北海道新幹線開業半年に因む

   北海道新幹線開業半年に因む 
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 新幹線鉄道の建設は、1970(昭和45)年に成立した「全国新幹線鉄道整備法」(「全幹法」)に基づき進められており、全国に新幹線網を張り巡らす基本計画が固められたのは1973(昭和48)年からである。それ以前に開業した東海道新幹線や既に建設工事中であった山陽・東北・上越の各新幹線に次ぐ新幹線として、5路線(東北新幹線(盛岡市・青森市間)、北陸新幹線(東京都・大阪市間)、北海道新幹線(青森市・札幌市間)、九州新幹線・鹿児島ルート(福岡市・鹿児島市間)、同・長崎ルート(福岡市・長崎市間))が“整備新幹線”と呼称されて建設計画路線に定められた。しかし日本は今、当初の整備計画時と異なり人口の減少が進行しつつあり、その中で地方・地域の活性化に向け建設途上にある整備新幹線の開業前倒しが続く 
画像 臨時閣議に臨む安倍首相中央)、石原経済再生担当相)、麻生副総理兼財務金融相) ・ 首相官邸 2016.8.2
政府は、2016(平成28)年8月2日の臨時閣議において、日本の総合的な経済対策として事業規模総額28兆1000億円に及ぶ財政投融資による「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定し、発表した。その柱となる施策として、①一億総活躍社会実現の加速 ②21世紀型インフラ整備 ③平成28年熊本地震や東日本大震災からの復興が挙げられ、それら施策の中におけるインフラ整備には財政投融資による10兆7000億円程度が充当され、そのインフラ整備に対しては国土交通省が中核的役割を担う。具体的には、リニア中央新幹線および整備新幹線の整備加速、インフラなどの海外展開支援、外国人観光客4000万人時代に向けたインフラ整備である。この総額28兆円余りを投入す事業規模の経済対策に対し政府は、前述の諸施策の展開によりGDP(国内総生産)を実質13%程度押し上げる効果が期待されるものと試算している。
 国土交通省が受け持つインフラ整備には、リニア中央新幹線の整備に関して現状では、品川~名古屋間が2027年、名古屋~大阪間が2045年の開業予定であるが、これを加速化して全線(品川~大阪)の開業時期を最大8年間前倒しすることや、交通・物流の効率化対策では開かずの踏切対策、コンパクトなまちづくりの実効策として地域公共交通の再構築などが盛り込まれている。また、国が目標とする2020年訪日外国人観光客4000万人へのインフラ整備では、大型クルーズ船受け入れに対する港湾整備および首都圏空港の機能強化、鉄道の分野では駅のバリアフリーや多言語対応策の促進が打ち出されている。

2016年8月2日の政府発表による総合的な経済対策の中で、リニア中央新幹線や整備新幹線等の整備を加速化させる動きが打ち出されたことは前述した。これに先立つ2016年6月、未来の投資加速を目的に総合的かつ大胆な経済対策を行う考えを表明した安倍首相が記者会見で、アベノミクスのエンジンを最大にふかし整備新幹線の建設加速によって地方創生回廊をできるだけ早くつくり上げると宣言し、これを受けて全国では“新幹線熱”が広がりを見せている。ただ、少子高齢化や人口減少が進む日本の現状にあっては、建設に巨額の資金を必要とする新幹線に対し投資に見会う経済効果の発揮を願うのは容易ではない。
画像 観光名所函館朝市」 ・ 北海道函館市
 JR北海道は、2016年3月26日に開業した北海道初の北海道新幹線(新青森~新函館北斗間148.8km)の開業半年間の利用実績をこのほど発表した。開業後半年間(9月25日まで)の利用者は、当初の想定を上回って約143万5000人と、前年同期の当時の在来線利用より約1.8倍の増加を示した。1日当たりの平均乗車数は約7800人(平日約7000人、土日祝日約9400人)で、平均乗車率は39%であった。
 ちなみに昨年(2015)3月14日に開業した北陸新幹線(長野~金沢間)は、開業半年間の上越妙高~糸魚川間の利用者は約482万2000人で、開業前在来線特急の乗客より約3倍も増加して、48%の乗車率を示した。しかしながら、新幹線の開業年に観光客数の跳ね上がりで地元が沸いた勢いも、これまでの新幹線開業後に見るまでもなく、開業2年目以降は鈍る傾向にあるのは紛れもない。2011(平成23)年3月12日に九州新幹線鹿児島ルートが全線開業(博多~鹿児島中央間)した鹿児島県では、開業の翌年には宿泊観光客数の延びが鈍り、北陸新幹線が開業した石川県も今年(2016)に入って、開業した当時の昨年ほどの勢いは失せかけている。ところで、開業の攻勢が続いている北海道新幹線は初めての北海道の冬を迎えようとしており、半年後の動静が気にかかるところでもある。
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北海道新幹線の東京~新函館北斗間の所要は上下とも最短4時間2分で、鉄道が空路より優位とされる“4時間の壁”を破れてはいないものの、当の北海道新幹線の平均乗車率は2016年8月まで年間の平均乗車率見込みの26%を毎月上回っており、順調な推移を保っている。現在、函館市付近や小樽市付近を経由して青森市と札幌市を結ぶ北海道新幹線の延伸ルート(211㎞)では、鉄道陸上トンネルの国内最長となる渡島トンネル(3万2675㍍…村山トンネル(5265㍍)と一体化)をはじめ長い工期を要するトンネル群の掘削工事が進められており、札幌延伸開業時(2030年度末予定)には在来線特急で現在約3時間半を要している札幌までが1時間余りに短縮される。この札幌延伸は、当初の2035年度完成予定が5年前倒しされて2030年度末と決まったが、札幌市は2026年の冬季オリンピック・パラリンピック招致に動いていることからこの開業前倒しを歓迎しながらも、札幌圏では経済効果を考えさらなる1日でも早い開業前倒しへの声が強まりを見せている。これに関連して北海道商工会議所連合会では、2016年8月の東北6県商工会議所連合会との合同会議において新函館北斗駅までの開業では経済効果が道の入口(函館市周辺)に止まるとして、建設途上にある札幌までの延伸工事短縮と財源の確保を国に求める特別決議を採択している。
 JR北海道においてもまた、新幹線が札幌まで延伸されれば道最大の190万都市・札幌を中心とする道央圏、青函圏、仙台圏、首都圏が“線”で結ばれることになり、北海道のみならず東北以西のさらなる活性化につながり、さまざまな分野で大きな経済効果が生まれるとしている。
 青函トンネルを介しJR北海道とつながるJR東日本も、北海道新幹線の開業で同社エリア~北海道相互間の関心が高まりを見せる中で、同社の旅行商品「びゅう」で首都圏方面から青函地域を訪れた旅行者が前年(2015)のおよそ2倍に達しており、この機会を最大限に活かすべくさまざまな取り組みを波及させている。
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総合的な経済対策で整備新幹線の建設加速を打ち出した国は、新幹線整備の促進により大都市がハブとなって地方をつなぐ地方創生回廊をつくり上げ、全国を一つの経済圏に統合して成長の結実が全国津々浦々に行き渡る環境の整備を図るとしている。
 北海道新幹線の開業から半年を過ぎ、なお“新幹線熱”に盛り上がりを見せているのは北海道だけではない。山陰新幹線の整備を目指す2016年7月の決起大会において、来賓の石破茂地方創生相(当時)が新幹線がまだないのは山陰と四国のみであるとして、地方の公平性を顧みる視点の必要を説いた。その四国からは2016年6月に知事をはじめ財界人が上京し、国土交通省に四国新幹線の整備(建設)を求める要望書を提出している。また同年8月には、山本有二農林水産相(衆院高知2区)が記者会見で四国新幹線に触れ、さまざまな観点から政府に鋭意検討していただいている、と明言している。
 国土交通省所管の鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)によって建設されるJRの整備新幹線。その整備加速化(開業前倒し)への建設資金として、現状の低金利を活かして国が発行する財投債を原資とする財政投融資(財投…国が超低金利で貸し出す国が運用する巨額な政策資金)による8279億円の融資が政府発表(2016.8)の総合的な経済対策に盛り込まれた。政府は、現在開業の前倒しが決定している建設中の北海道新幹線新函館北斗~札幌間、北陸新幹線金沢~敦賀間、九州新幹線武雄温泉~長崎間において、事業費計約3兆3000億円の下で想定される借入金約8000億円に対し財投を行う考えを示している。これにより、民間借り入れより金利負担を最大3000億円程度軽減できるという。ただ、民間企業のJRに財投資金を直接投入することは現制度下では出来ないため、国は実際に新幹線の建設工事に当たる国の機関である鉄道・運輸機構に貸し付け、同機構からJRに貸し付ける手法が採られるという。ちなみに、リニア中央新幹線の大阪開業前倒し(最大8年前倒し)への国の支援は、すべて財政投融資の資金調達(2兆3279億円)で賄われるという。

整備新幹線の建設加速を促し、出来るだけ早く地方創生回廊をつくり上げる構想を宣言している国だが、北海道新幹線札幌開業や北陸新幹線敦賀開業、九州新幹線長崎開業の前倒しが決定している下で、どんなに財投の活用を急いだところでこれが開業前倒しにつながるかは定かではない。すなわち、新幹線の建設ルートは、当然の如く新幹線最大の特質である“速達化”(高速化)を生かすため建設にあたってなるべく直線ルートに近い線形の選定に重きが置かれる。従って、国土の狭い日本では長いトンネルの掘削や橋梁の建設などの難工事が避けられず、“工期短縮”には厳しさが加わってこれらインフラ工事の進捗状況に開業前倒し時期が制約されるからだ。
 現在、国土交通大臣の認可を受けて鉄道・運輸機構が建設を行っている整備新幹線の工事延長は、北海道新幹線新函館北斗~札幌間約212km、北陸新幹線金沢~敦賀間約114km、九州新幹線武雄温泉~長崎間約67kmの3路線3区間の約393kmである。すでにこれらの新幹線路線は当初計画の開業時期前倒しによる早期開業が決まっている中で、2016(平成28)年度鉄道・運輸機構の事業概要を覗くと次の如くである。北海道新幹線(新函館北斗~札幌間2030年末度完成予定)では、渡島・立岩・昆布・二ツ森・後志などのトンネル掘削工事が行われている。北陸新幹線(金沢~敦賀間2022年度末完成予定)では、武生・脇本・新北陸などのトンネル工事および手取川・九頭竜川の橋梁建設が行われている。九州新幹線長崎ルート(武雄温泉~長崎間、可能な限り2022年度から前倒し)では、武雄・木場・久山・新長崎などのトンネル工事および嬉野温泉駅高架橋、大村車両基地路盤等の工事が行われている。また、各路線とも、 用地取得や調査・設計、工事発注などが前記インフラ工事に並行して同時進行のかたちで進められている。
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                      北海道新幹線開業一番列車新函館北斗駅 2016.3.26
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1973(昭和48)年の国の整備計画決定から43年、2005(平成17)年の工事着工から11年を経た2016(平成28)年3月26日、整備区間新青森~札幌間(約360km)の一部・新青森~新函館北斗間(148.8km)がようやく開業した北海道新幹線。北海道初の新幹線として、JR北海道および道全体はもとより、東北・関東方面エリアへの人口交流拡大や地域活性化への創出が期待され、開業から半年が過ぎた。道内の恩恵は限定的ながら、北海道の玄関口・函館の周辺観光地は、今も新幹線開業の賑わいが続く。新幹線の利用者数も開業当初の想定を上回り、人口交流にも勢いを見せる。その北の地を走る北海道新幹線が今、初めての冬を厳寒の大地で迎えようとしている。北海道新幹線の新青森~新函館北斗間は、積雪量が10年確率で最大1.6㍍近くにも達し、冬期の平均気温は0℃未満で最低気温もマイナス20℃近くに及ぶ、積雪・寒冷地である。同新幹線は、こうした厳しい環境下を走行することから厳冬期の運行を念頭に置いた他の新幹線が持たない冬季対策設備(降積雪対策…貯雪および開床式高架橋、分岐器融雪ピット、分岐器スノーシェルター、エアジェット式除雪装置など)を有している。
 2016年10月20日に初雪を観測した北海道で今、北海道新幹線は冬の到来を前にして初めての厳冬期の営業運行に向け正念場に差し掛かろうとしている。この北海道の厳冬の期間を果敢・無事に乗り越え安全・安定運行を律してこそ、北の新幹線として面目躍如といえよう。まもなく北海道新幹線は、厳冬の地を走る新幹線としてその真価が問われようとしている。 (終)

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