9兆円事業へゴーサイン ・ リニア中央新幹線

― リ ニ ア 中 央 新 幹 線
画像   リニア中央新幹線本格着工の認可を発表する太田昭宏国土交通相 2014.10.17 〉
 リニア中央新幹線品川~名古屋間の工事実施計画について国に認可申請(2014.8.26)を行っていたJR東海に対し、政府(太田昭宏国土交通相)は2014年10月17日に建設着工へゴーサイン(認可)を出した。この工事実施計画の認可を受けたJR東海の柘植康英社長は、記者会見の席上で「我が国の交通政策史上に残る一里塚。日本が誇る新技術の実現に向け、夢が動き出した」、と2027年の品川~名古屋間の先行開業に向けその前途を力強く語った。ただ、本格的な工事着工の時期については、認可にあたり太田国交相がJR東海に特に求めた地域の理解および環境の保全(地元住民に対する丁寧な説明および理解と協力の取得)を十分に踏まえた上で今後の用地買収や工事説明会実施に本腰を入れて当たるため、本格的な工事着手は年明け以降になる認識を明らかにした。
 ちなみに工事実施計画の概要によると、建設区間は品川~名古屋間(先行開業区間)285.6kmで、うちトンネル区間は246.6km・約86%(地下部分の最長は品川~神奈川県間の第一首都圏トンネル36.9kmおよび岐阜県~名古屋間の第一中京圏トンネル34.2km(いずれも大深度地下方式を採用)、山岳部分の最長は山梨県~長野県間の南アルプストンネル25.0kmおよび長野県~岐阜県間の中央アルプストンネル23.3km)、地上部区間は橋梁部分11.3km・4%、高架橋部分23.6km・8%、線形は最小曲線半径8000㍍、最急勾配40‰。駅数は全6駅(品川駅(東京都港区・既存駅に併設する地下駅)、神奈川県駅(仮称、地下駅・神奈川県相模原市)、山梨県駅(同、地上駅・山梨県甲府市)、長野県駅(同、地上駅・長野県飯田市)、岐阜県駅(同、地上駅・岐阜県中津川市)、名古屋駅(名古屋市中村区・既存駅に併設する地下駅)である。車両基地は、関東(神奈川県相模原市)と中部(岐阜県中津川市)の2カ所。車両費を含む総建設工事費は5兆5235億円(山梨リニア実験線の42.8km部分は除く)で、車両費を除く1km当たりの工事費は140億6000万円。完成時期は、2027年予定が見込まれている。
画像リニア中央新幹線着工認可書を柘植康英JR東海社長(左)に交付する太田昭宏国土交通相 2014.10.17 〉
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 いよいよ品川~名古屋間の先行開業に向け本格的な建設工事にゴーサインが出された、JR東海が9兆円を超す巨額投資を自前で用意して建設するリニア中央新幹線は、東京や名古屋の都市部周辺を大深度の長大地下トンネルで抜け、南アルプス山塊群直下を最深部1400㍍・全長25kmの長大トンネルで貫くという壮大な事業であると同時に、140年を超える日本の鉄道建設史上でも空前の難工事となるであろう一大プロジェクトである。
 すでに周知の如く、巨額の費用を用意してリニア中央新幹線を建設する本質は、JR東海の経営の根幹を成す東海道新幹線(収入の7割をもたらすドル箱路線)の経年劣化や老朽化(建設から半世紀を経る)への対処や南海トラフ地震震源域を通過しているために被るであろう大規模災害(巨大地震や津波被害)に備えることにある。すなわち、リニア中央新幹線は、日本の経済・文化の屋台骨を担っている日本の大動脈である東西ルートを補完・確保するための代替機能を持ち、東海道新幹線の“別線”という路線性格を持つことになる。
画像 そもそも中央新幹線(東京~大阪)建設の基本計画は、全国新幹線鉄道整備法(1970(昭和45).5.18、法律第71号)の施行によって1973(昭和48)年11月に整備計画が決定した路線の一つであった。しかしながら、昭和30年代中頃から継続してきた日本経済の高度成長期の下での“高揚の時代”が昭和50年代に入って停滞と低成長の時代へ移行し、その影響を受けた当時の国鉄も財政的に窮地に追い込まれていた。その時を同じくするが如くして、国鉄当時の1973(昭和48)年に計画が決定していた整備新幹線16路線のうち5路線(北海道、東北、北陸、九州の鹿児島ルート、同長崎ルートの路線)を除く他の路線は全てが計画凍結の状態に置かれた。それらの中で、1987(昭和62)年の国鉄改革で誕生した新会社のJR東海に継承された中央新幹線のみが凍結を解かれて整備計画路線として浮上に至ったのは、国の財政事情が厳しい折りから公的資金に頼っていては中央新幹線建設への途(展望)は容易には拓かれないという確固たる思惑を抱いていたJR東海が、2007(平成19)年12月に建設費の9兆円全額を自己負担により建設する方針を明らかにした結果によるものであった。そして、2011(平成23)年5月に東京~名古屋~大阪を結ぶ中央新幹線建設の指示が国土交通相から出され、同時に超電導リニアの導入も決定されるに至った。
 このリニア中央新幹線は、建設費全額を自己負担して建設する方針をJR東海自らが意思表明したため、建設が国費に依らないことから同新幹線は“整備新幹線”とは称されていない。ただ一方で、リニア中央新幹線の建設計画自体が国の屋台骨を構成することになる主要幹線の建設であるため、他の整備新幹線同様に全国新幹線鉄道整備法に準拠して進められる国家プロジェクトとして位置付けられている。

