輸送改善への挑戦 ・ 鉄道貨物

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 日本の鉄道貨物輸送の大宗はJR貨物(日本貨物鉄道(株))が担っており、その最大の特性は言うに及ばず一度に大量の物資を長距離輸送できることにある。その輸送改善を行うにあたって今日では、世界的規模での対策を迫られている地球環境問題(地球温暖化対策)や物流業界における現状および環境(CO2排出削減対策、モーダルシフト、トラックドライバー不足等)の問題を抜きにして進めることはできない。
画像 国土交通省は2014年3月、2014~2020年度までの向こう7年間を対象とした「環境行動計画」を策定し、その中で環境負荷軽減の視点からCO2排出量の多い交通分野の輸送に対しては、環境対応車の開発・普及、自動車から鉄道やバスの公共交通機関への転換、鉄道車両や船舶および航空機のエネルギー消費効率向上といった諸施策の対策を盛り込んでいる。その環境対策のうち、運輸部門のCO2総排出量のうち、その大半の約9割を占める自動車分野においては環境対応車の開発や燃費の改善、エコドライブの推進等が重要な課題として挙げられているが、他方輸送面においてはトラック輸送から鉄道・船舶へのモーダルシフトの推進がCO2排出量削減策の骨子として挙げられている。
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 近年の鉄道貨物輸送においては、地球温暖化対策の一環として中長距離幹線輸送に対するモーダルシフト(鉄道による貨物1㌧を1km輸送する際のCO2排出量は営業用トラックに比べ約8分の1と試算)へ積極的推進の動きが中心となっている。そうした輸送環境にあって、現在の鉄道貨物がコンテナによる輸送体系を主流としていることから今後の輸送改善の方向性としては、鉄道貨物輸送の特性でもある“片道輸送”においてコンテナ利用効率化の向上(コンテナの往復利用等)を如何に輸送計画に取り込んでいくのかが要点となろう。
 往復輸送が常態である旅客輸送とは異なり、貨物輸送はおしなべて片道輸送に終始していることから貨物の流動に地域間で段差が発生(“一方通行型”輸送による物流の偏り)するため、この流動に関する偏りを補完する輸送の改善が強く求められる。コンテナ輸送列車が主体のJR貨物にとっては、特に空のコンテナに対する輸送距離や輸送個数を如何に最小限に抑えるか(往復輸送の推進)が輸送コストを含め輸送効率上に大きく係わるため、片道輸送関連の改善が大きな課題の一つともなっている。同時に、鉄道の輸送特性を十分に活かせる中長距離帯における新たな輸送サービスの開発・展開とともに、片道輸送を抑制する効率的な輸送形態の創出等が求められる。

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                             コンテナ輸送貨物列車
 されど、需要に見合う効率的な貨物輸送を行うにあたっては、ただ単に貨物列車を増発するだけでは輸送に係わる機材等に対する投資額の増加(過剰投資)を招き、経営の圧迫につながりかねない。JR貨物における従来の輸送改善では、荷主ニーズの動向を見ながら貨物の流動量に合わせた輸送力の確保を検討し、それに合わせて輸送体系を構築してきた。すなわち、輸送ニーズを待ち、それに沿った輸送体系の構築に終始してきたため、採算性の低い列車の洗い出しや見直しによる効率的な輸送体系の追求が疎かになっていた。今後は、主力輸送を担っているコンテナ列車の輸送力再編(収支上採算性の低い列車の判別・見直し)の検討および貨物の増送や復路輸送の確保を行う等、効率的な輸送体系に改善していくことが肝要となろう。しかも、片道輸送が顕著になりがちな季節波動輸送(秋冬や年度末の繁忙期の如く四半期単位で発生する波動輸送)をも踏まえた、輸送力の設定や効率を図る必要がある。
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 現状の鉄道貨物輸送に大きく関連するが、近年富みに顕在化しているのが、日本の物流輸送を総体的に支えているトラック運送業界におけるトラックドライバー不足である。特に、長距離運送に必要不可避の大型トラックに対するドライバー不足は深刻で、しかも高齢化(40歳以上が4割を占める)が進んいる。最近は、社会の超高齢化とともに急速に進む総人口の減少化と相俟って、長距離トラックドライバーの労働環境の厳しさや道路運送における交通事故の危険性の高さなどから募集しても集まらないという、差し迫ったトラックドライバー不足を招来している。そのため、トラックドライバー不足の顕著化は、中長距離において大量輸送・定時輸送・安定輸送等に優れる輸送モードとしての鉄道貨物輸送の役割を日増しに強める結果に結び付いている。
 この近年のトラックドライバー不足(中長距離運送)に対し、大手企業などではトラックから鉄道・船舶へと輸送をシフトさせる取り組みを加速させており、幹線輸送において地球温暖化対策とともに鉄道や船舶へのモーダルシフトの追い風ともなっている。こうした背景を、鉄道貨物輸送の今後の輸送改善に活かすとともに、さらなる鉄道貨物事業伸展への絶好のチャンスと捉えたい。
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画像 大型トラックによる昨今の長距離輸送(500kmを超える)に係わり大きく課題視され、顕在化しているのが、環境(CO2排出量)やトラックドライバー不足等に関する問題である。その対策や解決に向け、ある大手企業では500km以上の輸送における鉄道・船舶の比率を従来の46%から今年度(2014)中には約2倍の87%へ引き上げ、さらに2016年度までに100%を目指すといった、荷主企業側の主導による環境に優しい鉄道や船舶へ輸送をシフトするモーダルシフトの検討が前向きに進められている。

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               自動車生産部品をコンテナ輸送する専用の貨物列車トヨタ・ロングパス・エクスプレス」 〉
 こうした積極的なモーダルシフトへの動きが活性化を見せる今日この頃の鉄道貨物輸送だが、とかく旅客輸送に比べ遅れはしてもほとんど影響はないと、世間一般からは思われてきた風潮がなかったとは言えない。しかし近年は、通信販売市場拡大に伴う宅配便需要の高まりなどから、鉄道輸送に対し荷主側の定時・安定・納期厳守を求める姿勢が強化されている。特に、納期日時の遵守等が厳しい宅配便、書籍、生鮮食料品、自動車部品等の輸送に限らず、一般の輸送貨物においても“納期厳守”の要望は年々高まりを見せている。その日々の安定した物流の確保が、社会生活に資する経済活動にとって欠かせない重要なファクターであることを、荷主の鉄道貨物輸送に対する定時・安定性への強い希求が物語る。勿論、JR貨物(第二種鉄道事業者)は輸送営業のほとんどの部分で旅客鉄道会社の線路を借りて貨物列車を運行していることから、旅客列車の正常運行・安定輸送を阻害しないためにもJR貨物にはより厳しい定時・安定輸送確保への努力が求められている。
 そして現在(2014.3)、全国ネットワークの中長距離幹線輸送をはじめとする貨物輸送の大宗を担っているJR貨物は、全国で1日当たり489本の貨物列車を運行し、その累計走行距離(列車キロ)は約20万km(地球の約5周分に相当)に及ぶ。その輸送に関しても、JR貨物発足当初(1987)に全体の輸送量の75%を占めていた車扱輸送(セメント、石油、石灰石等)は、戸口から戸口へ集配送のトラックやベルトコンベヤーによる運搬などに転嫁するなどして現在では34%まで縮小し、代わって今日ではコンテナ輸送列車が主体(列車キロベースでは90%以上)となっている。
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 いずれにせよ鉄道貨物輸送は、往復輸送が常態の旅客輸送と違って、従来から片道輸送が定石という観念が常識として捉えられてきたために、輸送効率の面で低い輸送機関の部類だった。この点に今以て、鉄道貨物輸送に対しては、輸送改善の余地が多分に残されている。JR貨物では、こうした片道輸送に対処して輸送効率を向上させる新しい貨物輸送の開発を行い、少しでも鉄道貨物の輸送効率を上げる輸送改善への努力が継続されてきた。

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                  宅配貨物を専用輸送するコンテナ貨物電車列車スーパーレールカーゴ」 〉
 その往復貨物輸送の一環として2004年頃から取り組んだのが、大量輸送や定時性といった鉄道貨物輸送の特性を活かし、さらには地球温暖化対策強化の観点から、荷主企業と共同で取り組んだ専用列車扱いのコンテナ列車により長距離輸送を行うプロジェクト(自動車生産部品輸送の「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」(名古屋南貨物~盛岡貨物(タ))、宅配便貨物輸送の「スーパーレールカーゴ」(東京貨物(タ)~安治川口)、積合複合貨物輸送の「福山レールエクスプレス」(東京貨物(タ)~吹田貨物(タ))であった。また直近では、花王(株)とイオン(株)が物流部門において、31フィートコンテナを共同利用した異業種製品のJR貨物による往復輸送を東京~福岡間(1184㎞)で2014年9月から開始(往路(東京→福岡)は花王製品、復路(福岡→東京)はイオン飲料製品)している。これまでイオン(株)は、12フィートコンテナを使った自社製品の鉄道による輸送を福岡~東京間(片道)で行ってきたが、JR貨物の輸送改善を受けて今回の異業種共同輸送に移行した。一方、車扱輸送においても、石油輸送に高速貨車を導入することで速度の向上(75km/hから95km/hへ)を図り、運用貨車(タンク貨車)数の削減を行って輸送機材の圧縮により輸送コスト低減の改善を実施してきた。

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                   炭酸カルシウム・フライアッシュを往復輸送する貨物列車 三岐鉄道
 そして、これはJR貨物が担っている輸送の性質とは異なるものの、民営の三岐鉄道(富田~西藤原間26.6km、うち貨物営業はJR富田~東藤原間23.2km)においても貨物の往復輸送が行われている。中部電力碧南火力発電所(愛知県碧南市)で排出される硫黄酸化物を除去するため、三岐鉄道沿線に所在する太平洋セメント藤原工場のセメント製造過程で発生する炭酸カルシウムを東藤原駅(三岐鉄道)から貨物専用駅の碧南市駅(臨海鉄道碧南線)へ輸送し、碧南市駅からはセメントの原料にもなる碧南火力発電所で発生するフライアッシュ(石炭灰)を東藤原駅へ輸送する往復貨物輸送が、専用貨車(ホキ1000形ホッパー車)を使用して1日1往復運転されている。なお、この往復輸送は1990(平成2)年11月から開始されており、碧南市駅~中部電力碧南火力発電所間はトラックで輸送されている。
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 こうした輸送コストに利する往復貨物輸送の推進に今後は、輸送貨物のラインナップ強化とコストの両立が図れる輸送改善への取り組みが求められよう。勿論、JR貨物においては、荷主企業に対する長距離往復貨物輸送の誘致を図るため、従前に増した安定輸送の確保や輸送障害未然防止への取り組み強化が不可欠だ。こうした貨物輸送における輸送改善を行うにあたって現代では、環境問題への施策を避けては通れない。

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                           化石燃料輸送の車扱い貨物列車
 運輸部門のCO2総排出量のうち物流関連が3分の1を占めており、その中でも自動車の分野が約9割を占めている。そのため、地球温暖化の元凶ともなっているCO2排出量削減化対策においては、トラック輸送の効率化に資する施策(燃費の改善、環境対応車の開発支援・普及促進、共同集配送、税制優遇など)とともに、トラックから鉄道・船舶へのモーダルシフトの積極推進が重要な課題(鉄道に限れば、10㌧トラックと同サイズの31フィートコンテナの導入支援、JR貨物への設備投資費用の無利子貸付、モーダルシフトへの取り組み初年度運行経費一部補助など)となっている。その中でも、社会の日常生活や経済活動を日夜を問わずに支えている鉄道貨物輸送は、温室効果ガス削減に有効な環境負荷軽減の輸送機関であるのは周知の如くだが、今日では環境に最も優しく省エネルギーの輸送機関として普遍的な存在となっている。それ故、社会の環境意識向上の高まりへ一層寄与すべく鉄道貨物輸送には、今後も鉄道のエネルギー消費効率の向上施策としてさらなる省エネルギー・低炭素化へ向けた先進的な取り組み(回生ブレーキの活用や省エネ形車両・設備の導入、再生可能エネルギー(太陽光発電)の導入等)が必要とされる。そのためには、鉄道事業経営にとって最も重要なファクターの一つといえる輸送改善へ弛みない継続的な取り組みが最も必要で、これまで述べてきた如く環境問題への視点を抜きにしては今後の輸送改善への途は拓けない。 (終)…JRガゼットを参照させていただいた.

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