鉄道と航空の連携に見る ~

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画像 日本の高速度交通ネットワークにおいて、その基幹を成しているのは航空と新幹線による輸送体系であり、共に地域間の移動時間を大幅に短縮させて社会の振興・発展や経済の活性化に大きな効果をもたらしている。しかし、国土が狭い日本においては、もともと従来から航空と鉄道との間には輸送上においてライバル的意識が高く、協力関係の乏しい(消極的)中で推移してきた。ところが近年、鉄道による空港へのアクセスの整備が進んで双方の利便性に寄与している上から、羽田空港(東京都大田区)の国際線復活(2010)や新体制に移行(2015.9)したばかりのスカイマーク(SKY)をはじめとするLCC(低価格航空会社)の台頭、2016(平成28)年3月26日に決まった北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)の開業などを背景に、航空と鉄道との間に新たな局面が展開されつつある。すなわち、鉄道類の空港アクセスネットワークが拓いていくであろう、航空と鉄道間の協力関係(連携)の構築である。

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 「将来世代にわたる豊かな暮らしを実現するための国土・地域づくり…」をテーマに今年(2015)の6月30日に国土交通省から公表された平成26年度(2014)国土交通白書によると、空港への交通アクセス強化として都心部と東京国際空港(羽田)や成田国際空港とのアクセスをさらに改善し、都市部における立地の競争力(移動に関する利便性)を向上・強化させてグローバル企業誘致促進や日本経済の活性化を図るとともに、都市部と首都圏空港とを直結して短時間かつ乗り換え不要の移動を可能とする「都心直結路線」の整備に向け検討(関西国際空港に対してもアクセス改善の調査・検討を実施)が鋭意進められているという。
画像                        羽田空港アクセス線構想JR東日本
 JR東日本では昨年(2014)8月、「羽田空港アクセス線構想」の概要を発表している。構想によれば、将来の航空利用旅客増加の対応に向け東京貨物ターミナル(東京都品川区)~羽田空港間に約5.7kmの“アクセス新線”(地下化)を建設し、既存路線や貨物線(使用休止中の東海道貨物線(大汐線))などを活用した3ルート(西山手ルート(新宿・渋谷・大崎経由で東京臨海高速鉄道りんかい線大井町付近から分岐)・東山手ルート(東京・浜松町・田町を経る)・臨海部ルート(新木場から東京臨海高速鉄道りんかい線東京テレポートを経由))を建設・整備して都心部~羽田空港間の所要時間を現行より大幅に短縮し、空港アクセスへの利便性を飛躍的に向上させるものである。JR東日本では、この羽田空港アクセス線構想に工期7年と総事業費約3200億円を見込み、1日当たり輸送人員をおよそ7万8000人と予測する。さらには、このアクセス線構想の完成後には各方面から羽田空港への直接乗り入れが可能になることで、新宿駅からは現在の41~46分が約23分、東京駅からは同28~33分が約18分、新木場駅からは同41分が約20分等と、現在より羽田空港へのアクセス時間が大幅に短縮されるという。
 同時に、羽田空港への輸送力も、現行の1時間当たりのピーク輸送力約2万5000人(東京モノレール+京浜急行電鉄)を大幅に超えて約4万6000人規模に増強される。ただ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会までには時間的に完成が見込めないが、一部新ルートについて暫定開業を検討中であるという。
画像 羽田空港
 この羽田空港アクセス線構想は、ただ単にアクセスに対する時間的・量的成果の向上に止まらず、輻輳する都心部の交通ネットワークにおける異常事態(事故等)への輸送対応や代替性(迂回輸送)が向上されるとともに、社会的には移動時間の短縮によってもたらされる国際競争力の強化や沿線各都市部の発展にもつながる。

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 新幹線は、航空とともに日本の高速輸送体系を構築している基幹的輸送機関である。それらの高速輸送は、地域間の移動時間を大幅に短縮させることで、地方や地域社会の経済振興・活性化に大きな効果をもたらす。特に新幹線は、地球環境の保全が強く求められている近年、環境に優しい交通機関として航空機に比べすぐれた特性(CO2排出量は航空機の5分の1)を持つ。その新幹線は現在、2600kmを超える高速ネットワークを展開しているが、さらに建設計画が進められている整備新幹線について2015年1月の政府・与党間の申し合わせにより開業時期を前倒しする決定がなされている。すなわち、北海道新幹線新函館北斗~札幌間を5年前倒しして2030年度末の完成・開業、北陸新幹線金沢~敦賀間は3年前倒しにより2022年度末の完成・開業、九州新幹線武雄温泉~長崎間は2022年度末の完成・開業を可能な限り前倒しするとされており、日本の高速ネットワーク形成の拡充に向け整備新幹線の建設が推し進められる。また、中央新幹線(東京~大阪間・リニア方式・整備新幹線に準ずる)については、東京(品川)~名古屋間が2027年の先行開業に向け建設途上にある。こうして、高速輸送交通網の一方に位置する新幹線のネットワークは、今後も漸次充実されていく方向にある。
画像                                試運転中の北海道新幹線
 まもなく津軽海峡を越える新幹線、北海道から九州まで日本列島(四国を除く)が初めて一本の高速鉄道で結ばれる。その北海道初の新幹線(新青森~新函館北斗間)の開業日が2016年3月26日に決まり、かつて青函連絡船の時代(1988(昭和63).3.13終焉)に“道内の表玄関口”としての地位にあった函館市(道内特急列車ネットワークは函館駅(函館本線)を起点にしていた)では、現在の交通ネットワークの起点が札幌市に移転している状況(1970年代から増加を始めた航空旅客に対応し当時の国鉄は、1980年代に入って函館駅中心の特急列車網を札幌駅に移した)の中で、その復権にかけ盛り上がりを見せている。現在、東京~函館間は空路で約1時間20分のところを鉄路(新幹線・在来線乗継ぎ)では約6時間を要しているが、新幹線の開業で4時間程度に短縮される。
画像函館空港
 一方、国際観光都市函館の玄関口である函館空港(函館市)は、同市中心部からバスやタクシーで20分程度の8km余りの位置にあり、国際線をはじめ国内線などの多数の便が乗り入れる年間172万人(1日平均4700人)が利用する全国で21位(2014年度)の空港である。函館空港への最寄り駅・函館駅と新幹線の新函館北斗駅(北斗市)とを結ぶアクセスについてJR北海道は、新幹線の開業に合わせ新函館北斗駅~函館駅間(約18km)を結ぶアクセス列車として「はこだてライナー」を新設(1日13~16往復・3~6両編成・所要17~20分)し、函館空港最寄りの函館駅へのアクセスを図る。また、函館~札幌間の特急列車(「北斗」・「スーパー北斗」)を現行の1日9往復から12往復に増強し、全特急列車を新函館北斗駅に停車させるとしている。ただ、新函館北斗駅~函館駅~空港バスを利用する空港アクセスは時間的には有意性が高いものの、旅行荷物などを抱えての移動(乗換え)等サービス面には課題が残りそうである。その他では、都市間バスや路線バスを新函館北斗駅を経由するルートに変更するなど函館空港へのアクセス対応や、新函館北斗駅から道内各方面への交通体系(2次交通)の整備も本格化させている。ちなみに国土交通省北海道開発局では、新函館北斗駅から函館空港へのアクセス速達化を目的に既設道路(函館・江差自動車道)とを結びつける約10kmの“函館新道”の建設を2020年の完成を目指し2015年度予算で決めている。

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 成田国際空港株式会社が昨年(2014)3月にすべての入港者を対象に実施した成田空港へのアクセス状況の調査によれば、全入港者数(9万3073人)の半分に相当する出発旅客の交通アクセスは空港直行バスを含む“自動車類”の割合が57%(前回調査(2012)の+4%)で、これに対しJR東日本および京成電鉄による“鉄道類”は42%(同-4%)であった。この内、鉄道類の内訳では、京成電鉄本線が12%(同-3%)と最も多く、列車ではJR東日本の成田エクスプレス(NEX)と京成電鉄のスカイライナーがともに9%(同-1%)と鉄道を利用したアクセスは、空港直行バスを利用(出発旅客)した割合が前回調査を4%上回ったのに対し、後退気味であった。この背景には、アクセスへの手軽さを生んだ東京都内から1000円程度で成田空港を結ぶ高速バスの普及があったと見られる。
 現在、鉄道類とのネットワークやアクセス、利便性に関連し、忘れられたかのような存在(中途半端な位置付け)にあるのが、大阪の伊丹空港である。関西国際空港(関空・大阪府泉佐野市)の開港直前までは、国によりジェット旅客機の騒音に絡んで起こされた夜間の飛行停止訴訟などに対しさまざまな対策(建物の防音工事、発着便数の制限、運用時間短縮など)が講じられてきたが、その国は抜本的解決を図るため伊丹空港の移転を前提にした関空の建設を推進した。ところが地元においては、近年の航空機の低騒音化や騒音対策の向上から空港問題が鎮静化する一方で、空港を中心とする地域活性化の情勢が高まる中で伊丹空港の存続要求の展開とともに国際線復活の要望も出されるなど、国の関西圏における空港政策の見直しが求められていた。
 大阪駅から約11km、新大阪駅からは約5kmの至近距離に位置する伊丹空港は、国内30余りの都市を結び年間に1462万人(2014年度)が利用する西日本におけるハブ空港である。その存続が確実となっている伊丹空港は、2020年春の全面的開業を目指して45年ぶりの大規模改修工事(事業費200億円強)が今年(2015)の春から行われている。これを機に伊丹空港では今後、国内ネットワークの整備や新幹線(東海道・山陽新幹線)との新たな高速交通アクセスのネットワーク整備が進められていくであろう。
画像
                               羽田モノレール
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 今、日本で加速的に進む人口減少・超高齢化社会において、持続的な交通サービスの提供は地方衰退化の抑止・活性化には欠かせない施策である。それを補完する方策の一つに、日本の高速公共交通の基盤を担っている航空と新幹線の連携強化が挙げられているが、地方や地域の再生・活性化へ舵を取る国が推進する地方創生に対しても一助となるものである。
 前述してきた如くに、近年は鉄道類による空港へのアクセスネットワークの整備が進むとともに新局面(アクセスの多様化)も展開されつつあり、こうした傾向は航空と鉄道(新幹線)とのさらなる連携に向けその道筋を示唆しているのではないだろうか。昨年(2014)10月から、全日空(ANA)の国内線における機内販売(物販・軽食・飲食)の支払いにJR東日本の交通系ICカード“Suica”を利用できるサービスが開始されており、国内線機内販売に交通系電子マネーの利用が初めて導入されている。また、全国で相互利用サービスを実施している交通系ICカードのPASMO、Kitaca、TOICA、manaca、ICOCA、SUGOCA、nimoca、はやかけんなども利用可能となる。これも、航空と鉄道との前向きな連携姿勢への顕れの一端でもある。
画像      初試験飛行に挑むMRJ 愛知県営名古屋空港 2015.11.11
 戦後初の国産プロペラ旅客機「YS‐11」が日本の大空を舞ってから半世紀、2015年11月11日に蒼く澄みわたった愛知県の県営名古屋空港(愛知県豊山町)の大空へ国産初のジェット旅客機「MRJ」(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が勇躍して飛び立ち、初試験飛行を果たしている。大幅な燃費改善と騒音・排出ガス削減化が図られた国産初のジェット旅客機とあって、計画の段階からMRJに注目が集まる中ですでに日本航空(JAL)が32機を、全日空も導入を発表している。こうした状況を踏まえれば、やがてMRJが本格的に営業路線に就航して大都市と地方を結ぶ日が来たときには、ますます航空~鉄道間におけるアクセスネットワークと連携が求められて行くであろう。
 今後も進む人口減少化社会の中で、“輸送力増強”という言葉をとんと耳にしなくなった公共交通機関だが、地方や地域の再生・活性化には欠かせない存在である。殊に、日本の高速交通体系の中枢を担っている航空と新幹線には、相互間および他交通機関とのアクセスやネットワークの構築に対しより高い利便性が強く求められる。そうした環境の中で望まれているのが、より緊密化が図られた航空と新幹線(鉄道)相互間の連携であろう。 (終)

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