挑むイノベーション ・ JRグループ

技 術 開 発
画像 鉄道は、多様な技術分野に裏打ちされて構成されている輸送機構の集合体であり、長年にわたって積み重ねられてきた広範な技術開発に支えられている装置産業と言える。それ故、日ごと急テンポで高度化・多様化が進む技術分野の今日、時代の要請に対応して鉄道事業を展開していくためには将来の経営目標とともに中長期的な技術開発へのビジョンが必要で、それにはイノベーション(innovation:日本では“技術革新”と訳される)の創出と挑戦が欠かせないといわれる。そのイノベーションに関する最大の理解者であり推進者は、現場の第一線で働き、常に技術的な課題や業務の改善と向き合っている社員であるのは言を俟たない。
 今、JRグループ各社は新会社発足(1987(昭和62)年の分割・民営化)から30年を迎えようとしている中で、各社とも社員の世代交代が急速に進んでJR化後に採用の社員が大半を占める状況の下で、若い世代が輸送業務を担っていかなければならない現状を踏まえつつJR各社では、確実な業務の遂行に向け技能・技術等の継承を可及的速やかに進めるための社員の教育・育成を積極的に推進している。そうした急進する世代交代を見据えJR東日本では、若い世代の社員一人ひとりが利用者の要望や期待に応え、安全で高品質のサービスが提供できる“仕事のプロ”としての育成に力が注がれている。
画像 JR東日本研究開発センター 埼玉県さいたま市
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 イノベーションの創出にあたってJR東日本は、技術分野において複雑・高度化が急テンポで進む現在、自前(自社)の技術だけに頼っていてはその創出は容易ではなく限界もあることから、専門的知見を豊富に擁する外部研究機関との連携や他企業が持つ最先端技術の導入(鉄道総研との連携、大学・他メーカーとの共同研究開発等)を図る“オープンイノベーション”が必要であるとしている。その上で同社は、現場における技術的課題や解決方法を最も理解・把握している現場第一線の社員による取り組みを促進させるため「現場第一線における技術開発」の制度を設け、現場第一線の社員が挑むイノベーションへのバックアップを行っている。これにより、必要な研究開発費や開発製品の導入に要する諸費用等を優先的に確保するほか、有能な社員を技術革新要員としてイノベーションコンダクターあるいはイノベーションリーダーに指定するなど技術開発への成果を促進させている。また、業務等の技術開発を積極かつ継続的に進めるため、2001(平成13)年暮れに埼玉県さいたま市に研究開発を擁護する組織を集中・強化した「JR東日本研究開発センター」(先端鉄道システム、フロンティアサービス、安全研究所、防災研究所、テクニカルセンター、環境技術研究所の6つの研究開発部門)を設立し、技術開発をリードする現場第一線社員の育成にも取り組んでいる。一方で、本社(東京都渋谷区)内に研究開発を総括して計画策定や支援を行う技術企画部を設置し、同部内に設けた知的財産センターで特許や意匠などの知的財産権に係わる保全業務も行われている。

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 北海道初の新幹線(JR北海道・北海道新幹線新青森~新函館北斗間148.8km)が今年(2016(平成28))の3月26日に開業し、北は北海道から南は九州までが一本の高速鉄道で結ばれることになったのは衆知の如くである。これを機に、本州と北海道間の物流輸送の要として鉄道輸送に大きなシェアを占めるJR貨物は、北海道新幹線の開業に伴い青函間(青森~函館)における唯一の鉄道貨物輸送機関として新局面に対峙することとなった。すなわち、従来から青函間で唯一の鉄道貨物輸送を担っているJR貨物には、北海道新幹線148.8kmの開業によりその半分以上に及ぶ青函トンネル(全長53.85km)を含むその前後にわたる新中小国信号場(奥津軽いまべつ駅)~湯の里知内信号場(木古内駅)間の約82kmの区間を新幹線列車と共用して走行するという特殊な運行形態が採られたことから、これまでにはなかった分野である共用走行区間(三線軌条方式軌道:標準軌1435㎜(新幹線)と狭軌1067㎜(在来線)との共用)を運行するための技術開発が求められたのである。それは、JR海峡線当時(北海道新幹線開業以前の中小国~木古内間)の地上施設・設備等が新幹線仕様に大幅に変更されたことへの技術的対応であった。
