新局面を迎えた青函鉄路輸送

 新局面を迎えた青函鉄路輸送 
画像 全国新幹線鉄道整備法(1970(昭和45)年制定)に基づき1973(昭和48)年に整備新幹線5路線の建設整備計画が定められたが、そのうちの一つである青函トンネル(53.85km)を抜け函館市付近~小樽市付近を経由して青森市と札幌市を結ぶ全長約360kmの北海道新幹線(JR北海道)は、整備計画決定から43年を経た本年(2016)3月26日に道内初の新幹線鉄道として新青森~新函館北斗間(148.8km・工事費約5583億円)において部分開業した。
 この開業した北海道新幹線の当初の旅客輸送については、当面1日13往復の運行本数が計画(東京~新函館北斗間「はやぶさ」10往復、仙台~新函館北斗間同1往復、盛岡~新函館北斗間「はやて」1往復、新青森~新函館北斗間同1往復)され、最速列車「はやぶさ」は東京~新函館北斗間を上下ともに4時間2分で結んでいる。北海道新幹線の開業後1カ月の利用状況は、前年(2015)の在来線中小国~木古内間の特急・急行列車の1日平均利用者が約2800人であったのに対して約5600人と2倍の利用を示して順調な滑り出しを飾り、ほぼ開業前の想定に沿った利用状況で推移しているという。こうした輸送状況を一過性の開業フィーバーに帰することなくJR北海道にとっては、北海道新幹線の開業が東北エリアのみならず首都圏方面にまで関心を高めていることから、季節を問わずの観光資源に恵まれた道の観光流動創造に向け道内は勿論のこと東北や首都圏エリア方面からの人口流動(受け入れ)の拡大化に取り組み、開業効果を最大限に活用して北海道新幹線の継続的な利用促進に繋げていくことが求められよう。
画像
                        青函トンネルを抜け本州へ渡る北海道新幹線
 新局面を迎えた青函鉄路輸送 
 一方、北海道の経済を支える唯一の鉄道による物流輸送として、それまでの青函航路(青森港~函館港間の連絡船輸送)による貨車航送に替わって1988(昭和63)年3月に青函トンネルの完成とともに開業したJR津軽海峡線(JR北海道木古内~中小国間87.8km)を経由する鉄道貨物輸送が行われてきた。そして本年(2016)3月、北海道新幹線の開業を機に鉄道貨物輸送はまた一つの転機を迎えた。
画像 北海道新幹線三線軌条式軌道区間
 開業した北海道新幹線の特質として、これまでに開業した従来の整備新幹線(東北新幹線盛岡~新青森間、九州新幹線博多~鹿児島中央間、北陸新幹線高崎~金沢間)と異なり、北海道と本州を結ぶ青函トンネルとその前後の約82kmの区間(奥津軽いまべつ駅付近~木古内駅付近)にわたって新幹線列車(JR北海道・軌間1435㎜)と在来線の貨物列車(JR貨物・軌間1067㎜)が線路を共用して走行するという、初めての運行形態(三線軌条方式による「共用走行」)が導入されたことにある。この共用走行を行うことになった津軽海峡線は、青函トンネルをはじめとする橋梁を含む線路構造物等が建設当初から将来の新幹線の運行に合わせて新幹線規格で整備されてきた。ただ、軌道(レール)は津軽海峡線の開業当初(1988.3)から狭軌(1067㎜)で敷設されてきたため新幹線との共用走行導入に伴い共用区間においては、新幹線走行用レールや三線用分岐器類の敷設および電車線設備(き電方式のAC20kV/50HzからAC25kV/50Hzへの変更、DS-ATC(デジタル式)運転保安設備の採用、変電所設備の整備)等の改修工事が行われた。
画像 しかし、この新幹線列車との共用走行に関する改修工事に際しても、北海道~本州間の経済や物流を支えている重要な輸送幹線としての鉄道貨物輸送にはいささかの停滞も許されず、新局面を迎えたからといって貨物輸送の使命が損なわれることになってはならない。そのことを、如実に知らしめた事例がある。北海道新幹線の開業を間近に控え、同新幹線を無事開業させるための重要な事前確認として共用区間の地上システム切り替えによる24時間安定稼働を確認する最終作業があった。旅客列車(在来線)を全面運休させて切り替えを確認する最終作業が2016年3月22日~25日の4日間にわたって実施されたが、その最終作業の間においても貨物列車の運行には一切影響を与えることなくして作業は終了を見たのである。
