鉄道の情景に寄せる“声” ( その3 )

 鉄道への興味に関し、少し前までは一部の限られたマニアの世界、すなわち一般に“鉄ちゃん”と称される男性の若者たちが主体であったようだが、最近では団塊の世代や老年者層、女性層にまでそのファンの領域を大きく広げているようだ。ちなみに、近年になって増えてきているとされる鉄道好きの女性のことを、「鉄子」(てつこ)と言うらしい。
 高度成長期を謳歌して走り続けた長距離寝台夜行列車(ブルートレイン)、日本の高速鉄道技術の粋を集めて疾走した新幹線500系車両や新在直通の嚆矢として地方の高速化に貢献した400系ミニ新幹線車両、地域の生活を黙々と支えてきた地方の鉄道等々が、それぞれに役目を終えて引退する日の駅は大勢の鉄道ファンなどで溢れ、沿線でもビルの屋上や窓から数多の人たちが手を振って名残を惜しんだ。ときには、自分の過ぎ越し人生とを重ね合わせるかのように、惜別の念に目頭を熱くする人たちも見られる。
 
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 そこには、昨今の鉄道に関する楽しみ方の多様性が窺える。それらの中にあって主流は、やはり鉄道を趣味とする“鉄ちゃん”や“鉄子”と呼ばれるマニアであり、鉄道を乗り歩く「乗り鉄」や鉄道写真を撮り歩く「撮り鉄」といった鉄道に関するさまざまな方面の「○○鉄」と称する鉄道ファンが、鉄道を楽しむ裾野を広げている。同時に近年は、老若男女を問わずに、廃線跡や遺構を訪ね歩いたりローカル線や秘境の駅を訪れる等の、今まであまり見られなかった独特な鉄道の楽しみ方が次々と顕れている。
 こうした奥深い鉄道へ向けた興味の高まりを背景にして、鉄道に対する関心が増幅を見せているのも事実で、さまざまな人たちからの鉄道に関わる思(想)いや意見、希望などが新聞の読者投稿欄などに寄せられている。そうした読者の“声”を、ランダムに選んで以下に紹介します。


・・ 九州の「はやぶさ」とらないで ・・ (東京都 主婦45歳)
 「やはり『はつかり』がよかった」(注・2010.5の新聞投稿記事…参照・2010年6月公開ブログ「鉄道の情景に寄せる“声” その2」)に同感です。私も、新しい東北新幹線の愛称(注・2011年3月から東京~新青森間で最高速度300km/hの営業運転を開始する新型車両E5系列車の公募愛称名)発表を見て驚きました。一般公募の第1位は東北の方には特別な思い入れのある「はつかり」だったのに。
画像 今回(注・2010.5.11)選ばれた「はやぶさ」は、半世紀もの間にわたって東京と九州を結んだ、九州ゆかりの人にとっては同じように思い入れの深い列車名です。私も、母の実家が九州だったので、幼い頃に何度も乗りました。
 「はやぶさ」は、廃止からまだ1年ほど。ショックが癒えていない人も多いのです。ラストランの日、東京駅10番線ホームには、鉄道ファンに交じり、かつてこの列車に乗って九州から上京されたのだろうなと思われるご高齢の方が、青い車体に涙を流しながら触れている姿がありました。こんな「はやぶさ」がいつの日にか、人気の豪華寝台列車として蘇るのを待っていたのですが…。

・・ 駅のホームさくの普及願う ・・ (埼玉県 パート女性45歳)
 勤務先に、ときどき遅刻する男性がいます。彼が利用する通勤電車は飛び込み自殺など人身事故が多く、その度に電車が止まってしまうのです。死を選ぶほどに追い詰められた人は、本当にお気の毒です。しかし、止まった電車にも人生をかけた試験や社運をかけた商談に臨む乗客がいるかも知れません。
 どうにかならないかと思っていたら、先日、地下鉄(注・東京地下鉄)の有楽町線で氷川台駅を皮切りに「ホームさく」(注・ホームドア)ができると聞きました。(注・ホーム上の安全性向上のため東京地下鉄では各駅にホームドアの設置を進めており、このほど有楽町線成増~氷川台間の4駅で2010年8月21日から10月16日にかけて順次導入使用開始し、2012年度内の有楽町線全駅導入を目指す)ホームの縁に立てられた扉付きの壁(注・扉の一部に強化ガラスを採用し、閉扉の状態でもホームと電車の隙間が確認できる改良型)で、駅に入ってきた電車が止まるまで扉が開かないのだそうです。これなら、目の不自由な方や酔っ払いの転落も防げます。
 設置に費用がかかっても、事故で長時間電車が止まることを考えれば、安いものではないでしょうか。尊い人命を守るためにも、この「ホームさく」が全鉄道会社のすべての駅に普及することを願います。 参照・2009年6月公開ブログ「プラットホームの安全…古くて新しい提言」

