在、先のJR石勝線列車脱線火災事故(2011(平成23).5)後の鉄道の安全性向上に取り組んでいる最中、2013(平成25)年に特急列車出火等の車両トラブルを始め、線路補修作業の放置や軌道管理データの改竄、社員の不祥事など一連の事故・事象を連続して発生させ、2014(平成26)年1月に国土交通大臣から輸送の安全に関する「事業改善命令・監督命令」を受け、その改善・監督命令を踏まえ策定された「事業改善命令・監督命令による措置を講ずるための計画」および「安全投資と修繕に関する5年間の計画」に基づき安全性の向上、安全基盤の再構築、安全風土の構築に向けた取り組みの途上にある。
 もともとJR3島会社は、国鉄改革による分割・民営化で収益性の低いローカル線を多数引き継いだことから当初から鉄道事業だけでは黒字経営の維持は不可能と見られていたため、国からJR化に際し3島会社に経営安定基金(JR北海道・6822億円、JR四国・2082億円、JR九州・3877億円の計1兆2781億円)が与えられ、その運用益で赤字を穴埋めするスキームが採られた。しかしながら、投入後間もない頃から市中金利が下降線を辿り始め、経営安定基金の運用益は当初予定の半分を下回るようになり、現在の利回りは1~2%台に終始する。こうした状況の中で、穴埋めどころかJR北海道の鉄道の経営は広大な大地と低い人口密度を抱えて赤字(営業14路線全て赤字)は募るばかりであった。その解消・増収へ向け舵を切った先が、JR化で副業が認められていた不動産、店舗、ホテルなどの事業展開で、JR北海道は急テンポで多角経営へ突き進んだのである。そのため、経営の重心が偏重となり、本来なら鉄道へ向けられるべき経営努力が薄らいで鉄道の安全管理体制に影響を及ぼす状況となり、鉄道事業に欠かせない安全風土の醸成が損なわれる結果を招いて今のJR北海道の姿がある。すなわち、多角経営への高進によって、JR北海道の安全への企業風土が利潤追求への企業風土にすり替えられ、一連の事故・事象の連鎖に繋がっていったのではないだろうか。
 2015(平成27)年度JR北海道の決算(連結)では、352億円の営業損失(赤字)が計上され、過去最悪を示した。その営業費用を見ると、先に述べた「事業改善命令・監督命令」に基づき策定された「安全投資と修繕に関する5年間の計画」に2600億円に上る安全基盤の強化に向けた修繕費の拠出が加わり、一連の事故・事象が営業損失の招来に大きな影を落としているのは否めない。多角経営の事業高進の中で、鉄道事業者としての経営の本道(軸足)を踏み違えるとJR北海道の二の舞を踏むことを、JR北海道自らが示している。

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                               九州新幹線800系
このほど完全民営化を成し遂げたJR九州だが、日本経済における雇用や所得環境が緩やかな回復傾向にある中で同社を取り巻く経営環境は、少子高齢化や人口減少の進展、東九州自動車道の延伸がもたらす他輸送機関との競争激化などで、今後も厳しい状況が続くことが予想される。JR九州は今後、株式上場で社会の目が厳しさを増す中で、鉄道事業においては安全とサービスを基盤とした事業運営を行っていくとともに、九州新幹線を基軸とした速達性・利便性・快適性を活かした輸送ネットワークを最大限に活用して収入の確保に努め、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」やD&Sトレインの運行(11本目のD&S列車運行開始を予定)を通して九州ブランドとしての認知度の向上を図り、積極的に九州地方への誘客促進を図っていくとしている。
 まもなく発足後30年の節目を迎えるJR九州、利用者の信頼に応え続けて成し得た完全民営化の道。その歩みの中でJR九州は今後、沿線地域住民や株主の寄せる期待にどのように応えていくのであろうか、注目していきたいところである。 (終)

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