新幹線が紡ぐ遠距離恋愛寸描

画像 ― “シンデレラエクスプレス ” ―。 …かつてJR東海が1987(昭和62)年に展開したCMのキャッチフレーズで、遠く離れ離れに暮らす恋人たちが週末に出会い、短い時を過ごして別れて行く日曜日の夜の東京駅新幹線ホームで繰り広げられる恋のドラマを描いたCMだ。21時丁度の東京発新大阪行きの最終列車(〈ひかり289号〉)を前にしたホームで、束の間の週末を過ごしたかけがえのない時間を胸に別れの刹那を惜しむ遠距離恋愛の恋人たちの姿を追ったストーリーで、その日曜日の新幹線最終便に同社が名付けたフレーズが“シンデレラエクスプレス”である。
 今、その時から27年を経る。遠距離恋愛の恋人たちが日曜夜の東京駅新幹線ホームで繰り広げてきた、一種の社会現象ともなった新幹線の最終便を前にしての切ないながらも温かい恋の別離の光景は変わることなく、今も時世の移ろう中で日曜夜の同駅新幹線ホームには1秒でも長く一緒にいたい恋人たちの語らう姿がある。
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JR東海はかつて、同社の基幹路線である東海道新幹線をテーマとした映像によるイメージCM“エクスプレスシリーズ”(“シンデレラ”と“ホームタウン”のシリーズ)を1988(昭和63)年から1992(平成4)年にかけ展開した。国鉄の分割・民営化で新会社として誕生したJR東海(東海旅客鉄道株式会社)が同社初の企業広告として制作・放映したのが、日曜日の夜の東京駅新幹線ホームを舞台に遠く離れて暮らす恋人たちが週末に出会い離別していく様子を描いた、映像による「シンデレラエクスプレス」をシリーズ化したCMであった。ちなみに同CMは、女優の深津絵里や牧瀬里穂さんらを起用して制作され、夜の東京駅新幹線ホームを舞台に遠距離恋愛の姿を詩情豊かに描いたもので、この恋人たちの切ない別離の情景はシリーズ化されて日曜日の同駅新幹線ホームにおける夜の風物詩ともなっていった。
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JR東海初のCM制作のきっかけとなったのは、JR東海発足前(国鉄当時)の1985(昭和60)年にTBSから放映されたドキュメンタリー「シンデレラ・エクスプレス ―48時間の恋人たち―」であった。東海道新幹線のイメージづくりのテーマとして、午前0時が最終便の東海道新幹線を午前0時に舞踏会で魔法が解けてしまう童話「シンデレラ」のイメージに重ねて創られた。当初制作のCMが広く好評を得たこともあってJR東海では、東京発新大阪行きの最終便がその後に21時18分の〈のぞみ303号〉に変わったが、一連の“エクスプレスシリーズ”(アリスのエクスプレス、プレイバック・エクスプレス、ハックルベリー・エクスプレス、ネームタウン・エクスプレス、クリスマス・エクスプレス、ファイト・エクスプレス、リニア・エクスプレス等)を東海道新幹線をモチーフに、1992(平成4)年まで制作を続けた。また、2000(平成12)年には一度限りのCMとして、「クリスマス・エクスプレス2000」を復活・登場させ、遠距離恋愛を偲ぶ機会を提供している。
 当時、この一連のCM“エクスプレスシリーズ”の登場は、重く暗かった旧国鉄時代のイメージの存在を払拭し、JR東海を一躍人気企業へ押し上げる機運をもたらすなど、同社の経営上に大きな効果を与えた。

今年(2014)、東海道新幹線は開業50周年(1964(昭和39).10.1開業)を、また東京駅は開業100周年(1914(大正3).12.18開業)を迎える。その東京駅は先年(2010(平成22).10.1)、赤レンガ造りの丸の内駅舎が創建当時の姿に復元され、旧来の東京駅に比し“東京ステーションシティ”と称して装いを一新して生まれ変わった。シンデレラエクスプレスの舞台・東京駅新幹線ホームも、東北や長野方面を結ぶ新幹線が発着して賑わいを増し、近年はホームドアも設置されてホームの雰囲気を大きく変えている。
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 1987(昭和62)年にシンデレラエクスプレスのCMから生まれた遠距離恋愛、その恋人たちが別れを惜しんだ東京駅21時丁度発の新大阪行き最終新幹線〈ひかり289号〉のシンデレラエクスプレスが東京駅を発ってから27年、当然のごとく遠距離恋愛の惜別を演出してきた東京駅新幹線ホームも様相を変化させてきた。かつて、日曜夜の東京駅新幹線ホームで束の間の別れを主人公の恋人たちに演じさせてきた脇役の新幹線100系車両は、1990年代前半まで東海道新幹線の主力車両として活躍したが、2012(平成24)年の春に引退して東海道に今その姿はない。かつてのシンデレラエクスプレスに相当する、東京発新大阪行きの最終列車も幾度かその“開演時刻”を変えてきたが、現在のダイヤでは最新のN700系車両による21時20分発の〈のぞみ269号〉が新大阪行き最終として遠距離恋愛の脇役を務める。
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東京駅新幹線ホームで演じられる遠距離恋愛の構図は、多くの場合恋人たちが仕事などの都合で一緒に過ごせるのは、週末の土曜から日曜にかけた東海道新幹線の終電までという限られた時間で、その上、月に1度しか会えない恋人たちも多いという。
 月に一度か二度という、少なく短い会瀬の時間はまさしく貴重であろう。最終便の発車時刻が迫る列車の乗降口前では、一刻を惜しむかのように顔を寄せ合い言葉を交わす2人がいる。また別の乗降口では、車内に入った彼とホームの彼女とが手に手を握り愛の温もりを確かめ合っている。最終列車が2人の間を隔てようとも、心はしっかり結ばれ離れない…。日曜日の夜の東京駅新幹線ホームには今も、そんないつもの恋人たちの光景がある。
 もしかすると、今、日曜夜の東京駅新幹線ホームのステージに立つ遠距離恋愛の恋人たちは、かつてのシンデレラエクスプレスで育まれ結ばれた恋人たちの愛の結晶なのかも知れない。そんな忍びやかな空想も、27年前の遠距離恋愛の恋人たちへノスタルジアをも駆り立ててくれる。 (終)

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