地域公共交通の現状に寄せて~

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画像 日本の地方や地域における公共交通事業を取り巻く環境の現状は今、近年の加速的な人口減少や少子高齢化およびクルマ社会の進展の中で年々厳しさが増しており、衰退化への傾向が頗る顕著である。そのような状況にある中で、公共交通事業が果すべき役割は地方や地域社会の活性化を維持、継続、向上させていく上で極めて大きいといえる。人口減少化等による公共交通の利用者減は、輸送サービスの低下や路線の廃止にもつながりかねず、それがさらなる利用者の減少を招くという負の連鎖を伴った悪循環に陥ることにもなる。こうした状況から抜け出すためには、地方や地域における公共交通事業の役割の再認識と再構築が欠かせず、活性化へ何らかの施策の展開が強く求められる。それには、自治体や地域住民との連携による“地方創生”(再構築・活性化)が重要な課題とされている。国の交通政策基本計画においても、同計画が目指すまちづくりと地域公共交通ネットワークの構築とを連携させて進める「コンパクト・プラス・ネットワーク」(コンパクト…空間的まとまりによる高密度化・ネットワーク…地域と地域の緻密なつながり)の考えに基づく“コンパクトシティ”化を推進し、自治体を中心とするまちづくり等を介して地域公共交通ネットワークの再編による活性化を目標の一つに掲げている。
 すなわち、地域の公共交通の存在は地域における移動ネットワークを支えている主体であり、地方創生(活性化)に向け主要な役割を担うことへの期待が大きいのである。その地域の公共交通が本来の機能を発揮できる環境を創出するためには、自治体を中心とする“まちづくり”と一体化した公共交通ネットワークの再構築とともに、LRTやBRT、デマンド交通等の積極導入を図って多様性・利便性・魅力向上等を創出し、地域が抱える諸課題に対処できる多様なサービス提供に向けた施策の展開が必要とされる。国も、地方の中心市街地活性化の観点から公共交通機関への利用促進を図るため、LRT等新機軸の輸送機関の導入を推進している。今後も進みつつある“人口減少・超高齢化”と“施設の経年・高齢化”は、鉄道事業者のみならず、地域の総合行政を担う地方公共団体にとっても立ち向かわなければならない大きな問題なのである。
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 国から2015年6月30日に公表された平成26(2014)年度国土交通白書においては、将来の世代にわたる豊かな暮らしを実現するための国土・地域づくりをテーマとして、本格的な人口減少化社会を迎えつつある中で“個性ある地方の創生”に焦点を当てている。
 日本は現在、人口減少や少子高齢化の社会を迎えている中で、首都・東京の一極集中をはじめ大阪や複数県の大都市部への人口流出で地方における人口の減少化が先行しており、この人口の減少化は地方にとって深刻な課題となっている。人口の増減を社会的に見ると、2013~14年の都道府県別の転入・転出超過数では東京都の転入超過が極度に多くなっており、その他大阪府や宮城・埼玉・千葉・神奈川・愛知・福岡県などの大都市でも転入超過を示している。しかし、その他の地方・地域では転出超過となっており、東京一極集中などがさらに進んでいることを伺わせている。これを出生率で見ると、東京都では極端に低くなっており、転入超過を示している他の府県の出生率もおしなべて低い傾向にある。以上のことから鑑みると、地方における人口減少化へのペースを緩和するためには東京圏等への人口流出を是正するとともに、出生率の低い地方圏へ人口移動を促進させる施策を講じることが重要になると思われる。
画像 日本の将来における推計人口(国立社会保障・人口問題研究所の公表)について見ると、合計特殊出生率が1.35人程度で推移したと想定した場合の中位推計における2050年の人口は1億人を割り込み、2100年には5000万人を下回るまでに減少すると推計されている。ちなみに合計特殊出生率とは、1人の女性が生涯に何人の子どもを産むかを表す数値で、年毎における15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものである。
画像 一極集中化が進む東京
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 本格的な人口減少化社会を迎えている日本で、直面している課題の一つとして東京一極集中是正の必要性について前に触れたが、その是正に当たって必要な地方移住(人の流れ)に関連し内閣府が実施した世論調査に触れてみる。
 都市住民の農山漁村地域への定住願望については、2005年度調査に比べ2014年度の調査では30代および40代の定住願望が大きく伸びており、若い世代の田園回帰については地方都市部への移住を求めている者と農山漁村地域への移住を求めている者との異なる流れがあるという。ただ、地方への移住でも、都市部への移住を希望する傾向が高いという。何れにせよ、地方移住への流れを呼び込むためには“地域の魅力”づくりが欠かせず、「コンパクト+ネットワーク」の構築による効果を示していくことが必要である。
 地方の都市構造のコンパクト化が図られれば、当然に日常生活の拠点となる地域およびその周辺における人口密度(集中度)の維持につなげることができ、それに伴い商業施設や公共施設、医療・福祉機関等の生活サービスに関する環境の維持や持続性が保たれることになる。これら日常生活に必要なサービスに加え、公共交通機関などのネットワークの整備がもたらされれば自ずと移動(アクセス)が容易となって生活上の利便性が高まり、地方・地域の魅力が増すことにつながる。こうした魅力ある地域づくりが展開されてこそ、今の日本が直面している地方の深刻な人口減少化や東京一極集中といた課題に対し抑制の効果を高めることにつなげることができるのではないか。