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・・ 女性専用車両にも迷惑な男性 ・・ (千葉県 女子中学生13歳)
 通学時間に電車の女性専用車両に乗っていたら、ある駅で男の人が乗って来ました。乗って来るのはまだしも、その男の人はビックリすることに、車内で大声を張り上げて「オレは女性専用車両に乗りたくて乗ったんじゃねーんだぞ」とか「この電車はまちがっている」とか、言い訳のようなことをたくさん言っていました。しかも、駅に着くたびに、女性専用車両の別のドアから入り直し、同じことをずうっとずうっと、ぐちぐち大声で言っていたのです。そして、ある駅で降りていきました。
 この時、私はとても怖くて、若干ふるえていました。そして、言い訳のようなことを言い続けて皆に迷惑をかけるくらいなら、最初から普通車両に乗った方がいいし、間違って乗ってしまったのなら静かにしていればいい、と思いました。
 私は、そういう非常識な大人になりたくないと思いました。 参照・2008年8月公開ブログ「女性専用車・雑感」

・・ 女の子にもらった優しい心 ・・ (千葉県 交通警備男性66歳)
 先週(注・2010年6月)、市長選の投票を済ませて出勤しようとしたら、早めに駅に着きました。階段を上ろうと見上げたら、若いお母さんと3歳くらいの女の子が見えました。お母さんは女の子に、先に一人で下りるよう話しかけ、自分はベビーカーを持つように見えました。
 女の子が階段を下り出したので、私は急いで駆け上がり、ベビーカーに赤ちゃんが居るのを確認してからお母さんに話しかけました。「私がベビーカーを持ちますから、赤ちゃんを抱っこして下りてください。私の方は時間がありますから」と。私の提案をお母さんは素直に受け入れて赤ちゃんを抱っこし、女の子と一緒に下りてくれました。
 私が、その横をベビーカーを持って階段下まで行く途中、何気なく声が聞こえたのです。それは小さな女の子が、お母さんに「ママ、よかったね」と言った、母親へのいたわりのある、優しい言葉だったのです。
 私は、階段下へベビーカーを下ろしてまた上って行く途中で、お母さんに「お大事に」と声をかけ、小さな女の子には「バイバイ」と、そして心の中で“ありがとう”と言ってお別れしました。

・・ 猫駅長に癒された還暦旅行 ・・ (京都府 主婦60歳)
 群馬県会津若松市の芦ノ牧温泉駅(注・第三セクター会津鉄道)に居る、猫駅長「ばす」に会ってきた。ちなみに、和歌山県紀の川市の貴志駅(注・和歌山電鐵貴志川線)に居る猫駅長の「たま」(注・雌の三毛猫)には3回対面している。
画像 「ばす」はチンチラとトラネコのハーフの雌で、それはそれは大事にされている。のんびり寝そべり、客を出迎える。たった1時間の出会いだったが、すでに10人ぐらいの方が来ていて、皆さん笑顔笑顔の、すっごくいい顔だ。
 私は、すぐに悩みを抱え、落ち込んでしまう性格。家にも3匹の猫がいて癒されるが、猫駅長にはまた違う癒しがある。のんびり幸せに寝ている猫駅長を見ると、心が晴れた。今回の「ばす」との対面の旅は、還暦の祝も兼ねていたので珍しく夫と一緒。近くの温泉でのんびりし、いい旅になった。

