JR北海道の再生に見る

画像JR北海道 は、20011年5月27日に発生した石勝線列車脱線火災事故(石勝線の占冠~新夕張間を走行中の特急〈スーパーおおぞら14号〉(キハ283系6両編成)が清風山信号場内で脱線し、同信号場内の第2ニニウトンネル(685㍍長)内で停止後に全車両が炎上・焼失し、乗客・乗員合わせ79名が負傷した)を端緒にして以降、2~3年の間に列車事故(度重なる特急列車のエンジンや配電盤などからの出火・発煙事故、軌道の点検保守作業の疎漏・放置による貨物列車(JR貨物)の脱線事故など)や点検保守の作業ミス(軌道の点検保守に関する検査データ類の改竄など)、社員の不祥事(運転機器の故意破損や覚醒剤関連など)等を連続して発生させたことから安全軽視の企業経営姿勢が世間から厳しく批判され、2014年1月に国土交通省から鉄道事業法に基づく二度にわたる「事業改善命令と監督命令」(これら命令を二度も受けたケースは前例がない)を受けて鉄道輸送事業者としての安全輸送に対する社会の信頼度を大きく失墜させてしまった。この事象に対処するためJR北海道は、同社の信頼回復と再生を図るべく2014年4月に経営陣を一新させて同年7月と12月に事業改善命令・監督命令による措置を講ずるための計画を策定した。この下にJR北海道は今、2015年3月に「安全投資と修繕に関する5年間の計画」を取りまとめるとともに、企業経営の混迷からの脱出を期して北海道の鉄路の再生を図るため、全社を挙げて一から安全最優先の企業風土づくりの計画実行に取り組んでいる最中にある。
画像
             JR北海道石勝線特急列車脱線火災事故2011.5.27で焼失した車両群トンネル外へ搬出後) 〉
 2016年の“年頭所感”の中で、JR北海道の島田 修代表取締役社長は次のように述べている。…「“安全の再生”について両監督命令による措置を講ずるための計画に基づきコンプライアンスの徹底や安全風土の構築などに取り組むとともに、軌道強化や老朽化した車両の更新など“5年間の計画”(注・同投資額は安全対策費1200億円および修繕費1400億円の計2600億円)を着実に推進します。あわせて、安全投資と修繕に必要な資金を確保するため業務費等の見直しや不用資産の売却等の最大限の自助努力に取り組むほか、国から措置していただく追加的支援(注・5年間の計画投資額2600億円のうち自助努力では用意できない1200億円(内900億円は国へ返済する無利子貸付金)を国が支援)を有効に活用してまいります。“持続可能な経営基盤の再構築”については“提言書”を踏まえ将来にわたり安全で持続可能な経営を実現するため、極端にご利用の少ない駅・列車の見直しや鉄道施設の休廃止など事業範囲の見直しに取り組むほか、北海道の総合交通体系再構築の協議にも積極的に参加してまいります」…。
画像                                    JR北海道代表取締役社長 島田 修氏
 その上で“年頭所感”では、会社再生への取り組みは道半ばとしながらも安全の再生を着実に前進させるとともに、貨物列車との共用走行などの困難な課題を抱えながらの道内初の北海道新幹線を2016年3月26日に無事開業させることが大切との認識に立った上で、開業効果を北海道全域および東北各地に拡げていくことを通してJR北海道の信頼の回復に繋げていき、さらに新幹線の開業を契機にJR北海道グループ(全29社)が一丸となって収益の拡大化と北海道地域全体の活性化に努めていくとしている。

2014年1月24日 に国土交通大臣から事業改善命令と監督命令(「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」)を受けたJR北海道は、“安全”を最優先に社業の再生を図るために新生“JR会社”として誕生(1987年の国鉄分割・民営化)以降これまで設備投資や修繕等を先送りしてきた鉄道施設や車両への対処(安全確保に必要な設備投資や修繕が行われないままに使い続けられてきた)に係わり今、抜本的な施策(見直し等)の展開に取り組んでいる。その設備投資など関連部分の見直しを行うに当たりJR北海道は、2015年3月20日に「安全投資と修繕に関する5年間の計画」(2014年度~2018年度)を国土交通大臣に提出した。
 その“5年間の計画”推進に向けた基本的考え方として、①安全投資と修繕を最優先して推進する。②老朽対策の計画は、ライフサイクルおよび予防保全の考え方に基づき行う。③修繕は、予防保全を主眼とし、施設の規模や老朽進度等を勘案したベースとなる修繕費の考え方に基づき計画する。④メンテナンスについては、検査機器等の整備を図り、検査・保守業務の機械化およびデータ管理のシステム化を進める。⑤現場からの提案や当面する緊急性を踏まえ、これまで先送りされてきた施設等に対し必要な設備投資や修繕を実施する。⑥安全に関する設備の整備においては、工事費の目標設定や契約内容を見直し、設備のスリム化や現状に即したコストダウンを実現する。⑦限りある資金で安全レベルを維持していくため、安全管理の可能な範囲における列車の最高速度制限や使用頻度の少ない設備、利用が著しく少ない列車運行や駅の見直しなど「選択と集中」推し進める、といったこと等が挙げられている。この基本的考え方に沿った“5年間の計画”における安全投資の主な内容を挙げると、①車両の老朽対策については、旧国鉄から承継した電車(711系)の取替(2014年度完了)や老朽化した特急気動車の取替(2016年度から着手)、ローカル線用気動車の老朽取替と代替気動車の製作(2017年度から着手)の実施。②軌道管理・強化(メンテナンスの負担軽減)については、PCマクラギ化の推進(函館本線(渡島砂原経由の砂原線)大沼~森間35.3km・2014年度完了、根室本線新得~釧路間172.1km・2018年度完了予定、幹線の副本線およびローカル線のPCマクラギ化・2014年度から着手中)、ローカル線の弱小レールの交換(2015年度から着手中)、軌道・電気総合検測車および保線設備管理システムの導入、等である。
画像
             軌道点検補修の放置で起きたJR函館本線大沼駅構内貨物列車JR貨物脱線事故 2013.9.19
 また、“5年間の計画”における修繕については、車両修繕では予防保全の考えに基づく部品等の交換周期を見直し、搭載機器や部品等を定期検査時等に集中的な修繕を行う。施設修繕では、レールシェリング対策として主要線区におけるロングレール化を進めるとともに、検査結果(軌道等)や健全度判定(橋梁・トンネル等の土木構造物や駅(多数が建設以来100年以上経過))等を適正に反映させた修繕を実施するとし、加えて先送りしてきた電気設備や建物等における大規模修繕を行うとしている。
 この“5年間の計画”を進めていく上でJR北海道は、資金(2600億円)の捻出に当たっては最大限の自助努力を傾注して限りある経営資源を有効に活用していくため、事業全般の見直しを推し進める方針を示している。具体的には、使用頻度の低い設備(副本線、側線、留置線等(人件費・管理費の抑制))の使用停止や撤去、メンテナンスに必要な長大間合い(列車運行間合い)確保に向けた検討、利用旅客の少ない駅や列車等の見直し等々安全の確保を大前提とした経営基盤の強化に取り組み、会社再生を確固なものにする道筋の確立を目指している。ちなみに、2016年3月26日のダイヤ改正時からJR北海道内では極端に利用の少ない列車の運行削減や駅の廃止が行われる。列車では普通列車79本が減便されるが、見直しが行われる線区を示すと函館本線では函館~長万部間(112.3km)49本中4本および長万部~小樽間(149.2km)35本中5本、室蘭本線長万部~岩見沢間(218.0km)102本中14本、石勝線千歳~夕張間(62.1km)25本中8本、宗谷本線旭川~稚内間(259.4km)58本中8本、札沼線石狩当別~新十津川間(50.6km)15本中5本、根室本線では滝川~釧路間(308.4km)78本中10本および釧路~根室間(135.4km)21本中8本、釧網本線網走~釧路間(167.1km)27本中8本、石北本線旭川~網走間(234.0km)が59本中9本と、各々の路線で削減(減便)される。なお、札沼線の浦臼~新十津川間(13.8km)は1日1往復のみの運行となる。同様に廃止される駅は、函館本線の鷲ノ巣、石勝線の十三里と東追分、根室本線の花咲、石北本線の上白滝・旧白滝・下白滝および金華の計8駅(これらは1日平均の乗車旅客が1人以下)である。
画像
               新型気動車への取り替え計画が進む経年劣化のキハ40系一般型気動車JR北海道
JR石勝線列車脱線火災事故 (2011.5.27)を発生させた反省に立ち、鉄道輸送の高い安全性向上に取り組んできたJR北海道だが、そこに待ち受けていたのは“5年間の計画”立案で弾き出された2600億円に及ぶ安全投資および修繕に要する資金の山であった。JR北海道の経営現状からその資金の捻出に当たっては、外国債や株式の売却による経営安定基金運用益の積み上げ、不動産の売却、子会社の整理・売却など最大限の営業努力を行ったにしても同社が用意可能な資金は試算で1400億円程度とされ、残りの1200億円は独自の努力では到底賄いきれない状況であった。そのため、「JR北海道再生推進会議」(2014.6に設置された外部からの第三者により経営のあり方等について幅広く視点や助言を得る会議)による提言からJR北海道は、安全対策に対し自助努力では及ばない部分の資金調達は国からの追加的支援(2015.6国土交通省は1200億円の支援を発表)を仰ぐこととなった。
 ただ、この“5年間の計画”実施に要する2600億円の資金は年平均500億円強と、近年は改善されてきているとはいえ営業損失(2014年度389億円)は依然として大きいことからJR北海道にとって大変厳しい状況にある。“安全”は天から降ってくるものではなく、その確保には多大な費用が割かれなければならないのが、紛れもない現実なのである。「安全第一」を標榜して止まない鉄道輸送事業者にとっては、“安全”を置いてくるような事業経営の体制(姿勢)においては、その見返りは高くつくことになる。とはいえ、広大な地・北海道における公共交通機関の一翼を担っている今のJR北海道(全14路線・2457.7km、うち幹線5路線・1327.9kmおよび地方交通線9路線・1129.8km)にとって“安全の再生”は避けては通れず、安全の確保を大前提とした持続可能な経営基盤の強化へ向け今後も営業努力を惜しんではいられない。
画像                       走行試験運転中のJR北海道新幹線H5系車両
2016年3月26日 に開業する道内初の北海道新幹線(新青森~新函館北斗間148.8km)はJR北海道にとって新たなスタートへの展開となるが、在来線(貨物列車)との共用走行(3線軌条方式による新中小国信号場~木古内間82.1km)、積雪寒冷地走行、青函トンネル(53.85km)走行等々の従来の新幹線とは異なる特殊な条件の下で、しかも今回は本来(計画)の新青森~札幌間約360kmの路線のうち新函館北斗までの約149kmに止まることで、北海道の中核都市・人口190万人を擁する札幌市までは届かずの開業とあって需要への見通し(活性化)は未知数といえ、JR北海道の今後の営業努力如何にかかる比重が大変大きいといえる。北海道新幹線(新青森~札幌間)は、JR北海道のみならず道全体の活性化には不可欠であることから早い時期の新函館北斗~札幌間(約211km)の開業が望まれるところであるが、その開業は概ね20年後と予定されている。
 JR北海道は今、先に述べた如くに国の事業改善命令・監督命令の下で安全への再生に向け奮闘努力の最中にあるが、今後は新たな北海道新幹線開業効果の最大化への取り組みとともに、安全およびコンプライアンスへの取り組みを通した安全性の確立による会社再生へと、二足のわらじを履いていかなければならない多難極まる経営へ立ち向かうことになる。 (終)…JRガゼットを参照させていただいた. 参照公開ブログ…「再生へ進む~JR北海道グループ」2015.9.19.

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック