近年の駅弁考

テーションビジネスの元祖とも言うべき駅弁事業の昨今においては、百貨店やスーパーなどで盛大に開催される駅弁大会等を目にする限り、表面的には駅弁が一種のブーム的存在に映る。しかしながら、駅弁を取り巻く近年の環境は大変に厳しく、JRの全国の駅などで駅弁を製造・販売している事業者の集まりをまとめる「特別社団法人・日本鉄道構内営業中央会」(東京都千代田区:国鉄改革(1987年)に際し「国鉄構内営業中央会」を組織変更、JR6旅客鉄道会社において旅客構内事業を営む団体で構成)によれば、構成会員のうちの駅弁製造業者の数は年々漸減傾向を示しているという。
 駅弁は、鉄道を利用する人々が綿々と長年にわたり培ってきた、貴重な食文化の一つである。全国の各地方で作られる駅弁には、その地方独自の食材や産物がふんだんに使われ、巷であまねく販売されている一般の弁当類とは異なる地域密着の形を採り、独自の特質を持った駅弁という“食文化”を創り上げている。
 その駅弁も現在、さまざまな形態の製造業者が混在する弁当業界の競合下にあって、年を追うごとに駅弁製造業者の数が減少しつつある実態にあっては、長い歴史の中で創り上げてきた駅弁という“文化”そのものの喪失にもつながりかねない懸念が無いとは言えない。

画像
                 〈 東京駅のセントラルストリートに駅弁専売の店舗を構える「駅弁屋 祭」(NRE) 〉
こで、JR東日本グループの㈱日本レストランエンタプライズ(NRE)では少しでもその懸念払拭を期して、日本の中心にあって情報発信の拠点として最も優れた場所の一つである東京駅に駅弁販売専用の常設店舗出店の意向を示していた。その背景には、同時に、他のJRエリア(JR東日本以外)で営業を展開している駅弁事業者にとっては、自社製品を東京駅で販売してみたいという願望が大きいはずだとする判断がNREにはあったのだ。そして、この度の東京駅駅舎復原化事業を機に、従来の中央通路が改修されて新たに生まれ変わった「セントラルストリート」に日本最大の駅弁販売店と銘打って、「駅弁屋 祭」という常設の店舗を2012年8月9日にオープンさせたのである。
画像 「駅弁屋 祭」(年中無休、Suicaでの精算可)は、1日平均20万人が利用するという通行量が大変に多い丸の内側と八重洲側を結ぶセントラルストリート(中央通路)の八重洲側に近い場所に位置(丸の内に向かい右側)している。
 そうした商い上での立地に恵まれた場所に位置する「駅弁屋 祭」は、その売り場面積は110㎡と東京駅構内に数ある店舗の中でもそれほど大きい構えではないが、出足好調の中で1日平均1万個の駅弁を売り上げているという。同店舗の特色は、日本列島の北から南まで日本全国の駅弁約150種類を取り扱うとともに、店内の2ヵ所に設けたオープンキッチンでお客様の目の前で駅弁が作られ、出来立ての駅弁を買うことができることにある。百貨店などで行われる駅弁大会でも全国各地の駅弁が販売されるが、これらは販売期間が限定されており、常時食せるというわけにはいかない。その点でも、常設であり、何時でも好みの全国の駅弁を選りすぐって楽しむことができる店舗であり、おそらく全国でもそうした形の店舗は「駅弁屋 祭」だけであろう。この新しい試みともいえるNREの「駅弁屋 祭」出店の展開に対しては、近年の駅弁を取り巻く厳しい環境の中で迎えている駅弁の“食文化”の希薄化を如何にして乗り越えてくれるか、期待とともに駅弁業界にとっての拠り所ともなろう。

画像
                             〈 店頭に設けられたディスプレイ 〉
つては、列車の窓越しに売られるホームでの“立ち売り”が主流だった駅弁は、鉄道車両の近代化により固定式で窓が開かない車両が増えたことに加え、列車の高速化による通過列車の増加や停車時間の短縮により、駅弁販売本来の立ち売りが現在ではたち行かなくなっている。同時にまた、車内販売の縮小や廃止等と併せ、駅構内等における飲食関連店舗やコンビニ・スーパー等の充実により駅弁の売り上げ数は伸び悩み、製造業者の減少傾向も続いているという現在の駅弁業界事情ではある。
 そのような状況を囲っている昨今の駅弁ではあるが、その一方で地域の食材を使って製造されていることから、地産地消を通じ地域の物産需要に大きな役割を果たして、地域経済の掘り起こしに貢献している駅弁でもあるのだ。

画像

 さて、終着駅であると同時に始発駅という日本の鉄道において特別な存在の東京駅で、東京の都心に居ながらにして全国の駅弁を常に楽しむことができる店舗としてこの夏にオープンした「駅弁屋 祭」は、前述の如く駅弁の販売を通じて駅弁という日本の伝統的な食文化を改めて将来へ継承していくという、大きな役割を担った存在であると言えようか。この度の「駅弁屋 祭」の誕生が、駅弁業界の今後の展望に明るい希望の“灯火”となることを大いに期待したい。 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック