山積みの環境影響課題に挑む ・ リニア中央新幹線

東京・神奈川・山梨・静岡・長野・岐阜・愛知の7都県を通り、東京(品川)~名古屋間全長286.0kmを最高速度505km/h・最速40分で結ぶリニア中央新幹線は、建設事業費約5兆4000億円をかけ2027年の開業を目指して現在、本格的な建設工事着工(2014年秋予定)へ向けた環境アセスメント(環境影響評価)の手続きが最終段階を迎えている。
画像 環境アセスメントは、特に新たな大規模事業の展開(開発)を行う場合に環境に大きな影響を及ぼす恐れ(環境影響)について、事業者自身が事前に調査、予測、評価を行うことで環境への影響を回避・縮小するための環境対策に関する法制上の手続きである。
 この手続きの過程においては、関連する地元自治体や住民などを対象に各方面から環境影響に関する意見や要望を求め、環境に対する対策や計画の手続きに反映させるのが一般的な環境アセスメントの手法である。
 1969(昭和44)年に米国で始まったこの事業開発に関する環境影響評価手法(法制化)は、日本では1972(昭和47)年に国(政府)が導入へ向けた方針を決め、国の事業を中心に閣議決定や行政措置、通達などにより、また地方自治体においても独自に評価要項等を定め、環境アセスメントが行われていた。しかしながら、条例化への方針が高まりはしたが、手続きの煩雑さや開発が規制されるなどとした産業界や開発事業を所管する省庁からの反対が根強かったため、国の法制化は1997(平成9)年まで四半世紀も待たされた。所管の環境省は環境アセスメントについて、対策への手続きは規制ではなく、あくまでも事業の開発を行う事業者に環境保全等に対し自主的な配慮を促す手段である、と強調する。
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                   山梨リニア実験線で走行試験中のL0系車両・笛吹市八千代町付近見
環境アセスメントの調査・予測・評価を行う対象の項目(要素)を挙げると、次のようである。(1)環境の自然的構成要素の良好な保持 (2)生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全 (3)人と自然との豊かな触れ合い (4)環境への負荷。これら環境要素の中から、事業の種類や規模等に応じて環境保全上必要とされる要素を選ぶ手続きを経て、事前の調査・予測・評価の過程が踏まれる。こうして実施される環境アセスメントは、事業を始める直前の段階で進められる手続きを「事業アセスメント」、事業の構想段階で実施される手続きを「戦略的環境アセスメント(SEA)」と呼ぶ。
 過去最大級の環境アセスメント対象事業である、全長286.0kmに及ぶ東京(品川)~名古屋間を結ぶリニア中央新幹線の建設においては、建設工事により沿線の環境に与える影響は枚挙にいとまがないほどに多岐にわたっており、環境アセスメントに対する課題が山積みの状態にある。そのリニア中央新幹線の環境アセスメントに関し事業主体のJR東海は、2011~13年にかけ東京~名古屋間の7都県において環境アセスメントを実施し、建設工事と営業運転が沿線の環境に与える影響の調査と対策をまとめた結果を環境影響評価準備書として、関連の都県に対して2013年9月に公表した。その準備書に沿って各都県は、それぞれに設置した専門家らによる環境審議会で妥当性を評価してきた。各審議会では、準備書においてはアセスメント情報量が少ない上に、環境影響が及ぶ範囲が不確定であるとともに評価内容が不十分であるとして、準備書に対する見直しや要望などをまとめた意見書案を2014年3月にJR東海に提出していた。これに対しJR東海は、沿線7都県の知事から提出を受けた意見書案を検討した上で、修正を加えたJR東海の対応と方針をまとめた最終段階としての環境影響評価書を2014年5月に国(国土交通省)へ提出した。この時点で、環境アセスメントの法制度上、環境影響に対して沿線自治体が正式に意見具申を行う機会は喪失した。それ故に、JR東海から提出された環境影響評価書を審査する国(国土交通省、環境省)の責任は重いことになる。この後90日以内に、国土交通相と環境相の審査を経て作成された環境アセスメントに対する意見(書)がJR東海に示される。そして、国の意見(書)が求める事項に関しJR東海が進める対応・対策の如何により、リニア中央新幹線の建設工事着工の可否が判断されることになる。
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2014年6月5日、JR東海が提出した環境影響評価書に対する環境相の意見(書)が国土交通省に提出をされたが、環境相意見(書)には環境保全に対し踏み込んだ内容が並ぶものの、その具体的な対処・対策はJR東海に任せられた。
 リニア中央新幹線の環境影響評価書に対する環境相意見の概要では、同新幹線の建設には相当な環境負荷の発生が予測でき、環境保全には十全な措置を図らなければならないと前置きした上で、次のような対処を求めている。温室効果ガス対策には再エネや省エネ設備の具体的な導入計画を策定すること。水環境については、工事に伴う水量の変化など水資源への影響の可能性が確認された場合、応急対策の上に恒久的対策を実施すること。動植物や生態系に対しては、ユネスコエコパーク登録申請地としての資質が損なわれることのないよう保全に万全を図ること。廃棄物については、トンネル掘削等の発生土を抑制し、地方公共団体との協議を通して管理計画の作成を実施すること。…等である。
 リニア中央新幹線の路線の特徴は、高速走行により東京(品川)~名古屋間を40分で結ぶ計画から可能な限り走行距離を短くする直線的なルートが全体的に採られていることから、ルートの86%(246km)が2000~3000㍍級の峰々が連なる南アルプスをはじめとする山岳地帯の直下を貫くトンネル群と地下路線で占められていることである。
 そのため、掘削によって発生する残土の量も膨大で、およそ5680万立方㍍(東京ドーム約50杯に相当)に上るという。JR東海が提出の最終的な環境影響評価書では、その掘削残土の処分先が一部を除きほとんど明らかにされていなかったことから環境相意見では、施設規模の見直しと発生土量抑制の検討を、また残土の仮置き場について地元自治体との話し合いによる管理計画の作成を求めた。一方、トンネル掘削工事に伴う発生土とともに懸念されるのが、湧水の発生である。湧水排出の如何によっては、地下水位の低下や河川流量の減少・枯渇等水資源への影響を招き、河川の生態系等に不可逆的な影響を与える可能性が高いとされている。
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                     リニア中央新幹線のルートに立ちはだかる南アルプスの峰々
 この工事に伴う排水についての環境相意見は、影響が確認された場合の応急対策・恒久対策の実施を求めるとともに、南アルプス直下を貫くトンネルでは工事前に地下水の解析を行うなど、水環境の保全を求めている。また、建設工事に伴う動植物の生態系に関する環境保全を子細に求めたのも、この環境相意見の特徴である。すなわち、建設計画路線の周辺では従前からオオタカ(大鷹・絶滅の恐れのある国内希少野生動物種)など希少猛禽類の営巣が認められており、JR東海では工事の施行に際し影響への状況に十分な配慮を払うとしているが、環境相意見では繁殖に重要な地域の工事回避や営巣期(2~7月)の工事回避を促している。この他にも、環境影響が懸念されている問題には、人体への影響が云々されている電磁波問題やジェットコースター張りの走行騒音問題、東海道新幹線の約3倍にも及ぶとされる消費電力とそれに係わる二酸化炭素(CO2)排出量の問題等が挙げられている。
 しかしながら、JR東海が受けた環境相意見に対する具体的な対応・対策についてはJR東海に任せられてはいるものの、過去には対応・対策が不十分であるとして計画が中止されるに至った石炭火力発電所(二酸化炭素の排出対策)や、渡り鳥保護への配慮から事業範囲の見直しを求められて環境アセスメントの手続きが止まったままの風力発電所など、環境保全にそぐわないとした環境相の判断から事業開始に至らないケースも出ている。

リニア中央新幹線の建設工事(東京~名古屋)は、その期間が13年という長期に及ぶとされていることから、将来的な環境影響について予測不能な事態・変化が起こる可能性を否定できない。そのため環境相意見では、環境保全に変化が見込まれるとされる場合には建設工事中や開業以降であっても環境アセスメントを改めて行わなければならないと指摘し、その事後調査結果の公表を求めている。リニア中央新幹線の建設においては、建設残土等の廃棄物や工事排水による水資源等への影響、動植物の生態系への影響など、解決すべき環境影響に関する課題が山積みだが、これらに対する解決策が図られることなくしてかつて前例のないこの巨大プロジェクトの成立はおぼつかない。
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                        リニア中央新幹線営業線仕様のL0系車両
 東海道新幹線開業(1964(昭和39))の2年も前からすでに次期高速鉄道システムの開発を手掛け、東京~大阪間を1時間で結ぶ構想を目標に旧国鉄の鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)で現在のリニア中央新幹線建設構想に至る超電導リニアに対する基礎研究が始まったのは、今から半世紀以上も前の1962(昭和37)年のことであった。そして今、リニア中央新幹線(超電導磁気浮上式鉄道)は、逼迫する東海道新幹線の輸送量の補完と老朽化を迎えつつある同新幹線代替えの幹線輸送路として、また南海トラフ地震などで同新幹線が不通となったときのバイパス路線としての役割を担う計画の下で、長年の超電導リニア高速鉄道構想の実現・達成へ向け建設工事への着工が間近に迫る。
 総建設事業費が約9兆円と試算されるリニア中央新幹線(東京~大阪間)は、事業主のJR東海が全額自己負担で完遂を図るが、これは日本の経済・文化の大動脈を担う巨大プロジェクトであり、事業規模としては国家的色合いが強い。それ故に、リニア中央新幹線実現の成否はJR東海のみならず、日本経済の行く末に大きく係わる。とにかく、リニア中央新幹線の建設プロジェクト達成に向けては山積みの環境影響に関する諸課題排除への努力が欠かせず、環境保全に対する果敢な挑戦をおいてはほかに途は無い。 (終)…最近の新聞記事を参照させていただいた.

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