限りなく運転事故ゼロに向け ~安全性の向上

限りなく運転事故ゼロに向け
 安全は、鉄道事業にとって最優先事項であることは、昔も今も不変である。日本の鉄道創始(1872)以来これまで、鉄道事故防止にソフト・ハードの面からさまざまな対策が立てられ実施されてきた。しかしながら、いくら努力をしたにしても100%の安全性を確保することは鉄道の特質(専用軌道による制約)から難しく、鉄道事故ゼロに向けた取り組みに終わりはない。
画像 公益財団法人鉄道総合技術研究所
 安全な鉄道の実現に向けては、各鉄道事業者自らが弛みない努力を積み重ねて努力をしているのは論を待たないところだが、一方で、より安全で安定した鉄道輸送の実現に資することを最優先課題として鉄道システムの安全・信頼性向上に向け研究・開発に取り組んでいるのが、鉄道の将来に向けた研究・開発を行い、高度な技術力を以て鉄道事業者への技術移転および指導を行う機関である公益財団法人・鉄道総合技術研究所(鉄道総研・東京都国分寺市)である。その鉄道総研では、鉄道輸送の各分野(施設、運転、車両、防災、利用者の安全向上など)における研究・開発をテーマに据えるとともに、複数の技術分野の総合力を結集させ鉄道の将来指向を課題としたプロジェクト型の研究・開発を推進している。勿論、安全を最重点課題とした研究指向であることに揺るぎはない。ちなみに将来指向課題とは、今日あすの実用化を主眼とする課題ではなく、将来の鉄道の安全を見極めていく上で必要な技術開発を見通して、鉄道総研が持てる総合力を発揮・傾注して取り組む課題である。

限りなく運転事故ゼロに向け
 鉄道総研で研究開発が行われているプロジェクト型研究・開発は、5年を単位とする基本計画に沿った過程で行われる。今は、2015年度からスタートした新たな基本計画「RESEARCH 2020」(2015~2019年度)に沿って革新的技術の創出を目指し、「鉄道システムの更なる安全性の追求」が課題設定されて研究・開発が進められている。その5年を単位とした基本計画で、2014年度を以て終了した「RESEARCH 2010」(2010~2014年度)においては将来指向課題についてプロジェクト型研究・開発が推進されたが、取り組まれた課題としては「知能列車による安全性・信頼性向上」「脱線・衝突に対する安全性向上」「気象災害に対する安全性向上」「地震に対する安全性向上」が設定され、2015年3月まで取り組まれてきた。その主な内容を概記してみる。
 鉄道システムの安全性・信頼性を飛躍的に高め、鉄道事故防止に資する対策としての研究・開発の一つが列車の知能化である。すなわち、列車の周辺・前方の状況(踏切を含む線路内への人や障害物の侵入)を車上センサーや地上からの無線情報、路線の空間情報などの把握に基づき走行可能運転パターンを自ら決定して安全性を高めるものである。また、予測可能な事故の回避を可能とする列車制御システムの基盤技術および必要な運転情報を乗務員に提示する手法を開発し、人と機械を総合的に併せたシステムとしての安全性の構築などである。
画像                           鉄道総合技術研究所の研究・開発イメージ  
 脱線・衝突等に対する安全性向上については、脱線しにくい台車の開発(輪重減少抑制機構と横圧低減の操舵機構の導入)と車両が障害物と衝突した際の乗客・乗員の被害軽減を図るため、車体構造および車内内装品の材料や配置に関して必要なシミュレーション技術を構築している。
 気象災害(集中豪雨、強風、雪崩、落石、土砂崩壊など)に対する安全性の向上については、災害発生頻度が高い箇所の可視化を図るために気象状況の予測精度を向上させた「局地気象シミュレーション手法」の開発および気象災害の危険性を地理情報システム(GIS)上に表示する「ハザードマッピングシステム」(沿線の要注意箇所の視覚的把握化)を開発している。
 地震に対しては、そう遠くない将来の発生が予想されている巨大地震では、震源から遠く離れた地域で長い周期の揺れ(長周期地震動(2~10秒))が長時間にわたり続いたりすることが予想され、高架橋や地下構造物、電車線構造等の耐震性評価手法確立によるさらなる耐震対策の検討を提案している。また、基本計画「RESEARCH 2010」の最中に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災・2011.3.11)による災害を受け、架線柱や駅ホーム上家の耐震性評価および耐震対策等の項目が追加されて取り組みが強化された。その2014年度に終了した基本計画「RESEARCH・2010」に次ぎ、安全性向上を目的に鉄道総研が将来指向課題として取り組む基本計画「RESEARCH 2020」の取り組みが今年度(2015)からスタートした。主な将来指向課題として、「鉄道システムの更なる安全性の追求」「情報ネットワークによる鉄道システムの革新」「新幹線の速度向上」「鉄道シミュレータの構築」の4つが設定されている。
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                        JR東日本総合研修センター福島県白河市) 〉
限りなく運転事故ゼロに向け                   
安全は鉄道輸送事業における最重要事項であることを冒頭に触れましたが、人が係わり数多の条件・要素が絡む安全性を100%確保・維持していくことは至難で、安全性を限りなく高めていくための取り組みに終わりはない。その安全の確保には人の関与が避けられず、安全に関する教育・訓練により安全を支える礎となる人材の育成が必須である。各鉄道事業者においては、安全に対する人材育成(教育・訓練)を実施していくにあたり自前で研修センターや訓練センター等を設けたり、外部委託による教育などを含め、幅広い視点で安全意識や知識・技能の維持・向上が図られている。また、安全確保のために創出された規則や設備等の多くは過去に起きた事故の経験や反省に基づいて構築され、また、尊い犠牲の上に得られた貴重な教訓でもあることから、“事故に学ぶ”ことで安全に対する基本姿勢を引き継いでいくために過去の事故の歴史を学ぶ場として事故展示館等の開設がJRをはじめ大手民鉄で進められてきた。
 このところ連続して諸事象(回送列車と保守用車の衝撃・脱線(京浜東北線)、電化柱倒壊(山手線)、架線断線(東北新幹線)、架線断線(根岸線)、送電ケーブル損傷連続発生(山手線)等)を発生させているJR東日本においては、総合研修センター(福島県白河市)内に「事故の歴史展示館」を併設し、安全の真髄を学ぶことができる施設としてさまざまな研修に活用されている。2014年3月には同展示館を拡充し、同館内に事故を起こした状態のままの車両を保存・展示した“車両保存館”を開設している。
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                          JR東海総合研修センター静岡県三島市) 〉
 JR東海は、建物が老朽化した2箇所の旧教育訓練施設を廃止・統合して、新たにJR東海総合研修センター(静岡県三島市)を2011年9月に開設している。
 JR化後の最悪の事故となってしまった宝塚線(福知山線)列車脱線事故(107人死亡・500人以上負傷)を2005年4月25日に惹き起こしてしまったJR西日本では、社員研修センター(大阪府吹田市)内に鉄道の安全に関する仕組みや労働災害防止に関して効果的な教育につなげることを目的に2015年1月に「安全体感棟」(「鉄道安全システム学習室」と「労働災害学習室」から構成)を開設し、主に鉄道事業に携わる新入社員や初任者を対象とした設備内容で効果的な教育の実施に役立てている。
画像     JR九州社員研修センター内安全創造館」(福岡県北九州市) 〉
 新しいところでは、間近に迫った株式上場を控えるJR九州は、社員研修センター(福岡県北九州市)内にお客様の安全を目指して行動できる社員の育成のため2011年に安全教育に資するツールとして「安全創造館」を開設している。同館における教育は、役員以下の全社員と鉄道事業に関連するグループ会社社員を対象としている。
 安全はつくり上げるもので、そのためには基本動作や安全対策の意味をよく理解することが欠かせない。それらは、過去の事故の経験や反省に基づいて構築されてきた安全に対する根本であり、その基本姿勢(基本動作・安全対策の理解)を引き継いでいくためには過去の事故を忘れずに風化させることなく常に事故と向き合い学んでいくことが大切だ。そうした安全への舞台の稽古場が、教育・研修センターであり、訓練センターでもある。

限りなく運転事故ゼロに向け
 、最も安全性の再生・維持・向上が求められて取り組みの最中にあるのが、北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)である。同社は、2011年5月の石勝線列車脱線火災事故の反省から安全性の向上に取り組んできたが、その後の2013年には出火等による列車のトラブルや社員の不祥事などを連続して発生させ、さらには線路の点検・補修作業の不履行や軌道保守データの改竄が判明し、社会から安全軽視の経営姿勢に対し厳しい批判と誹謗が寄せられた。
画像 JR北海道石勝線列車脱線火災事故 2011.5.27
 これら一連の事故・事象に対してJR北海道は、2014年1月に国(国土交通大臣)から「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を受けることに至った。これを受けJR北海道は現在、2014年4月の経営陣の刷新とともに、同年7月と12月の同改善命令・監督命令による措置を講ずるために策定された計画に沿って日々の安全輸送の確保に向け尽力しつつ、安全の再生に向けた第一歩として全社を挙げて安全性向上の取り組みを推進し、安全最優先の企業風土づくりに挑んでいるところである。昨年(2015)8月には、安全の再生に対する考え方を全ての行動規準・判断基準の中心に据えて日々の輸送の安全を確保していく上で、経営のトップから現場の社員に至るまでの全社員がどのように考え行動すべきかの認識共有を図るために、安全に対する本質をシンプルに編纂した「JR北海道 安全の再生」を策定している。今後もJR北海道では、鉄道輸送の日々の安全確保に努めていくとともに、事業改善命令・監督命令による措置を講ずるための計画に対する取り組みを確実に進めていくとしている。 参照…JR北海道関連公開ブログ・「再生へ進む ~JR北海道グループ」2015.9.4)
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 今、JR北海道は、道内初の新幹線(北海道新幹線新青森~新函館北斗間148.8km)の開業(2016.3.26)という新しい局面を迎えており、開業に向け安全基盤の最終整備が全力で続けられている。また、北海道新幹線開業と同時にJR北海道から経営分離される並行在来線の江差線五稜郭~木古内間(37.8km)は第三セクター鉄道「道南いさりび鉄道」として引き継がれることになるため、新生の道南いさりび鉄道が安全かつ安定的に事業が遂行できるようJR北海道は、輸送業務に精通した要員を出向させる等により可能な限り人的および技術面で支援・協力を行っていくとしている。
 2016年の年頭所感の中でJR北海道(同社代表取締役社長・島田 修)は、同社の会社再生への取り組みは道半ばとしながらも、安全への再生を着実に前進させることに全力を傾注するとともに、来る3月26日(2016)に道内初の北海道新幹線を無事開業させることが大切だとの認識を示している。

限りなく運転事故ゼロに向け
 限りなく運転事故ゼロに向け、鉄道事業者は日夜の隔たりなくソフト・ハードの面であらゆる対策に取り組んでいる。しかし、そうした努力を傾注したにしても100%の安全を確保することは至って難しく、安全性への取り組みには限りはない。勿論、これまで本来人間はエラーをしやすいという観点から、さまざまな事故防止対策あるいは拡大防止対策が考えられてきた。ただ、エラーをしたからといって直ちに事故に結び付くわけではないものの、時と場合によっては拡大化へつながる。従来から対処されてきた事故防止は、エラーの再発を防ぐ“エラーマネジメント”による安全対策(再発防止型)に主眼が置かれてきた。しかし、近年では、人間が誤った行動(ヒューマンエラー)に陥ってしまうのはそれを誘発するような状況や環境が存在するためでもあるとして、こうしたエラーを誘発しやすい状況を早期に洗い出す(事前に察知する)ことで予め排除しておく予防型の安全対策(スレット(Threat=脅威)マネジメント)への認識が高まりを見せてきた。
 人間は、当然に機械的ではあり得ないため、定められた通りに行動するとは限らない認識(周囲の環境に惑わされ易い)を周囲が確り持ち続けることが肝要で、事故防止と安全性の向上には鉄道事故ゼロの実現に向けた安全最優先の企業風土の醸成が強く求められよう。 (終) …JRガゼットを参照させていただいた.

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