画像
                        青函トンネルを通過する上り貨物列車JR貨物) 〉
 新局面を迎えた青函鉄路輸送 
 日本の鉄道貨物輸送の大宗を担い、JRグループの中でも唯一の貨物鉄道事業者でもあるJR貨物は、全国で約8300kmに及ぶ路線で貨物輸送(年間輸送トン数約3000万㌧)を行っているが、そのほとんどの輸送路線でJR旅客会社や第三セクター鉄道会社の線路を借り(有償)て営業を行っている第二種鉄道事業者である。
 本州~北海道間の物流輸送のおよそ半分のシェアを担っている鉄道貨物輸送においては、旧国鉄当時の青函連絡船による時代では気象条件に大きく左右されていたが、JR化後の津軽海峡線の開業(青函トンネル開業)により全天候型の安定した輸送機関となったことから、輸送能力の増強と相俟って輸送量が飛躍的に倍近くも伸びた実績(45%増)をかつて示していた。現在の道内における鉄道貨物は、道内に15の貨物駅を配することで全国の貨物駅と結び、東北・関東・東海・関西・九州の各方面へJR貨物により輸送されている。その中でも津軽海峡線は、本州と北海道を結ぶ唯一の鉄道貨物輸送経路としてJR貨物はもとより北海道にとっても非常に重要な路線区である。
画像

 その津軽海峡線で運行されている貨物列車(コンテナ列車)は2016年3月現在、上下合わせて1日51本(臨時を含む)の運行が設定されている。ちなみに、北海道新幹線は1日上下13本である。また、津軽海峡線を経由して輸送されている北海道地区を発着点とする方面別輸送量(2013年度実績)においては、本州方面への発送量が236万㌧/年(鉄道の輸送シェア42%)、本州方面からの到着量が229万㌧/年(同43%) とほぼ拮抗した双方向の貨物輸送量が確保されている。この津軽海峡線を経由して輸送される貨物品目については、北海道から本州方面へは農産品(馬鈴薯、玉葱、米、乳製品など)、紙製品、自動車部品などが主で、本州方面から北海道に向けては宅配貨物、衣類、書籍、加工食品などが主で、総体的に生活必需品を中心とした双方向への輸送が日夜を問わずに行われている。また、この津軽海峡線は、北海道から関東や関西地区方面等への農産品の多くが同路線を経由して運ばれていることから、まさに大都市圏への生鮮食料品供給のライフラインとしての大きな役割をも担っている。
 今回の北海道新幹線開業で、津軽海峡線の青函トンネルを含む前後約82kmの区間が新幹線列車との共用走行となったが、その下でも北海道の経済を支える鉄道貨物輸送路としての津軽海峡線の存在は何ら変わることはない、と前に述べた。ただ、前例のない新幹線との共用走行という運行形態が導入されている実情もしっかりと踏まえることが必要であり、今後も安定的で持続性を持った貨物輸送の確保に向けてこれまで以上に多様な対処・検討を進めていくことが求められていくだろう。

 新局面を迎えた青函鉄路輸送 
 JR貨物にとって、北海道新幹線の開業により新幹線列車と貨物列車(在来線)の双方が共用走行する津軽海峡線は、輸送上重要な路線であることは前述した。当然のことながら、共用走行にあたっては両者の間には運転に係わり安全面や技術面など解決すべき課題が山積していた。その一つが、共用区間を貨物列車を牽引して走る電気機関車に関する問題でった。
画像 JR貨物では、新幹線開業前の津軽海峡線においてはEH500形(交直流用)とED79形(交流用)の電気機関車を使用して貨物列車の運行を行っていたが、両機関車ともに共用区間を走行すること自体には問題はないものの、共用走行に伴って新たに津軽海峡線の共用区間に導入された運転関連設備(AC25kV/50Hzのき電方式、DS-ATCの運転保安設備(デジタル式))には対応していないため入線走行できないことから、共用区間の走行に対応した新たな機関車の開発・導入が必要となった。そこで、新たに開発・新製されて導入されたのが、青函共用走行専用のEH800形式交流電気機関車(総数20両(2016年度中に導入完了予定))である。なお、同形式機関車は、その特殊性から青函共用走行専用機関車として青森地区(交流区間)~五稜郭間(木古内~五稜郭間37.8kmは第三セクター「道南いさりび鉄道」線を経由)における運行に限定されて使用される。これに伴い、機関車の保守等や機関車交換に必要な検修設備および留置線設備等についての整備が行われた。