・・ 新幹線車内の宴会 何とかして ・・ (東京都 流木人形創作家男性76歳)
 「携帯電話のご使用はご遠慮ください」。電車の中で、耳にたこができるほど聞かされるアナウンスです。その効果のおかげか、最近では電車内で携帯電話を使用する人はだいぶ減りました。ですから、次は「車中の宴会や大声での談笑はご遠慮下さい」と言ってほしいものです。
 特に、新幹線の車内は、よくサラリーマンやゴルフ帰りの乗客らが缶ビールを持ち込み、大声で宴会を始めます。それは、携帯電話の比ではない騒音で、読書や睡眠を希望する他の乗客の神経をいらだたせます。車内販売で、缶ビールやカップ酒、おつまみまで売っているからでしょうか。車掌に言っても、まともに注意してくれません。
 なぜ、同じ料金を払っているのに、他人の宴会の騒音を我慢しなければならないのでしょう。山陽新幹線では、車内放送を切った「サイレントカー」車両を導入しているそうですが、それなら「禁宴会車両」も設けてほしいものです。

・・ 席を譲られたら素直に座れば ・・ (横浜市 無職男性81歳)
 地下鉄に乗ったある日、ほぼ満席で立っている人がちらほらいる車内に、お年寄りが乗ってきた。それを見た青年が「どうぞ」と勢いよく立ち上がり、席を譲ろうとしたら、そのお年寄りは手を挙げ“結構です”というような仕草をして座らなかった。青年は譲るべくして立ち上がった手前、座るわけにもいかず、席は空いたまま次の駅に差しかかる頃、青年はその場を離れていった。
 体に支障があって座ったり立ったりするのが難しい人ならともかく、そうでなければたとえ次の駅で降りるにしても、好意に甘えて座ればいいのに、と私は思った。60代の元気なお年寄りでも、若い人に席を譲られたら“まだ、そんな年ではない”などと粋がらずに、にっこり笑って座ることが、それこそ年の功というものではなかろうか。
 せっかく譲っても、譲られた人が座らなければ若い人は気まずい思いをし、二度と譲る気持にならないだろう。私は、若い人に席を譲られたら、年寄りは素直に、感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言って座ればいいと思う。わずかな空間を見つけて割り込むように座るお年寄りも見苦しいが、譲られても若い人の善意に応えようとしないお年寄りも、如何なものかと考えさせられた光景だった。

~ 日本の公共交通の分野におけるバリアフリー化は、2000(平成12)年の交通バリアフリー法(「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」)施行とともに、2006(平成18)年のバリアフリー新法への移行を経てこの10年の間に飛躍的に進み、諸外国に比べても遜色ない域に達している。
 そのバリアフリー化への取組みも、当初はエレベーター・エスカレーター・スロープ化等を中心とした、主に車いす利用者を対象とした整備が進められてきたが、この10年の間に視・聴覚障害者、弱視者、色覚障害者、外国人、妊婦、子連れ利用者などの交通弱者を対象とした取組みへと、バリアフリー化対応の範囲を拡げている。とはいっても、これら交通弱者が公共交通機関を移動手段として利用するにしても、バリアフリー化への整備は未だ途次にあってまだまだ多くのバリアが存在しているのが現実だ。

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 子連れ世帯を例にとっても、特に核家族化が進んだ現在、日常の買い物一つとっても外出時には母親ひとりで子どもを連れての移動が多くなる。その移動に際しても、徒歩圏内で所用が済むという場合は少なく、交通手段を使っての移動が欠かせない。また、子連れでの移動に関し使われる交通手段を調査した例によると、7~8割りが自動車利用となっている。すなわち、子連れ世帯の外出に関して公共交通機関の利用には不便な面が多々あって、敬遠されていたのだ。駅にエレベーターやスロープがない、電車やバスにはベビーカーでは乗降しにくい、ベビーカーでの電車・バス・エレベーターへの乗車は肩身が狭い、駅に授乳する場所がない、乗換えが不便等々が、利用したくとも公共交通機関の利用を敬遠させている理由でもある。
画像 現在、少子化の進行(日本)が深刻となっているのは周知の如くだが、2008(平成20)年の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)は1.37人で、この出生率が2.08人を下回ると国の総人口は減少するといわれている。特に、大都市部(東京都1.09人、京都1.02人)では低くなっている。大都市は自動車の保有率が低く、当然に移動には公共交通機関に頼らざるを得ないこととなり、その頼るべき公共交通機関の利用がが子連れ世帯にとって不便となれば、自ずと出生率の低下に影響しているのかも知れないのだ。
 すなわち、少子化の要因にはさまざまあるものの、子連れ世帯にとって利用しにくい公共交通機関のバリアフリーに係わる環境も、少子化に関して無縁とは言えないのでは…。
 (終)

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