BRT ~被災鉄路復旧の担い手となり得るか

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 JR東日本では、東日本大震災(2011.3.11)によって被災し、長期にわたる不通で列車運行を見合わせているJR気仙沼線(地方交通線全線単線非電化・前谷地~気仙沼間72.8km)の柳津~気仙沼間(55.3km)において、その一部の線路敷(陸前階上~最知間2.1km)をバス専用道に改修・整備し、一般道路との併用により暫定的ながら2012年8月20日よりBRT(バス高速輸送システム)による列車代行バスの運転(運行は宮城交通ミヤコーバスに委託)を開始した。今後も、鉄道復旧までの間、仮の路線復旧としてバス専用道の走行区間を延ばし、年内までには本格的なBRTとして正式に開業する予定という。

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                         〈 JR気仙沼線不通区間の専用道を走るBRT 〉
 ちなみに現時点の列車代行バスの運行本数は、柳津~志津川間15往復、志津川~本吉間下り20本・上り17本、本吉~気仙沼間下り25本・上り24本である。

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 今、被災地(東日本大震災)では鉄道路線が長期にわって不通となっている地域がある中で、鉄道に代わる仮復旧の手段として投入コストが少なく、しかも整備期間が短くて済むBRTがにわかに注目されるようになった。
 東日本大震災で被災し、やはり長期の不通が続いているJR大船渡線(地方交通線全線単線非電化・一ノ関~盛間105.7km)の気仙沼~盛間(43.7km)においても、2012年8月に開かれた「JR大船渡公共交通確保会議」で鉄道に代わる公共性の高い交通システムとしてBRTの導入により不通区間の仮復旧を図る計画を、同線沿線の気仙沼市、陸前高田市および大船渡市が受け入れる方針(同年10月の正式合意を目指す)を明らかにしている。
 しかし、その一方で、旧来から鉄道への愛着と依存意識が高い地域ではBRT導入による被災路線復旧に対し反対の意向も強く、不通が続くJR山田線(地方交通線全線単線非電化・盛岡~釜石間157.5km)沿線では不通区間(宮古~釜石間55.4km)の復旧に対しBRTの受け入れ拒否を決めている。おそらく、同線の開業以来長い間鉄道に親しみ支えられてきた地域だけに、その利便性や安定性が捨て難いとう気持ちとともに、BRTに対し道路の渋滞等で定時運行が損なわれ易い路線バスのイメージ(BRT=バス)が強いこともあっての成り行きではなかったろうか。

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 BRT(Bus Rapid Transit)は、その名の通りバスを用いた公共の高速輸送システムの一つである。しかし、“専用道(軌道)を走行するバス”であるという以外に、BRTであることを確定する明確な定義付けはない。
画像 〈 名古屋市の「名古屋ガイドウェイバス」志段味線 〉
 BRTを運行する専用道(軌道)には、単に道路を白線で区切っただけのもの、路面の色を変えたバスレーンに近いもの、縁石等ではっきり分離したもの、高架式専用道(軌道)としたもの、道路とは別空間に整備したもの等々がある。また、運用されるバスには通常の基幹バスや連節バスなどのほかに、専用軌道と一般道路の双方を走行できるデュアルモードのバスがある。すなわち、単にバスレーンを走行するのであれば普通の路線バスに過ぎないが、道路への一般車両の乗り入れを規制してバス運行に対する専用性を高めたシステムとしたのがBRTと言えよう。
 現在、日本で導入されているBRTとしては、愛知県名古屋市北東部の交通の要衝である大曽根を起点に運行している名古屋ガイドウェイバス(一般道路との併用・2001.3開業)と、茨城県で廃線(鹿島鉄道・2007.3廃止)となった鉄道路線の跡地を専用道に整備し、一般道路との併用により基幹バスを運行している石岡市のBRT(運行は関鉄グリーンバス・2010.8開業)だけである。ちなみに石岡市のBRTが鉄道の廃止後3年余りを過ぎて導入に至ったのは、鹿島鉄道(石岡~鉾田間26.9km)の廃止により失われた沿線住民の生活の足を確保するために代替バスの運行を確保したのだが、周辺道路の混雑による慢性化した遅延で安定したバス運行が困難となり、利用者の減少とともに公共交通としての使命が果たせなくなりつつあった経緯があったのだ。
画像                      〈 専用道を走る石岡市のBRT 〉
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 1950年代の後半頃から始まった日本の高度経済成長の中で、著しい進展を見せたモータリゼーションに伴い多くの地方中核都市において各種都市機能の郊外への移転(駐車スペースの確保等)が加速して、都心部の空洞化が進んだ。同時に、市民が日常生活の足としていた公共交通(路面電車やバス路線等)も、相次いで廃止または縮小されていった。その結果、郊外化で拡大した都市部の構造は、自動車に頼らないと移動困難な市街となり、インフラ整備(道路、電気、上下水道等)の面でも低効率かつ環境負荷の大きい構造となり、歪化した都市構造を呈していった。
 そうした状態を打破すべく、近年多くの自治体が再び都心部に拡散した機能を呼び戻し、コンパクトな都市構造の再編を図る取り組みを進めた。その実現には、市街地内を快適かつ容易に移動できる公共交通システムの整備が必要不可欠であるとして、路面電車の復活が各地で検討されてきた。
 その公共交通の軸として捉えられたのが、利便性に優れている都市型交通として欧米などで導入例の多い、従来の路面電車のイメージを大きく変えたLRT(Light Rail Transit)の導入であった。それは、都市計画と結びついて生活と一体化した利便性を発揮できるよう、低床式バリアフリー対応・低振動低騒音・低CO2排出量等の環境に優しい車両を運行し、環境に配慮した機能性を持って整備された装置全体を指す都市路面交通システムである。

