対峙する新局面 ・ リニア中央新幹線

     対峙する新局面 リニア中央新幹線

画像 東京~大阪間を最速67分で結ぶ、2045年に全線開業を予定するリニア中央新幹線(超電導磁気浮上式鉄道)に関しJR東海は、2027年に先行開業を目指す東京~名古屋間(およそ286km)に対する年内(2014.10)の工事着工予定に向け、同年4月23日に環境影響評価書を国土交通省に提出した。ところが、その翌日の24日に、現在東京~名古屋間で先行開業を目指しているリニア中央新幹線について、自民党の議員でつくる「超電導リニア鉄道に関する特別委員会」が東京~大阪間の全線を同時に開業させる案を決議し、政府へ提出したのである。
 この自民党案によれば、名古屋~大阪間の総建設費3兆6000億円全額の無利子貸付けを前提に、国の負担で国が独自に2027年の東京~名古屋間開業に間に合うよう名古屋~大阪間の建設工事を進め、完成後に名古屋~大阪間の線路や駅等の施設・設備をJR東海に譲渡して東京~大阪間の全線開業を図るとしている。その上で、JR東海は国へ利子負担なしで名古屋~大阪間の建設費を分割返済(15年据え置き後の20年返済を想定)するという、工事費融資をまとめた案である。この案に沿って自民党は、建設費貸付のための特別措置法の制定(鉄道運輸機構主導の整備新幹線へ影響を与えないための別枠の財源措置)を政府に提案し、財務および国土交通両省との本格的な協議に入る方針を示している。
画像 ちなみに東京~名古屋間の建設費(5兆4000億円)は、もともとリニア中央新幹線東京~大阪間全ルートの建設費・約9兆円をJR東海は自社負担で賄うことをスタンスとしていたことから、従前からの建設計画通り同社の自己負担による。