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 都市構造のコンパクト化とネットワーク化については、それぞれが相互に補完的な役割を担い合うことによって創出効果を相乗的に高めることができる。2014年5月に実施された都市再生特別措置法の改正と同時に改正(平成27年法律第28号)された地域公共交通活性化・再生法(平成19(2007).10.1施行)によって、地方公共団体を中心として交通事業者(地域の鉄道や路線バス等)および道路管理者等が協議を行うことでまちづくりと連携した公共交通ネットワークの再構築計画(地域公共交通網形成計画)の策定が容易となった。その計画を基に地方公共団体は、事業者等の同意を前提とした既存路線ダイヤの見直しや新たなサービス導入等の具体的内容(地域公共交通再編実施計画)を決定して実施に移すことができる。そして国は、地方公共団体の策定した計画に基づく取り組みに対し支援をしていくこととしている。これにより、まちづくりと地域公共交通の再編を一体的に捉えたコンパクト+ネットワーク化に対し、地方公共団体と民間事業者が連携して取り組んでいく制度的基盤が整えられたのである。
 ただ、持続可能な地域の活性化を実現していくためには、コンパクト化あるいはネットワーク化の一方のみを採り入れるのではなく、両方を並行して取り組むことが活性化をより高める上で必要であるとしている。すなわち、コンパクトシティ化(集約型都市構造)を通して都市構成のさまざまな要素(施設等)が空間的にまとまって整備されれば、そこにはより近接で濃密な人々の連携が形成されて魅力的な都市機能を持った生活環境が生み出され、そのことが人々を惹き付けて人口流出に抑制がかかれば活性化への持続性が見えてくるのではないか。今後は、制度(地域公共交通活性化・再生法)の活用を通じてより効率的で効果的なコンパクトシティの構築と地域の沿線価値向上の実現を推し進めていく上で、主体間(交通事業者や地域の公共団体等)における地域活性化に対する意識と合意の共有が欠かせないといえる。
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                        富山市内を行くポートラム富山ライトレール) 〉
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 国は、人口減少や少子高齢化で進みつつある地方市街地の衰退化に再び活気を呼び戻そうという観点から、公共交通ネットワークの再編などで人の流れの高度化を図るためLRT等の導入・整備を推進している。かつて1960年代の日本では、路線バス網の拡大や自家用車の台頭などから都市部で起きた深刻な道路交通の渋滞を背景にして、全国で多くの路面電車が廃止されていった。その後の1980年代に入って、海外で小型・軽量で低床式車両を使用した次世代型の路面電車・LRT(Light Rail Transit)が誕生し、増え続ける自動車交通に対する環境保全意識の高揚や中心市街地の再開発といった社会の関心の高まりを背景に世界の都市部でLRTの導入が進み、すでに世界では90前後のLRTが誕生し、路面交通の様相を変えている。
画像 日本でも、富山市(富山県)が新しい市街地の展開を目指していち早く本格的なLRT(富山ライトレール・富山市では“ポートラム”と称する)の導入(2006(平成18).4開業)を行って今日に至るが、日本ではその後に続くLRT導入への検討は進められてはいるものの、未だ本格的に実現化したケースはない。ちなみに富山ライトレールとは、かつてのJR西日本富山港線を富山県と富山市が出資して引き継ぎLRT化した全長7.6km(富山北駅~岩瀬浜間)の路線で、インフラの整備は富山市が、列車の運行(施設の維持や管理、サービスの提供)は富山ライトレール株式会社が行う、いわゆる「公設・民営」(上下分離方式)方式を採る第三セクター鉄道である。現在、富山市に次ぐ本格的なLRT導入の事業計画を進めているのは宇都宮市と芳賀町(栃木県)で、公共交通の空白地帯である同市東部地区に対しJR宇都宮駅東口~宇都宮テクノポリセンター芳賀・高根沢工業団地間(宇都宮市内約12km・芳賀町内約3km)をLRT導入区間(第三セクター方式)として計画(20年来の模索・検討を経て)しており、着工2016年度・営業開始2019年度を目標に事業展開が図られている。
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                            富山市街地を走るポートラム
 従来からコンパクトシティ化を進めている富山市においては現在、LRTをはじめとする公共交通のさらなる利便性向上を推し進めている。富山市のLRTは現在も、高齢者を中心に年毎にその利用者数は増加傾向を示しており、また市内路線バスでは高齢者を対象に一律100円の「お出かけ定期券」を導入し、高齢者の外出を手助けしている。富山市はまた、LRT路線の環状線化推進を図ることでさらに利便性を高め、街中における人々の外出・交流機会の創出により地域経済の活性化や地域の魅力向上につなげている。
 その富山市は今、中心市街地における商業施設建設などの民間投資が活発化を見せており、さらなるコンパクトシティ形成に力が注がれている。まさに富山市のLRT導入のケースは、本格的な人口減少化社会を迎えている日本にとって「コンパクト+ネットワーク」の構築が地方・地域の再生・活性化への源泉であることを示しているのではないだろうか。 (終)

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