JR北海道の現況に見る

画像 過酷な自然環境の下、広大な大地を走る鉄路を国鉄改革(1987(昭和62).4.1)により継承して新発足したJR北海道(北海道旅客鉄道株式会社)は、発足当初から予想された脆弱な経営基盤の懸念や厳しい経営環境に対し国からの経営安定基金(政策的経営支援・2200億円)の供与を受けるも、常に厳しい経営状況の下に置かれてきた。そのためJR北海道は、会社発足早々から経営の改善・改革への階段を駆け上がらなければならなかった。
 その結果が、あまりに性急に経営の改善・改革を進め過ぎたことから鉄道事業者が第一に掲げるべき“安全”への対処が後塵を拝するという状況に至り、この安全を置き去りにしてきたに等しい経営施策が後々のJR北海道を一連の事故や不祥事連鎖の渕に追い込んでいったのだった。

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               脱線・炎上事故で焼失したJR石勝線気動車特急「スーパーおおぞら14号」 2011.5.27
 国鉄改革(分割・民営化)で新発足したJR北海道は、以来27年を経る過程で経営の安定・向上を中心に会社運営に邁進してきたために安全管理体制に大きな綻びを来たし、2011(平成23)年5月27日起きたJR石勝線清風山信号場のトンネル内における気動車特急〈スーパーおおぞら14号〉の脱線・炎上事故(乗員乗客79名負傷、キハ283系6両編成全焼失)の大惨事を端緒に、気動車特急のエンジン部からの発煙や出火、走行中のドア開扉、貨物列車の脱線、線路の杜撰な保守・管理、点検保守データの改竄、車両検査体制の不備、社員の不祥事等々、ここ3年ほどの間にさまざまなトラブル等を立て続けに噴出させてしまった。さらには、線路の点検・保守データの改竄や管理不行き届きなどが長年にわたり道内各地で常態化していた事実も浮き彫りにされた。そのような異常事態を惹き起こしたJR北海道に対して、国土交通省は異例ともいえる2度にわたる「事業改善命令」と「保安監査」を実施した。こうしたJR北海道の現状に鑑み国土交通省は、経営管理上において根本的な問題が顕在化していると判断し、JR北海道の現状を改めるには企業風土にまで踏み込んだ改革が必要だとして2014(平成26)年1月24日に「輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令」を同社に出した。
画像  「JR北海道再生推進会議」で挨拶するJR北海道島田修社長
 この国からの厳命を受けたJR北海道は、失墜した信頼回復にはコンプライアンスや企業経営のあり方等について幅広く外部の視点や助言が必要と考え、2014年6月12日に有識者8人の構成(知事や大学教授、弁護士、商工連会長ら)による「JR北海道再生推進会議」を設置し、すでに3回目の会議(2014.10.22)に臨んでいる。一方で、JR北海道は、安全体制を立て直す有効なノウハウを取得すべく約10人を、また2016年春に開業予定の北海道新幹線のマネージメント(初の新幹線運営)に当たり約10人をそれぞれのスタッフ要員としてJR東日本から招聘し、将来に向けた安全体制や管理体制、企業風土の再構築に取り組みを開始している。新会社発足から27年の今、JR北海道は積み重なる禍が招いた企業経営の信頼失墜回復に向け経営(事業)改善の最中にあり、再生への途に着いたばかりである。

画像 JR北海道は現在(2014.5)、全線区14路線・2457.7kmの営業キロを有し、うち幹線は5路線・1327.9km、他は地方交通線の9路線・1129.8kmである。ただ、黒字の路線は幹線の3路線(千歳、海峡、石勝の各路線)に過ぎず、1日の平均利用者数において採算ラインとされる8000人を割り込む区間が全路線の87%を占めるという、広大な北海道の地ならではの高いマイカー依存度に裏づけられた赤字体質を持続している。
 こうした状態の道内を走るJR北海道の幹線路線においては、電化が進んでいる地域は道央部に限られ、大部分が非電化路線であるために主要都市間の輸送は電化~非電化の区間にまたがり直通運行されているのが常態である。そのため、道内輸送の多くは気動車列車を主体に担われているのが特色である。しかし、広大な大地の北海道では主要都市間の距離(札幌から函館・釧路・網走・稚内へは300kmを超える)が長く、常に速達化が強く求められてきた。その第一陣を担わされたのが、国鉄改革(1987.4)で新発足するJR北海道の幹線輸送(函館~札幌間3時間半)に資すべく、その前年の国鉄当時に出力向上(最高速度100km/hから120km/hへ)が図られたキハ183系気動車だった。当時、道内においては都市間を結ぶ高速道路網の伸展が急速に進みつつあった最中で、JR北海道は鉄道の輸送量を確保する上から自動車に対する競争力を強めるためキハ183系に130km/hの性能を持たせた車両(NN183系)を登場させ、120km/h運転(特急「北斗」・札幌~函館間)を1988(昭和63)年に開始した。その後、1994(平成6)年には、キハ281系気動車による「スーパー北斗」の登場に合わせキハ183系でも130km/h運転を開始している。

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                  北海道で都市間高速輸送を展開する酷寒の原野を行くキハ183系気動車
 しかしながら、登場後ほぼ15年が経つ最高速度が100km/hのキハ183系気動車に機器類や機能の強化を施して130km/hの高速運転を求めて営業運転に供したが、その後20年近い過酷な高速走行に耐えながらもついに2012年9月から翌年の7月にかけエンジン部の潤滑油漏れ事故、発火寸前の発煙事故、そして車体の側面塗装部を損傷させる火災事故と、連続して事故を引き起こすに至った。この背景には、冬の酷寒と氷雪に見舞われる北海道の厳しい風土と広大な大地ゆえの長距離都市間輸送の高速運転に加え、数少ない車両(予備車も)で効率的運用を目指すため日々の検査を夜間に行って翌朝には再び運用に就くといった過酷な列車運用にもあったとされる。この連続して発生した事故により、NN183系気動車は全36両の運用が緊急に取り止めとなり、使用停止となった。また、キハ281系やキハ283系の特急形気動車も130km/hの高速走行に就いてすでに20年、この間には札幌~函館間を日に2往復の運用をこなすなどその走行距離は突出していて、大きな負担を抱えながらの運行をこなしていた。このような状況に鑑みJR北海道においては、事故防止と列車運行の安全度(余裕度)を高める目的から2013年11月にダイヤ変更を実施し、道内全特急列車の最高速度を10~20km/hダウンさせる減速措置が執られた。そして、使用停止で長い期間にわたり運用離脱を余儀なくされていたNN183系気動車は、ようやくにして事故原因の究明が進み丸1年を経過したこの夏(2014.8)から運行への復帰を果たしはしたが、最早北の鉄路に130km/hの高速で疾走する特急列車の姿はなかった。

画像 新製試作車の落成・出場を間近に控えながら、突然に開発が中止された次代の新型特急気動車がある。JR北海道が、さらなる高速運転(最高速度140km/h)により都市間輸送の到達時分短縮化と北海道新幹線新函館北斗~札幌間のアクセス強化に向けて2006(平成18)年3月から鉄道総合技術研究所と川崎重工業により共同開発を進めていた、複合車体傾斜システム(従来の振子式を上回る傾斜角度8度の機能を持つ振子と空気バネ併用の車体傾斜システム)とMA(モータアシスト)方式という世界初の技術を採用したハイブリッド駆動システムを持つ「キハ285系900代」(3両編成・川崎重工業製作)である。

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                 開発中止が決定した次代高速気動車「キハ285系900代」 苗穂工場 2014.9
 最高速度130km/hで主要都市間を結ぶ特急気動車列車の運転開始から10年余りが過ぎたJR北海道は、当時、経営のさらなる向上・安定化に向けた都市間輸送力の確保と、将来の北海道新幹線との輸送協調をも視野に入れた都市間輸送の速達化を目途に、キハ281系やキハ283系の気動車に代わるさらなる高速化を図った次代の新型特急気動車の開発を進めていた。しかし、その開発過程の途上でJR北海道は、弱い経営基盤を向上させようと急いだ諸施策(賃金の抑制、雇用抑制、要員削減、安全投資の先延ばし、労使間問題)の実施が拙速に帰してしまったことから、鉄道事業者として最前線に据え置くべき安全が損なわれるに至って一連の事故誘発につながり、利用者から信頼失墜の謗りを受けていた。
 そうした現状からJR北海道は今、信頼の回復と会社の再生を期すため、国からの安全に関する事業改善命令と健全運営に関する監督命令に真摯に従い全社挙げて管理体制・企業風土の再構築に取り組んでいる最中にある。
 そのJR北海道にとっては、安全対策を最優先課題とする現状からして次代新型特急気動車(キハ285系900代)の開発を今後も継続して行く割ける余力とその状況にはないとして、落成前の2014年9月10日に開発中止が発表されたのである。こうした、すでに実体化している段階での開発中止のケースは稀である。
 この開発中止の経緯は、JR北海道が最優先に進めている企業経営の再構築と新幹線開業準備に人材・時間・資金等を優先的に投入の必要があり、しかも現行特急気動車列車の最高速度は従前より低く抑えられている状況からさらなる速度向上を目指す状況にはないとする、見解による。ちなみに開発中止を技術的面から見ると、最新技術を多く採用し高性能仕様のキハ285系新型気動車については、現状のJR北海道にとっては速度の向上(最高速度)よりも安全対策が優先されるべきであり、さらには運行コストやメンテナンスの両面から過大仕様であるとした評価から、今投資すべき対象にはないとする方向づけがあった。なお、落成したキハ285系900代の今後の活用については、在来線用総合検測車として使用し、具体的な活用方法を検討していくとしている。
画像 羊蹄山の麓を行く「SLニセコ号」
画像 北海道は、日本屈指の観光の地としてつとに知られるところだが、その北海道の地で2000(平成12)年10月からJR北海道が運行を開始した、“蝦夷富士”と呼ばれて名高い羊蹄山の裾野を走る蒸気機関車の牽く観光臨時列車の「SLニセコ号」(函館本線札幌~蘭越間122.9km)は、小雪のちらつく鉛色の空の下で2014年11月3日に14年間にわたる走りに幕を下ろした。
 JR北海道は、4つのルートで蒸気機関車牽引の観光臨時列車を現在走らせているが、このうち一つのルートを除き先の「SLニセコ号」を含む3つのルートの運行を2014年度限りで休止する方針をこのほど(2014.7.9)明らかにし、決定している。これに関してJR北海道では、9年前の2005(平成17)年4月25日にJR宝塚線(JR西日本福知山線)で起きた列車脱線事故(107人死亡・549人重軽傷)に関連して国から新型ATSの搭載を求められていたが、蒸気機関車への搭載にはコスト面(億単位)などで難しい現状(企業経営の再構築や北海道新幹線開業準備に最優先的に経営資力の投入)にあることを運行休止の理由に挙げている。
画像                            道内を実験走行するDMV
 もう一つ、JR北海道が置かれている現状に鑑み、同社が導入断念の方針を明らかにした開発プロジェクトがある。国鉄改革でJR北海道が継承した北海道の広大な大地を走る鉄路は、1日の輸送密度が500人を割る極めて利用者の少ない線区がおよそ800kmと、全営業キロの約3分の1を占める。その中で、JR北海道は輸送改善に向けさまざまな施策を打っては来たものの、コストダウンを中心とした改善策はすでに限界に達していた。そこで、新たな発想の下に輸送量の稀薄な地方線区(赤字路線)の維持と救済を目指し、次世代輸送機関開発プロジェクトの下で2003(平成15)年度から開発を進めてきたのが、線路と道路の双方に乗り入れ走行が可能で、運行コスト等の削減が期待できる有望な輸送機関としての「DMV」(Dual Mode Vehicle)であった。マイクロバスをベース(種車)とした最初の試作車が2004(平成16)年1月に完成し、その後改良車の登場とともにDMVは2007(平成19)年4月に試験的ながら一般の乗客を乗せた初の営業運行実施の経緯があり、北海道を離れた本州でも実証実験走行が展開されてきた。また、2013(平成25)年7月には青森県や岐阜県、熊本県、徳島・高知県などのローカル鉄道が参画し、今後のDMV導入・普及に向けた検討会が開かれている。JR北海道が、自身の赤字地方線区改善のために取り組んでから10年余り、すでにDMVはJR北海道だけのものではなくなっている。
 しかしながら、今まで開発を進めてきたDMVについて2014年9月10日、信頼を失墜した会社再生と安全対策および北海道新幹線開業に向け経営資力を集中させていかなければならない状況の下では、開発をこれ以上先に進めていく状況にはないとした判断から、JR北海道はDMV導入断念の意向を示した。いずれにせよ、長年の企業努力が潰えた前述のこれら開発の中止は、自ら導いてしまった結果であったにしても、当然にJR北海道にとっては至極残念な結果であったろう。
画像                         JR北海道本社ビル 札幌市中央区
画像 JR北海道が掲げる社是の一つに、「安全輸送に徹します」とある。その安全輸送がなぜ揺らいでしまったのか…。旧国鉄から継承した北海道の鉄道は、広大な地理的状況や気象環境の厳しさ、稀薄な人口密度で輸送量の多くを望めず、広大な大地ゆえの路線維持・管理の負担増等々、会社運営上おいて赤字体質を強いられるという北海道の地ならではの素地をJR北海道は抱えていた。とはいえ、安全を等閑視する理由には当たらないが。とにかく、経営基盤が弱い鉄路を引き継いだJR北海道にとっては無理からぬことながら、経営の改善(雇用・賃金の抑制、要員削減、安全投資の先延ばし、商業施設の開発拡大など)に向け当初からあまりに我武者羅に先を急ぎ過ぎたのだ。その結果、経営改善が優先される事業環境がつくり上げられ、鉄道事業者として最優先すべき安全への比重が逆転を生んでしまった。“安全”は容易く揺らぐ。国土交通省鉄道局による2012(平成24)年の公表資料によると、2011(平成23)年度のJR北海道における輸送障害事故(列車の運休や30分以上の遅延)は133件と、JR他社に比べ100万km当たりの発生件数が他社の1件台に対して3.5件と突出していた。さらに、2012年度には輸送障害事故は187件に増え、JR北海道の過去20年で最多を示した。いずれにしても、この数字は“安全不在”ともいえる状況を示しているのではないだろうか。JR北海道は現在、事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令の下で、外部者による推進会議を立ち上げるなど会社再生に向け取り組んでいる最中にある。その第一歩としてJR北海道は、すでに実施に移されている内容等(管理体制の改善や規程類の改正など)を示した「事業改善命令・監督命令による措置を講ずるための計画」を2014年7月に国土交通省へ提出している。

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                  〈 札幌と道東を結ぶ特急「スーパーおおぞら」キハ283系振子式気動車
 2014年度のJR北海道では、国からの輸送の安全に関する事業改善命令及び事業の適切かつ健全な運営に関する監督命令等を踏まえ、現場の提案を事業運営の場へ反映させる方針を強め、軌道強化や車両新製等の鉄道施設および安全管理体制の再構築など安全基盤の強化に係わる設備投資を着実に推し進めている状況にある。
 同時にまた、2015年度末に開業が予定されている北海道新幹線の開業準備としての設備投資も進めている。併せて、向こう5年間の安全への投資と施設の補修・強化に関する計画を策定し、実施に向け着実に取り組むとしている。そのような現況のJR北海道に今、鉄道輸送の根幹を成す安全の確保に向けさらなる安全理念の掘り起こしが求められよう。JR北海道に対しては、一日も早く失墜した信頼の回復を願うばかりである。 (終)…JRガゼットを参照させていただいた.

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