この度の突然の自民党提案に戸惑いを隠せないJR東海だが、この提案によれば同社にとっては名古屋~大阪間建設費の利息分として数百億円の負担軽減(試算では国の利子負担は1000億円前後の見込み)につながる計算にはなる。しかし、この突然の提案に対しJR東海の念頭に去来していたのは、かつての旧国鉄が破綻への淵に入り込んでいった過去の事例であった。当時の国鉄は、世界初の高速鉄道・東海道新幹線の開業を東京オリンピック開催に間に合わせようと急いでいた建設工事の途上で、用地買収費や工事費用が2倍近くに膨らみ、その上に経済変動も絡んで過大な有利子負債を抱え込んだ経営をその後も余儀なくされ、赤字体質への陥落とともに国鉄改革(分割・民営化)への主要因ともなった苦い経緯を持つ。この過去のケースを省みるときに、同じ轍を踏んではならないとするJR東海は、過去の教訓に習いリニア中央新幹線東京~大阪間の建設計画にあたっては東京~名古屋間を先行開業させる姿勢(部分開業により過度の債務を抱えない)を打ち出していたのだ。旧国鉄当時を知るある元幹部は、「国や議員の求めに応じて無理をしても、結局は自分の首を絞めることになる。余裕をもって返却できる借金しか抱えないことが大切」と話す。
 JR東海は、新会社として発足(1987.4)以来これまで、“5兆円を超えて債務は持たない”とする経営の基本理念を堅持してきた。それ故同社は、例え無利子貸付けであっても当初計画(東京~名古屋間)以上の借金(債務)は抱えない方針を記者会見の席上で明らかにし、自民党案を事実上拒否した形となっている。もし仮に、この自民党案が実現となれば、リニア中央新幹線東京~大阪間全路線の同時一斉開業の可能性は高まりそうだが、JR東海は仮に資金面の課題が解決したにしても、同時開業は技術的(長期間を要する環境への影響調査や評価、大阪ターミナル駅等の難工事など)に不可能との考えを強調している。
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                         中央新幹線営業線仕様リニア車両L0系」 〉
リニア中央新幹線の東京~名古屋間の工事着工を巡り、JR東海が2014年4月23日に国土交通省へ提出した環境影響評価書に対し、沿線7都県から批判が相次いだ。
 もともと、2013年9月に沿線自治体に公表された環境影響評価準備書に対しても、同沿線から調査が不十分などといった指摘や批判が相次いでいた。その公表された“準備書”に対し、沿線各都県はそれぞれに設置した環境審議会で専門家らが妥当性を評価してきたが、アセスメントの情報量不足で評価できない、車両基地や変電施設の建設位置が不明確で環境の影響が及ぶ範囲不確定で評価が不十分などとする意見書案がまとめられ、それに基づいた各知事の意見書が2014年3月25日までにJR東海へ提出されていた。
 しかし、各知事の意見書提出からわずか1カ月後の環境影響評価書の提出とあって、沿線7都県からはほんの1カ月そこそこでの意見書に対する評価書の修正内容に対し、“求めていたようになっていない”“意見を反映する気があるのか”など評価書の提出を拙速とする批判が相次いでいた。これに関してJR東海は、“沿線の知事の意見を踏まえ、しっかり対応したものとご理解いただける”として、年内の着工(2014.10)を目指す意向を強調した。また、国土交通省は、環境相の意見を踏まえ90日以内にJR東海に評価書への意見を出した後、建設工事着工実施への可否を判断するとしている。一方環境省は、アセスメントに対し追加の調査が必要となれば着工まで時間を要することもあり得るとしており、この10月に予定されている工事着手時期への“評価書”の影響が焦点となっている。そんな最中での、リニア中央新幹線全線同時開業案(自民党案)の突出だった。
画像 走行試験を開始したL0系笛吹市八代町付近の山梨リニア実験線
現時点(2014.4)における、JR東海を事業主体とするリニア中央新幹線建設計画は、2027年に東京~名古屋間を開業し、2045年に名古屋~大阪間を開業させる予定の下で進められている。そのJR東海が、超電導リニアによる中央新幹線の建設を進める目的は、日本の経済と国民生活の大動脈を担うインフラとして今年(2014.10)開業50周年を迎える東海道新幹線の経年劣化への対策と、大規模災害への抜本的対策に備えるためである。すなわち、大動脈を二重系にすることで日本の経済と国民生活を担うバックボーンを強化し、如何なるときでもその使命である社会的意義が失われないよう保持させるのが目的である。併せて、超電導リニアにより時速500㌔(最高速度505km/h)の高速運行で東京~大阪間を最速67分で結び、社会的なライフスタイルの変化を生み出すことで日本経済の活性化につなげようとするものである。
画像 リニア中央新幹線の建設計画においては、建設財源を昨今の財政事情が厳しい国の公的資金に頼っていては、そう遠い先を見越した時間的余裕を持てない建設計画そのもの自体に展望が開けないことから、JR東海は建設工事費の全額自己負担(東京~大阪間)を決めている。勿論、JR東海は中央新幹線の建設を、一企業の利益享受のために遂行しているものではなく、国の屋台骨を構成する重要なインフラの建設であるとともに、次代の日本に不可欠なインフラであるとの認識に立って、全国新幹線鉄道整備法に準拠した国家プロジェクトとして位置付けた計画の基にリニア中央新幹線の建設を進めている。
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今回、リニア中央新幹線の東京~大阪間全線開業の前倒しを図った「超電導リニア鉄道に関する特別委員会」で決議された自民党案は、そもそも同委員会の構成委員に関西方面出身の議員が目立つ中でまとめられたものであると聞き及ぶ。その東京~大阪間同時一斉開業を案出するに至った背景には、東京~名古屋間の2027年開業から18年を経た2045年の名古屋~大阪間の開業では、その間に東京圏への一極集中が強まるであろう中で、関西圏における経済の活性が相対的に収縮する地盤沈下を招きかねないとの懸念も働いていたのではないだろうか。
 いずれにせよ、東京~大阪間を約67分で結ぼうというリニア中央新幹線の建設は、鉄道新線としてはかつて前例のない巨大プロジェクトである。そのリニア中央新幹線は今、東京~大阪間全線一斉開業を目指そうという新局面に対峙する渦中にあって、今後の成り行きが新たな注目を集めている。また、超電導リニア技術を駆使した超高速新幹線の建設には、世界からも大きな関心とともに、その完成に期待が寄せられてもいる。
 建設工事着工を目前に控えたリニア中央新幹線の動向は、今後どのような展開を見せていくのか気になるところだが、東京~大阪間の開業時期を巡る国とJR東海の駆け引きは当分続きそうである。 (終) 関連公開ブログ・「リニア中央新幹線に寄せる」2014.4.7.

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