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              北海道新幹線の共用走行区間を行くJR貨物のEH800形交流電気機関車牽引の貨物列車
 三線走行区間においては、運転関連設備に新幹線方式が導入されたため、電気設備では電気方式(き電方式)がAC20kV/50HzからAC25kV/50Hzへ、保安方式のATSがATS-PF・Ps(アナログ式)からDS-ATC(デジタル式)へ、列車無線装置が新幹線用デジタル式等へと変更となった。その対策・対応として、北海道新幹線開業前の本州~北海道間で貨物輸送を担い稼働してきたEH500形式交直流電気機関車とED79形式(50番代)交流電気機関車を共用走行区間に対応する機関車に置き換えるため、新たにAC20kV/50Hzの在来線区間とAC25kV/50Hzの共用走行区間の両区間を通して運行できる複電圧式のEH800形式交流電気機関車が設計・開発・新製され、新幹線との共用走行区間を挟む青森~函館間(津軽線~北海道新幹線共用走行区間~第三セクター・道南いさりび鉄道~函館本線)の貨物輸送に導入され、同区間の貨物輸送に限定されて運用(17両・五稜郭機関区配置(2016.4.1時点))に就いている。このEH800形式交流電気機関車の技術開発は、在来線の貨物列車が新幹線の路線を共用して走行(三線軌条式)するという、これまでのJR貨物の機関車にはなかった特殊な開発事例であった。
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             青函間運用専用機関車として開発されたEH800形式交流電気機関車試作機) ・ JR貨物
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 世界的にも地球の環境悪化が深刻化している中で、省エネルギーや環境保全等に対する戦略の構築は現代の企業経営にとっては避けて通れない大きな課題となっている。鉄道事業にあっても、発電から送配電、利用までの一貫したエネルギーネットワークを構築・保有するJR東日本をはじめJRグループ各社は、再生可能エネルギーの活用や省エネルギー技術の鉄道への適用に関する研究開発を進め、エネルギーマネジメントの確立を通して環境負荷の小さい鉄道システムの構築を目指している。
画像 環境負荷低減への一環として、国も推し進める中長距離輸送における物流の担い手をトラック輸送(CO2排出量が営業・自家用含め35%以上)から環境負荷の少ない鉄道輸送(同3%)へ移行させるモーダルシフトへの取り組みを推進しているJR貨物では、新会社発足時(1987年の分割民営化)に旧国鉄から承継した車両(機関車、貨車等)の車齢が30年を超える老朽化対策に際しては、最新技術をふんだんに採り入れた車両の開発・製作を進めてきた。それにより現在(2016年度)、JR貨物が保有する車両のうち電気機関車全430両中274両(約64%)とディーゼル系機関車全160両中72両(約45%)および貨車全7310両中6327両(約87%)が分割民営化以降に新製され、省エネルギーなど環境にも配慮された車両となっている。
 それらの中でも、とりわけ環境への配慮を強く求めて開発されたのがHD300形式ハイブリッド入換用機関車で、構内入換用DE10形液体式ディーゼル機関車の老朽化に伴う置換用として開発され、2010(平成22)年から製作・導入されている。同ハイブリッド機関車は、近年の開発・発展が著しいリチウムイオン蓄電池を採用し、ディーゼル主発電装置・主蓄電装置・主変換装置によりディーゼル発電機と主蓄電装置の発生電力を動力源とする2つの動力要素を兼ね備え、同期電動機(全閉永久磁石式)を駆動して走行する日本初のハイブリッド機関車である。また、ブレーキ時には回生ブレーキを使用することで回生電力を蓄電してディーゼルエンジン駆動による発電時間を極力抑えることで燃料消費量を削減し省エネ化につなげるとともに、CO2(二酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)およびPM(粒子状物質)といった有害排出ガスの30~40%以上の低減化を図り、入換時等においても構内運転時の低騒音化(10デシベル以上)など環境保全に向け大きく寄与している機関車である。
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                        HD300形式ハイブリッド入換用機関車JR貨物
 現在、JR貨物が今後の計画として取り組んでいる技術開発としては、本州の非電化区間において本線列車牽引用として稼働中の車齢40年を超えるDE10形式ディーゼル機関車が老朽化で今後の継続的運用が危ぶまれており、その後継に据えるための新形式のディーゼル機関車(電気式)を開発することとなった。また、事故防止の観点から、貨車状態監視装置(手ブレーキ緩解失念防止機能)の開発にも取り組んでいる。留置中の貨車や入換中に解放された貨車に対しては、転動を防止するために駅係員等により貨車の手ブレーキが緊締される。その手ブレーキは列車への連結後に緩解されるが、この作業は担当者の注意力に依存されていることから場合によっては失念により手ブレーキを作用させた状態(緊締)で列車を発車させ事故に繋がる懸念が払拭できないことから、ハード面から失念を防止する目的で編成貨車の手ブレーキの状態(緊締/緩解)を検知してその状態を乗務員や駅係員などに報知し、事故を未然防止しようという装置(無線方式)の開発である。
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                          架線式蓄電池電車819系 JR九州
 この他のJRグループ各社においても、JR東日本が列車と保守用車(軌陸車など)との衝突防止に関する研究開発、線路内作業の安全性向上に向けた多線区用列車接近警報装置の開発、気象ドップラーレーダーを用いた突風に対する列車運転規制に関する研究、JR東海は東海道新幹線車両のブラッシュアップに向け次期新幹線車両(N700S)を支える技術開発や技術開発を通じ最新かつ高度の技術力の蓄積により鉄道事業運営を担う人材育成などの取り組みが進められている。また、営業路線の約4割を占める非電化路線を抱えるJR東海、JR西日本、JR九州などでは、気動車列車に替わり省エネ化を目指すバッテリー電車(電化・非電化区間直通)の開発促進(JR東海・西日本)や交流架線式蓄電池電車(交流電化・非電化区間直通)の開発(JR九州)が進められている。
画像 1911明治44年に“イノベーション”を初めて定義したオーストリア生まれの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950
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 新幹線利用が航空機利用と比肩して優位的な立場に立てる所要時間は、概ね4時間以内が求められる圏内とされている。ちなみに今春開業した北海道新幹線では、東京から新函館北斗までの所要時間は最速4時間2分である。その可能視されていた所要時間(4時間以内)に届かずに開業した北海道新幹線の背景には、青函間を結ぶ唯一の鉄路である北海道新幹線においては貨物列車(在来線)と共用して走行するという運行形態が採られているため、高速運転の新幹線列車と貨物列車が共用走行区間ですれ違いの際に発生する強い風圧などで貨物列車の積載貨物等が影響(コンテナの荷崩れなど)を受けたり事故等が懸念されることから、最高速度260km/hの北海道新幹線においては共用走行区間の約82kmにわたって運転速度が140km/h以内に制限され、最高運転速度の260km/hに運行上の制約が課せられた事情があった。こうして日本初となった新幹線列車と貨物列車の共用走行が開始されたが、双方の間にはまだまだ解決を要する課題が残されている。
 勿論、その一つでもあるのが、速達性を求められる北海道新幹線の共用走行区間における速度向上への課題であろう。これについては、北海道新幹線の建設当初から高速で貨物輸送を行う方策がさまざまな形で提案・検討されてきたが、現実的な施策が生まれないまま開業時期が迫る中で、在来線の貨物列車が北海道新幹線の路線を共用して運行するという特殊なケースが採られたのである。この北海道新幹線の共用走行区間における将来の最高運転速度の向上(引き上げ)については、貨物列車に対する運行上の施策等とともに、すでにさまざまな検討が進められている。果して、日本初の新幹線列車と在来線の貨物列車が共用走行している現状に、将来どのようなイノベーションの展開がもたらされるのであろうかその期待は大きい。
 本格的な人口減少・高齢化社会に直面している今日、遍く厳しい事業環境に置かれている鉄道事業においては経営の最重要課題である“安全”をより効率的に維持・向上させて安定した経営の維持を持続させていくためには、今後も弛みない技術開発の推進が欠かせない。 (終)

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