“中国では作れぬ” ~負の展示

―「これは中国では作れないな 」― 福島県白河市のJR東日本総合研修センター内に開設(2002(平成14)年)されている「事故の歴史展示館」(関連公開ブログ「負の歴史展示」2007.10.14)を訪れた中国鉄道部(省)の関係者たち、その多くが見学にあたって洩らした“感想”である。その中には、幹部級の人たちもいたという。
画像         〈 JR東日本総合研修センター正面・福島県白河市 〉                    
 如何に列車の運転が近代化されて安全が確保されても、最終的に利用者の生命と財産を守るのは人の力(注意力や思考力、対応措置能力)が基本であるという意識をしっかり社員に持ってもらうことを狙いとしたJR東日本は、過去に起きた鉄道事故の風化を防ぐとともに、過去の過ちから教訓を学び取り事故防止に役立てることが必要であるとの認識に立ち、社員の総合研修センター内に「事故の歴史展示館」(社内外の鉄道重大事故を体系的に捉えて体験的に学ぶことができる施設)の開設を図ったのである。
 その開設の原点となった事故が、鉄道全路線へのATS(自動列車停止装置)設置化の引き金となった、旧国鉄時代の1962(昭和37)年5月3日に常磐線三河島駅構内で起きた列車の二重衝突事故(死者160人・負傷者296人)としてつとに知られている「三河島事故」(関連公開ブログ「追憶・三河島事故から半世紀」2012.5.13)である。この「事故の歴史展示館」の存在は、事故の記憶を風化させずに後世に伝える場として、各地で同種施設の開設による同様の試みが始まる一連のきっかけともなった。

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                         〈 三河島事故(常磐線三河島駅構内)・1962.5.3 〉
 同展示館では、戦後に起きた鉄道事故の中から脱線・衝突・火災・感電など25例の事故をパネルやCGによる再現を通して展示し、事故は何故起きたのか、どうすれば防げるのか、事故後の防止対策はどう取られたか等々、事故発生の原因からその経緯、対応、対策に至るまでの過程が一目で分かる展示となっている。社員向けの、一般的に非公開の施設だが、展示では英語や中国語でも解説されており、海外の鉄道関係者にも見学の機会が与えられている。
 ただ、事業者にとっては負の歴史を展示することになることから、事故に関連する人たち(犠牲者の遺族など)にとっては様々な思考や感情が交錯する等の事情もあり得るため、そうしたことへの配慮の下に普段は展示施設の一般への公開(本来なら社会的意義の点から安全への取り組みを伝える場として公開が望ましいのだが)はなされていない。

 “中国では作れないな…”と、「事故の歴史展示館」見学当時の感想を洩らした中国の鉄道関係者たち。その中国で、速さ優先・安全軽視だとして世界の鉄道界を揺るがした中国高速鉄道の追突・脱線事故(2011年7月23日夜、中国浙江省温州市で北京発福州行きの高速列車が、落雷の影響から徐行運転を行っていた杭州発福州行きの先行の高速列車に追突して脱線し、追突した列車の先頭から4両が高架橋下へ転落し死者40人・負傷者170人余りを出した事故(関連公開ブログ「中国高速鉄道事故の現実に見る」2011.8.1)から1年が経った。
画像 〈 中国高速鉄道追突・脱線事故(浙江省温州市) 2011.7.23 〉
 中国当局は、事故直後に、原因究明を待たずして事故車両(追突した先頭車両)を重機で粉砕し事故現場に埋めてしまったが、事故隠蔽との世間の厳しい批判を受けて掘り起こし、温州南駅近くの操車場内に事故原因の検証を行うためとして運び込んでいた。しかし、運び込まれた事故車両の残骸は、事故後1年を経過した今も同じ場所に無造作に積み上げられて泥まみれのままに放置されている。高さ2㍍・幅20㍍ほどにうず高く積まれ瓦礫化している車両の残骸には、クモの巣が張り、残骸の隙間のあちこちからは雑草が顔を覗かせている。こうした状態から推して、事故原因の検証のためとして運び込まれたにしては、検証された形跡すら窺うことはできない。
 その残骸から少し離れた線路上(操車場内)には、追突された高速車両の10数両が黄塵に汚れた白い車体を晒して留置されている。また、温州南駅から7km東方の貨物駅には、追突して損傷が激しかった5両の高速車両が濃緑のシートを被せられたままに、1年前に運び込まれた状態で留置されている。
 このように、事故車両が忘れ去られた如くに放置されているのと同様に、悲惨な事故からわずか1年の経過で人々の間からも、高速鉄道追突・脱線事故の記憶の風化が始まっているようだ。今では、悲惨な事故現場だった場所を訪れる人も、ほとんど見受けられないという。

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            〈 放置されたままの重機で粉砕された追突事故を起こした先頭車両の残骸・温州南駅操車場構内 〉
 「失敗の記録を、何故、外国人にも見せるのか …」、JR東日本の「事故の歴史展示館」を見学した中国鉄道部関係者の間では、その驚きもまた共通していたという。
 昨年の中国高速鉄道の事故で、事故の検証を行うこともなく、その日の内に高架橋から転落した事故車両を事故現場で破壊して野菜畑の土中に埋めてしまった中国当局の行動を見るにつけ、事故防止に資する展示館等の開設は今の中国当局にとってはほど遠いことのように思える。
 事故防止の原点は、事故に学ぶことから始まると言われているほどに失敗を共有する考えを持たずしては、事故展示という姿勢は表れてこないのではないだろうか。されど、いつの日にか中国の鉄道においても、失敗を表に出して事故防止に役立てようとする気風が生まれてくることを、心待ちにしたいものだ。 (終)~某新聞の「特派員メモ」欄を参照~

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