旧国鉄長期債務の今

 旧国鉄長期債務の今 
画像 日本の全国津々浦々に網の目のように路線(総延長約2万km)を張り巡らせ、経営の浮き沈みを繰り返してきた日本国有鉄道(国鉄)が、国鉄改革により分割・民営化されてから来年(2017(平成29))の3月31日で30年になる。しかし、その裏側には、国鉄改革で国が背負わされた旧国鉄の長期債務が未だ約18兆円近くも澱のように残されている。今も国が抱える旧国鉄長期債務について、その償還開始から30年を経ようとしているのを機に足跡を少しく振り返ってみたい・・・
 戦後の日本経済の復興は目覚ましく、その中にあって1960(昭和35)年から1969(昭和44)年に至る10年間は、世界の歴史にも例を見ないほど日本にとって驚異の高度経済成長が実現した時代であった。1961(昭和36)年の“岩戸景気”や1966(昭和41)年の“いざなぎ景気”を呼び込んだ好景気に伴った超高度経済成長(年平均11~14%超)は、国民に一段と豊かな生活環境と消費ブームをもたらして消費の多様化・高度化が進んだ。この戦後の日本経済発展の目覚ましい中にあって、国鉄は多くの老朽化した施設を抱えて増大する輸送需要に対処していかなければならない状態にあった。これが国鉄の動力近代化計画(蒸気機関車からディーゼル機関車や電気機関車へ)を推し進める大きな要因となり、さらには東京~大阪間(515.8km)を3時間で結ぶ超高速鉄道への可能性の発表(1957(昭和32).5.25)につながり、東海道新幹線の夢の実現へ向けた第一歩となった。このように続いてきた経済的繁栄と生活の豊かさを反映して完成(1969(昭和44).5)した東名高速道路は、日本にも本格的なハイウェイ時代をもたらした。すでに世界的には、道路網の整備と相俟ってモータリゼーションが急速な進展を遂げて輸送形態に大きな変革をもたらしており、日本においても自動車輸送を主体とする変革で国鉄をはじめとする客貨の輸送シェアは瞬く間に減少していき、鉄道輸送量は伸び悩みの状態に追い込まれていった。
 このような輸送環境の中で、1964(昭和39)年10月1日に日本の交通史上に一大エポックを画した高速鉄道・東海道新幹線が3800億円に及ぶ巨費を費やして開業した。しかし、世界初の高速鉄道として世界から衆目を集めて開業し、鉄道復権が謳われ世界の高速鉄道網の発展に先鞭をつけた東海道新幹線ではあったが、このときすでに世界では鉄道斜陽化論が展開されていた最中にあった。日本の国鉄とても例外にあらず、輸送量は全国的に減少傾向の中にあって、人件費等の高騰とも相俟って新幹線開業の1964年を境に国鉄の財政は赤字に転落していった。

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 その後、再三にわたり繰り返された運賃値上げも効を奏せず、経営合理化の波が押し寄せる中で国鉄の資金事情は極めて悪化した状況に至り、財政再建が大きくクローズアップされた。そこで国は、1969年5月に「国鉄財政再建促進特別措置法」を成立させて同年度を初年度とする国鉄の「財政再建整備計画」(国の助成措置、公共負担の軽減、国鉄自身の体質改善による財政立て直し)をスタートさせた。
画像 しかしながら、マイカーなどの普及から国鉄の輸送シェアは年々縮小を続け、運賃値上げによるも資金事情は好転せずに経営は悪化の一途をたどり、さらには抱える83線区・2600kmに及ぶ輸送密度(需要)の低いローカル路線(地方交通線)が国鉄の経営にとってアキレス腱ともなっていた。その後も、地方交通線問題や労使間紛争、経営の合理化、人員整理など多岐にわたる問題を抱えながら紆余曲折を経る過程で、国鉄の累積赤字は利子が利子を生む悪循環で膨れ上がっていった。こうした国鉄経営が大きな綻びを見せている下で、国の行政改革に関する案件の中でも最も大きなテーマとなっていった国鉄改革の方策(分割・民営化)について政府は、その総仕上げとして国鉄の分割・民営化へ向けた国鉄改革8法を1986(昭和61)年11月(於・第107回国会)に成立させたのである。ちなみに、いわゆる国鉄改革関連8法とは、日本国有鉄道改革法、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律、新幹線鉄道保有機構法、日本国有鉄道清算事業団法、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法、鉄道事業法、日本国有鉄道改革法等施行法、地方税及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律、以上の8法を指す。
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                            JRグループの誕生 1987.4.1
 この8法の成立を機に日本国有鉄道は、1987(昭和62)年4月1日を以て国有鉄道115年の歴史に幕を閉じ、6つの旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会社の誕生により民営会社へと転じて新たに発足することとなった。その国鉄が、改革(分割・民営化)の際に置き土産として残していったのが、37兆1100億円にも及ぶ処理すべき膨大な長期債務であった。

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画像 このほど国土交通省は、旧国鉄清算事業団から国が引き継いだ旧国鉄の長期債務(25兆5200億円)に対する2014(平成26)年度における償還・処理状況を公表した。それによると、1998(平成10)年度末において国の一般会計に承継された旧国鉄長期債務は全体で24兆9800億円であったが、2014年度末時点ではこの16年の間に7兆円余りが償還・処理され17兆9784億3300万円にまで減少した。このうち、12兆5928億円は有利子債務であるが、これも承継時の有利子債務(16兆301億円)より3兆4300億円余りが減少したとしている。
 分割・民営化時当初の旧国鉄長期債務残高は37兆1100億円に及んでいたが、その長期債務は国鉄清算事業団と新幹線鉄道保有機構および新生会社6社(JR東日本、JR東海、JR西日本、JR貨物、鉄道通信、鉄道情報システム・(JR北海道、JR四国、JR九州は免除))にそれぞれ振り分けられて引き継がれた。その分担は、新幹線鉄道保有機構が5兆6000億円余り、6つの新会社が5兆9000億円余りを負担することとなり、残る25兆5200億円が国鉄清算事業団(分割・民営化に際して発足(1987.4.1)した旧国鉄の固定資産売却利益管理、長期債務償還手当、余剰人員再就職促進業務などを主務とする特殊法人)に引き継がれた。

  旧国鉄長期債務の今   
 旧国鉄清算事業団が承継した長期債務(25.52兆円)の償還に当たっては、不要の旧国鉄用地の売却益やJR株式の売却益、新幹線鉄道保有機構からの貸付金収入などを充てることにし、当初から償還の財源不足として見込まれていた13兆7700億円については国民の負担(税金)とする計画であった。しかしながら、旧国鉄清算事業団が承継した巨額の長期債務に対し毎年約1兆円もの利息が発生することから、債務の償還に必要な支払い利息分を超える収入確保の手立て(旧国鉄資産処分益等)ができずに毎年の如く多額の損失(債務額の増加)を計上する羽目に陥り、債務元本(25.52兆円)の処理さえも叶わずにかえって債務総額が28兆3000億円へと膨れ上がって当初の償還スキームは事実上破綻に終わってしまった。
画像 旧国鉄用地
 これを境に、債務処理に関する法律が制定(1998(平成10).10)され、国鉄改革の日から約11年半にわたって旧国鉄から承継したJRの土地や株式等の処分に当たってきた旧国鉄清算事業団の業務は、同事業団の解散(1998.10.22)とともに日本鉄道建設公団(内部設置の国鉄清算事業本部)に引き継がれた。この時点における旧国鉄長期債務等の総額は、前述のように28兆3000億円であった。このうち、元国鉄職員の年金等の負担費用3兆9000億円を日本鉄道建設公団が承継し、2000億円をJRが負担することとなり、残る24兆1000億円が一般会計として国に承継された。すなわち、税収を財源とする国民負担に依存することになったのである。

  旧国鉄長期債務の今 
画像              鉄道・運輸機構が入る横浜アイランドタワー神奈川県横浜市) 〉 
 2003(平成15)年10月1日の特殊法人改革に伴い、解散した日本鉄道建設公団に替わって新たに発足した独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が旧国鉄長期債務処理を引き継ぎ、同機構内に旧国鉄清算事業本部を設けて償還業務を実施してきた。ちなみに鉄道・運輸機構は、従来の日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団を統合して設立(2003.10.1)された、鉄道の建設および助成や国内船舶の近代化等を担う独立行政法人である。
 その後、鉄道・運輸機構においては、同機構(清算事業本部)が受け持っていた旧国鉄用地等の資産売却処分の業務がほぼ順調に進捗し終えたことに伴い、2008(平成20)年3月31日に同機構内設置の旧国鉄清算事業本部は廃止された。ただ鉄道・運輸機構においては、今後も同機構が旧国鉄から承継した土地等の処分や旧国鉄職員の年金給付に要する費用の支払い等の旧国鉄関連業務は継続される。その鉄道・運輸機構は現在、本来の業務のほかに2011(平成23)年に設置された経営自立推進・財務部によりJR3島会社(JR北海道、JR四国、JR九州)およびJR貨物会社の経営自立支援に当たるとともに、2015(平成27)年8月に新たに地域公共交通への出資・融資業務が追加されて地域公共交通の再編・整備に対する支援にも就いている。
画像 一方、旧国鉄長期債務に関しては、2014(平成26)年度末時点における国が引き継いだ旧国鉄長期債務の残高は17兆9784億3300万円と、1998年度末に国の一般会計が承継した同長期債務は24兆9800億円であったことから、この16年間で約7兆円ほど減少したことになる。すなわち、おおよそ国民1人当たり7万円の税金が旧国鉄長期債務の処理に使われたことになる。今、日本の人口は2007(平成19)年から9年連続で減少を示しており、この傾向は今後も続くものと見られている。人口を維持できる水準とされる合計特殊出生率(1人の女性(15~49歳)が生涯に産むと見込まれる子どもの数)は2.07(将来の人口増減を見通す指標)であり、その出生率が2005(平成17)年に過去最低の1.26に転じてからその後わずかながら上昇傾向が続いているが、2013(平成25)年には1.43と前年を0.02ポイント上回ったものの人口を維持できる水準には遠く、今後も人口の減少(2015年度総人口1億2702万人)に歯止めがかかりそうにない(厚生労働省)と見られている。つまるところ、単純に考えれば国の一般会計に承継された旧国鉄長期債務の今後の償還(処理)に当たっては、年々の利払いも加わる下で、国民1人あたりの負担(税額)が増えていくのかあるいは償還期間が延びるのかの岐路に人口減少の推移が関わりそうである。
 旧日本国有鉄道115年の歴史の中で残された膨大な債務、国鉄改革の分割・民営化の中でその債務の処分には多大な努力が注がれてきた。しかし、国鉄改革からまもなく30年を経ようとしている現在に至るも、巨額な旧国鉄長期債務は国民の税金の中で陰影のように存在し続けているのである。 (終)

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