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                             〈 富山市の「富山ライトレール」 〉
 しかしながら、地下鉄などに比べ整備や運行コストが格段に小さいとはいえ、当然にLRT導入にはまとまった資金の投入が必要となる。昨今の地方自治体が喘ぐ財政の逼迫を考えると、なかなか導入には踏み切れないのが実態であった。残念ながら、日本でのLRTの導入例は未だ、利用者の減少から赤字路線に転落して鉄道としての存在が薄らいでいたJR富山港線(地方交通線・富山駅~岩瀬浜間8.0km)を転換して全国初のLRT化を図った、「富山ライトレール」(富山駅北~岩瀬浜間7.6km・2006.4開業)を運行する富山県富山市の1都市だけに止まる。そして、このJR富山港線のLRT化への第一歩が契機となり、あとに続くLRT導入に向け大きな前進につながればと期待されながらも、不発に至っている現状に無念さを禁じ得ない。
 その導入が容易に進まないLRTに代わる公共交通システムの一つとして従前から整備・導入されてきたのが、LRTよりも少ない費用の投入でLRT並みの交通サービスの提供を可能にしたBRTであった。しかし、そのBRTもまた、先に述べた愛知県名古屋市の「名古屋ガイドウェイバス」(志段味線・大曽根~小幡緑地間6.5kmの高架専用ガイドウェイ区間と一般路線バス区間の併用で高蔵寺(JR中央線)間を結ぶ)と、茨城県石岡市のBRT(旧鹿島鉄道石岡駅~同四箇所駅間5.1kmの専用道と一般道路の併用でJR常磐線石岡駅と鉾田(鉾田市)・茨城空港(小美玉市)間を結ぶ)に過ぎない。

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 BRTといっても、一見した限りでは普通の路線バスに過ぎない。そのため、先に述べた如く、周囲には“BRT=バス”であるとのイメージとして映り易い。LRTについても同様で、導入に際し当初は従来の路面電車と同様に認識されて、積極性を持った導入へとはつながらなかった。
 ところが、初のLRTとして富山ライトレールが開業すると、従来の路面電車を遥かに凌ぐ明るく斬新な装置全体のデザインが人気を博し、当初の周囲のイメージを一新させた。国土交通省によれば、富山ライトレールの開業に触発されてか、直後にはLRT導入に向けた動きを見せた都市は約60ヵ所に及んでいたという。しかしながら、全国で注目されながらもLRTの導入は、その後遅々として進んでいない。そこには、導入による費用対効果や既存路線バスとの競合、道路交通への影響(一部が占有される)などに加え、何よりも長引く日本経済の不況とともに地方経済の低迷がその背景にある。
 今、東日本大震災による被災で長期にわたっている鉄道の不通区間の復旧に際しにわかに注目が集まるBRTだが、富山ライトレール(LRT)同様にJR気仙沼線のBRT導入が路線バスのイメージ払拭につながり、今後の導入推進の契機になれば幸いだ。

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                      〈 JR気仙沼線陸前階上駅ホーム脇の専用道を行くBRT 〉
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 東日本大震災から1年半余り、被災地においては、寸断されている公共交通ネットワークの1日も早い復旧が求められている。
 その復旧の主軸としてBRTの導入を図るにしても、BRTには路線バスに近い形のものから鉄道に匹敵するようなものまでさまざまな方式がある。そのため、復旧・整備にあたりBRTの導入を検討している地域があるとすれば、どのようなタイプが地域の公共交通として適材なのか、復旧に際しBRTに何を求めようとしているのかを自治体や住民、関連事業者等の関係者が連携し、しっかりと方向性を見極める必要があろう。その上で、鉄道に代わり公共性が高く、しかも地域に必要とされるBRTの実現化を図るには、地域独自の工夫と創造性の盛り込みも必要となろう。
 未だ全国でも導入例の少ないBRTではあるが、この度のJR気仙沼線復旧に対する導入を機にして未曾有の大震災に見舞われた地で、果たして被災鉄路復旧の担い手の一つにBRTはなり得るだろうか…期待したいところである。   (終)

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