 ちなみに営業運転列車の最高速度は、JR貨物の貨物列車は全営業走行区間において110km/hであり、対する北海道新幹線の最高速度は260km/hである。しかし、津軽海峡線共用区間を走行する新幹線列車については、貨物列車と高速度ですれ違う際に強力な風圧等などにより貨物列車の積載貨物(コンテナ貨物)に荷崩れなどによる損傷事態を発生させないため、津軽海峡線の共用区間(82㎞)における速度は当面140km/h以下に制限(抑制)されている。このように、津軽海峡線内の一部区間で新幹線の走行速度が抑えられたため、東京~新函館北斗間では航空機より新幹線を選択する目安とされる所要“4時間切り”が当面見送られた。ただ、この共用区間走行の新幹線の速度を向上させる検討は、すでに始められている。

 新局面を迎えた青函鉄路輸送 
画像 北海道新幹線の新青森~新函館北斗間の開業(2016.3.26)により、東京~新函館北斗間は最速4時間2分(開業前の東京~函館間最速5時間22分)、盛岡~新函館北斗間は同1時間50分、仙台~新函館北斗間は同2時間30分(開業前の仙台~函館間同3時間50分)で結ばれ、また新函館北斗から大宮までなら3時間38分と函館から在来線で札幌に行く場合と同じ所要時間である。こうした、北海道新幹線の開業によりそれぞれの地域間到達時間距離が縮まり、また九州から北海道までが新幹線で移動できるようになったことで、青函間の輸送を中心にして北海道~本州間の人の動きが活発化しそうだ。さらには、この道内初の新幹線開業による効果が最大限発揮されるに至るには、道央圏と青函圏や仙台圏、首都圏が線で結ばれることになる190万都市・札幌までの北海道新幹線延伸開業まで待たなければならない。その新函館北斗~札幌間(約211km)の延伸開業は、今から14年後の2030(平成42)年度末の完成が予定されており、すでに長大トンネルなどをはじめとする構造物の工事が延伸開業へ向け鋭意進められている。この延伸工事には約1兆6700億円もの巨費が見積もられ、新函館北斗~札幌間には新八雲(仮称)、長万部、倶知安、新小樽(仮称)の4駅の設置が計画されている。北海道新幹線の全線開業が成れば、道内においては観光をはじめとする様々な分野に大きな経済効果がもたらされ、また北海道のみならず青函圏を含めた東北地方全域のさらなる活性化にも繋がる。ただ、現実には、日本が人口の減少化を迎えている下で開業した新青森~新函館北斗間の沿線も人口減少が進んでおり、しかも同沿線には企業や工場などが少なく安定した需要が期待できないことから同区間の平均乗車率を当面は26%前後とJR北海道は見込んでいる。その上に、青函トンネルの維持費などが嵩むため新幹線の収支においては、開業当初の3年間は年平均48億円の赤字も見込んでいる。その背景の一つには、先に触れた所要時間(新幹線の東京~新函館北斗間最速4時間2分)も関与しているようで、羽田空港~函館空港間の空路による所要は1時間20~30分と航空機が一段と優位だが、一般的に新幹線が空路より優位になるとされる“4時間切り”の壁が越えられなかったことにある。
 道内初の北海道新幹線の開業は、北海道から九州までの列島が高速鉄道で繋がる時代を到来させたとはいえ、北海道新幹線開業の経済効果については前述のごとく厳しい予測が並ぶ。その厳しい状況にあって北海道新幹線開業の効果を最大限に引き出すキーポイントは、青函輸送の流動増強にあるのではないだろうか。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック