端末輸送にモーダルシフトの兆し

 温室効果ガス による地球温暖化をはじめとする地球規模の環境問題に対し突きつけられた課題は、世界の英知を傾けて解決の途を探っていかなければならない今世紀最大の難題だ。その中でも、人や物の移動手段(交通機関)として世界を席巻する自動車交通が排出するCO2(二酸化炭素)は、地球温暖化を招く最大の元凶として今、その対策への挑戦が全世界で続けられている。
画像 かつてはモータリゼーションとの競争に敗れ、輸送の主役の場を自動車に明け渡したはずの公共輸送機関の鉄道ではあったが、沸き上がった地球環境問題を契機に頗る環境に優しい大量輸送機関としての鉄道が復権への機会を与えられ、輸送を自動車(輸送機関別CO2排出量割合・約80%以上)から環境負荷の小さい鉄道(同・約3%)や船舶(同・約5%)へ移行させる「モーダルシフト(Modal Shift)」が、環境保護重視の政策の下で環境保全に最も厳しい立場を取るEU(欧州連合・加盟国28ヵ国)で1990年代から始まった。その先陣を切ったのが、トラック輸送量の削減化を図る受け皿として最も環境負荷が少ないとされた、鉄道による貨物輸送であった。
画像 佐川急便(株)が東京~大阪間で宅配貨物を貸し切り輸送するスーパーレールカーゴ 〉 
 日本でも 、鉄道貨物輸送の大宗を担うJR貨物(日本貨物鉄道(株))によるモーダルシフトが2000年の中頃から活発化し、近年では地球温暖化対策の下で幹線輸送におけるモーダルシフトが鋭意推進されている。これまでにもJR貨物では、トラック輸送に比べ環境負荷が極めて小さい鉄道による500kmを超える中長距離圏(貨物鉄道が得意とする輸送分野)においてモーダルシフトを推し進めてきた。
 このトラック輸送から鉄道・船舶等の輸送へシフトさせるモーダルシフトの取り組みは、従来から地球温暖化対策といった環境問題を主眼に推進されてきたが、近年は少子高齢化に伴い年々進む人口減少化によって起きているここ数年来のトラック運送業界におけるトラックドライバー不足の深刻化が、モーダルシフト推進への追い風となっている。近年のそうしたトラックドライバー不足の影響を受け大手企業の味の素(株) では、トラック輸送に替えて従来から実施してきた500km以上の長距離輸送における鉄道・船舶へのモーダルシフト比率(46%)を、2014年度中にはCO2排出量の半減化を目指し約2倍(87%)に引き上げ、2016年度中には100%のモーダルシフトを目指している。また、大手小売業のイオンと大手化学メーカーの花王が、東京~福岡間で鉄道コンテナ(31フィートコンテナ)を共同使用した輸送(東京から花王の商品を、福岡からイオンの飲料を運ぶ)を2014年9月から開始している。ちなみに従来のトラック輸送に比べ、この鉄道コンテナの往復共同使用による輸送では、およそ2.8㌧のCO2削減が可能という。
 国土交通省によれば、2015年度にはおよそ14万人のトラックドライバー不足が推測されているという。また、公益社団法人・鉄道貨物協会では、2020年度には約10万6000人のトラックドライバー(大半は大型トラック)が不足する予測値を示している。現在も、トラック運送事業の現場では、募集してもドライバーが集まらないという声が日増しに高まっているという。その背景には、低賃金や長時間労働といった過酷な労働条件や常に直面している交通事故の危険性等、トラックドライバーを取り巻く厳しい労働環境が要因てして挙げられている。さらには、少子高齢化に伴う総人口の減少化による労働人口(15~64歳)の減少も、特に働き盛りの若年層においてドライバー不足を招いている。しかも、現状では40歳以上のトラックドライバーの割合が普通車で半分以上、大型車では7割と、急速にトラックドライバーの高齢化が進んでいる。こうしたトラックドライバー不足で影響を受けているトラック業界では、幹線や長距離のトラック輸送において深刻度が増していることから必然的に安定・迅速性・定時性に優れ、しかも環境に優しい鉄道による輸送へトラック輸送をシフトさせる企業等が増えている。このトラックドライバー不足は今、環境問題に利する幹線・長距離輸送における鉄道へのモーダルシフト拡大化(環境保全上好ましい状況)への兆候を顕著に示している。
 最近のこのトラックドライバー不足は、幹線輸送におけるモーダルシフトを加速させ、地球環境負荷の軽減化に寄与する形とはなっている。が同時に反面、トラック運送業界にとっては死活問題にもつながりかねない問題となっている。まさに、このトラックドライバー不足の如何によるトラック輸送と鉄道輸送は、環境問題に関連して真逆に相関している。
画像               宅配便集配用台車を積載輸送する京福電鉄
 
近年では 、幹線輸送におけるモーダルシフトだけではなく、宅配便の如く集配を主とする端末輸送においてもモーダルシフトが始まっている。物流ターミナルと営業所間の集配等において、低炭素型集配システムを構築することで環境負荷の軽減化を図る取り組みである。
 その一例が、ヤマト運輸(株)と京福電気鉄道(株)が実施(2011.5開始)している京都嵐山周辺地域のCO2削減を目的とした、路面電車を活用した宅配便輸送(西院車庫~嵐山間約6km)による“低炭素型集配システム”である。ヤマト運輸(株)の宅配荷物を台車(電動自転車で引くリヤカーに載せて運ぶ宅配便を入れた集配用台車)ごと路面電車に搭載して嵐山駅まで運び、そのままリヤカー付電動自転車に台車を積んでヤマト運輸(株)の営業所まで運び、または嵐山駅周辺において集配を行うサービスである。この集配システムにより、CO2の削減効果は勿論のこと、トラックが走らない交通環境や沿線価値の創出により有名観光地であるが故の街づくりにも寄与している。ちなみにこの「路面電車を使用した低炭素型集配システム」は、第13回物流環境大賞(2012.7)において「物流環境特別賞」を受賞している。
画像 路面電車で積載輸送される宅配便集配用台車
 また他方、佐川急便(株)は、駅設置の宅配ボックスで不在時荷物を受けとることができる「宅配BOX受取サービス」の取り組みを始めている。同サービスの導入は、近年のインターネット等を活用した通信販売市場の規模拡大に伴い宅配便事業者を悩ませている、増大する宅配便需要に対応して顕著化している“不在再配達”に要する手間が事業(配達業務)に与えている非効率化の問題がその背景にあったからである。そして、この再配達に伴う業務の非効率性を少しでも解消し、配達の円滑化と再配達によって生じるCO2排出量の削減を図る目的から、鉄道駅における「宅配BOX受取サービス」の導入となった。
画像                    宅配BOX受取サービス  JR博多駅構内
 このサービスは、“駅で荷物と待ち合わせ ”をキャッチフレーズにマンション等に設置の宅配ボックスを鉄道の駅等に設置して、宅配利用者が配達先に駅設置の宅配ボックスを指定することで利用者自身の都合に合わせて荷物を受け取ることができるシステムである。すなわち、従来は在宅していないと受け取ることができずに再配達の手間を要していた宅配荷物を、宅配先に駅設置の宅配ボックスを指定することで外出先や会社からの帰宅途上の駅で受け取りが可能になるサービスなのである。ただ現在は、環境省により補助事業としての認定を受けて実施されている実験段階にあるため、同サービスの取り組みはJR九州博多駅周辺地域に限定されている。しかしながら昨今は、宅配便として輸送される通信販売の市場規模が堅調に大きな伸展を示していることから、宅配便の集配や輸送の面で新たな局面を迎えつつある。
 こうした現状にあって今後は、幹線輸送に限らず、端末輸送においても鉄道を使った輸送等への期待の高まりが追い風となれば、これまで敬遠されてきた端末輸送におけるモーダルシフトにも、その見直しに弾みがつくのではないだろうか。

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 近年の物流輸送 では、幹線輸送においてはもとより、端末輸送においてもモーダルシフトへの動きが活発化している。かつての鉄道駅が人や荷物が集まる場所として機能していたように、今日の駅が“駅ナカ”に象徴されているような単に人が集まる場所としてだけで捉えるのではなく、前述の宅配ボックスサービスの取り組みといった新たな利用者サービスの開発に見られるような、荷物や情報の集まる場所として駅のポテンシャルを高めて活用する場としても捉えたいものである。そして、輸送に関し駅を総合的に捉え、端末輸送部分においても積極的な取り組みを通してモーダルシフトへ新しい息吹をもたらす環境づくりを推進したいところである。
 いずれにせよ、現代社会においては、地球規模で問われている環境問題等に対する社会的な強い要請から、従来にも増して活発化している幹線輸送におけるモーダルシフトに加え、端末輸送においてもモーダルシフトへの兆しが顕在化し、物流に関して新たな輸送サービスの時代がすでに始まっている。 (終)

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