JRローカル線縮小の動きに見る

 JRローカル線縮小の動きに見る 
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 … 今、日本は少子高齢化・人口減少の時代に入り、鉄道をはじめとする公共交通は利用者の減少で経営の成り行きに多くの課題を抱えている。そうした中で、JRグループ各社は、鉄道のローカル路線縮小への動きを加速させている。

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画像 JRの前身・国鉄は、1964(昭和39)年に赤字経営に転落して以降再三にわたる再建計画にもかかわらず、1982(昭和57)年9月に政府が国鉄の非常事態を宣言したほどに危機的状況に陥っていた。その国鉄は、1981(昭和56)年頃から事業の健全化に向け“後のない計画”といわれた経営改善計画をスタートさせ、その一つとして不採算特定地方交通線の整理(第一次特定地方交通線40線区・730kmおよび第二次同33線区・217kmの廃止や第三セクター方式移行およびバス路線転換)を実施した。そして、北海道地方の第一次特定地方交通線の対象であった国鉄白糠線白糠~北進間(33.1km)が1983(昭和58)年10月に全国のトップを切って廃止され、国鉄再建へ向け廃止第1号となった。ちなみに、第一次特定地方交通線対象の久慈・宮古・盛の国鉄3線(岩手県)は、1984(昭和59)年4月に全国初の第三セクター鉄道「三陸鉄道」として新線開業している。
 こうした国鉄末期の経営悪化に対処すべく実施された国鉄の分割・民営化(6つの旅客鉄道と1つの貨物鉄道がJR新会社として誕生)ではあったが、それに先立ち国鉄の不採算ローカル路線は大幅に整理(バス転換や第三セクター化など)されはしたものの、運営の厳しい路線が数多く残されてJR新会社に引き継がれた。そして、誕生から30年が経とうとしているJRは今も、1980年代にバス路線転換への目安とされた輸送密度(4000人/km/日)に届かない路線を全国にほぼ半数近く抱えている。 近年、国の成長戦略の柱として「地方創生」が掲げられており、地方・地域の活性化に向け公共交通の整備・見直しが求められ、日常生活で移動に必要な公共の“足”をどう守るのか、各地域で検討を深める動きが高まりを見せている。


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 国鉄の分割・民営化(1987(昭和62))で発足したJR北海道が国鉄から承継した路線網を運営する北海道の地は、人口の減少が全国に比べ10年程度先行しているといわれている中で、ここ30年で人口を5%減らしている。鉄道事業経営の基盤は沿線が抱える人口流動にあるだけに、人口密度(65.4人/km)が低く人口減少率の高い北海道の鉄道はその分経営が厳しい状況にある。JR北海道の2015(平成27)年度決算の鉄道単体決算によれば、営業費用において道内初の新幹線開業(2016.3.26)でその準備費などの大幅な増加もあって、鉄道は447億円の損失を計上して6期連続の経営の悪化を招いている。こうした厳しい現在の経営状況の下でJR北海道は、事業範囲の抜本的な見直しの方針として、2016(平成28)年7月29日に「持続可能な交通体系のあり方」について線区ごとに設ける協議会等を通じて地域関係者と検討を重ねていく方針を表明した。
 北海道全体の現在の鉄道動向は、JR北海道によると人口が増加している札幌圏では利用者が増加している一方で、それ以外の地域では少子高齢化や人口減少、道路網の整備などが進んで鉄道利用者の減少が加速しているという。それを踏まえた上でJR北海道は、鉄道の安全輸送確保に欠かせない安全基準を維持するための費用の捻出(確保)を前提に今後の収支状況(現在は赤字体制にある)を見据えた場合に、現状のままでは札幌圏などを含む全道において安全運行に支障を来しかねない状況は拭えないという。そのためJR北海道は、「持続可能な交通体系のあり方」について検討を進めるに当たり同社単独で維持可能な線区と維持困難な線区を今秋(2016)までに提示し、今秋以降に各地域との検討・協議を開始したいとしている。
 その検討・協議の方針として同社は、維持困難な線区についてはバス転換を含めた公共交通の導入・確保を検討し、維持可能な線区にあっても列車運行本数の見直しや駅の廃止、運賃値上げ、上下分離方式移行など経費節減および経営改善に向けた方策を提案するとしている。また、2016(平成28)年度事業計画の概要においてもJR北海道は、地域の公共交通を確保することを前提に持続可能な交通体系の実現に向けた事業範囲の見直しに取り組んで行くことを示している。
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 輸送密度の大幅な減少(会社発足時の10分の1の118人(2015年度))および約1億8千万円(2014年度)の赤字計上、さらにはトンネルや橋梁など線路構造物の老朽化で設備等の維持・更新に巨額の費用が見込まれる状況にあるJR石勝線新夕張~夕張間(夕張支線・16.1km)について2019(平成31)年春に廃止の方向で検討を進めているJR北海道は、その最中の2016年8月8日に夕張市内を通る夕張支線廃止の提案を鈴木直道夕張市長から受けた。JR北海道の島田修社長は、同8月17日に夕張市役所を訪れ新夕張~夕張間16.1kmの廃止を同市に正式に申し入れた。JR北海道にとってはまさに渡りに船というところで、これにより同区間は2019(平成31)年3月にも廃止になる予定である。
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                     鈴木直道夕張市長と島田修JR北海道社長 2016.8.17
 前述の夕張市長の提案は、JR北海道が2016年7月29日に表明した今後の交通体系見直し(「持続可能な交通体系のあり方」)に関する概要を2016年秋までに各地域に提示するとしたことに対し、財政破綻からの再建途上にある北海道の中央部に位置する夕張市(人口約8840人)が“維持困難な線区”に新夕張~夕張間が確実に含まれる公算が大きいとして、JR北海道との協議(廃止)に先立ち先手を打つことで路線廃止に関して有利な条件(持続可能な最良の交通体系構築への協調・協力)を引き出すのが目的(狙い)であったと思慮される。すなわち、夕張市長の提案は、JR北海道が夕張支線を将来にわたって維持することが困難である以上、このピンチ(廃止)をチャンスと捉えて夕張市の将来を見据えた効率的かつ持続可能な交通体系の構築を主眼とし、鉄道に替え新たな公共交通の構築に向けた同市の計画に対しJR北海道の協力引き出しを模索したものである。そして、この提案の趣意は、従来から全国で受け身に終始してきたローカル線存廃を巡る鉄道会社主導の協議過程を脱して地域主導の協議に移行させ、新たな公共交通構築に向け鉄道会社の協力取り付けを目指した「攻めの廃線」(地域主導)にあり、前例のない提案であった。
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 今年(2016)8月下旬に相次いで日本に上陸した4つの台風による豪雨で北海道地方は大きな被害を被り、JR北海道では主要幹線(根室、石北、函館、釧網、日高の各本線)が大きな豪雨被害を受けた。8月30日の台風10号では、JR根室本線の下新得川橋梁(北海道新得町)が流失する被害を受け、札幌と道東を結ぶ同線の富良野~茅室間(111.9km)は今も運転休止が続いており、同路線の全線運行再開は最短でも今年12月の見通しという。ちなみにJR北海道では、この相次いだ台風の豪雨で3つの橋梁が流失し、12箇所で護岸が崩れるなどして8月の列車の運休本数は計2800本(例年の8倍)に及び、この運休による減収は約40億円とされ、災害復旧費は約50億円が見込まれている。同社の島田修社長が、会社発足以来最大の自然災害被害であると悲壮感を漂わすほどに、一連の台風豪雨による今回の鉄道の被害総額は約100億円に及びそうだ。北海道庁の発表によれば、この相次いだ台風の被災による道内の被害総額は2787億円に上り、過去最悪の被害状況となった。
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                    JR根室本線の下新得川橋梁流出被害 北海道新得町 2016.8.31
 日本は災害多発国でもあり、こうした自然災害による復旧費用は時として膨大となり、特に地方・地域のローカル線等にとってはそれこそ経営自体を脅かしかねない重荷ともなる。その重荷に堪えかね、今年度(20116)中に廃止の途にあるのが、JR北海道留萌本線(地方交通線・深川~増毛間66.8km)の終端部分に当たる日本海沿いを走る留萌~増毛間(16.7km)である。留萌~増毛間についてJR北海道は、近年の沿線過疎化に加え、路線に並行して建設が進む深川留萌自動車道の影響から同区間の利用者の減少は避けられず、輸送密度も極度に低い40人未満(2014(平成26)年度)の下で今後の利用者の確保も望めないとし、しかも同区間沿線は多雪地帯で雪崩頻発線区のため長期の列車運行休止もしばしばで、災害多発線区なるが故の赤字額(年1億6000万円)も嵩んで、留萌本線全体の経営を大きく圧迫している現状にあるとしている。まさに災害復旧費の重荷は如実で、5年前の東日本大震災では、津波で被災したJR東日本の鉄道路線のうち気仙沼線(気仙沼~柳津間55.3km)と大船渡線(気仙沼~盛間43.7km)の2つの地方交通線が、甚大な被害の末に復旧費用の捻出が叶わずに鉄路での復旧が頓挫し、BRT(バス高速輸送システム)への転換を余儀なくされて復旧に至っている。
 一方で、台風の惨禍から6年半ぶりに全線で運転を再開した鉄路がある。三重県の松阪市(松阪駅)と津市(伊勢奥津駅)の43.5kmを結ぶ、雲出川(延長55kmの一級河川)の渓流沿い(伊勢奥津~伊勢大井)を走るJR東海の名松線(全線単線非電化の地方交通線)である。JR名松線は、かつて旧国鉄当時に国鉄財政再建の下で第2次特定地方交通線廃止対象線区に指定されたが、代替え道路の未整備を理由に対象から外されて生き長らえた経緯(現在JRで唯一のかつての特定地方交通線)を持つ。
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           台風被災から復旧し、6年半ぶりに全線で運転開始したJR名松線の1番列車 伊勢奥津駅 2016.3.26
 2009(平成21)年10月8日の台風18号でJR名松線は、家城~伊勢奥津間(17.7km)において雲出川の増水で盛土流失や土砂崩壊、落石などで39箇所が被災した。一時は、全線で運休に追い込まれてバスによる代行輸送(松阪~家城間(25.8km)は2009.10.15運転再開)が行われたが、最後までバス代行輸送区間として残っていた家城~伊勢奥津間が6年半ぶりに復旧し、同区間の運転再開でJR名松線は2016(平成28)年3月26日に全線で営業運転を再開した。不採算路線(収入約4000万円・営業費約8億円・輸送密度273人(2012年度))でありながらJR名松線は、台風18号の被災を制して立直り、これで2度も廃止の渕から這い上がり路線の命脈(存続)を保った稀有な存在だ。
 あまねく如何なる鉄道路線においても、予期せぬ災害等の発生で突如として廃止への過程が浮上する可能性を棄てきることはできない。特にローカル線の存廃に関しては、国やJR、沿線が相互に危機感を持つ共通の意識が欠かせない。

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 JR西日本は2016(平成28)年9月1日、地方交通線のJR三江線(江津~三次間108.1km・全線単線非電化)の鉄道事業廃止の意向(2018(平成30)年3月末予定)を表明した。
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                       江の川に沿って中国地方の山峡を行くJR三江線
画像 JR三江線の開業は戦前の1930(昭和5)年で、中国山地を縦貫するため利用状況は開業当初から芳しくなく、1975(昭和50)年に40年以上もかけて全通(江津~三次間)はしたものの、このとき日本はすでにモータリゼーションの途上にあって地域間移動は道路交通に軸足を移しており、以降の同路線の利用は専ら通学生の利用を中心に沿線地域住民の需要に限られ現在に至っている。こうした状況の下で同路線は、超閑散路線であるが故に度々廃止への話が持ち上がっては消えていた。
 広島・島根の両県を流れる中国地方最長の河川・江の川(中国太郎の異名を持つ延長194kmの一級河川)に沿い、中国山地の狭い平坦地や山間を縫うようにして走るJR三江線は、直線距離なら60kmに過ぎないところを江の川を7回も渡り蛇行して走る路線のため、本来の中国縦貫路の一部としての機能は果たされていない。
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                    豪雨災害で橋脚が流出した井原川橋梁 JR三江線 2013.3.24
 その上、江の川の度重なる水害で何度も大きな災害(1972.7、1983.7、2006.7、2013.8)に見舞われており、毎回の如く長期運休や10~15億円もの復旧費用の拠出を余儀なくされてきた。さらには、輸送密度も50人(2014(平成26)年度)と会社発足当時(1962)の約9分の1に落ち込んでおり、鉄道の特性発揮を喪失している。こうした看過できない経営リスクへの高まりにJR西日本は、三江線の廃止に向け舵を取ったのである。
 90年近い路線の長い歴史の途上で、幾度となく繰り返されてきた廃止へのうねりに翻弄されてきたJR三江線、現代の少子高齢化や人口減少化、クルマ社会を背にまた一つ地方の老舗鉄道路線が消え去ろうとしている。 (終)

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この記事へのコメント

henokaapa
2016年10月10日 19:13
まるで地方衰退の象徴のように鉄道ローカル線廃止駅の画面がよく登場します。北海道は日本のどの地域より鉄道の走る光景が似合うところだと思ってきました。北海道が人口減少に苦しんでいるという事は確かに苦しみの原因です、昔空知川という詩的な名前に魅せられ、小説を読み当時入植した人々の苦しみと希望を心に刻んだことを覚えています、今年は台風が空知川流域を襲い大変な被害も出たと聞いています、それから、JR北海道の内部事情(労使問題)も経営内容に暗い影を落とし赤字の大きな原因になっていると聞いています、国鉄時代と変わらぬ体質が今も続いているとか、人災といえなくもありません、北海道のために鉄道存続のために早くそうした残念なことが内部の人たちの意識改革によって改善されることを願わずにいられません。

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