ある事故調査結果に寄せて ~電車脱線事故

西武鉄道の西武園線で2011(平成23)年12月24日(土)16時39分に起きた東村山駅構内における電車脱線事故について、西武鉄道は外部調査機関(公益財団法人・鉄道総合技術研究所)へ事故調査を依頼して原因の究明を行ってきたが、このほど(2012年5月)現時点で判明している調査結果が取りまとめられ公表された。

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             〈 脱線した上り各駅停車西武新宿行き第6352列車(20000系8両編成)・2011.12.24 東村山駅構内 〉
この電車脱線事故は、西武園線(単線・東村山駅~西武園駅間の1駅間)の西武園駅を発車した上り各駅停車西武新宿行きの8両編成の電車(第6352列車・20000系・乗客約450名)が次駅の東村山駅構内に定時で進入の際、西武園線から本線の西武新宿線へ入る分岐器上を通過中に先頭から7両目車両(モハ20956号車)の第1台車の2軸が曲線(基準線側)の外側へ脱線したものである。
 当該脱線事故においては、運転士が異常を感知して非常停止したが、幸い乗客には脱線による怪我人はなかった。また、非常停止した電車の先頭車両が東村山駅のホーム(5番線)にかかっていたことから、乗客の避難・誘導においても混乱や障害はなかった。この電車脱線事故により、西武新宿線の小平駅~所沢駅間(6.3km)と西武園線(2.4km)で終日列車の運転が見合わされ、191本の列車が運休(西武新宿線上りで特急11本を含む63本、同下りで特急13本を含む75本・西武園線で上り27本、下り26本)して約7万2000人に影響が出た。しかも、暮れも押し詰まったクリスマスイブの夕刻のこととあって普段よりも人出が多かったなかで、利用者や沿線に多大な影響が及んだ。
 事故後、運輸安全委員会(国土交通省)の事故調査を受けたが、その終了を待って翌日(25日)の午前2時17分に脱線車両を線路上に戻す復旧作業が終わり、事故車両(8両編成)は午前4時45分に車両基地(南入曽)へ収容された。そして、12月25日の初電車から通常運転を再開している。ただ、事故後のさらなる安全を期すため、西武園方面から本線の西武新宿線へ入るルート(東村山駅5番ホーム)および西武園駅発の西武新宿行き電車の運行を一時中止していた。
 ちなみに、同脱線事故が「年末年始輸送の安全総点検」の期間中に発生したことから、同総点検最終日の2012年1月10日に国土交通省による事故現場の査察が行われている。

画像                               〈 内方分岐器 〉
脱線事故現場の分岐器は、線路の曲線箇所に設置された内方分岐器(基準曲線路の内方へ分岐する)で、35km/h以下という通過速度の制約を受けている。その内方分岐器の分岐線側外側レールにかかる輪重(車軸左右の各々の車輪にかかる車両重量。その輪重が左右の車輪で均等でなければならない状態の中で、輪重が片方の車輪にどれだけ偏っているのかを百分率で表したのが輪重のアンバランス値である)は、静止輪重(静止状態において測定される左右車輪にかかる輪重比)に比べ小さくなる傾向にある。当該脱線事故については、その観点を踏まえながら行われた外部依頼の調査結果から、レール頭面への車輪の乗り上がりが脱線の原因であったと推定付けられている。
 事故後に行われた原因究明のための事前の調査結果によれば、軌道関係や車両関係等における日常の検査、検修、管理等については問題がなかったことが確認されたが、脱線箇所の内方分岐器の分岐線側トングレール(車両を分岐させる先端軌条)に摩耗・変形が認められた。その上で、鉄道総合技術研究所が行った現時点における原因究明の調査結果が公表されたが、その概要を西武鉄道編集の社内報「せいぶ」(2012年6月号)から抜粋して以下に記します。

『脱線事故の推定原因』 …(〈〉内はブログ公開者当人による記述)
① 乗り上がりの経緯としては、右トングレール先端〈分岐線側〉より50㎜の位置では、右車輪〈モハ20956号車の第一台車第一軸右車輪〉のフランジ先端とトングレールがフランジ角度の70°より小さな43°の角度で接触〈内方分岐器における分岐線側のトングレールにかかる輪重は、静止輪重と比べ内側基本レールより小さくなるのが通常である。その輪重のアンバランス状態が関与して、トングレールの摩耗・変形部分に車輪のフランジ外周部分が乗り上がるかたちとなって基準線側レールに対して車輪の踏面が浮き上がった状態を呈し、基準線側基本レールに対するフランジの接触角度が浅くなっていた〉し、その後も同程度の接触角が継続したため、車輪踏面が右基本レール〈基準線側〉頭面より徐々に上方に離れて〈浮き上がるかたちで〉走行し車輪がトングレールに乗り上がったものと考えられ、接触角の減少はトングレールの摩耗・変形によるものと考えられます。

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                        〈 脱線したモハ20956号車のSS150A形動力台車 〉
② 事故現場付近では、当該列車は速度に比べカント〈曲線を走る車両に働く遠心力を抑制して安定した走行を行うため、遠心力と釣り合う程度まで左右のレール頭面間に付けられる高低差:高度〉が大きい状態(均衡速度34km/hのところ28km/h)で走行していたことから、外軌側の輪重は静止輪重に比べて小さくなっていた〈曲線箇所における静止輪重は、レールにカントが付けられているため車両重量が軌道中心から内側へ偏るため、外側より内側の方が大きくなる。すなわち、車両に働く遠心力は速度に比例するため、34km/hのところを28km/hで走行すればその分遠心力は小さくなり、従って34km/hで走行したときより車両の重量が軌道中心から曲線の内側へ偏り、内側の輪重が大きくなることになる。これが、カントを大きくしたことと同じ状況を意味する〉こと及び右基本レールからトングレールに乗り移る際に、曲線半径の変化〈内方分岐により分岐線側の曲線半径が基準線側より小さくなる〉に伴って衝撃的な横圧が発生したと考えられます。よって、この状況と、車輪フランジとトングレールとの接触角が小さかったため、車輪は乗り上がりやすい状態にあったものと考えられます。

③ 当該列車の7両目が脱線したことについては、車両に関する調査において特に脱線の要因となるものは見られなかったことから、他の要因として、当該分岐器付近での車両の挙動や車輪・レール間の摩擦係数の影響などが考えられますが、今回の調査では明らかにすることはできませんでした。

 ~ 以上が、当該電車脱線事故の原因究明に対して、鉄道総合技術研究所が行った調査結果に基づいて出された推定原因の概要である。

西武鉄道によれば、車両や軌道等については同社が定める管理基準値内に保守されているとしており、また、トングレールに摩耗・変形が認められたことについても同社規定の基準値内に保守されていたいう。それ故、今回の脱線事故を予測するのは極めて困難であったとしている。

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                              〈 ポイントガードの概容 〉
 しかし、外部機関への依頼調査結果から、トングレールの摩耗・変形が脱線の一要因であると推定されたことから西武鉄道では、同種事故の再発防止を図るための暫定対策としてトングレールの摩耗防止を抑制する施策として、同社線内設置の22ヵ所の内方分岐器に“ポイントガード”(写真参照)を設置している。
 現在も、運輸安全委員会(国土交通省)による脱線原因究明の調査は継続中だが、最終の調査結果がまとまり次第に同種事故再発防止に必要な恒久対策を実施し、事故防止を強化していきたいとしている。

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                          〈 脱線した20000系モハ20956号車両 〉
脱線事故と聞けば、107人の犠牲者と600人に迫る負傷者を出したJR宝塚線(福知山線)電車脱線事故の大惨事(2005(平成17)年4月25日)が今も記憶に鮮明だ。昨年(2011年)暮れ、西武鉄道東村山駅構内列車脱線事故の報に触れたとき、静止輪重のアンバランスから急曲線箇所を走行中の電車がレールを乗り越えて脱線し、隣接線路を走行中の電車に衝突して死者5人・重軽傷者35人を出した12年前の営団(当時)地下鉄日比谷線で起きた電車脱線衝突事故(2000(平成12)年3月8日9時02分 中目黒駅構内)が脳裏を過った。“輪重バランス”の管理が問題視され、急曲線に対する“脱線防止ガード”の設置がクローズアップされた、脱線事故であった。東海道線(当時国鉄)の鶴見事故(貨物列車の脱線を端に起きた列車の二重衝突事故・1963(昭和38)年11月9日 162人死亡)を引き合いに出すまでもなく、列車運転が輻輳するところでひとたび列車脱線事故が発生すれば、その直後に起こるであろう様相は想像に難くない。
 この度の西武鉄道の東村山駅構内列車脱線事故では、乗客等に怪我をされた方もなく、1車両の脱線に止まったことを知り、当事者には申し訳ない思いながら安堵の胸を撫で下ろしたものだ。 (終)~西武鉄道社内報「せいぶ」を参照させていただいた。

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