LCCと鉄道の動向に寄せる

画像 LCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)の元年といわれた2012(平成24)年から2年余りが経過した現在、国内航空市場に本格参入を果たしている日本のLCCは「ピーチ・アビエーション(APJ)」(関西国際空港を拠点)、「ジェットスター・ジャパン(WAJ)」、「エアアジア・ジャパン(同)」(ともに成田国際空港を拠点)の3社である。中でも、関西国際空港を拠点に新千歳と福岡の2路線で2012年3月に運航を開始したピーチ・アビエーションは、2年後の2014(平成26)年4月には累計搭乗者数が500万人に達し、当初の経営目標とした就航3年目での単年度黒字(2014.3期決算)を見事に達成している。また、ジェットスター・ジャパンも、2012年7月3日の就航からの累計搭乗者数が2014年7月6日に500万人を突破し、就航から105週目での突破は国内のLCCでは最速のペースだという。ちなみに現在のジェットスター・ジャパンは、成田・関西の両国際空港を拠点に国内の10都市・14路線(計18機の“エアバス320”を就航)で運航を行っている。こうした状況の下で、格安運賃を掲げる日本のLCCの国内航空市場における航空ビジネスは、その存在の定着を確実に固めつつある。
画像                     ピーチ ・ アビエーション 
 国内航空市場へのLCC参入から2年、以来、大手航空会社(FSC=Full Service Carrier)や新幹線等からの利用者の転移が今、着実に進みつつある。ちなみに国土交通省の調査によれば、LCCがなければ観光旅行などに出掛けなかったとする人の割合は、LCC利用者のおよそ16%に相当するという。また、LCCの利用状況から概観すると、利用者全体の1~2割相当はLCCの格安運賃自体が生み出した誘発需要であると推察される一方、残る8~9割相当の利用者層はLCCがなければ大手航空や鉄道などの他交通機関を利用していたであろう転移組の利用者であるとされる。こうした格安運賃で運航し、他の交通機関からの利用者転移を誘発しているLCCの存在は、移動手段として交通機関の利用にあたり利用者の選択肢の幅と自由度を広げているとともに、格安による誘発需要の連鎖を伴って利用者増を呼び込みながら運輸・交通市場の拡大にも一役買っている。
画像 ジェットスター ・ ジャパン
 LCCの今後の動向では、国内における導入の歴史も浅いことからまだまだ開発・発展の途上にあるが、2014年夏以降には国内航空市場で現在就航中の日本のLCC3社に加え、外資系主導のLCCや海外社によるLCCの日本市場への参入・再参入の計画が、また国際線への就航も予定されているなどさらなるLCC航空路線の拡大が見込まれている。特に、国内外の国際線LCCについては今後も路線の拡大に大きな変化が見込まれるため、海外からの訪日外国人旅行者のさらなる増加による国内観光市場の活性化が望め、この点においては全国に路線網を張り巡らす鉄道市場にとってもプラス効果への期待は大変に大きいといえる。反面、LCCの国内路線の拡大は鉄道からの利用者転移につながることは否めず、鉄道事業者としてもLCCの今後の動向からは目が離せないことにもなる。
画像                        エアーアジア ・ ジャパン
 国内航空市場参入への歴史がまだ浅いLCCではあるが、その格安航空運賃が鉄道市場に与えてきた影響や打撃はどれ程かといえば、打撃というほどの域には至らないまでも、LCCの輸送距離当たりの運賃は大手航空会社に対して(半額前後)はもとより、新幹線より4割近くも安いという実態から、当然に鉄道から航空への利用者転移が進んでいるのは現実である。LCC参入の地域や地帯の鉄道利用率(分担率)は、利用移動手段(交通機関)の選択肢を格安のLCCに譲るかたちに傾いていることから、確実に減少化(2012年度…近畿~福岡4.1ポイント減、近畿~長崎4.6ポイント減、近畿~鹿児島7.5ポイント減等で、その移転利用者数は17~28万人)の傾向を見せている。将来的に発展・拡大の見通しが明るいLCCに対しては、鉄道からの利用者転移はまだまだ今後も進むものと見られている。ちなみに、2013年度の日本のLCC3社合計の国内輸送人員は565万人であった。
画像 タラップ使用による搭乗 成田国際空港
 LCCの格安運賃を概念的に例示すると、新大阪~博多間における新幹線の片道運賃(指定席)1万5310円に対して大手航空会社は同1万7010円だが、LCC(APJ)は5000円~2万円前後と格安感が利用者に与えるインパクト(勿論、大手航空会社や新幹線にも企画乗車券や多様な割引運賃等の適用はある)は大きい。ただ、LCCでは手荷物預かりや機内サービスに別料金が必要なことなど、格安運賃の提供にはそれ相応のコストの低減(削減)策が盛り込まれているのは当然である。そのLCCが採るコスト削減策を見ると、運航に関して就航を1機種に統一した上で地方の中小空港(第二次空港)を優先使用、航空機の点検・整備には自社の整備施設を持たずに他社へ委託、搭乗に関してはタラップの使用(“沖止め”)や設備を簡素化したLCC専用の搭乗ターミナルの使用による空港施設使用料の抑制、機内サービスの簡略・簡素化、乗務員の中途採用(訓練コスト等の削減)や社員給与抑制等の人件費節減等々、多方面にわたってコスト削減の諸施策が採られている。

 およそ500kmを超える中長距離帯における公共交通機関の利用実態を見ると、主に新幹線、航空、高速バスが棲み分けの中で利用されているようである。その中でも、600~700kmを超える長距離帯へは航空が高いシェアを占めており、新幹線のシェアは縮小傾向にある。この傾向の行方は、格安運賃の提供をインパクトに利用者の獲得を図る、今後のLCCの動向に大きく関わりそうである。
画像 しかしながら今、国内のLCCが日本の空に登場してわずか2年(北米や欧州、アジアなど他の地域での普及は20年以上も前)だが、パイロット不足から早くも大きな曲がり角を迎えている。病欠者や退職者(引き抜き等)、航空法の身体検査基準を満たせずに就業できないなどによるパイロット不足が、国内LCC3社に大量の欠航便を発生(ピーチ・アビエーションは5~10月に約2000便欠航、エアアジア・ジャパンやジェットスター・ジャパンも1カ月に100便以上欠航)させている。このパイロット不足は現在、世界的な航空業界全体の共通の課題となっており、大量の欠航や就航延期等を招いている。そこには、多くの新航空路線の登場やLCCの普及など就航便の急速な拡大化が与えている、パイロットに対する需要の急激な高まりがその要因にある。国土交通省航空局の予測では、2020年には国内におけるパイロット要員は6700~7300人が必要(2013.1時点の国内パイロット数は5700人)との見方を示す。こうした今日のパイロット不足への対処として国は、防衛省のパイロットを民間移転させる制度を今年から復活させ、同時に、外国人パイロットの採用を円滑化させるための制度の見直しも検討している。
 そもそもLCC自体は、機材や人材等に余裕を持たせずに経営に反映させることで低価格運賃を提供しているビジネスモデルであり、こうした企業の構造的問題の下で発生するパイロット不足は直接かつ即座に航空機の運航に影響(大量欠航)が及ぶこととなる。

 いずれにせよ、LCC登場の歴史が欧米などに比べ浅い日本においては、国内線・国際線ともにLCC路線の拡張・開拓の余地はまだ残されており、今後に大きな期待が持たれている。その中で今、航空業界全体に起きているパイロット不足の問題に対しては、国内では国の積極的支援策などが採られていることから長期にわたって尾を引くとは思えないが、とにかく長期的見地に立った姿勢で前向きに解決を図っていきたいところだ。勿論、人材等にそれほどの余裕を持たずに格安運賃提供のビジネスに徹するLCCにとっては、直ちに大量欠航に結びつくパイロット不足は死活問題にもかかわる喫緊の事態であることに変わりはない。ただ、LCCビジネスモデルが日本の国内航空市場において着実に定着しつつある中で、2014年夏以降には海外LCCの日本市場参入の計画(春秋航空日本の参入やWAJの再参入など)もあって、国内LCCの国際路線への展開も含めLCCの将来的展望は明るいと言えまいか。

画像
                                 東海道新幹線
 中長距離の移動に関して、“航空か鉄道(新幹線)か”という選択肢の面では、快適利用に落差などもあって航空の方が鉄道に対し一歩先行(大きな荷物やペットの預かり、空港内や機内のもてなし、高齢者や子供連れの優先登場等々)しているようだ。かといって、航空対鉄道(新幹線)に雌雄を求めるのではなく、双方の輸送特性(航空は点と点を結ぶスポット輸送、鉄道は線に沿ったライン輸送で、根本的に輸送形態は異なる)を相互に活かして補完し合いながら棲み分けのできる公共の輸送機関として存在し得れば、LCCの今後の伸展に伴い生じるであろう利用者の航空への転移も折り合いの範囲に収まる可能性が生まれてくるのではないだろうか。すなわち、双方の持ち味(特質)を顕在化させながらの、ともに協調の上に立った競争を目指すべきであろう。
 航空利用を選択する事由として、時間に係わる事由が中心を占めているは勿論だが、核心的には割引運賃や格安運賃といった運賃・料金面に惹かれる事由の方がより現実的なのではないか。その中でも、遍く航空利用者が最も高い関心を寄せ、注目度を得ているのがLCCである。実際に現状では、LCCの参入区間に相当する鉄道の輸送分担率(シェア)は確実に航空移転を示しており、格安運賃への関心が如実に顕れている。こうした、利用者の鉄道市場からの転移をもたらしているLCC市場に対し鉄道事業者としては、その現状や今後の動向から目を逸らせてはいられないだろう。 (終)…「JRガゼット」を参照させていただいた.

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