交通系ICカードと活用サービス

◇… 2014(平成26)年6月17日に開かれた観光立国推進閣僚会議(内閣総理大臣主宰)で決定された「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」(訪日外国人旅行者数2000万人に向けた2020年アクション)の実現に向け政府は、交通・鉄道の分野で訪日外国人が気軽に安心して国内観光旅行を楽しむことができるよう、外国人にも利用し易く利便性が高い交通系ICカードシステムの導入・支援の姿勢を打ち出している。

画像

 その交通系ICカードのパイオニアとして登場したのが、2001(平成13)年11月にサービスを開始したJR東日本の「Suica」である。サービス開始から今年(2014)で13年目を迎えたSuicaは、この間にクレジット機能の搭載(ビュー・スイカ)や携帯電話機能の活用(モバイルSuica)などIC乗車券の基本機能をさまざまに進化させてきた。また、乗車券としての利用のほかに、電子マネーとしての機能を搭載しショッピングに利用できるサービスも提供(2014.1末現在の利用可能店舗数約24万4960店舗)しており、Suicaの発行枚数は2014年1月末時点で約4557万枚(事業者別でトップ)に達している。
 また、2013(平成25)年3月には全国11の交通事業者間において交通系ICカード(10種)の相互利用が始まり、手持ちに1枚の交通系ICカードがあれば全国主要都市の鉄道やバス等への利用可能のサービスが実現している。この相互利用サービスの実施により、交通系ICカードの利用範囲は大幅に拡大されてより高い利便性の向上がもたらされ、今後のさらなる同ICカードの利用促進が期待されている。こういった日常の生活や移動において利便性の高い交通系ICカードのシステムについて政府は、国が目指す2020年訪日外国人旅行者数2000万人達成に向けた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」の行動計画に活かすべく、“外国人旅行者の受け入れ環境整備”(小銭など現金の用意を必要としない旅先での決済環境の向上、二次交通の快適・円滑な移動環境の整備等)に対する支援策の一つに交通系ICカードを採り入れている。

◇… 今日の交通系ICカードの普及は、鉄道輸送におけるサービス向上やコストダウンに貢献しているだけでなく、「電子マネー」という輸送とは基軸を異にするサービス機能の搭載により鉄道事業の経営に大きな一つの方向性と変化をもたらしている。こうした交通系ICカード(Suica)の普及と機能強化を背景にJR東日本では、「IT事業(Suica事業)」を経営を支える鉄道事業(第1)や生活サービス事業(第2)に続く“第3の柱”に据え、さらなるICカード関連事業の進展に取り組む姿勢を示している。

画像

 ここで改めて、JR東日本の乗車券としてのICカード・Suicaの導入とその事業経緯および効果を少しく検証して見る。そもそもIC乗車券としてのSuicaの導入には、駅の「改札」という業務のプロセスを革新することがそのスタートにあった。そのSuica導入によりもたらされた具体的なメリットは、利用者に対しては乗車に際して小銭の用意や乗車区間の運賃確認、乗車券購入といった手間や時間的煩わしさからの解放をもたらし、一方鉄道側においては駅業務のキャッシュレス化や発券・回収の業務削減に伴うほぼチケットレス化に近い業務形態を促進させ、乗車券発売窓口の縮小や券売機などの発券システムの簡素化に伴うメンテナンスコスト削減化および現金取扱業務の効率化等が図られて、円滑な事業運営上に多大なメリットを生み出している。しかも、従来の磁気式の乗車券や定期券では対応し得なかったサービス(紛失時の券面残額の保障や再発行)の提供を可能にし、利用者へのメリット拡大がさらに高められている。さらには、普及の進んだ携帯電話の通信・表示の機能を活用した「モバイルSuica」の登場(2006(平成18).1サービス開始)は、定期券・グリーン券の購入などの際に券売機やみどりの窓口に並ぶ必要をなくして時間や移動に要する制約を大幅に緩和(バリアフリー化)し、2008(平成20)年3月にはJR東日本管内の新幹線をチケットレスで利用できるサービスも開始している。
 Suicaは、現在もさまざまなサービスの形を創出して進化を続けているが、13年前に「改札」の革新という一つのプロセスからスタートして以来、今や「出札」のプロセスにも変革をもたらしている。もともと鉄道の業務革新を目指して導入されたICカードは、駅の在り方(利用の少ない自動券売機の撤去で捻出した新たなスペースの活用によるビジネスチャンスの創出等)にまで影響を及ぼすビジネスとしての存在(JR東日本の経営を支える“第3の柱”)へ成長を示している。ただ、これらサービスの提供が一事業者のエリアに限られていたなら、ICカードの利用が限定的な範囲に止まり、現状のようなSuicaの利便性や導入効果は望み得なかったであろう。そうした制
画像                                交通系ICカード全国相互利用シンボルマーク
約の克服に向けJR東日本は、Suicaの導入当初から“利用可能エリアの拡大”や“他事業者発行のICカードとの相互利用”等の推進を積極的に進めてきた。その中でも、2007(平成19)年に実施したPASMO(株式会社パスモ発行のICカード)との相互利用では、1枚のICカードでエリア内のほとんどの鉄道・バスが利用可能となったことで首都圏におけるIC乗車券の利便性を一気に押し上げ、JR東日本ではSuica利用率の飛躍的な高まりを生かした諸業務のコストダウン(高効率化)につなげている。そして、2013年3月23日に開始された全国の11事業者による交通系ICカードの全国相互利用サービスにより、全国主要都市の鉄道・バス等への利用とそのインフラ整備等が促進され、ソフト面における“バリアフリー”が進んだことで高齢者等や日本の国内旅行に不馴れな訪日外国人などの交通弱者に対する公共交通機関の利用しやすい環境づくりが高進した。

◇… 交通系ICカードが創出したビジネスに、大半の事業者が導入を図っている“電子マネー”としてのサービス事業があり、そのスタートは2004(平成16)年3月にSuica(JR東日本)が初陣を切っている。カード利用者にとってこの電子マネー機能は、ICカードによる鉄道利用同様に、日常の買い物(加盟店)においても“タッチ”するだけで支払いの決済が完了する、スピーディーな買い物と小銭の用意が不要になる利便性に富んだサービスが享受できる機能である。また、加盟店にとっても、キャッシュレス化、レジ待ち時間の削減、接客回転率の向上といった接客業務に効果をもたらしている。こうした利便性や業務効果を背景に、少額かつ迅速な決済へのニーズが頗る高い「駅ナカ」の店舗を中心に、交通系ICカードの電子マネーサービスの導入は進んだ。サービス開始からわずか10年、今では駅ナカはもとより利用者ニーズの多方面化によりコンビニエンスストアやスーパーマーケット、飲食店、タクシーなどの“街ナカ”にも加盟店舗を拡げるとともに、観光地や企業・大学の食堂など新たな分野へも進出し、電子マネーの利用市場は急速に拡大を続けている。2014年1月末時点における交通系ICカードの電子マネーを利画像用できる加盟店舗数は約24万4960店舗に及ぶが、約60兆円規模といわれている日本の現在の少額決済市場を前に、現状の交通系ICカードの電子マネーの決済額は約5%の3兆円程度に止まっている。とはいえ、大規模市場を前にして、今後の交通系ICカードの電子マネーに寄せる市場開拓の余地は誠に大きいといえる。それ故、国民の新しい生活インフラに成長しつつある交通系ICカードの将来には、期待に満ちた利用者サービス創出への挑戦の場が用意されているといえる。
 しかしながら、鉄道の利用や買い物等の日常生活に利便性や迅速性などといったサービスのイノベーションを実現した交通系ICカードだが、ICカードである以上利用等によって蓄積される情報(データ)は鉄道経営に有機的に結びつけて活用ることが可能である一方で、その利用(活用)の如何によっては交通系ICカードに“負”の結果をもたらしかねない。それが、2013年の夏に表面化した。首都圏を中心におよそ4300万枚(2013年)が使われていたIC乗車券のSuica、その一部利用データが外部提供されていたのだ。JR東日本では、個人を特定する情報(氏名、連絡先等)は取り除いているため個人情報保護法に触れてはいないとするものの、利用者への同意や説明を経ずして外部提供していたことが世間に大きな波紋を広げている。

画像
                            モバイルSuica JR東日本
◇… 21世紀に入って情報技術(IT)が著しい進展を見せている下で、国の情報通信白書が“年間約7兆7千億円の経済効果が見込める”と試算を示す大量の電子データ(ビッグデータ)の活用が近年、新ビジネスとして注目を浴びている。利用により交通系ICカードに蓄積される一つひとつのデータは、それぞれ利用者個人の行動や経緯の履歴であると同時に、当然に本質的には“プライバシー”性を有していることになる。ただ世間一般的には、交通系ICカードの購入にあたり利用(乗車)データ履歴の外部提供にまで懸念を示す人は極々希であって、ただ単にいちいち切符を買う必要がなく乗車できるというだけの便利さから購入する人が大半であろう。すなわち、データ外部活用の前述の件については、現行法ではICカード購入の時点でデータの提供を拒否できる環境にはないために無理からぬことではあるが、利用者側に“自分のデータが使われる”という認識が薄い環境の下に起きたケースではあった。今回のケースは、データの活用とプライバシー保護の両立を模索していく上で、一つの新たな教訓を与えてくれたというよう。そして、ビッグデータが氾濫する近代にあって、プライバシー保護のためには早急に新しいルール枠の整備が求められる。
 交通系ICカードは今、多様なサービスの提供と高い利便性により全国的な利用者の支持を得ており、国民生活の中で手放せない新しい社会インフラに成育しつつある。登場から十年有余、人々の日常の移動等に係わり欠かせない近代的アイテムである交通系ICカードは今、さらなる各種サービス機能の充実と進化に向けその歩みを着実に進めている最中にある。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

ぱす
2014年09月05日 23:58
「Suicaの利用エリアの拡大」に合わせてJR東日本は、今春、東京近郊区間を拡げ、さらに来月には、吾妻線も同区間になるということです。そこで100キロを越える長距離利用で、従来、二日間有効で途中下車可能であった乗車が、東京近郊区間に適用される最短経路で運賃計算はされるが、当日限り有効下車前途無効のルールに従う問題が浮上しています。JRがSuicaを導入したからといって、利用者が体力的にスーパーマンに変身したわけではありませんので、今まで二日間かけて移動していた旅程を一律一日で済ませろというのは、チョットした足切りに思えます。素晴らしいICカードシステムなのですから、JRの側で長距離は二日間有効途中下車可のSuicaシステムに進化させられませんか。東京近郊区間の利用の組合わせは∞ではないのですから。もう一つ、「JR東日本では…諸業務のコストダウン(効率化)につなげている。」、本当ですか?システムエンジニアSEの費用はどうなっています。寡占市場の電機メーカー指定のSEを言い値で採用していませんか。機器とシステムでブラックボックスが大きければ、システムで付加価値は増えても、それは乗客が負担するわけです。地方ローカル私鉄でICは経営改善の切り札になっていないのは実は高コストだからではありませんか。富士急は機械発券システム内製とも言われていますが。

この記事へのトラックバック