<スーパーおおぞら14 号>脱線・火災事故に寄せて~

JR北海道の石勝線で2011年5月27日に起きた特急列車の脱線・火災事故に重ねて、かつての北陸トンネル列車火災事故(1972(昭和47).11.6)を思い起こした人も多かったのではないでしょうか。
 日本の鉄道史上で最悪の列車火災事故の一つ、北陸本線(当時国鉄)の北陸トンネル内における列車火災では30人に及ぶ死者(負傷者は714人に及んだ)を出したが、JR北海道のこの度の列車火災では死者を出すことなく40人の軽傷者に止まったことは不幸中の幸いであった。
 事故の翌日、6両編成の特急列車がトンネル外へ引き出され、トンネル内で炎に焙られ焼けだだれた無惨な姿を晒す報道写真などを前にして、大惨事にならずに済んだことに安堵の胸を撫でおろした人も多かったのではないだろうか。

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                    [ 焼失した〈スーパーおおぞら14号〉・JR石勝線占冠~新夕張間 ]
JR石勝線(南千歳~新得間160.3km、新夕張~夕張間16.1km)は、札幌・帯広・釧路方面等への道東を結ぶ北海道における幹線鉄道路線の一つである。その石勝線で、列車脱線・火災事故が起きた。
 2011年5月27日午後9時56分頃、釧路発札幌行きの特急<スーパーおおぞら14号>(6両編成気動車列車)が占冠~新夕張間を走行中に、先頭から4両目車両(3号車)の床下から推進軸(エンジン動力を車輪に伝える長さ1.1㍍・重さ83kgの鋼鉄製軸)が脱落・落下して後続の5両目車両(2号車)がその衝撃を受け1軸が脱線、特急列車はそのまま約1kmほど走行を続けた。3号車(グリーン車)に乗務していた車掌が床下からの異常音に気付いてその旨を運転士へ通報し、特急列車は先頭が第1ニニウトンネル(北海道占冠村・全長685㍍)に約200㍍ほど入った中央部付近で、緊急停止した。
画像 同列車には、乗客240人と乗務員4人(運転士、車掌、客室乗務員2名)の計244人が乗っていた。緊急停止後、後部車両の1~3号車内に白煙が立ち込め始めていたが、車掌は炎が見えなかったため火災が発生しているとの判断はしなかった。そのため、乗務員の乗客への避難指示や避難誘導がなされないまま、車内に拡がる煙から逃れるため乗客自らがドアの非常用コックを操作して自主的に車外へ避難を始め、乗客全員がトンネルの外へ脱出した。この際、煙を吸うなどして乗客40人が病院へ運ばれて手当てを受けている。
 しばらくして、後部車両(最後部車両の1号車と見られる)から出火していた同列車は炎に包まれ、トンネル内で全車両6両が焼失した。この脱線・火災事故により、占冠~新夕張間を含む全区間で不通となったJR石勝線は、事故発生から56時間半ぶりに運転を再開している。

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                        [ 焼失した〈スーパーおおぞら14号〉の特急車両 ]
この事故に関するJR北海道の調べによると、脱落した<スーパーおおぞら14号>の3号車の推進軸は第1ニニウトンネルの手前約1.0kmの線路内に落下しており、同トンネルの約800㍍手前からマクラギ上に脱線した車輪の痕跡が続いていたことから、脱線したまま走行を続けていたのではないかという。この点から2号車の脱線は、脱落した推進軸が落下の弾みでレールに乗り上げて車輪に衝撃したか、あるいは台車等に衝撃して起きたのではと、JR北海道では見ている(調査中)ようだ。
 また、事故後の調べで、燃料タンク内の軽油が3~6号車には残っていたが、1・2号車は空になっていた。このことから、脱落した推進軸が何らかの拍子で燃料タンクに衝撃して損傷を与え、1・2号車に燃料洩れを起こさせたと推測される。その洩れ出た燃料(軽油)が、高熱を帯びていたディーゼルエンジン部の周りに触れ白煙が発生したと考えられ、火災の引金になったのであろうと思われる。
画像 [ 焼けただれた〈スーパーおおぞら14号〉の車内 ]
 しかしながら、緊急停止後、車内に立ち込めていた煙を認めながら同列車の車掌は、出火(炎)が認められなかったことからトンネル内で車両火災が発生しているという判断には及ばなかった。結果的に、このことが乗務員の乗客に対する避難誘導等への対処の遅れを誘発してしまった。こうした乗客に対する避難誘導が遅れてしまった背景には、JR北海道における列車火災に対する乗務員の事故処置に関する運用規定やマニュアルの解釈如何にあったようだ。
 “走行中に火災が発生した場合、旅客の安全を最優先し、火災から旅客を避難させる”との定めがあり、異常時マニュアルで定める火災とは“炎が認められたとき”とある。すなわち、煙を確認しただけでは“火災”ということにはならないという判断基準が示されていたのだ。
 これによって同事故では、乗務員は煙を確認してはいても、炎が出ていなかった(認められなかった)ために火災発生との認識には至らなかったのだ。裏を返せば、煙が出ているていうことは、そこに火種が存在すると考えるのが一般的な認識であり、その常識に疎かったことになろう。俗に、“火のないところに煙は立たぬ”の例えがあるように、規定やマニュアルを遵守するのは大切で必要なことだが、状況判断が甘い上にあまりにも杓子定規的にマニュアルに依存した乗務員等の今回の事故に対する判断(規定の鵜呑み)と言わざるを得ない。当然に、事故情報は乗務員から中央の指令所等へ連絡されているはずだが、乗務員も指令所も煙の発生に対する認識(火災発生のおそれ)に不足があった証でもあろう。
 もう一つ、乗客に対する避難誘導に遅れを取った理由に、火災認識の不備に併せ、列車の最後部車両(1号車)でワゴンサービス中の女性客室乗務員が走行中の窓越しに炎が上がっているのを目撃していながら、前方車両(3号車)に乗っている車掌も炎を確認しているものと思い込み、そのことを車掌に伝えていなかった。これも、当該車掌の火災認知と避難誘導に反故を来たせてしまった一因ともなったのではないか。これについてJR北海道は、異常時における乗務員等に対する教育や訓練を今後、早急に見直したいと語る。
 ちなみに後日(2011.5.31)北海道警察は、列車乗務員が火災を認識せず乗客の避難誘導等を行わなかったことが多くのけが人を出す原因となった可能性があるとして、JR北海道本社(札幌市中央区)や関係先4ヵ所に対し業務上過失傷害容疑で家宅捜査を行っている。

<スーパーおおぞら14号>の事故では、トンネル内における列車火災にもかかわらず、死者を出さずに負傷者40人に止まったことに救われた思いもする。おそらく、列車が緊急停止した第1ニニウトンネルが全長685㍍と比較的短かったのが、大事に至らずに済んだことにつながったのではないだろうか。
 今から約39年前に起きた「北陸本線北陸トンネル列車火災事故」は、大阪発青森行き急客第501列車<きたぐに>(電気機関車牽引の客車15両編成)が、当時の日本で2番目に長い1万3870㍍の北陸トンネル(最長は山陽新幹線六甲トンネル)内で引き起こした火災事故である。この列車火災では、乗客761人・乗務員30人計791人の乗車人員のうち、乗客・乗務員を含む30人の犠牲者と714人の負傷者を出した。
 前頭から11両目の食堂車(オシ17形)から煙が出ているのを認めた車掌が、車掌弁で列車を非常停止させた。このとき、列車は北陸トンネル内に5300㍍ほど入っていた。乗務員は、延焼防止を図るため、火災が発生した食堂車を列車から切り離す作業にあたった。が、暗闇(当時トンネル内照明は乗務員の信号確認を妨げるとして消灯中)と慣れぬ作業で手間取りながらもようやくにしてトンネル外へ脱出運転を始めようとしていた矢先であった。手間取っていた間に、広がっていた食堂車の炎と煙の熱気で垂れ下がったトンネル上部の排水樋が架線に接触して短絡し、架線が停電となってしまったのである。

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                   [ 救出される乗客・北陸本線北陸トンネル列車火災事故(1972.11.6) ]
 停電で動けなくなってしまった列車から、乗客の避難誘導が乗務員の指示で始まっている。しかし、煙と熱気と暗闇の中での避難は、長大トンネルが故の辛酸さを極めた。
 この北陸トンネル事故を契機に当時の国鉄では、車両火災事故に対する安全施策を構築するべく、大船工場と狩勝実験線(廃止線)においてそれぞれに実車を使った客車火災実験(1972(昭和47).12)と明かり区間走行火災実験(1973(昭和48).8)を行っている。また、1974(昭和49)年10月には宮古線(現・第三セクター北アリス線)の猿峠トンネル(2.9㎞)内で燃焼させた客車による走行火災実験を実施している。そして、これらによる実験結果を基に、それまでは列車火災時の緊急措置として“列車を直ちに停止させる。ただしその場合、トンネル内はなるべく避けること”と曖昧であった取扱を、北陸トンネル事故以降は“トンネル内火災時には停車せずに走り抜けて、トンネルを出てから消化等の処置を行う”ことに改められ、明確化が図られた。ただ、脱線や停電等の状況によっては、走り抜けることができない事態にも至る。そのような時にこそ求められるのが、乗務員等の臨機応変な状況判断・処置と迅速な避難誘導への対応であろう。
 <スーパーおおぞら14号>の事故では、乗務員等の処置対応が後手に回ってしまっていたが、幸いと言おうか、緊急停止したトンネルが比較的短かったことで大惨事への道を走らずに済んだのではないだろうか。 ※ 《 関連公開ブログ 「暗闇の災禍・北陸トンネル列車火災事故」2008.5.4 》

               [ 桜木町駅構内電車火災事故(1951.4.24) ] 画像
列車火災事故と聞けば、一つや二つはすぐにでも思い浮かぶのでは…。桜木町駅構内で起きた電車火災事故(1952(昭和27).4.24)や前述の北陸トンネル内列車火災事故、隣国の韓国大邱市の地下鉄で起きた列車火災事故(2003(平成15).2.18)などが頭を過る。列車の火災事故は、ともすると悲惨を極める事態に至るケースも多いことから、記憶に強く焼き付くのだろう。
 そうした記憶の底から、<スーパーおおぞら14号>の脱線・火災事故に触れて、同じ内燃車によるかつての大惨事を改めて思い起こした御仁もおられるのではないか。引火点の低いガソリンを燃料とする、ガソリン動車列車が起こした列車脱線・火災事故である。この事故は、日本の鉄道史上でも最多の死者を出した大事故であった。
 1940(昭和15)年1月29日の西風が強く吹きつける午前6時56分頃、国鉄西成線(非電化単線、現在の愛称JRゆめ咲線の桜島線)の安治川口駅構内において、駅周辺の工場地帯に通勤する工員等で満員状態のガソリン動車列車(3両編成)が同駅に到着の折り、同駅信号掛の列車到着確認不十分による分岐器の途中転換扱いで、その分岐器上を通過中の最後部のガソリン動車が脱線して踏切道の敷き石に衝突し、横転してしまった。その際に、ガソリンが満杯近く入った床下の燃料タンクが損傷し、洩れ出たガソリンに何らかの火が引火して火災が発生した。

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                     [ 安治川口駅構内ガソリン動車列車脱線火災事故(1940.1.29) ]
 当時、強く吹いていた西風にあおられた炎はその火勢を一気に増し、横転車両は瞬く間に猛炎に包まれ全焼してしまった。この事故で、即死者や病院搬送後に絶命した者を含め乗客190人が犠牲となり、82人が負傷した。
 戦後、ガソリンを燃料とする内燃車は、引火点の高い軽油を使用する現在のディーゼルエンジンによる気動車に替わった。これには、高効率と経済性に優れるディーゼル機関の採用を図ったことのほかに、前述の西成線の悲惨な列車火災事故で得た教訓が生かされている。
 今では、気動車列車がローカル線はもとより幹線鉄道輸送の主力としても日本全国で活躍をしているが、今日のような難燃耐火構造による火災に強い鉄道車両であっても油断するのは禁物であることを、この度の<スーパーおおぞら14号>で起きた列車火災に見ることができる。 ※ 《 関連公開ブログ 「気動車炎上から70年目」2009.3.24 》
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蛇足になるが、<スーパーおおぞら14号>(JR石勝線)の事故から10日後の2011年6月6日(午前8時半頃)にも、JR北海道室蘭本線(長万部~沼ノ端間144.0km・沼ノ端~岩見沢間67.0km・東室蘭~室蘭間8.1km)で札幌発函館行き特急<スーパー北斗2号>(7両編成気動車列車)が、<スーパーおおぞら14号>と同じような床下から白煙を噴く事故を起こして運休に至っている。
 同列車が、伊達紋別~長和間の伊達市内を走行中に、運転席のモニターにディーゼルエンジンの異常(排気管の高温)を知らせるランプが点灯しているのを認めた運転士が、通過予定だった長和駅に臨時停車して調べたところ、3号車(先頭から3両目のグリーン車)の床下エンジン付近から白煙が立ち上がっていた。運転士がエンジンを止めたところ、間もなく煙は収まったが、前途運転の安全を考慮して同列車は長和駅で運転を打ち切っている。幸いにも、130人全員の乗客は無事で、後続の特急列車に乗り換えて事なきを得ている。ちなみに白煙を出す事故を起こした〈スーパー北斗2号〉の車両は、JR石勝線のトンネル内で脱線・火災事故を起こした〈スーパーおおぞら14号〉と同じ形式の車両(キハ283系)であった。
 両特急列車の事故は、〈スーパーおおぞら14号〉の場合は床下から脱落した車両部品が燃料タンクに損傷(脱線にも至っている)を与え、洩れ出た燃料が高熱のディーゼルエンジンに触れて発煙・発火したが、〈スーパー北斗2号〉ではディーゼルエンジンの弁装置の不具合から洩れ出た潤滑油が、高温のエンジン排気管に付着したことにより発煙に至っている。とにかく、発煙事故にいたるケースは千差万別であろう。
 いずれにせよ、気動車は動力源の燃料として軽油を使用しており、安全対策には万全が講じられているとはいえ“火の元”を内在していることに変わりなく、事故の対処・対応に後れを取れば列車火災へと発展しかねない宿命的な要素を気動車列車は抱えているといえる。せめて今は、〈スーパーおおぞら14号〉の如き列車火災事故が再び起こることのないように念ずるばかりである。 (終)

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この記事へのコメント

2020年10月04日 18:52
丁寧で解りやすい内容でした。
過去の事故例を掲載し、今日の安全は過去の災害から得られている事を改めて感じ取りました。再び鉄道火災が起こらぬ事を切に願いたいですね。
本ページを作成して下さりありがとうございました。

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