沿線価値向上戦略に見る

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画像 まち・ひと・しごと創生本部設置 2014.9
 今、急速に進展しつつある日本の人口減少・少子高齢化社会において、大都市圏郊外や都心部分を離れた多くの地方・地域で進む沿線の活力低下により鉄道事業を取り巻く経営環境(利用者の減少化など)がその厳しさを増している。一方で国も、将来にわたって活力ある日本社会の維持・増進を図るために政府主導による大都市圏への過度な人口集中の是正や地方・地域における住み良い環境の確保に向け、2014年9月に“まち・ひと・しごと創生本部”を発足(首相官邸内に事務局設置)させて同11月に「まち・ひと・しごと創生法」を施行し、従来の全国一律の補助金政策を脱して新しいまちづくりの取り組みを始めている。特に、特色あるまちづくりを進めている地方・地域(自治体や病院、大学、企業等官民が連携したまちづくり)を優先的に支援をして行く新しい考え方に基づく政策シフトを進めつつある。この“まち・ひと・しごと創生”に対する方向性として、次のように定義されている。
 まち…国民一人一人が夢や希望を持ち潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成 ・ ひと…地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保 ・ しごと…地域における魅力ある多様な就業機会の創出。ちなみに同創生法の目的を示せば、“少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくために、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施する”としている。
画像             沿線開発の一例高架下の駅型保育園千葉市市川市) 〉
 こうした国の地方・地域の活性化に対する動きを受け、厳しい経営環境に置かれている鉄道事業者においては、沿線自治体との双方で共有できる交流人口増加による沿線地域の活性化や定住人口減少緩和(流出抑制)等の諸施策を目標に据えた事業展開を主体に沿線自治体が描くまちづくりの総合戦略(まち・ひと・しごと創生に沿って重点施策のテーマに挙げられるコンパクトシティの形成、インバウンドの誘致、子育て支援等々)を新たなチャンスと捉え、能動的に働きかけていくとともに共生を図っていくことが厳しい経営環境を克服していく上で必要不可避である。一例を示せば、循環器病の研究センターや市民病院の駅前(JR東海道線岸辺駅、大阪市より10km圏)への建て替え移転に合わせて大阪・吹田市が進める駅前再開発とともに、官民連携による健康・医療のまちづくりを進めており、そうした事業に積極的に参画することにより鉄道の経営成長が促されることになる。また、阪急電鉄ではベンチャー向け投資ファンドを立ち上げ、ベンチャー企業の活力を活かした地域(沿線)の活性化に積極的に取り組むことにより、従来とは全く異なる企業との連携の重要さを示そうとしている。
 まち・ひと・しごと創生法施行を契機に今後、地域の自治体や病院、大学、企業等と連携したまちづくりの機運が従前にも況してその高まりを見せるのではないだろうか。このような産学連携の促進を図ったまちづくりに鉄道も戦略的に関わり、地域との歩調を揃えた沿線価値の新たな創出に向けた施策を展開していくことで将来への鉄道事業の安定化へ途が拓けるのではないだろうか。

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 先に述べた如く、人口減少・少子高齢化が足早に進む中で日本の鉄道を取り巻く経営環境は厳しい状況が続いているが、そうした中でも魅力あるまちづくりに挑み積極的に関わり人を呼び込むことで賑わいを創出し、地域に元気をもたらして沿線の活性化を図り経営環境の向上に繋げていこうという取り組みを現在、JR九州が計画している。
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                       JR九州の福岡市六本松地区開発計画イメージ図 
画像 「人と人がつながり響きあう“まち”」をコンセプトに“学ぶ”“集う”“住む”をテーマとした新しいまちづくりに取り組む、九州大学六本松キャンパス跡地(2014年7月JR九州取得)における「六本松地区開発事業」(福岡市中央区六本松四丁目)である。都心部の天神や博多から離れたおよそ3~4km西方に位置する面積約6.5㌶を有する場所で、地下鉄の駅(福岡市営地下鉄六本松)が隣接し路線バスが待つほどもなく頻繁に行き交う交通の利便性に富んだ地域で、周辺には公園や美術館など文化施設等が多く点在する住環境としても恵まれた立地に在る。これまでのJR九州における地域開発は、日本の鉄道の大半がそうであったように、主に駅周辺や沿線に立地する場所を中心に行われてきた。今回、従来からの方針転換を図って沿線からは離れた六本松地域を開発の拠点に選んだのは、たとえ鉄道拠点駅から離れた場所であっても新たな“まちづくり”を行うことでそこを起点にその間の人々の往来が活発化し、まちも駅も共に賑わいが増すという観点に立ってのことである。
 「人と人がつながり響きあう“まち”」をコンセプトに据えた六本松地区の開発では、跡地を道路を挟み東西の街区に分け、まちの居住機能を担うとともに住宅型有料老人ホームを備える分譲マンションや、賑わい機能の商業施設や学びの機能の青少年科学館および九州大学法科大学院などを備える複合施設(ビル)が建設され、多様な用途を組み合わせた人々の交流の場としての生活空間が構築される。JR九州は今後も、鉄道沿線から離れた場所においても地域と一体となった事業開発を積極的に行い、開発エリアおよび周辺地域の統合的な“まちづくり”に貢献し、以て厳しい状況が続いている鉄道経営環境の改善・向上に資するとしている。

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 今後もさらに進む“人口減少・超高齢化”は、鉄道事業者のみならず、沿線地域の地方公共団体にとっても様々な面で深刻かつ重大な問題となっている。こうした現状の中で、鉄道事業者が避けては通れない直面している課題が、利用者の減少と沿線地域の活力低下である。これらへの対応策として求められているのが、地方公共団体によるコンパクトシティ(集約型都市構造)構築への取り組み(地域の活性化)と鉄道事業者による沿線価値向上への取り組み(沿線の活性化)である。ちなみにそれら取り組みの実現に向け、2014年5月に都市の集約化・活性化を進めるため都市再生特別措置法(同8月施行)をはじめ関連制度(地域公共交通活性化・再生法、中心市街地活性化に関する法律など)の改正が行われ、鉄道の沿線価値向上への取り組みに対しても制度的な基盤が整えられた。この制度改正を戦略に織り込み、人口減少・少子高齢化が進行する中での厳しい経営環境から少しでも抜け出すために沿線価値の創出・向上に力を結集して立ち向かっているのが、前述のJR九州が取り組んでいる六本松地区開発計画ではある。今後も、改正された制度の有効活用を通して沿線価値の向上を効果的かつ効率的に図っていく上でJR九州は、関連主体間の合意と意識の形成・共有化へ努力が欠かせないとしている。鉄道事業者にとっては今、成熟化した沿線における利用者の減少に鑑み、大都市圏を離れた地方・地域における沿線価値向上戦略の実践が共通のテーマになりつつある。その現状下で、沿線活性化へ向けた一連の施策の一つとして沿線への子育て世代の誘致・定住化の促進も共通するテーマとなっている。勿論、その背景にあるのは、人口減少・少子高齢化時代へ募る深刻な危機感であるのは論を待たない。
画像 2013年に日本で生まれた子の数は、前年より7431人減少の102万9800人と過去最低を示したが、さらに2014年には前年より約2万9000人減って100万1000人と過去最小になる見込みであることを、2015年1月に公表された人口動態統計の年間推計で厚生労働省が明らかにした。一方で2014年の婚姻は、前年を1万2000組減って64万9000組(離婚は9000組減り22万2000組)になりそうだという。また、日本の人口減少は2007年から8年連続(2015.1現の総人口1億2702万人)となり、2014年の自然減は26万8000人と過去最多になる見通しだという。ちなみに、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数)が今後1.35前後で推移(2.07が人口維持の水準とされる)した場合、2012年に国立社会保障・人口問題研究所が出した人口の将来推計によると2060年の日本の総人口は約8600万人に減るとされている。
 こうした状況を踏まえると、人口減少・少子高齢化時代到来の本格化は、利用者減が利益の逸失に繋がるばかりでなく沿線の活力をも失わせることになり、沿線や周辺地域の開発の下に形成してきた現状の沿線を維持・存続させてきた鉄道事業者にとっては喫緊かつ対応戦略を要する大きな問題である。こうした深刻化する環境に囲まれている鉄道が、地域とともに成長を維持していくには収益の確保に向け実効性のある施策と戦略が欠かせない。
 その沿線活性化への戦略として鉄道事業者は今、これから出産機会が巡る若いカップルや子育て中のカップルを対象にそれぞれの沿線の魅力アピールに凌ぎを削り、未来に繋がる沿線地域創出を目指し子育て世代の沿線への誘致・定住化に向け一斉に施策を展開している。ただ、子育て世代の誘致・定住化施策にあたっては対象範囲が年齢的にも数量的にも限られることから、子育て世代に対しどのような形で関心を誘い、定住への未来図を描かせることがでるのか、子育て世代を決意へ導く戦略は一筋縄とはいかない。

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画像 今、急速に進みつつある少子高齢化による地方・地域の活力低下への対応として国(政府)は、人口減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口集中を是正し、将来にわたって日本が活力を包含した社会を維持していけるために2014年11月に「まち・ひと・しごと創生法」を施行(前述)したが、さらにその後押しを図るため2015年6月19日に「改正地域再生法」を成立(施行予定は同9月末までを目途)させた。これは、地方へ本社機能を移す企業などを税制面で優遇することで数多の企業拠点がひしめく“東京一極集中”を緩和し、人口減少が進む地方における“働く場”を増やして少しでも地方へ活力を呼び込もうというのが狙いである。ただ、景気の回復に伴い、事業を伸ばそうとする企業の“東京回帰”が進みつつあるのも現実だ。
 税制の優遇対象になるのは、東京23区に本社機能を構える企業が首都圏や近畿圏、名古屋圏の中心部を除く地方・地域に本社や中枢機能(研究施設など)を移すケースである。また、地方に本社を構える企業が機能の拡充や雇用の増進を図るケースへも、ほぼ同様の税制優遇が盛り込まれている。ちなみに税負担を軽減する税制優遇の支援には、移転などに要した費用を損失として法人税負担を軽減する「特別償却」や、雇用を増やした場合に納税を減額する「税額控除」などがある。
 厳しい経営環境に置かれている今の鉄道事業者にとっては、地方・地域の活力回復と活性化は今後の事業経営に対処していく上で会社の命運に係わるだけに、今回の税制の優遇姿勢を採り入れた改正地域再生法は一つの朗報と言えまいか…。 (終)…JRガゼットを参照させていただいた.

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