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                      走行試験に挑むリニア中央新幹線営業仕様のL0系車両
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 東海道新幹線の開業(1964(昭和39).10.1)を2年後に控えた1962(昭和37)年に、早くも東海道新幹線後を見据えた次世代高速鉄道の開発として超電導リニアの研究がスタートしてから半世紀余り、その間の国鉄およびJR東海による弛みない超電導リニア技術開発の末に今回、ようやくにしてリニア中央新幹線の建設工事にゴーサインが出された。しかしながら、今後の品川~名古屋間建設の成り行きには、事業費(建設費)等に関し見通しきれない部分をはじめ、安全面や環境面において未だ解決が懸念されている諸課題を抱えながらの、不透明さを推しての建設工事着工の段階に入った。
 その一つが、JR東海が2045年までに大阪へ延長して3大都市圏を1時間ほどで結ぼうという総額約9兆円に及ぶ建設事業費が、果たして想定内に収まるのかという問題である。当初、品川~名古屋間の建設事業費は5兆4千億円とされていたが、建設工法の工夫など工事コストの抑制を目指すものの、昨今の急速に進む少子高齢化に伴う人口減少化(中間労働層の減少)を直面に受けて作業員の人件費上昇などの要因からJR東海は、2014年8月に建設事業費を従前の見通し額より約900億円増の約5兆5千億円に見直している。今後も続く人口減少化や6年後に迫る東京オリンピック・パラリンピック等が、建設工事に係わる人件費をさらに押し上げる可能性は多分にある。また、難工事が予想される南アルプスを貫く長大トンネル工事等においても、建設費が見込み通りに済むかは不透明(国交省関係者)という。さらには、長期を要する建設途中で市場金利の動向如何によっては金利が膨らむリスクもあり、建設計画の行き先にはこうした制御不能の要素を多く抱えている。このようなリスクへの対応についてJR東海社長(柘植康英氏)は会見で、「コスト減を積み上げ、経営体力を上げ、さまざまな変動に備える。最後、どうにもならなければ、開業時期を調整する」と述べている。この発言の背景には、従来からJR東海においては経営の安定性・健全性を維持するため事業展開に当たっては5兆円を超える債務は持たないという経営基本方針があり、その堅持姿勢(例え無利子でも基本方針以上の債務は抱えない)が頭をもたげていた。この基本方針の堅持はまた、品川~大阪間のうち品川~名古屋間を先行開業させるとした事業方針の打ち出しにも顕れている。

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                          公開体験乗車で試走するL0系車両
 そもそもこうした経営方針の立ち上げについてJR東海の念頭にあったのは、東海道新幹線の開業を東京オリンピック開催(1964(昭和39).10)に間に合わせようと建設工事を急いだ結果、工事費等が計画の2倍近くに膨らんで生じた過大な有利子負債が当時の旧国鉄を経営破綻に追い込む大きな一因ともなった、過去の苦い教訓であった。すなわち、名古屋~大阪間の工事費(3兆6千億円)を国が無利子で貸し付けることで2027年の品川~名古屋間の開業予定に間に合うよう名古屋~大阪間も同時に開業(名古屋駅止まりの18年間に関西圏の経済・文化が相対的に地盤沈下しかねない懸念から)させようと図る国(自民党)の独自案が出されていた(2014.4)中にあっても、JR東海は旧国鉄と同じ失敗を避けるため経営における基本方針を頑なに前面へ押し出し、品川~名古屋間先行開業の姿勢を崩さなかったのである。また、2020年のオリンピック・パラリンピック東京開催が決まったとき(2013.9)にも、当時の経団連会長が“東京五輪までに名古屋まででも乗れるようになればいい”とリニア中央新幹線開業時期の前倒しに強い期待を示したが、これに対し“どう見ても2ケタの年数はかかる。鉄腕アトムが一緒に掘ってくれれば別かもしれないが…”と当時のJR東海社長(山田佳臣氏)はつれなかったという。勿論、その開業時期の前倒しは技術的に無理であることは認識の上であったが、そのときにJR東海社長の脳裏をよぎっていたのは、東京オリンピック開催(1964.10)に合わせて建設を急いだ東海道新幹線が招いたかつての“禍根”であったのは紛れもない。いずれにせよ、品川~名古屋間で5兆5千億円余り、大阪まで延伸されればおよそ9兆円という国の年間公共事業費にも匹敵する巨額の建設費は、終局的にさらに膨らむ恐れがないとは言い切れない。

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 地球規模で環境問題が問われる近年は、環境保全に対する確りした対応・対策を抜きにしては大規模建設事業は一歩も進められない。品川~名古屋間のリニア中央新幹線建設に対する環境影響評価(アセスメント)は3年に及んだが、前例のない巨大プロジェクトであるだけに環境面は言うに及ばず、安全面においてもさまざまな疑問が掘り起こされ、建設着工へゴーサインが出された今も、改善が図られては来たものの多くの課題(トンネル掘削に伴い発生する膨大な残土処理や沿線河川や地下水の枯渇・減水、希少生物の保護や動植物生態系への影響、景観への保護、沿線への騒音や振動の影響、列車消費電力確保等)が残る。これら諸課題に対する前向きな解決が、リニア中央新幹線の先行開業の完成に向けその鍵を握るのは明らかである。
画像               JR東海名古屋本社が入るJRセントラルタワーズ 名古屋駅
 JR東海がリニア中央新幹線建設に取り組むことに至った過程には、東海道新幹線の現況がある。現在の東海道新幹線は、1時間に最大15本の列車により1日41万人、年間に約1億5000万人の人々を運び、東京~大阪間を最速2時間25分で結んでいる、日本の経済・文化・生活の大動脈を担っている交通インフラである。この国民生活にとって一時たりとも止めるわけにはいかない東海道新幹線を擁するJR東海には、経年劣化と輸送が輻輳する狭間にある同新幹線の安全・安定輸送を確保し、将来に向け維持・発展させていく責務がある。その日本の大動脈・東海道新幹線の輸送を補完し、災害時等における輸送経路の確保と幹線輸送の汎用性拡大を前提に据えた事業計画の展開が、JR東海のリニア中央新幹線建設への原点である。
 当然ながら、リニア中央新幹線は一企業の利益追求のために建設するわけではないとするJR東海。30年余りの後の2045年に大阪まで延伸の暁には、超電導リニアにより時速500㌔の高速で運行される東京~大阪間は67分で結ばれ、3大都市圏(東京、名古屋、大阪)は1時間以内の往来が可能になる。その結果、6千万人を超す巨大都市圏が生まれ、ライフスタイルの変革が創出され、日本列島全体の経済成長と活性化を促すことにもなると、JR東海は強調する。ただ一方で、政財界を中心に大きな経済効果を期待する声が強い中で、首都圏へ一極集中をさらに加速させる可能性を否定できないとする見方も高い。
 このほど建設工事にゴーサインが出たリニア中央新幹線、完全開業へ総額9兆円余りが投入される巨大プロジェクトはJR東海の自己負担によるが、もとよりその捻出はJR東海自らの企業努力の結果によるものであることに異論はない。ただ、その根底においては、JR東海を利用した国民が支払った運賃が原資となっているのは自明の理である。勿論、JR東海は、それを踏まえて臨んでいるリニア中央新幹線の建設だが、巨額の建設費が今後さらに膨らむリスクを抱えながらJR東海としては何としても計画通りに開業させたい思いは強いであろう。が、あくまでも建設工事は安全および環境保全を最優先に進めることが肝要で、“2027年品川~名古屋間開業”という先立つ目標だけに拘って建設を進めてはならないことを、2014年10月17日に出されたゴーサインは示唆しているのでは…。 (終)

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